2012年12月25日

半世紀前のバーバラ・デインの姿が脳裏から離れない


初めて欧米の音楽に強く惹かれたのは確か高校生のころで、FEN(在日米軍放送)から流れた軽快な5弦バンジョーの響きだった。それはのちに「ブルーグラス音楽」ということがわかり、大学に進学した翌年、病嵩じてC&W研究会なるサークルを結成した。1963年だったことははっきり覚えているが、そのサークルのために"Bluegrass"と題したガリ版刷りの冊子を作成した。そこに「NLCR(ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ)がボブ・ディランやジョーン・バエズなどと共にニューポート・フォーク・フェスティバル出演した」と紹介した。何をソースに書いたか記憶にないが、今のようにインターネットもなく、いささかマニアックな一冊だったようだ。当時はNLCRのような黎明期の商業レコードの音源を再現していたグループや、伝承音楽を引き継いだブルーグラス音楽アーティストなどに傾倒、所謂フォークは脇に置いていたような気がする。だからニューポートにバーバラ・デイン(Barbara Dane)が出演していたことは知らなかったのである。
Anthology of American Folk Songs

彼女に注目をし始めたのはごく最近のことで、スミソニアン・フォークウェイズからリリースされたオムニバスCD "Classic Folk From Smithsonian Folkways" に入っていた "Deportees (Plane Wreck at Los Gatos)" を聴いてからだった。これはパレドン・レコードの "I Hate the Capitalist System"(1973年)に収録された1曲である。1948年におきたメキシコの出稼ぎ労働者が犠牲になった飛行機事故を扱ったウディ・ガスリー作詞の曲で、息子のアーロなど多くのフォークシンガーに歌い継がれてきた。何と表現したらいいのだろう、とにかく聴いて欲しい。

初期のアルバム "Anthology of American Folk Songs" で伝承民謡を披露しているが、独特の歌唱スタイルを持った素晴らしいシンガーである。何故彼女がリアルタイム、つまり50年前に私の視野に入らなかったのだろうかと、今さらながら悔やまれる。1927年5月12日生まれ。6月初めにボストングローブ紙が85歳になった彼女の功績を称える記事を掲載したが、残念ながら現在では有料購読者しか全文を読むことができない。少し前に85歳になった彼女の写真を見たが、やはり半世紀近く経てしまったニューポート・フォーク・フェスティバルでの姿が焼きついて脳裏から離れない。写真やレコードは時間を止める魔術師なのだろう。

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