2026年10月15日

宗教考現学(15)上座部仏教の伝統を2300年もの間支えてきたスリランカ

Ruwanweliseya Stupa at Anuradhapura
ルワンウェリサヤ仏塔(中部州アヌラーダプラ)

仏教は紀元前5世紀、現在のネパール南部出身の釈迦族の王子、シッダールタ・ゴータマによって創始された。彼は長年の苦行の後、インドのブッダガヤにある菩提樹の下で悟り(涅槃)を開いた。彼の教えはパーリ聖典にまとめられ、四諦(苦しみの現実、その原因、苦しみの滅尽、そして滅尽への道)と八正道(倫理的かつ瞑想的な実践のための実践的な枠組み)について説かれている。彼の死後、仏教はインド全土、そして最終的には大陸全体に広まった。重要な年は紀元前247年である。カリンガ戦争の惨禍の後、仏教に改宗したインドのアショーカ王は、アジア各地に仏教の教えを広めるために使節団を派遣した。彼の息子マヒンダ(僧侶)はスリランカに渡り、アヌラーダプラの北にあるミヒンタレーの丘でデヴァナンピヤ・ティッサ王に説法を行った。王は即座に改宗した。この出来事は、スリランカ仏教発祥の地であるミヒンタレーで記念されており、2300年経った今でも巡礼地として親しまれている。

Buddha's Tooth Temple
ダラダー・マーリガーワ寺院(中部州キャンディ)

アショーカ王の娘サンガミッタは、釈迦が悟りを開いた菩提樹の挿し木を携えて後に続いた。その挿し木がアヌラーダプラのシュリー・マハー・ボーディとなり、今日でもなお生き続け、崇敬されている。これは地球上で最も古い記録に残る樹木である。仏教はスリランカの国教となり、植民地時代、内戦、そして2022年の経済危機を経てもなお、支配的な宗教であり続けている。シンハラ民族のアイデンティティと仏教の宗教的アイデンティティは深く結びついており、時に政治的に困難な結果をもたらすこともある。スリランカの仏教徒は「三宝」(ティラタナ)を中心に信仰生活を送っている。三宝とは、仏陀(歴史上のシッダールタ・ゴータマ)、ダルマ(仏陀の教え)、そしてサンガ(僧侶の共である。スリランカの僧侶は、サフラン色の袈裟をまとい、頭を剃り、律蔵(ヴィナヤ・ピタカ)と呼ばれる戒律を守っている。律蔵には、食事(正午前のみ、供物のみ)から睡眠(許可された部屋のみ)、女性との接触(一切禁止)まで、あらゆる事柄を規定する約227の規則が定められている。

Cave Temples
ダンブッラ石窟寺院(中部州マータレー)

僧侶たちはこれらの規則を守る代わりに、在家信者からの食料、袈裟、医薬品などの寄付によって生活を支えられている。僧侶と在家信者の関係は相互的なものである。僧侶は宗教教育や儀式を行い、人生の重要な出来事に立ち会います。在家信者は物質的な支援を提供します。この相互関係が、上座部仏教の伝統を2300年もの間支えてきた。スリランカの人口構成は、仏教徒が70%、ヒンドゥー教徒が12%、イスラム教徒が10%、キリスト教徒が7%となっている。この島には宗教間の共存の長い伝統があり、特に南部のカタラガマをはじめとする多くの聖地は、仏教徒、ヒンドゥー教徒、イスラム教徒によって同時に共有されている。シギリヤ、ポロンナルワ、アヌラーダプラには、いずれもヒンドゥー教の影響が見られる。仏教寺院群の中にヴィシュヌ神を祀る祠があったり、宗教が融合した図像が用いられていたり、共通の儀式暦が使われていたりといった例が見られる。他の宗教に見られるような、宗教の明確な分離は、スリランカの歴史には見られない。しかし、仏教徒のシンハラ人多数派とヒンドゥー教徒のタミル人少数派との間の緊張関係は、現代スリランカ政治において繰り返し見られるテーマであり、内戦(1983年~2009年)はその最も激しい表れであった。

Poya Day
満月ポヤの日の信徒(コロンボ郊外ケラニアの寺院)

こうした背景を理解することで、ジャフナ(タミル北部)、文化三角地帯、さらには仏歯寺(その政治史は民族的アイデンティティと切り離せない)といった地域への訪問がより豊かなものとなるだろう。スリランカの仏教は博物館の展示物ではなく、生きた実践であり、訪問者はそれにふさわしい振る舞いをすることが求められる。基本的なルールは島全体で共通している。肩と膝を覆い、寺院の壇上に上がる前に靴と帽子を脱ぎ、仏像に背を向けて写真を撮ることは決してしないことである。これは単なる規則違反ではなく、非常に失礼な行為とみなされる。仏塔や祠は時計回りに巡礼し、伝統的な敬意の方向である右肩を崇拝の対象に向ける。仏教を考古学的遺跡としてではなく、生きた伝統として体験できる最高の機会は、ポヤ(満月)の日である。この日、寺院は白い服を着た信者たちで埋め尽くされ、夕方のプージャ(礼拝)が行われる。

仏陀  テーラワーダ(上座部)仏教とは? 経典と瞑想および本来の仏教について | 仏教ウェブ入門講座

2026年10月14日

音楽雑話(7)スコットランド移民によってもたされたケープ・ブレトンのフィドル音楽

ケープ・ブレトン(カナダ東部大西洋岸ノバスコシア州にある島)のフィドル音楽は、ケルト音楽のイディオムに属する地域的なヴァイオリンのスタイルである。ケープ・ブレトンのフィドル音楽で主流となっているスタイルは、ハイランド・クリアランス、すなわち住民の強制立ち退きとそれに伴う歴史的動乱の際に、スコットランド移民によって北アメリカにもたらされた。これらのスコットランド移民は主にハイランドとルイス・ハリス島をはじめ、ノース・ウイスト島、ンベキュラ島、サウス・ウイスト島、バラ島など、大小あわせて100以上の島々のゲール語圏出身だった。スコットランドではこの時代以降フィドルは変化したが、スコットランドのフィドル音楽の伝統はケープブレトンでよりよく保存されていると広く考えられている。アイルランド風フィドルにも同様の伝統がある。

2026年8月に開催されたケープ・ブレトン・フィドル・フェスティバル

だがこの地域におけるスコットランド人の存在の結果として、そのスタイルは見過ごされている。1920年代から70年代にかけて、ケープブレトンのフィドル演奏スタイルは衰退した。この音楽に関連するダンス・スタイルとしては、ケープブレトン・ステップダンス、ケープ・ブレトン・スクエアダンス(アイオナスタイルとインヴァネススタイル)、そしてハイランドダンスなどが挙げられる。ケープ・ブレトンのフィドル演奏はアクセントが効いており、力強いアップボウが特長である。他の音楽起源(アイルランド、カナダ、フランス系カナダなど)の曲も、ケープ・ブレトンの演奏者が演奏すると違った響きになる。ダウンビートの拍子は、フィドル奏者の踵で床を叩くことで刻まれる。

The Heart of Cape Breton

パターンは、リールでは踵とつま先、ストラースペイでは踵が中心となる。1世紀前はヴァイオリンと足踏みオルガンが一般的な楽器だったが、現在ではピアノがリズム伴奏として主流となっているケープ・ブレトンのフィドル音楽は、スコットランド・ゲール語のイントネーション、特にプイルト・ア・ベウル(口笛音楽)やストラースペイの影響を受けている。装飾音は、グレート・ハイランド・バグパイプで用いられるものから取り入れられている。これらの装飾音(カット、別名トレブル、ドローン、ダブリング)が、ケープ・ブレトンのフィドルの独特の雰囲気を醸し出している。

Biggest Fiddle
2005年に建立された世界最大のフィドル

ケープ・ブレトンのフィドル音楽で一般的に演奏される曲は、ジグ、リール、クロッグ(ホーン・パイプ)、マーチ、ストラスペイ、スローエアなどである。このスタイルのフィドル音楽に関連する曲の多くは、バグパイプ、ピアノ、ギターなどの他の楽器でもよく演奏される。ハーモニカ、ティンホイッスル、マンドリン、バンジョーで演奏されることも珍しくない。現代のケープ・ブレトンの演奏家たちは、スコットランドやアイルランドの伝統音楽、そして現代音楽など、幅広い楽曲から影響を受けている。古くからある楽曲集も、よく利用されている。

YouTube  Cape Breton Fiddle : The Rankin Family - The Limehill Set (4:28) Posted by UISTMAN59

2026年10月13日

セイラム魔女裁判の謎

Folkways Records – FH 5211
Early New England Ballads Collected and Sung by John Allison

これはフォークウェイズレコードが1962年にリリースした、フォーク歌手ジョン・アリソンの "Witches and War-Whoops"(魔女と鬨の声)のジャケット写真で、アメリカ合衆国マサチューセッツ州セイラム村(現在のダンバース)で、1692年3月1日に始まったセイラム魔女裁判をテーマにした LP アルバムである。いささかショッキングなイラストだが、村人が魔女として告発され、その絞首刑の様子が描かれている。この裁判についてウィキペディア日本語版は「植民地時代アメリカにおける集団パニックの最も深刻な事例の一つである。孤立主義、宗教過激主義、虚偽の告発、正当なプロセスの遂行が孕む危険性について、鮮明な警鐘を呼び掛ける題材として、政治的文脈や大衆文学に用いられている。多くの歴史家はセイラム魔女裁判はその後のアメリカの裁判制度に対して非常に強い影響力を及ぼしたと考えている。

Smiling-Witch

歴史家のジョージ・リンカーン・バーは「セイラムの魔女裁判は、神権政治を崩壊させたと評しており、無実とされる人々が次々と告発されて裁判にかけられたその経緯は、集団心理の暴走の例としても引用されることが多い」と説明している。さらにインターネットを徘徊しているうちに、マサチューセッツ州ウォータータウンの歴史家のマリリン・ローチのことを知った。マサチューセッツ州ウェストボローのフィフティ・プラス・アドヴォケート紙の記事 "A Salem witch trial mystery remains"(セイラムの魔女裁判は謎が残る)によると「マサチューセッツ州の歴史作家マリリン・ローチは、セイラム魔女裁判について誰よりも知っているかもしれない。27年間にわたる綿密な調査、執筆、再執筆を経てこのテーマに関する彼女の最初の著書『セイラム魔女裁判』が2002年に出版された。そして2014年には『セイラムの6人の女たち』を上梓した」という。ローチによれば、魔女と疑われた164人が法廷制度に関与し、52人が裁判を受け、30人が有罪となった。30人中19人はセイラムの大観衆の前で絞首刑に処された。

Examination of a Witch
Tompkins H. Matteson (1813–1884) The Examination of a Witch, 1852

ローチは30人中19人の告発について「当時、荷車いっぱいの木材がバラバラになるのを誰かが目撃したり、目に見えない存在を感じたりしたかもしれない。告発者(魔法にかかった人、あるいは苦しんでいる人)は、魔女とされる他の人たちを告発した。「告発された人の中には家族のいない年配の女性もいたが、家族を持つ男性や女性もいた」「セイラムの想定される魔女と現代の魔女やウィッカンとの間には何の関係もありません」「彼らは誰も自分を魔女だとは思っていませんでした」云々。ローチは、1697年に裁判に対する謝罪として、マサチューセッツ州の一般大衆の間で一定期間の断食が行われたと指摘した。「その後、人々はパニックを悪魔の妄想だとみなしました。1711年、数回の請願の後、有罪判決を受けた者のうち22人の有罪評決が取り消されたが、有罪判決を受けた全員の名前が請願書に記載されていたわけではない。

Smiling-Witch

そして「1712年に裁判の結果被害を受けた人々に賠償金が支払われた」とローチは語っている。魔女裁判は、アメリカ史の中で奇妙で悲しい足跡を残している。「2001年にジェーン・スウィフト知事は残った名前を復元する法案を可決した。残念ながら、それはハロウィンの日に行われました」とローチ。彼女の研究は続いている。ローチは今、魔女裁判に参加した6人の男についての本を書いている。残念なことに、解明できていない情報がひとつある。絞首刑執行人は誰だったのだろうかという、極めて素朴な疑問である。「絞首刑の前に報酬が支払われたに違いない。請求書が見つからないんです。でも、彼がタバコを吸っていたことは知っています。1692年にサミュエル・ウォードウェルが絞首刑になったとき、彼は最後の言葉を言おうとしたときに、絞首刑の煙で喉を詰まらせた。首吊り師の名前が見つかればいいのですが」と嘆息しているようだ。下記リンク先の PDF ファイルはノースカロライナ大学の「セイラム魔女裁判の謎を解き明かす」です。

university  Solving the Mystery of the Salem Witch Trials Overview | University of North Carolina

2026年10月12日

森林再生活動をサポートする検索エンジン Ecosia を試用する

Ecosia

Ecosia(エコシア)はドイツの首都ベルリンの Ecosia GmbH(エコシア有限会社)が提供する検索エンジンで、80%以上の利益を植林・森林再生活動を行う非営利団体に寄付している。自身をソーシャル・ビジネスでありカーボンネガティブ(英語版)と考えており、Ecosia は財政の透明性を主張し定期的に財政レポートを公開している。ユーザーのプライバシーを保護し、アメリカの B Lab(英語版)に認証されたベネフィットコーポレーションである。創立当初は Yahoo! 検索の検索結果と、Bing、Wikipedia の技術を組み合わせて検索結果を表示していた。広告に関しては Ecosia と Yahoo! の利益共有の合意の一部として Yahoo! によって提供されていた。現在 Ecosia の検索結果は Bing によって提供されており、Bing から得た検索結果を Ecosia 自身のアルゴリズムによって強化している。Ecosia は現在スマートフォン(アンドロイド、iOS)、PC(Windows、Mac)上で動作するブラウザ・モバイルアプリとしても利用可能である。2019年現在 Google の検索結果も確認したい場合 Ecosia の検索バーに検索語句を入力することで Google の検索結果を表示することができる。2018年には、Ecosia はユーザーのプライバシーを守る検索エンジンになることを約束した。ユーザーの検索は暗号化され、保存は一時的にのみ行い、ユーザーのデータはサードパーティの広告会社に販売されることはないとしている。Ecosia はプライバシーポリシーにて検索履歴に基づくユーザープロフィールを作成しないし、Google Analytics のような外部のトラッキングツールを使用することもないとした。Ecosia は検索結果の隣に広告を表示しているが、ユーザーがスポンサードリンクを通じて広告元を参照したときにパートナーが Ecosia に料金を支払う仕組みとなっている。Ecosia の FAQ によれば Ecosiaで一度検索をすると、平均でおよそ0.5ユーロセント(0.005 EUR)の利益が発生する。1本の木を植えるには22ユーロセント掛かるので、22÷0.5という計算に基づき約45回の検索が1本の木を植えるために必要となる。Ecosia は広告からの利益の80%(収益の47.1%)を植林活動支援に使用しており、残りは想定外の事態の対応のために内部で留保される。もしこの留保した資金を使用する事態がなければ Ecosia の植林活動支援のための資金として使用される。Ecosia は月次で財政レポートを自身のサイト上に発表している。2018年10月には、創設者のクリスチャン・クロルは自身の保有する株式の一部を The Purpose Foundation に譲渡した。結果的に、クロールと Ecosia の共同所有者ティム・シューマッハは Ecosia を売る権利を放棄した。Ecosia はコペンハーゲンで行われた第15回気候変動枠組条約締約国会議と同じ日付である2009年12月7日に設立された。それ以降、プログラム運営者は材木業者・現地コミュニティと財政計画を作成したが、2011年までに Ecosia は250,000ユーロ以上を集めることに成功した。

スタートアップ画面

2013年7月から2014年9月にかけて Ecosia はアメリカの The Nature Conservancy(英語版)の主催する Plant a Billion Trees プログラムに寄付を行った。このプログラムは100万本の現地の木を植林することでブラジルの大西洋岸森林を2015年までに復元しようというものである。2015年には Ecosia はアフリカ連合・世界銀行の支援する砂漠化防止を目的としたグレートグリーンウォールプロジェクトの一環として、ブルキナファソの森林再生活動を資金援助した。B-lab によれば、2015年1月時点で、「利益の80%を寄付することで、Ecosia は2009年12月以降、熱帯雨林保護のために150万ドル以上を集めた。Ecosia によれば、2015年までに Ecosia はおよそ250万人のアクティブユーザーを獲得し、200万本以上の植林を行った。2015年5月に Ecosia は Europas(欧州のテック関連スタートアップ企業を称える賞)の社会の向上を意図した最優秀スタートアップ企業のカテゴリーの候補に挙げられた Ecosia は複数の団体と一緒に活動している。例えばエデン森林再生プロジェクト(英語版)、Hommes et Terre(フランス語:人類と地球)、その国現地の様々なパートナー等である。これらパートナーと Ecosia は16の国で植林を行った。Ecosia は現在ペルー、ニカラグア、コロンビア、ブラジル、モロッコ、スペイン、セネガル、ブルキナファソ、ガーナ、マダガスカル、ウガンダ、タンザニア、エチオピア、ハイチ、ケニア、インドネシアで植林プロジェクトを支援している。2018年10月9日、Ecosia は100万ユーロでハンバッハの森(英語版)をドイツのエネルギー会社 RWE から購入した。Ecosiaは Google Chrome と Mozilla Firefox 上でデフォルト検索エンジンとして使用可能である。2017年7月21日時点では、Brave ブラウザが Ecosiaをデフォルト検索エンジンの選択肢として提供している。バージョン26(2016年1月26日)のリリースに伴い Pale Moon ブラウザは Ecosia をデフォルト検索エンジンとして提供し、2016年2月15日に Polarity ブラウザのバージョン8も同様に Ecosia をデフォルト検索エンジンとした。Ecosia はバージョン44.0.2から Firerfox のデフォルト検索エンジンである。バージョン1.9から Vivaldi は Ecosia をデフォルト検索エンジンの選択肢として追加した。2018年3月には Firefox 59.0 が Ecosia を検索エンジンの選択肢としてドイツ版に追加した。

  エコシアは検索によって生じた広告収益の多くを環境保護(主に植林活動)に寄付する検索エンジン