2026年8月13日

米イスラエルによる対イラン戦争は気候変動戦争でもある

レバノンの太陽光発電所
レバノンの太陽光発電所および発電施設がイスラエルによる爆撃を受けた(2026年3月4日)

イランに対する米イスラエル戦争は気候変動にとって大惨事である。戦争は様々な面で気候変動を悪化させるからだ。英国のガーディアン紙によるとイランに対する米国の戦争開始からわずか14日間で、500万トンの二酸化炭素が排出されたことが分析で判明したという。中東での戦争は、84か国を合わせたよりも速いペースで世界の炭素予算を枯渇させている。サプライチェーンの混乱、エネルギー価格の高騰、株式市場の動揺といった経済リスクの増大は不吉な兆候である。核保有国である2カ国が仕掛けたこの選択戦争がさらにエスカレートし、地域内外の勢力を巻き込む危険性は憂慮すべき事態である。そして、これらの懸念のすべてに共通するのは、現代の戦争が気候変動と密接に結びついているという事実である。こうした関連性は双方向に及ぶ。戦争は膨大な量の地球温暖化ガスを放出する。例えば、ロシアのウクライナ侵攻は、フランスの年間排出量に匹敵する排出量を生み出した。こうした余剰排出量は、猛暑、干ばつ、暴風雨などの深刻な影響を引き起こし、人々の生活を破壊し、経済を不安定化させ、移民を促し、武力紛争の可能性を高める。戦争の勃発は、気候変動対策に反対する政治家の選出と同様に、気候にとって悪いニュースである。

police station in Tehran
イスラエルと米国がテヘランの警察署を空爆して炎上した(2026年3月2日)

この新たな戦争が気候に及ぼす影響は、現時点では注目されていないが、何が危機に瀕しているのかを理解する上で不可欠な背景情報である。文明が不可逆的な気候崩壊へと突き進んでいる今、地球上で最も殺傷力の高い3つの軍隊が戦争に突入することによる気候への影響を見過ごすことは、ジャーナリズムの職務怠慢と言えるだろう。しかし、戦争は皮肉にも気候変動問題をニュースの優先順位から押し下げるという逆効果をもたらす。じゃーんsリズムは出来事主導型であり、速報や差し迫った脅威を優先する。そして戦争は強烈な映像と劇的な物語を生み出し、人々のニュースへの欲求を掻き立てる。一方、気候変動は通常、より長い時間スケールで進行する。ハリケーンや山火事といった深刻な災害時を除けば、気候変動問題は見出しを飾り、人々の関心を高めるような緊急性を欠く傾向がある。これは石油をめぐる戦争なのか?イランが世界第3位の石油埋蔵量を保有しているという事実は、必然的にこの疑問を抱かせる。また、CIAが石油埋蔵量の国有化を目指した民主的に選出された指導者を打倒したという、米イラン間の長年にわたる紛争の歴史も同様だ。1月に米国がベネズエラを攻撃した際、ドナルド・トランプ大統領は、同国の膨大な石油埋蔵量を支配下に置きたいと公言した。今、イラン攻撃の決定において石油がどれほど重要な要素だったのかを明らかにするには、さらなる報道が必要だ。議論の余地がないのは、この戦争は石油なしでは戦えなかったということだ。

rump-Iran-Mojtab
ドナルド・トランプ米大統領とイランの最高指導者モジュタバ・ハメネイ師((AI画像)

航空母艦、ジェット戦闘機、そしてそれらに必要な無数の支援システムは、膨大な量の化石燃料を消費する。世界の軍隊を合わせると、世界の国々のうち3カ国を除くすべての国よりも、年間炭素排出量が多いのだ。この戦争が気候変動危機をはじめとする多くの事柄に及ぼす計り知れない影響を考えると、そもそもなぜこの戦争が始まったのかという疑問は、特にトランプ政権が表明した理由の急激な変化を鑑みると、精査される必要がある。最初の攻撃から24時間以内に、ワシントンポスト紙は政権関係者4人の話として「米国の情報機関の評価では、イランからの差し迫った脅威は認められなかった」と報じた。しかし同紙によると、トランプ大統領は、イランを宿敵とみなすイスラエルと、イランの長年の地域的ライバルであり、同じ産油国であるサウジアラビアによる「数週間にわたるロビー活動」を受けて、攻撃を決断したという。ほとんどの戦争と同様に、気候変動もまた、最も苦しむのは貧困層と罪のない人々である。気候変動は周辺的な問題ではなく、現代の戦争に構造的に組み込まれている。気候変動という側面を核心的な事実ではなく、オプションの付加要素として扱うならば、ジャーナリストは、これほど炭素排出量が多く、不安定化を招き、重大な影響を及ぼす戦争を、完全かつ公平に報道することはできない。下記リンク先は英国の野生生物および生息地再生慈善団体ナチュラル・ワールド・ファンドの「米国とイスラエルによるイランへの攻撃が、世界の二酸化炭素排出量を増加させている」です。

environment U.S.―Israel War on Iran Accelerates Global Carbon Emissions | The Natural World Fund

2026年8月12日

世界史遠望(25)なぜアメリカは軍事介入を繰り返すのか

Iroquois helicopters
イロコイヘリコプターが着陸し兵士たちをヌイ・ダットへ移送した(1967年8月26日)

冷戦終結以降、地域紛争は著しく増加しており、この傾向は今後も続くと予想される。ワシントンが地域紛争への対応策を模索する中で、軍事介入がしばしば選択肢として浮上する。しかし、地域紛争がアメリカの国家安全保障を脅かす稀なケースを除けば、地域紛争への軍事介入は賢明とは言えない。地域紛争の多くは悲劇的ではあるが、そのほとんどはアメリカの軍事介入によって解決できるものではない。実際、軍事介入はしばしば事態を悪化させる。さらに、介入はアメリカにとって多くの問題を引き起こす可能性がある。例えば、反米感情の高まり、作戦失敗時のアメリカの信頼性の低下、正当なアメリカの国益に関わる場合であっても将来の軍事作戦に対する国内の懐疑心、そしてこれまで存在しなかった重要な国益への脅威などが挙げられる。介入を支持する人々は、安全保障上の利益と人道上の利益の両方を、地域紛争へのアメリカ軍の介入を正当化する根拠として挙げている。介入を正当化する最も一般的で、かつ誤った論拠は、世界的な不安定がアメリカの安全保障に対する脅威であるというものだ。この論拠は、すでに否定されているドミノ理論と、模範による抑止という概念に大きく依存している。世界的な不安定は、それ自体、アメリカの重要な利益を脅かすものではなく、むしろ通常の状態である。無秩序や不安定を安全保障上の脅威とみなす政策は、アメリカに達成不可能な目標の追求に莫大な資源を費やすことを強いることになるだろう。

flag-draped transfer case
ドーバー空軍基地で国旗に包まれた遺体搬送用ケースを運ぶアメリカ軍兵士(2026年7月22日)

第二次世界大戦以降、特に1991年以降、軍事介入の失敗の歴史が悲惨なほど長いことを考えると、なぜ軍事介入はアメリカの国家戦略の手段として存続し続けているのだろうか。有力な可能性の一つは、アメリカ軍の並外れた影響力と、アメリカ本土の相対的な地政学的孤立を考えると、失敗の代償が、たとえわずかであっても成功の可能性に比べて、存亡の危機にまで達したことがないということである。もう一つの可能​性は、軍事介入は強硬さを示すものであり、先に述べたように、アメリカの主権と安全保障に深刻なリスクをもたらすようには見えないということである。したがって、ワシントンの政治エリートにとって、強硬姿勢を示すことのメリットは、失敗の代償とリスクを上回る。失敗の責任は、ほとんどの場合、自分たちの制御が及ばない要因、あるいは政敵や第三者に転嫁できる。つまりエリートたちはその代償を払う必要がないのだ。アメリカは軍事介入によって地域紛争を鎮圧しようとするのではなく、地域主導の取り組みを奨励すべきである。しかしながら、ワシントンは、多くの地域紛争があまりにも根深く、地域内外を問わず、いかなる外部勢力も紛争を終結させることは不可能であることを認識しなければならない。下記リンク先はアメリカ・カトリック大学政治学研究センターの論文「なぜアメリカは外国への介入に依存しているのか?」です。

university_bk   Why is America Addicted to Foreign Interventions? | The Catholic University of America

2026年8月11日

写真術における偉大なる達人たち

New Mothers
Sally Mann (born 1951) The New Mothers, Lexington, Virginia, 1989

2021年の秋以来、思いつくまま世界の写真界20~21世紀の達人たちの紹介記事を拙ブログに綴ってきましたが、2026年8月12日現在のリストです。右端の()内はそれぞれ写真家の生年・没年です。左端の年月日をクリックするとそれぞれの掲載ページが開きます。

21/10/06多くの人々に感動を与えたアフリカ系アメリカ人写真家ゴードン・パークスの足跡(1912–2006)
21/10/08グループ f/64 のメンバーだった写真家イモージン・カニンガムは化学を専攻した(1883–1976)
21/10/10圧倒的な才能を持ち現代アメリカの芸術写真を牽引したポール・ストランド(1890–1976)
21/10/11何気ない虚ろなアメリカを旅したスイス生まれの写真家ロバート・フランク(1924–2019)
21/10/13作為を排した新客観主義に触発されたストリート写真の達人ロベール・ドアノー(1912–1994)
21/10/16大恐慌時に農村や小さな町の生活窮状をドキュメントした写真家ラッセル・リー(1903–1986)
21/10/17日記に最後の晩餐という言葉を残して自死した写真家ダイアン・アーバスの黙示録(1923–1971)
21/10/19フォトジャーナリズムの手法を芸術の域に高めた写真家ユージン・スミスの視線(1918–1978)
21/10/24時代の風潮に左右されず独自の芸術観を持ち続けたプラハの詩人ヨゼフ・スデック(1896-1976)
21/10/27西欧美術を米国に紹介した写真家アルフレッド・スティーグリッツの功績(1864–1946)
21/11/01美しいパリを撮影していたウジェーヌ・アジェを「発見」したベレニス・アボット(1898–1991)
21/11/08近代ストレート写真を先導した 20 世紀の写真界の巨匠エドワード・ウェストン(1886–1958)
21/11/10芸術を通じて社会や政治に影響を与えることを目指した写真家アンセル・アダムス(1902–1984)
21/11/13大恐慌を記録したウォーカー・エヴァンスの被写体はその土地固有の様式だった(1903–1975)
21/11/16写真少年ジャック=アンリ・ラルティーグは個展を開いた 69 歳まで無名だった(1894–1986)
21/11/20ハンガリー出身の世界で最も偉大な戦争写真家ロバート・キャパの短い人生(1913–1954)
21/11/25児童労働の惨状を訴えるため現実を正確に捉えた写真家ルイス・ハインの偉業(1874–1940)
21/12/01マグナム・フォトを設立した写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの決定的瞬間(1908–2004)
21/12/06犬を人間のいくつかの性質を持っているとして愛撮したエリオット・アーウィット(1928-2023)
21/12/08リチャード・アヴェドンの洗練され権威ある感覚をもたらしたポートレート写真(1923–2004)
21/12/12デザインと産業の統合に集中したバウハウスの写真家ラースロー・モホリ=ナジ(1923–1928)
21/12/17ダダイズムとシュルレアリスムに跨る写真を制作したマン・レイは革新者だった(1890–1976)
21/12/29フォトジャーナリズムに傾倒したアラ・ギュレルの失われたイスタンブル写真素描(1928–2018)
22/01/10ペルーのスタジオをヒントに自然光に拘ったアーヴィング・ペンの鮮明な写真(1917-2009)
22/02/25非現実的なほど歪曲し抽象的な遠近感を生み出した写真家ビル・ブラントのカメラ(1904–1983)
22/03/09男性ヌードや花を白黒で撮影した異端の写真家ロバート・メイプルソープへの賛歌(1946–1989)
22/03/18ニューヨーク近代美術館で写真展「人間家族」を企画したエドワード・スタイケン(1879–1973)
22/03/24公民権運動の影響を記録したキュメンタリー写真家ブルース・デヴッドソンの慧眼(born 1933)
22/04/21社会的弱者に寄り添いエモーショナルに撮影した写真家メアリー・エレン・マーク(1940-2015)
22/05/20早逝した写真家リンダ・マッカートニーはザ・ビートルズのポールの伴侶だった(1941–1998)
22/06/01大都市に変貌する香港を活写して重要な作品群を作り上げたファン・ホーの視線(1931–2016)
22/06/12肖像写真で社会の断面を浮き彫りにしたドキュメント写真家アウグスト・ザンダー(1876–1964)
22/08/01スペイン内戦取材で26歳という若さに散った女性戦争写真家ゲルダ・タローの生涯 (1910–1937)
22/09/16カラー写真を芸術として追及したジョエル・マイヤーウィッツの手腕(born 1938)
22/09/25死と衰退を意味する作品を手がけた女性写真家サリー・マンの感性(born 1951)
22/10/17北海道の風景に恋したイギリス人写真家マイケル・ケンナのモノクロ写真(born 1951)
22/11/06アメリカ先住民を「失われる前に」記録したエドワード・カーティス(1868–1952)
22/11/16大恐慌の写真 9,000 点以上を制作したマリオン・ポスト・ウォルコット(1910–1990)
22/11/18人間の精神の深さを写真に写しとったアルゼンチン出身のペドロ・ルイス・ラオタ (1934-1986)
22/12/10アメリカの生活と社会的問題を描写した写真家ゲイリー・ウィノグランド(1928–1984)
22/12/16没後に脚光を浴びたヴィヴィアン・マイヤーのストリート写真(1926–2009)
22/12/23写真家集団マグナムに参画した初めての女性報道写真家イヴ・アーノルド(1912-2012)
23/03/25写真家フランク・ラインハートのアメリカ先住民のドラマチックで美しい肖像写真(1861-1928)
23/04/13複雑なタブローを構築するシュールレアリスム写真家サンディ・スコグランド(born 1946)
23/04/21キャラクターから自らを切り離したシンディー・シャーマンの自画像(born 1954)
23/05/01震災前のサンフランシスコを記録した写真家アーノルド・ジェンス(1869–1942)
23/05/03メキシコにおけるフォトジャーナリズムの先駆者マヌエル・ラモス(1874-1945)
23/05/05文学と芸術に没頭し超現実主義絵画に着想を得た台湾を代表する写真家張照堂(1943-2024)
23/05/07家族の緊密なポートレイトで注目を集めた写真家エメット・ゴウィン(born 1941)
23/05/22欲望やジェンダーの境界を無視したクロード・カアンのセルフポートレイト(1894–1954)
23/05/2520世紀初頭のアメリカの都市改革に大きく貢献したジェイコブ・リース(1849-1914)
23/06/05都市の社会風景という視覚的言語を発展させた写真家リー・フリードランダー(born 1934)
23/06/13写真芸術の境界を広げた暗室の錬金術師ジェリー・ユルズマンの神技(1934–2022)
23/06/15強制的に収容所に入れられた日系アメリカ人を撮影したドロシア・ラング(1895–1965)
23/06/20劇的な国際的シンボルとなった「プラハの春」を撮影したヨゼフ・コウデルカ(born 1958)
23/06/24警察無線を傍受できる唯一のニューヨークの写真家だったウィージー(1899–1968)
23/07/03フォトジャーナリズムの父アルフレッド・アイゼンシュタットの視線(1898–1995)
23/07/06ハンガリーの芸術家たちとの交流が反映されたアンドレ・ケルテスの作品(1894-1985)
23/07/08家族が所有する島で野鳥の写真を撮り始めたエリオット・ポーター(1901–1990)
23/07/08戦争と苦しみを衝撃的な力でとらえた報道写真家ドン・マッカラン(born 1935)
23/07/17夜のパリに漂うムードに魅了されていたハンガリー出身の写真家ブラッサイ(1899–1984)
23/07/2020世紀の著名人を撮影した肖像写真家の巨星ユーサフ・カーシュ(1908–2002)
23/07/22メキシコの革命運動に身を捧げた写真家ティナ・モドッティのマルチな才能(1896–1942)
23/07/24ロングアイランド出身のマルクス主義者を自称する写真家ラリー・フィンク(born 1941)
23/08/01アフリカ系アメリカ人の芸術的な肖像写真を制作したコンスエロ・カナガ(1894–1978)
23/08/04ヒトラーの地下壕の写真を世界に初めて公開したウィリアム・ヴァンディバート(1912-1990)
23/08/06タイプライターとカメラを同じように扱った写真家カール・マイダンス(1907–2004)
23/08/08ファッションモデルから戦場フォトャーナリストに転じたリー・ミラーの生涯(1907-1977)
23/08/14ニコンのレンズを世界に知らしめたデイヴィッド・ダグラス・ダンカンの功績(1907-2007)
23/08/18超現実的なインスタレーションアートを創り上げたサンディ・スコグランド(born 1946)
23/08/20シカゴの街角やアメリカ史における重要な瞬間を再現した写真家アート・シェイ(1922–2018)
23/08/22大恐慌時代の FSA プロジェクト 最初の写真家アーサー・ロススタイン(1915-1986)
23/08/25カメラの焦点を自分たちの生活に向けるべきと主張したハリー・キャラハン(1912-1999)
23/09/08イギリスにおけるフォトジャーナリズムの先駆者クルト・ハットン(1893–1960)
23/10/06ロシアにおけるデザインと構成主義創設者だったアレクサンドル・ロトチェンコ(1891–1956)
23/10/18物事の本質に近づくための絶え間ない努力を続けた写真家ウィン・バロック(1902–1975)
23/10/27先見かつ斬新な作品により写真史に大きな影響を与えたウィリアム・クライン(1926–2022)
23/11/09アパートの窓から四季の移り変わりの美しさなどを撮影したルース・オーキン(1921-1985)
23/11/15死や死体の陰翳が纏わりついた写真家ジョエル=ピーター・ウィトキンの作品(born 1939)
23/12/01近代化により消滅する前のパリの建築物や街並みを記録したウジェーヌ・アジェ(1857-1927)
23/12/15同時代で最も有名で最も知られていないストリート写真家のヘレン・レヴィット(1913–2009)
23/12/20哲学者であることも写真家であることも認めなかったジャン・ボードリヤール(1929-2007)
24/01/08音楽や映画など多岐にわたる分野で能力を発揮した写真家ジャック・デラーノ(1914–1997)
24/02/25シチリア出身のイタリア人マグナム写真家フェルディナンド・スキアンナの視座(born 1943)
24/03/21パリで花開いたロシア人ファッション写真家ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(1900–1968)
24/04/04報道写真家として自活することに成功した最初の女性の一人エスター・バブリー(1921-1998)
24/04/20長時間露光により時間の多層性を浮かび上がらせたアレクセイ・ティタレンコ(born 1962)
24/04/2820世紀後半のイタリアで最も重要な写真家ジャンニ・ベレンゴ・ガルディン(born 1930)
24/04/30トルコの古い伝統の記憶を守り続ける女性写真家 F・ディレク・ウヤル(born 1976)
24/05/01ファッション写真に大きな影響を与えたデヴィッド・ザイドナーの短い生涯(1957-1999)
24/05/08社会の鼓動を捉えたいという思いで写真家になったリチャード・サンドラー(born 1946)
24/05/10直接的で妥協がないストリート写真の巨匠レオン・レヴィンシュタイン(1910–1988)
24/05/12自らの作品を視覚的な物語と定義している写真家スティーヴ・マッカリー(born 1950)
24/05/14多様な芸術の影響を受け写真家の視点を形作ったアンドレアス・ファイニンガー(1906-1999)
24/05/16芸術的表現により繊細な目を持つ女性写真家となったマルティーヌ・フランク(1938-2012)
24/05/18ドキュメンタリー写真をモノクロからカラーに舵を切ったマーティン・パー(born 1952)
24/05/21先駆的なグラフ誌『ピクチャー・ポスト』を主導した写真家バート・ハーディ(1913-1995)
24/05/24グラフ誌『ライフ』に30年間投稿し続けたロシア生まれの写真家リナ・リーン(1914-1995)
24/05/27旅する写真家として20世紀後半の歴史に残る象徴的な作品を制作したルネ・ブリ(1933-2014)
24/05/29高速ストロボスコープ写真を開発したハロルド・ユージン・エジャートン(1903-1990)
24/06/03一般市民とそのささやかな瞬間を撮影したオランダの写真家ヘンク・ヨンケル(1912-2002)
24/06/10ラージフォーマット写真のデジタル処理で成功したアンドレアス・グルスキー(born 1955)
24/06/26レンズを通して親密な講釈と被写体の声を伝えてきた韓国出身のユンギ・キム(born 1962)
24/07/05演出されたものではなく現実的なファッション写真を開発したトニ・フリッセル(1907-1988)
24/07/07スウィンギング60年代のイメージ形成に貢献した写真家デイヴィッド・ベイリー(born 1938)
24/07/13著名人からから小さな町の人々まで撮影してきた写真家マイケル・オブライエン(born 1950)
24/07/14人々のドラマが宿る都市のカラー写真を制作したコンスタンティン・マノス(born 1934)
24/08/04写真家集団「マグナム・フォト」所属するただ一人の日本人メンバー久保田博二(born 1939)
24/08/08ロバート・F・ケネディの死を悼む人々を葬儀列車から捉えたポール・フスコ(1930–2020)
24/08/13クリスティーナ・ガルシア・ロデロが話したいのは時間も終わりもない出来事だ(born 1949)
24/08/30ドキュメンタリーと芸術の境界を歩んだカラー写真の先駆者エルンスト・ハース(1921–1986)
24/09/01国際的写真家集団マグナム・フォトの女性写真家スーザン・メイゼラスの視線(born 1948)
24/09/09アパルトヘイトの悪と日常的な社会への影響を記録したアーネスト・コール(1940–1990)
24/09/14宗教的または民俗的な儀式に写真撮影の情熱を注ぎ込んだラモン・マサッツ(1931-2024)
24/09/23アメリカで最も有名な無名の写真家と呼ばれたエヴリン・ホーファー(1922–2009)
24/09/25自身を「大義を求める反逆者」と表現した写真家マージョリー・コリンズ(1912-1985)
24/09/27北海道の小さな町にあった営業写真館を継がず写真芸術の道を歩んだ深瀬昌久(1934-2012)
24/10/01現代アメリカの風変わりで平凡なイメージに焦点を当てた写真家アレック・ソス(born 1969)
24/10/04微妙なテクスチャーの言語を備えた異次元の写真を追及したアーサー・トレス(born 1940)
24/10/06オーストリア系イギリス人のエディス・チューダー=ハートはソ連のスパイだった(1908-1973)
24/10/08映画の撮影監督でもあったドキュメンタリー写真家ヴォルフガング・スシツキー(1912–2016)
24/10/15芸術のレズビアン・サブカルチャーに深く関わった写真家ルース・ベルンハルト(1905–2006)
24/10/19ランド・アートを通じて作品を地球と共同制作するアンディ・ゴールドワージー (born 1956)
24/10/29公民権運動の活動に感銘し刑務所制度の悲惨を描写した写真家ダニー・ライアン (born 1942)
24/11/01人間の状態と現在の出来事を記録するストリート写真家ピータ―・ターンリー (born 1955)
24/11/04写真を通じて現代の社会的状況を改善することに専念したアーロン・シスキンド(1903-1991)
24/11/07自然と植物の成長にインスピレーションを受けた写真家カール・ブロスフェルト(1865-1932)
24/11/09ストリート写真で知られているリゼット・モデルは教える才能を持っていた(1901-1983)
24/11/11カラー写真が芸術として認知されるようになった功労者ウィリアム・エグルストン(born 1939)
24/11/13革命後のメキシコ復興の重要人物だった写真家ローラ・アルバレス・ブラボー(1903-1993)
24/11/15チリの歴史上最も重要な写真家であると考えられているセルヒオ・ララインの視座(1931-2012)
24/11/19イギリスのアンリ・カルティエ=ブレッソンと評されたジェーン・ボウン(1925-2014)
24/11/25カラー写真の先駆者ソール・ライターは戦後写真界の傑出した人物のひとりだった(1923–2013)
24/11/25サム・フォークがニューヨーク・タイムズに寄せた写真は鮮烈な感覚をもたらした(1901-1991)
24/11/29ゲイ解放運動の活動家だったトランスジェンダーの写真家ピーター・ヒュージャー(1934–1987)
24/12/01複数の芸術的才能に恵まれていた華麗なるファッション写真家セシル・ビートン(1904–1980)
24/12/05ライフ誌と空軍で活躍した女性初の戦場写真家マーガレット・バーク=ホワイト(1904–1971)
24/12/07愛と美を鮮明に捉えたロマン派写真家エドゥアール・ブーバの平和への眼差し(1923–1999)
24/12/10保守的な政治体制と対立しながら自由のために写真を手段にしたエヴァ・ペスニョ(1910–2003)
24/12/15自然環境における人間の姿を研究することに関心を寄せた写真家マイケル・ぺト(1908-1970)
24/12/20ベトナム戦争中にナパーム弾攻撃から逃げる子供たちを撮影したニック・ウット(born 1951)
25/01/06記録映画の先駆者であり前衛映画製作者でもあった写真家ラルフ・スタイナー(1899–1986)
25/01/10アメリカ西部を占める文化の多様性を反映した写真家ローラ・ウィルソンの足跡(born 1939)
25/01/15フランスの人文主義写真運動で活躍したスイス系フランス人ザビーネ・ヴァイス(1924–2021)
25/02/03サルバドール・ダリとの共作でシュールな写真を創出したフィリップ・ハルスマン(1906–1979)
25/02/06ベトナム戦争に対する懸念を形にした写真家フィリップ・ジョーンズ・グリフィス(1936-2008)
25/02/18芸術に複数の糸を持っていたシュルレアリスムの写真家エミール・サヴィトリー(1903-1967)
25/03/19シュルレアリスムの先駆的な写真家でピカソのモデルで恋人だったドラ・マール(1907-1997)
25/03/25ホロコースト前の東欧のユダヤ人社会を記録した写真家ローマン・ヴィスニアック(1897-1990)
25/04/01ソーシャルワーカーからライフ誌の専属写真家に転じたウォレス・カークランド(1891–1979)
25/04/04写真家ビル・エプリッジは20世紀で最も優れたフォトジャーナリストの一人だった(1938-2013)
25/04/25ロバート・キャパの弟で総合施設国際写真センターを設立したコーネル・キャパ(1918-2008)
25/05/01激動1960年代の音楽家たちをキャプチャーした写真家エリオット・ランディの慧眼(born 1942)
25/05/23生まれ故郷ブラジルの熱帯雨林アマゾン川流域へのセバスチャン・サルガドの視座(1944-2025)
25/06/22風景への畏敬の念と激動の気象現象への驚異が伝わるミッチ・ドブラウナーの写真(born 1956)
25/07/26ティンタイプ写真でアパラチアの伝承音楽家に焦点を当てたリサ・エルマーレ(born 1984)
25/08/03色彩の卓越した表現を通して写真というジャンルを超越したデビッド・ラシャペル(born 1963)
25/08/20ヨーロッパ解放やコンゴ紛争などでの勇敢な取材で知られるドミトリ・ケッセル(1902–1995)
25/08/25長大吊り橋を撮影したピーター・スタックポールはライフ誌創刊の写真家になった(1913-1997)
25/09/08アパラチアや南東部の農村地帯の人々の肖像写真で知られているドリス・ウルマン(1882-1934)
25/08/25長大吊り橋を撮影したピーター・スタックポールはライフ誌創刊の写真家になった(1913-1997)
25/09/15指導者であり預言者であり歴史家であり学者だった写真家ジョン・ローエンガード(1934-2020)
25/09/17女性を客体ではなく主体として描写した写真家エレン・フォン・アンワースの視線(born 1954)
25/09/22精巧に演出された赤ちゃんたちの愛らしい写真で世界的に評価されるアン・ゲデス(born 1956)
25/09/26エロティックで都会的なスタイルの頂点を極めた写真家ヘルムート・ニュートン(1920-2004)
25/10/06モデルからファッション写真家に転じたスリランカ系英国人ナイジェル・バーカー(born 1972)
25/10/15ヴィクトリア朝イギリスで最も有名な写真家ジュリア・マーガレット・キャメロン(1815-1879)
25/10/17革新的手法を用いたドイツ系ユダヤ人写真家エーリッヒ・ザロモンの悲劇的な運命(1886-1944)
25/10/20地球の環境破壊と気候変動の壊滅的な影響を明瞭に伝える写真家ニック・ブラント(born 1964)
25/10/23政治家や作家など世界の重要人物の精緻な肖像写真を撮影したユーサフ・カーシュ(1908-2002)
25/10/26直面する不正義と対峙するパレスチナ系オランダ人写真家サキル・カデルの眼差し(born 1990)
25/11/12目に見えない鳥の飛行経路を可視化した作品で知られる写真家シャビ・ボウの秘技(born 1979)
25/11/18自身の文化的環境を探求したメキシコを代表する写真家グラシエラ・イトゥルビデ(born 1942)
25/11/25フォトルポルタージュの新たな時代を築いたスペインの写真家ラモン・マサッツ(1931-2024)
25/12/10畏敬の対象となる自然風景および聖なる場所を崇拝した風景写真家リンダ・コナー(born 1944)
25/12/23インド初の女性報道写真家で独立国家への変遷を記録したホマイ・ヴィヤラワラ(1913-2012)
26/01/04モデルから転身した写真家サラ・ムーンの雰囲気により際立った印象派的な作品(born 1941)
26/01/07音楽に合わせた写真「ドリーム・ピクチャーズ」で知られるブランソン・デク―(1892-1941)
26/01/22技術者の客観性と技術的志向を写真撮影に反映させたエミール・ハイルボルン(1900-2003)
26/01/26芸術的側面と社会的な側面の二つの特質を最適に供えた女性写真家アタ・カンドー(1913-2017)
26/03/05戦争や貧困など社会の底辺を記録して世界的な評価を得た写真家ドン・マッカラン(born 1935)
26/03/22カメラで芸術的インスピレーションを追求した写真家リオ・ディジローラモの軌跡(1934–2019)
26/05/05写真界では神童のような存在と見なされた巨匠ハロルド・ファインスタイン (1931-2015)
26/05/22形式と感情の巨匠:ドイツ人写真家トニ・シュナイダース不朽の遺産(1920-2006)
26/06/07スコットランド出身の華麗なるプリントのレジェンド写真家アルバート・ワトソン(born 1942)
26/06/11目撃者であることだけで十分かと自らを問いつめた夭折の報道写真家ジル・カロン(1939-1970)
26/06/23困難な状況下での撮影のための新しいツールを開発した写真家 J・R・アイヤーマン(1906-1985)
26/06/25イメージを通じて抽象的な科学的概念を幅広い層に伝えた写真家フリッツ・ゴロ(1901-1986)
26/07/05フランスにおけるピクトリアリズム運動の主な提唱者だったコンスタン・ピュヨー(born 1979)
26/07/16忘れ去られたものの転生としてのヌード作品を制作する写真家ルスラン・ロバノフ(born 1979)
26/07/21スノードン卿が「イギリスのカルティエ=ブレッソン」称えたジェーン・バウン(1921-2014)
26/07/31ピクトリアリスムからストレート写真に移行する日本の写真界を牽引した野島康三(1889-1964)
26/08/01北海道の小さな町にあった営業写真館を継がず写真芸術の道を歩んだ深瀬昌久(1934-2012)
26/08/04芸術を通して時代の記憶を構築したアルゼンチンを代表する写真家サラ・ファシオ(1932–2024)
26/08/05根源的な問いに向き合う日本を代表するストリート写真のレジェンダリー森山大道(born 1938)
26/08/08時間が日常の物や表面にどのような痕跡を残すのかを探求し続けてきた石内都(born 1947)
26/08/09若くして自死した写真家フランチェスカ・ウッドマンの脆くも美しい作品たち(1958-1981)
26/08/12影響力のある雑誌で女性写真家として活躍したドイツ系アメリカ人リサ・ラーセン(1925-1959)

子供の頃「明治は遠くなりにけり」という言葉を耳にした記憶がありますが、今まさに「20世紀は遠くなりにけり」の感があります。掲載した作品の大半がモノクロ写真で、カラー写真がわずかのなのは偶然ではないような気がします。20世紀のアートの世界ではモノクロ写真が主流だったからです。しかしデジタルカメラが主流になった21世紀、カラー写真の台頭に目覚ましいものがあります。ジョエル・マイヤーウィッツとサンディ・スコグランド、ジャン・ボードリヤール、 F・ディレク・ウヤル、マーティン・パー、コンスタンティン・マノス、久保田博二、ポール・フスコ、エルンスト・ハース、エヴリン・ホーファー、アレック・ソス、アンディ・ゴールドワージー、ウィリアム・エグルストン、ソール・ライタ、フリッツ・ゴロなどのカラー作品を取り上げました。

photography  Famous Photographers: Great photographs can elicit thoughts, feelings, and emotions.

影響力のある雑誌で女性写真家として活躍したドイツ系アメリカ人リサ・ラーセン

Crowd at Lenin Stadium
Crowd at Lenin Stadium with some holding flowers for the winning athletes, 1956
Lisa Larsen

リサ・ラーセンは1925年8月5日、ドイツのプフォルツハイムで生まれた。まだ10代の頃だった1939年に、ベルギーのアントウェルペンから SS ヴェンダム号に乗船してアメリカ合衆国へ渡り、わずか17歳で大学を早期卒業した。写真エージェンシーのブラックスターに事務員として勤務した後『ヴォーグ』で見習いとして働き、その後グラフィックスハウスエージェンシーを通じて数年間フリーランスとして活動した。彼女の仕事は『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』『パレード』『グラマー』『ヴォーグ』『チャーム』『ホリデー』からもたらされた。1948年以降、ラーセンの写真報道の大部分は、彼女が1949年から1959年までスタッフとして勤務した『ライフ』誌との契約によるものだった。当初は、ヴァンダービルト家、ケネディ家、ビング・クロスビー、ウィンザー公爵など、主にエンターテイメント、セレブリティ、ファッションの記事を担当していた。しかし彼女は政治的な記事も取り上げた。ブルックリン警察の捜査、ファーストレディのベス・トルーマンと娘のマーガレットの選挙後の公式肖像写真、1950年のドワイト・D・アイゼンハワー大統領選挙運動、1953年のジョン・F・ケネディとジャクリーン・ブーヴィエの結婚式、副大統領のアルベン・バークレーの選挙運動などである。

Girls of the Children’s School
Girls of the Children’s School of Modern Dancing rehearsing on the beach

そして1954年11月29日にマディソン・スクエア・ガーデンで行われたマッカーシーの集会では、ニューヨーク・タイムズの名前が出ただけで群衆からブーイングが起こった。当時すでに有名だったラーセンが入場すると、暴動寸前の騒ぎが起こり、警察が彼女を会場から連れ出す際に「共産主義者の雌犬を吊るせ!」という声が上がった。フランス語、英語、ドイツ語に堪能で、デンマーク語とロシア語も少し話せたラーセンは、1950年代初頭から国際的な取材を担当した。

wedding
John F. Kennedy and his bride Jacqueline during their wedding reception, 1953

1951年のイランとイギリスの石油紛争の際にニューヨークの病院のベッドで撮影したイランのモハンマド・モサデク首相は、1952年に彼女をイランに2週間招待し、イスファハン、ゴム、ペルセポリス、シーラーズで撮影を行った。また国連総会初の女性議長であるヴィジャヤ・ラクシュミ・パンディット(1953年)の撮影、エリザベス2世女王の初の公式訪問、1954年の中央アメリカとパナマの栄養研究所の取材も行った。この研究所では、医師と話したり、研究所を視察したり、現場に出て取材を行った。

Veterans Day
Mass induction of new citizens in New York on Veterans Day, 1954

特筆すべきは1956年に外モンゴルでの仕事で、彼女は10年ぶりに同国への入国を許可された最初のアメリカ人写真家だった。ラーセンが1958年にハンガリーのソルノクで撮影したフルシチョフ首相の写真は、高い評価を受けた。中南米の栄養研究所の取材で撮影した写真の1枚が、エドワード・スタイケンによって1955年にニューヨーク近代美術館を巡回した「ザ・ファミリー・オブ・マン(人間家族)」展に選ばれ、900万人が鑑賞した。

Grace Kelly
Grace Kelly poses for photographers before leaving for Monaco, New York, 1956

写真には、抱っこ紐で赤ちゃんを背負った満面の笑みを浮かべた若いグアテマラ人母親が写っており、2人の幼い女の子が明らかに嬉しそうに赤ちゃんを覗き込んでいる。背景にはヤシの葉が写っており、熱帯の風景であることが分かる。写真には温かみのある人間味があふれている。 ラーセンは1957年に乳がんの治療を受け、翌年には海外プレス・クラブ賞を受賞できるほど回復し、ポーランドでの取材活動を続けた。1959年に首に腫瘍ができ、ニューヨークのパークアベニューの自宅で亡くなった。34歳だった。

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