2022年4月25日

帰らざる北方領土★嘘つき安倍晋三の大罪

ジョルジュ・ビゴー「ロシアとの戦争を日本にけしかける英米両国」1904(明治37)年ごろ

安倍晋三元首相は東京都内で先ごろ開かれたシンポジウムで、ウクライナを侵略したロシアのウラジーミル・プーチン大統領について「非常に合理主義者で基本的には力の信奉者だ」と指摘。「言ってみれば戦国時代の武将みたいなもの。たとえば織田信長に人権を守れと言っても全然通用しないのと同じ」と語り、ウクライナについて「プーチン大統領が長い間、独裁政権を確立するなかで情報分析が的確に行われず、大きな間違った判断をした結果だと思う」と分析したという。2019年9日5日、安倍晋三はロシア極東のウラジオストクでプーチン大統領と会談し「ゴールまでウラジーミル、ふたりの力で駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」と述べた。まるで三文役者の台詞のようで、ここに書くのも恥ずかしい。共に夢を持った仲であったはずが、わずか数年後の変身、変わり身の早さに唖然とする。二枚舌を使うのは日常茶飯事、息を吐くように嘘をつく、稀代のペテン師である。しかもどうやら本人は嘘を嘘と思っていないらしいから尚のことタチが悪い。プーチン大統領と27回も会談したにも関わらず、北方領土問題を放り投げ、知らん顔をしているのである。

千島列島を巡る紛争の歴史  loupe 拡大表示

フランクリン・ルーズベルト米大統領は、1945年2月のヤルタ会談で、ソ連のヨシフ・スターリン首相に対日参戦を求め、千島列島をソ連領とすると提言した。そしてソ連は同年8月18日、千島列島に進攻を開始する。イラストはジョルジュ・ビゴーが描いた、日露戦争をけしかけた英米の風刺漫画だが、米国は「第二次日露戦争」をそそのかしたのである。この史実はどうやら広く一般に浸透していないようだ。日本政府はポツダム宣言を受諾し、連合国に無条件降伏し同年9月2日降伏文書に調印した。これによって千島列島はソ連の占領下になった。そして1951年、サンフランシスコ平和条約を批准、日本は千島列島の放棄を約束してしまった。米国代表は「千島列島には歯舞群島は含まないというのが合衆国の見解」と発言したが、ソ連代表のアンドレイ・グロムイコ第一外務次官は「千島列島に対するソ連の領有権は議論の余地がない」と主張した。吉田茂主席全権は条約受諾演説で「千島列島及び樺太南部は、日本降伏直後の1945年9月20日、一方的にソ連領に収容されたのであります」「日本の本土たる北海道の一部を構成する色丹島及び歯舞諸島も終戦当時たまたま日本兵営が存在したためにソ連軍に占領されたままであります」と述べている。これが日本政府が不法占拠だと主張してきた所以だろう。ところが2019年の北方領土の日の2月7日、北方領土返還要求全国大会が採択したアピール文から、これまで使ってきた「日本固有の領土」との文言が消えてしまった。交渉に行き詰まった安倍政権が、ロシアを刺激しないようにする狙いがあったのである。ところが、ところがである、外務省は2022年の外交青書をまとめ、北方領土について「ロシアに不法占拠されている」と明記し、今月22日の閣議で報告された。これに対しロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「四つの島は全てロシアの不可分の領土だ」と反発した。プーチン大統領はクリミア自治共和国併合もそうだが、北方領土問題の法的な解釈を熟知しているはずである。名門レニングラード大学法学部を卒業しているので、法律を遵守する政治家と信じたい。しかしKGB(ソ連国家保安委員会)の諜報員であったという経歴が、不安材料として払拭できずに残っているが、そこにプーチン大統領の二面性を嗅ぎ取ることができる。一方、安倍晋三はかつて「平和条約の問題をじっくり話し合った」と語ったが、領土交渉は1ミリたりとも動かすことができなかった。ウクライナ侵略に伴う経済制裁に対しプーチン大統領は強く反発している。北方領土返還の可能性は限りなくゼロに近づいてしまったようだ。

University  サンフランシスコ平和会議における首席全権吉田茂総理大臣の受諾演説 | 東京大学東洋文化研究所

2022年4月23日

ロシアのプーチン大統領に反故にされたブダペスト覚書

Vladimir Putin
Vladimir Putin, President of Russia, Illustrator unknown

ロシア軍のウクライナ侵略以降、別の世界を生きるようになった人々が増えているようだ。反新型ワクチンを訴える過激な団体の「陰謀論」にはまった人々と共通している。ウラジ―ミル・プーチン大統領はネオナチの暴力と支配からウクライナの人々を解放する英雄であり、ブチャをはじめとする民間人の大量虐殺はウクライナの自作自演であり、アメリカはウクライナと致死性の生物兵器や化学兵器を開発している、といったような。ロシアのディスインフォメーションがじわじわと効いている証拠である。そしてまた「どっちもどっち論」を正当化する格好の材料になっている面がある。首都キーウ近郊のブチャでの大量虐殺についても、自作自演説が出回った。「ネットの言論空間の方は、右と左が斉唱で『どっちもどっち論』叩きに血道を上げ『ロシアを一方的に非難せよ』と咆吼の声を上げている。ヒステリックな絶叫の嵐が一段とボルテージを上げている」というブログ記事を最近目にした。以下のツイートなどが伏線にあるようだ。どこがヒステリックなのだろうか。

石垣のりこは立憲民主党の国会議員だが「しかし残念ながら『憲法を守ろう』『戦争をやめよう』という掛け声で野党共闘を支援される人々の中には「ロシアもウクライナもどっちもどっち」論に陥ってしまった方が散見されます。極めて残念です。日本国憲法の崇高な理念を毀損していると言わざるをえません」という主張を支持したい。ところでウクライナ情勢を巡り、多国間による2つの「合意」が焦点となっている。ロシアはウクライナ東部紛争の和平への道筋を示した「ミンスク合意」の履行を迫る。一方の欧米はロシアこそが過去に結んだウクライナの安全を保証する「ブダペスト覚書」に違反していると批判している。拙ブログエントリ―「ミンスク議定書Ⅱ合意を巡る魑魅魍魎」で書いたように、2021年10月末のウクライナ軍のトルコ製攻撃ドローンによるドンバス地域への攻撃がプーチン大統領による開戦の口実となった。

Budapest Memorandum
The Budapest Memorandum on Security Assurances for Ukraine ©2017 Oleh Smal

ウクライナ戦乱が勃発した直接の原因が、ゼレンスキー大統領による「ミンスク議定書Ⅱ」を履行しない方針の明示だったという見解はやはり苦しいと思う。ブダペスト覚書(ウクライナの核兵器不拡散条約への加盟に伴う安全保障に関する覚書)とは、1994年12月5日にハンガリーの首都ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)会議において、アメリカ合衆国、ロシア、イギリスの核保有3カ国が署名した覚書である。ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナが核不拡散条約に加盟したことに関連して、協定署名国がこの3国に安全保障を提供する、という内容のものであった。しかしロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2014年の最初のウクライナ侵攻で、ブダペスト覚書を死文化した。だがウクライナ政府は、ブダペストの裏切りを忘れていない。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年2月、ミュンヘンで行った演説でその点を厳しく指摘していた。覚書の概要邦訳はインターネット百科事典「ウィキペディア」で読むことができるが、下記リンク先の国連の条約部門ページに原文などの詳細な記述がある。

United Nations  ウクライナの核兵器不拡散条約への加盟に伴う安全保障に関するブダペスト覚書(英文)

2022年4月20日

社会的弱者に寄り添った写真家メアリー・エレン・マーク

Damm family
Homeless Damm family in their car, Los Angeles, California, 1987
Mary Ellen Mark with Leica

アメリカの女性写真家メアリー・エレン・マークは、1940年3月20日、ペンシルベニア州エルキンスパークで生まれ育った。9歳のときコダックのボックスカメラ「ブラウニー」を使って写真を撮り始めた。チェルトナム高校ではチアリーダーを務め、絵画にも興味を示す。1962年、ペンシルベニア大学で絵画と美術史の学士号を取得後、アネンバーグ・コミュニケーションスクールのフォトジャーナリズム修士課程に入学し、1964年に修了した。翌年、フルブライト奨学金を得て、トルコで1年間撮影を行う。また、奨学金を受けている間に、欧州のスペイン、ドイツ、イギリス、イタリア、ギリシャを旅行した。世界の多様な文化やヒューマニズムに焦点を当てた作品を発表する。フォトエッセイやポートレートは雑誌『ライフ』『ニューヨーク・タイム・マガジン』『ニューヨーカー』『ローリングストーンズ』『ヴァニティ・フェア』誌などに掲載された。1967年、トルコからニューヨークに移り、ベトナム戦争反対運動や女性解放運動などに取り組む。 オレゴン州立精神病院の81病棟で撮影された、ミロス・フォアマン監督(1932–2018)の『カッコーの巣の上で』をきっかけに、映画のスチール写真の仕事を始める。

ward
Laurie in the Bathtub, Ward 81 of the State Hospital, Oregon, 1976

アーサー・ペン監督(1922-2010)の『アリスのレストラン』(1969年)マイク・ニコルズ監督(1931–2014)の『キャッチ-22』(1970年)『カーナル・ノレッジ』(1971年)フランシス・フォード・コッポラ監督(born 1939)の『アポカリプス・ナウ』(1979年)のスチール写真を撮影した。その後ルック誌の依頼で、フェデリコ・フェリーニ監督(1920–1993)がローマで撮影していた『サテリコン』を撮影することになった。その後1979年に81病棟(オレゴン州立精神病院の女性病棟)の女性たちをテーマにした本を出版。この本は彼女が「社会的に良いスタートを切っていない人たち」を描いた最初のプロジェクトだった。

Amanda and her cousin Amy
Amanda and her cousin Amy, Valdese, North Carolina, 1990

1980年、マークはライフ誌のために、マザー・テレサ(1910–1997)とミッション・オブ・チャリティの貧しい人々を撮影する機会を得た。 彼女の写真は1980年7月に「インドの貧しい人々を抱くスラム街の聖なる修道女テレサ」として掲載された。1983年「失われた通り:家出した子供たちがシアトルで悲惨な生活を送っている」という記事がライフマガジンから出版され、売春婦やハスラーの若者たちが何十人も紹介された。1988年、メアリー・エレン・マークは、これらの若者たちと親交を深め "StreetWise"(ストリートワイズ)と名付けた、感動的なスチール・シリーズを制作する。その中で最も印象的なのは、14歳の少女エリンの写真である。恐怖や痛み、不快感のどん底にいる無表情な子どもの姿は、魂のこもったスチール写真だ。

Twins Days Festival
Tashara and Tanesha Reese, Twins Days Festival, Twinsburg, Ohio, 1998

1987年、マークはロサンゼルスのホームレス、ダムス一家と出会う。ディーンとリンダが2人の子供と車で生活している様子を撮影した白黒写真である。1992年、廃墟となった豚の牧場で不法に暮らすようになったダムス一家を再び撮影する。崩壊寸前のジャンク・ファミリーをエモーショナルに撮影している。なおマークは "Passport" パスポート(1974年) "Ward 81" 81病棟 (1979年) "Streetwise" ストリートワイズ(1992年)"Prom" プロム(2012年)など、18冊の著書がある。ロバート・F・ケネディ・ジャーナリズム賞、特別写真家賞などを受賞した。献身的で素晴らしい写真家だった彼女は「私はドキュメンタリー写真家です。ずっとなりたかったもので、私の心と魂はそこにあるのです」という言葉を残している。2015年5月25日、骨髄不全による血液の病気である、骨髄異形成症候群のため、マンハッタンで亡くなった。75歳だった。

ICP  Mary Ellen Mark (1940-2015) | Biography & Works | International Center of Photography

2022年4月18日

イーロン・マスクが Twitter 敵対的買収を目論む

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Elon Musk launches a hostile takeover bid for the Twitter © 2022 Pete Kreiner

テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクは、現時点でソーシャルメディア Twitter の株の9.2%を保有し、同社の筆頭株主となっている。そのマスクが、同社の残りの全株式を購入すると提案している。いわゆる敵対的買収を目論んでいるのだが、BBCによるとマスクは米国証券取引委員会への提出書類の中で、Twitter に投資した理由について「世界中の言論の自由のためのプラットフォームとなる可能性を信じており、言論の自由は民主主義が機能するための社会的要請であると信じています」「しかし投資をしてから、今のままでは同社が繁栄することも、この社会的要請に応えることもできないことに気づきました。Twitter は民間企業として生まれ変わる必要があるのです」と述べている。

これに対し Twitter は「毒薬条項(ポイズンピル)」と呼ばれる買収防衛策を導入すると発表した。マスクが自社の持ち株比率を増やすのを阻止する狙いがあり、両者の攻防が激しくなってきた。一方で Twitter は「会社や株主にとって最善の利益であると判断した場合、当事者と関わりを持ったり、買収提案を受け入れたりすることを妨げるものではない」とも表明、マスクと交渉する余地を残した格好だ。マスクは Twitter が買収提案を受け入れなかった場合、代替案があると明言している。詳細は明らかにしていないが、今後、対立がさらに深まる可能性もある。マスクは世界一の富豪で、推定保有資産は2190億ドル(約27兆円)だ。その大半は、電気自動車メーカー、テスラの株式保有による。また彼は航空宇宙企業スペースXを率いている。なお下記リンク先のニューズウィーク誌電子版に世界の富豪10傑が掲載されている。

Newsweek  Top ten billionaires: who is the world's richest person on the Forbes in 2022 | Newsweek

2022年4月14日

ロシア国家は長い間自国のネオナチを育ててきた

Russian Neo-Nazi
ヒトラーの誕生日を祝うロシアのネオナチ

2019年のウクライナの議会選挙で極右が得た票数はわずか2%で、ヨーロッパの大半の国よりもはるかに少ないと指摘する声もある。また、ウクライナのユダヤ系大統領ウォロディミル・ゼレンスキーや、ロシアで残酷な迫害を受けているクリミア・タタール人のような少数派を保護するウクライナ国家の取り組みに注目する声もある。ところであまり報道されていないのは、プーチン政権が極右過激派と協力してきたという記録である。ロシアの外交官がバルト諸国のファシストを非難し、クレムリンの宣伝担当者がキーウ(キエフ)にいる架空の「ウクロナチス」に対して激怒しているときでさえ、ロシア国家は自国の生え抜きナチスを育てていたのである。この関係は、1990年代後半にロシアを震撼させたネオナチ・スキンヘッドギャングによる人種差別的暴力の波から始まっている。2000年、プーチンが大統領に就任すると、プーチン政権はこの事態を2つの方法で利用した。まず、ネオナチの脅威を利用して、一部のロシア・リベラル派の長年の要求である反過激主義法の採択を正当化したことである。最終的には、この法律はロシアの民主主義者を起訴するために使われることになる。第二に、クレムリンは、民主主義者と左翼急進派からなる反プーチン連合の対抗勢力として、ネオナチを含む過激な民族主義者を取り込み、動員しようとする「管理された民族主義」を打ち出した。

pro-Kremlin Nashi
2007年の議会選挙でプーチン党の勝利を祝う親クレムリン派ナーシ運動のメンバーたち

2005年、ナ―シ運動の凶悪犯が反プーチンの青年団を次々と襲撃した。最も激しい攻撃で、4人の左翼活動家が病院に収容され、加害者が逮捕された。このスキャンダルは「管理されたナショナリズム」の再構築を促した。過激派はクレムリンの代理人である民族主義者の「ヤングロシア」グループと反移民の「ローカルズ」グループの2つに移籍した。これらの組織は、ネオナチのサブカルチャーとクレムリンの橋渡し役となった。クレムリンとロシアのファシストとの関係についての最近の研究で示したように、こうした結びつきが、親プーチンのネオナチ運動を生み出すという大胆な実験を可能にしたのである。当局はロシアンオブラートが「ロシアの抵抗」と題する2時間のインターネット・ドキュメンタリーを制作したことに目をつぶり、この殺人犯を愛国的英雄として称え、政権に対する武装闘争を呼びかけたことである。ロシアのウクライナに対する猛攻において、ネオナチなどの右翼が果たした役割は小さくない。2014年、ロシアンオブラートのアレクサンドル・マチューシンは、ウクライナ東部におけるロシアの代理戦争の前夜、ドネツクでウクライナ国家の支持者を恐怖に陥れるのに協力した。クレムリンによる国内のネオナチの育成は、西側のネオナチに匹敵する。

nazis  Russia's long history of neo-Nazis by Dr. Robert Horvath | La Trobe University Australia

2022年4月9日

公安調査庁がウクライナのアゾフ大隊の記載を削除

アゾフ大隊の旗
アゾフ大隊の旗

公安調査庁は4月8日、ウェブサイト上の「国際テロリズム要覧2021」からウクライナの民族主義準軍事組織であるアゾフ大隊(現国家警護隊特命分遣隊アゾフ連隊)の記載を削除した。公安調査庁は「近時、一部において、公安調査庁がアゾフ連隊をネオナチ組織と認めている旨の事実と異なる情報が拡散されている状況が見受けられますが、このような誤った情報が拡散されていることは誠に遺憾」だと指摘している。同庁はその「誤情報」は「国際テロリズム要覧2021」の記載が根拠とされているようだが、そもそも「国際テロリズム要覧2021」は「内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめたものであって、公安調査庁の独自の評価を加えたものではなく、当該記載についても、公安調査庁がアゾフ大隊をネオナチ組織と認めたものでは」ないと説明した。その上で同庁は、事実と異なる情報が拡散されることを防ぐため、ウェブサイト上の「国際テロリズム要覧2021」から上記の記載を削除することとしたと発表した。

AzovBattalion
首都キーウで旗を振るアゾフ大隊の兵士たち © 2014 Genya Savilov /AFP

事実と異なる情報が拡散されている状況と説明しているが、裏を返せば公安調査庁が「国際テロリズム要覧2021」で、間違った情報を流していたということになる。内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめただけものであるなら、その出典元を明らかにすれば良いだけではないだろうか。公安調査庁がアゾフ大隊をネオナチ組織と認めたものではないと説明しているが、そんなことはないだろう。アゾフ大隊がネオナチス組織で、東ウクライナの分離派支配地域が攻撃を受けたというのが、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻の口実のひとつだった。ロシア批判の立場に立つ日本政府に配慮して削除した可能性があると思われる。私自身は記載された各機関がどのように報告しているかが興味深い。なお3月28日、国家警護隊特命分遣隊であるアゾフ大隊は、ロシアのプーチン大統領が広めているネオナチというプロパガンダを否定しつつ、現在のロシアのウクライナ侵略戦争において、実際には誰がナチスなのかを説明するメッセージを発表していた。またアゾフ大隊のデニス・プロコペンコ隊長は「隊員たちはロシア軍に包囲されているマリウポリを明け渡すつもりはなく、同市のために最後まで戦うつもりだ」と表明している。

法務省  国際テロリズム要覧2021 | 極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり | 公安調査庁

2022年4月8日

新型コロナウィルス感染症第7波がやってきた

4月7日時点での日本国内の感染者数

表は4月7日時点での全国の新規感染者数だが、折れ線が7日間移動平均を示している。1週間平均のピークは2月11日の93,227人で、その後なだらかに下降し始めた。ところが3月24日ごろから下げ止まりになり、上昇に転じた。どうやら第6波が終息する前に第7波がやってきたようだ。厚生労働省は6日、新型コロナウイルスの感染状況を分析する専門家会合を開いた。新規感染者数の増加に伴い「療養者数も増加傾向に転じている」と分析した。リバウンドの懸念が高まっており、参加した一部の専門家は会合後、すでに第7波が始まっているとの見方を示した。京都大学の西浦博教授は「第7波がすでに開始している」と指摘、国立感染症研究所の鈴木基氏も第7波の「立ち上がり」にあるとの見方を示したという。琉球新報によると、感染者が激増している沖縄県の玉城デニー知事は7日夕、記者会見を開き「全ての年代で新規陽性者が増加傾向にあることに鑑みると、もはや第7波に突入したものと認識せざるを得ない」と強い危機感を示した。

死者数の推移
人口100万人あたりの新型コロナウイルス死者数の推移(札幌医科大学)loupe 拡大

これは4月7日時点での都道府県別人口100万人あたりの累積死者数である。直近1週間の死者者数と共に大阪府が突出している。7日時点での東京都の新規感染者数は8,753人、大阪府は4,623だったが、両都市の間で感染者数と死者数が反転している。遠因として大阪市天王寺区の府医師会看護専門学校が3月末で廃校、また大阪市淀川区の淀川区医師会看護専門学校の看護学科をが2024年に廃止する予定になっていることだろう。2014年に橋下徹が市長に就任、吉村洋文、松井一郎と維新の会の市長が三代続き「ムダを徹底的に排除した効果的・効率的な行財政運営」を行うことを目的とした「市政改革プラン」でさまざまな削減がされてしまったのである。保健所の統廃合に続き、2017年には市立環境科学研究所と府立公衆衛生研究所を統合、独立行政法人化により人員が削減され、PCR検査が十分にできない状態に陥ってしまった。大阪の医療崩壊は三代にわたる維新の会の大阪市、大阪府への失政の結果であることは明らかである。吉村知事は6日、第7波に備え、府内にある全ての高齢者・障害者入所施設の職員らを対象に無料検査を行うと発表したが、今更の感は否めない。

corona 都道府県別人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移 | 札幌医科大学フロンティア医学研究所

2022年4月5日

アゾフ大隊のネオナチの過去がロシアの攻撃材料に

AzovBattalion
首都キーウで旗を振るアゾフ大隊の兵士たち © 2014 Genya Savilov /AFP
アゾフ大隊の旗

ロシア軍はウクライナのキーウ(キエフ)から撤退した。ところがキーウ北西の都市ブチャに、ロイター通信などの記者が入ったところ、多くの市民が路上で死亡しているのが見つかった。ブチャの市長は「手を縛られ、頭を撃たれた人もいる」と話しているという。ジェノサイドである。プーチン政権はウクライナの自作自演、フェイクニュースと主張しているようだ。どちらの言っていることが正しいかは明白で、国際社会ではロシアへの怒りと、ウクライナとの連帯の動きがますます広がっている。ロシアは国境に隣接する東部と、黒海沿岸の南部に戦闘の軸足を移したようだ。ところで存在感を示しているのがネオナチをルーツとする、民族主義連隊「アゾフ大隊」である。分離したドネツク人民共和国に近い 工業港湾都市であるマリウポリは、戦前の人口が約40万人だった。ロシアがウクライナに侵攻して以来、定期的な砲撃によって都市は荒廃している。正規軍と極右民兵であるアゾフ大隊(現国家警護隊特命分遣隊アゾフ連隊)のメンバーを含むウクライナ軍の激しい抵抗は、武器を捨てろというモスクワのクレムリンの要求を拒否し、数週間にわたって抵抗した。市当局によると、この戦闘で約5,000人の市民が死亡し、数千人が自家用車やバスで、親ロシア派の分離主義者が支配する東ウクライナや、北や西のウクライナ人が支配する地域に避難せざるを得なくなっている。しかしこのような戦いでアゾフ大隊の存在が脚光を浴びることになった。アゾフの軍事部門と政治部門は2016年、極右組織「国民軍団党」の設立に伴い正式に分離した。この時には既にアゾフ大隊はウクライナ国家親衛隊に統合されていた。

Map of eastern Ukraine
紫と赤はロシアの制圧地/ピンクはロシアの前方作戦地域(4月5日)loupe 拡大

効果的な戦闘部隊として現在の紛争に深く関与するアゾフ大隊だが、ネオナチ的な傾向を有していた過去があり、その傾向はウクライナ軍への統合後も完全には消えていない。プーチン大統領は2月24日の侵攻開始直前に行った演説で、ウクライナの「非軍事化と非ナチス化を目指す」と表明した。民間人の避難先となり、建物の両側の地面に「子ども」と書かれていたマリウポリの劇場が爆撃された後には、ロシア国防省が「国家主義的なアゾフ大隊の戦闘員」による攻撃だと非難した。以上述べてきたように、アゾフ大隊は、ウクライナに拠点を置く極右のナショナリスト準軍事組織である。2014年に設立されたこのグループは、その国家民兵準軍事組織と国家軍団の政治部門を通じて、ウクライナのナショナリズムとネオナチズムを推進している。ウクライナのアキレス腱とも言えそうだ。2022年、このグループは、キエフ、ハリコフ、マリウポリでロシア軍と戦ったことで再び有名になった。ロシアの情報工作において、アゾフ運動は事実と偽情報の境界が消える格好の標的となっている。アゾフ大隊の過去は、西側のプロパガンダにとって都合が悪いのが弱点である。「武力侵攻したロシアはもちろん悪い。しかし…」という論理展開は「しかし、ウクライナに原因がある」という主眼の逆転に陥る可能性があるからだ。それこそ独裁者プーチンが説く戦争の目的や意義に絡めとられる危険がある。

university  Azov Battalion | Militant Organizations | Stanford University Last modified March 2022

2022年4月1日

続々)ロシアのウクライナ侵略風刺漫画集

>Putin, go back home
Putin, go back home... ©Dariusz Dabrowski
Nuclear Warheadcase
Nuclear Warheadcase ©Anthony Garner
Peace bait
Wet Facts
No War

トルコのイスタンブルで行われたロシアとウクライナの代表団による会合では、政治的ムードはかなり改善され、おぞましい壊滅的戦争の全面的解決の輪郭が、おぼろげながらも見え始めたという。ウクライナ側はロシアが2014年に併合したクリミアの地位について、今後の課題とすることに合意した。これによりもっとも対立を深める争点のひとつが、とりあえず棚上げされる形となる。ロシアが首都キエフと北部チェルニヒウ方面での軍事作戦を大幅に縮小すると表明したが、部隊の再配置に過ぎないという観測もあるようだ。キエフ市長も近郊で戦闘が続いているとして、ロシア側の発表は「事実ではない」としている。オランダに本拠を置く政治風刺漫画の国際サイト "Cartoon Movement" から最新作5点を選んで転載した。

cartoon movement  A global platform for editorial cartoons and comics journalism | Cartoon Movement