2025年7月14日

参院選 2025 自民党比例代表候補杉田水脈批判

杉田水脈
女性を叩く女性政治家 ©京都フォト通信

夕方になったら朝の発言と違っている。ドナルド・トランプの朝令暮改に世界中が混乱しているが、我が国の石破茂首相にもスケールが小さいもののその癖がある。2025年3月21日付け朝日新聞デジタル版によると、石破は院予算委員会で、自民党の杉田水脈(みお)前衆院議員が過去に述べた「女性はいくらでもウソをつける」などの発言について「強烈な違和感」があると語ったという。とこで参院選の蓋を開けてみたところ、おっとどっこい、比例代表の名簿にその名を連れているではないか。久しぶりに杉田水脈の名を目にした。水脈は父親が万葉集の「泊瀬川流水尾之湍乎早井提越浪之音之清久(初瀬川流るる水脈の瀬を速みゐで越す波の音の清けく)」からとったという。水脈は流れの深いところをさすそうだが、その問題山積の言動はともかく確かに美しい名前ではある。石破政権から公認されなくても、今年の参院選へのくら替え出馬などの「あらゆる可能性を検討する」とし、政治活動を続ける考えを明らかにしたというが、ねがったりかなったりだろう。政治資金パーティーを巡る裏金事件で、清和政策研究会(旧安倍派)に所属していた彼女は2018~22年に安倍派から受け取った寄付金計1,564万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして、党役職停止6カ月の処分を受けた。山口県連は比例中国ブロック単独候補として党本部に公認申請したと発表した。第2次岸田改造内閣で総務政務官に、よりもよって過去に性的少数者をめぐる発言などが問題となった衆議員議員の杉田が起用された。

Anti LGBT Clipart
Anti LGBT Clipart

問題は杉田が女性やマイノリティを過激な言葉で攻撃することで、政治家としての地位を得てきたという事実である。女性を叩く女性政治家を 国会議員にすることは避けなければならない。日本の右傾化の波に乗せては駄目なのである。杉田曰く「LGBT だからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか」「LGBT のカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」云々。さらに「国や自治体が少子化対策や子育て支援に予算をつけるのは『生産性』を重視しているからです。生産性のあるものとないものを同列に扱うのは無理があります。これも差別ではなく区別です」とは恐れ入るが、これを繰り返し主張しているのである。「伊藤詩織氏の事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます」「私は、女性差別というのは存在していないと思うんです。女子差別撤廃条約には、日本の文化とか伝統を壊してでも男女平等にしましょうというようなことが書いてあって、これは本当に受け入れるべき条約なのか」といった暴言を列挙したらキリがない。人間として如何なものかと思うが、こんな女性が国会議員であることに、この国の政治風土を嘆かざるを得ない。かつては日本維新の会に所属していたが、現在は自由民主党の議員である。時計の針を逆に回せば、極右ジャーナリストの櫻井よしこが故・安倍晋三に推薦し、安倍も杉田を気に入り出馬するに至ったというわけである。何のことはない、地下で水脈は繋がっている。安倍晋三の負のレガシーなのである。下記リンク先の文書は衆議院議員時代の「本会議発言一覧」(全期間)である。

国会図書館  杉田水脈 衆議院議員「本会議発言一覧」(全期間)| 国会議員白書 | 国立国会図書館サーチ | 菅原琢

2025年7月12日

もしトランプ大統領がノーベル平和賞を受賞したら

Trump's Blood Hands
Nobel Peace Prize (Trump's Blood Hands) ©2025 Luc Descheemaeker

ソーシャルメディア界隈で「もしトラ」という用語がトレンド入りしたのは2024年、アメリカ合衆国大統領選挙を控える時期に用いられた。「もしもトランプ(前大統領)が再当選したら」という意味のネットスラングである。ところでごく最近になってもうひとつの「もしトラ」が俄かに登場した。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がドナルド・トランプ大統領をノーベル平和賞に推薦したからだ。ネタニヤフ首相は7月7日、トランプ大統領とその側近らがホワイトハウスのブルールームで夕食会を開き、イラン問題やガザ地区での60日間の停戦提案の推進について協議した際、指名を発表した。ネタニヤフ首相は「彼は今まさに、一つの国、一つの地域、そして一つ一つの国で平和を築いています。そこで、私がノーベル賞委員会に送った手紙をあなたにお見せしたいと思います。これはあなたをノーベル平和賞に推薦するものです。あなたは受賞に値する、受賞すべきです」と述べた。受賞の可能性を分析してみた。トランプは以前から自らを平和の達人と称し、ノーベル平和賞への意欲を表明してきた。2019年2月、故安倍晋三元首相がノーベル平和賞に推薦している。ネタニヤフ首相によるトランプの指名は一部で懐疑的な見方を引き起こしているようだ。その中には、元スウェーデン首相カール・ビルトも含まれており、彼は X(旧Twitter)番組で、ネタニヤフはトランプに阿ろうとしていると語っている。

Novel Prize Medals

トランプがこの賞を受賞すれば、セオドア・ルーズベルト、ウッドロウ・ウィルソン、ジミー・カーター、バラク・オバマに続き、アメリカで5人目の受賞者となる。ダイナマイトの発明者であるスウェーデンの実業家アルフレッド・ノーベルの遺言により、この賞は「諸国間の友好関係の促進、常備軍の廃止または縮小、そして平和会議の設立と推進に最も貢献した」人物に贈られるべきである。存命の個人および活動中の団体であれば誰でも受賞資格を有する」となっている。ノーベル平和賞委員会のヨルゲン・ワトネ・フリドネス委員長は、ノーベルのウェブサイトの紹介文で「実際には、誰でもノーベル平和賞の受賞者になることができます。この賞の歴史を振り返ると、世界中のあらゆる階層の人々に授与されてきたことは明らかです」と述べている。ノーベル賞は毎年10月に発表されるが、候補者の推薦は前年の1月に締め切られるため、ネタニヤフ首相によるトランプ氏の推薦は今年は考慮されない可能性がある。何千人もの人が候補者として推薦できる。政府や国会議員、現職の国家元首、歴史学、社会科学、法学、哲学の大学教授、ノーベル平和賞受賞者など、多岐にわたるが、自身を推薦することはできない。候補者リストは50年間秘密にされるが、指名した人がその選択を公表することを阻止するものは何もない。昨年は286人の候補者がおり、2025年には244人の個人と94の組織、合計338人の候補者が賞にノミネートされている。委員会は候補者を絞り込んで最終候補者リストを作成し、各候補者は常任顧問とその他の専門家のグループによって評価される。下記リンク先は1901~2024年の全受賞者のリストです。

Nobel Prize All Nobel Peace Prizes laureates between 1901 and 2024 | Nobel Prize Foundation 2025

2025年7月10日

トランプ大統領の「アメリカ合衆国を再び偉大な国にする」は何故間違いなのか?

MAGA Caps
Donald Trump's MAGA Caps

ドナルド・トランプ大統領は議会から望んでいたものを手に入れたが、今後数年間でそれを強く拒否される可能性がある。これはトランプが和解パッケージに含まれる破滅的な政策、つまり社会保障制度を骨抜きにし、特に富裕層への減税をするという政策について特に嘆いているからではない。財政赤字の膨張についても嘆くことはない。彼はそのことについて深く考えていないのだ。むしろ、所謂「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」はトランプの政策を議会で推し進める共和党にとって、とてつもない重荷となることは間違いない。またトランプが違憲の3期目を目指しているにもかかわらず、 2028年の共和党大統領候補として有力視されている J・D・ヴァンスにとって、特に大きな痛手となる可能性もある。結局のところ、トランプと共和党議員たちは、2024年の大統領選でトランプに圧倒的勝利をもたらした、ポピュリスト的で MAGA に根ざした再編と一致するような、重要な政策コミットメントを全く追求しなかったからだ。彼らは、世界中の極右ポピュリストのように、社会保守主義と移民取り締まりを福祉国家の維持という主張と結びつけることはしなかった。アメリカ国外では、極右は医療制度の骨抜きは行わない。少なくともトランプは、昨年はそれを公約に掲げなかったほど賢明だった。しかし医療制度に関しアメリカ米国民を騙すことはできない。2017年にオバマケア撤廃の試みが失敗に終わったことが翌年の中間選挙で民主党が躍進する原動力となった。そして、これから実施されるこれらの削減は、大きな目に見える損害をもたらすだろう。医療制度から1兆1,000億ドルが削減され、そのうちメディケイドからは1兆ドル近くが削減される。確かに典型的な共和党政治家は労働者階級や貧困層(この資本主義経済における社会主義の前哨地)の医療保険にはほとんど関心がないが、彼らはすぐに、自分たちの有権者をこれらの削減から守ることが簡単ではないことを理解するだろう。彼らはメディケイド削減が単にブルーアメリカ、つまり概して自分たちの候補者を支持しない都市部の貧困層で溢れた大都市を苦しめるだけの世界を夢想するかもしれない。しかしメディケイドはアメリカの地方部、特に資金不足の病院システムを支えているのだ。ノースカロライナ州選出の共和党上院議員トム・ティリスが和解法案から手を引いたが、それは、これから起こるであろう苦しみを彼が予見していたからである。この法案が皮肉なのは、労働者階級と貧困層が MAGA 連合に加わったことで、彼らが削減の矢面に立たされることがなかったことだ。これはエリートに偏愛する保守派共和党が出した法案だ。

'Big Beautiful Bill
Donald Trump's 'Big Beautiful Bill’ ©2025 Ben Jennings / The Guardian

この党がこの戦いに勝利した。これはトランプへの忠誠心が政策よりも人物に大きく及ぶことを思い出させるものだ。トランプは勝利のための勝利を望んでいる。署名して自慢できる限り、壮大な法案の内容はあまり気にしない。彼は得意げになれる。何かを成し遂げたと感じることができるのだ。これは結局のところ、どの共和党政権でも吐き出せるような国内政策法案であり、その意味では、経済と外交政策の問題で党を左傾化させたものの、概ね2016年の予備選で打ち負かした候補者たちと同じような統治を行ったトランプ政権の最初の任期とそれほど変わらない。ここに大きな驚きはない。何世代にもわたる共和党議員たちが声高に訴えてきた減税に過ぎない。一方「国境警備」への支出増は革命ではない。昨年、トランプが黒人、ラテン系、アジア系有権者の支持を大きく伸ばし、その後ほとんど何も成し遂げていない再編を予感させた出来事から、首尾一貫した発展はほとんどない。和解パッケージは、何よりも、実質的に何も成果を上げずに国家債務を何兆ドルも増やしたことで記憶されるかもしれない。アメリカ国民に何かをもたらすために、アメリカ国民は全体として、ワシントンで起きた出来事によってさらに不利な状況に陥るだろう。そして窮地に立たされ、無力な民主党員たちは、下院多数派への道筋を示すことになるだろう。上院は依然としてはるかに厳しい戦いとなるが、民主党が現在抱えているメッセージングの問題は、来年までにかなりの程度まで解決されるだろう。彼らは医療保険制度をめぐる選挙活動のやり方を熟知している。長年それを実践し、通常は成功を収めてきた。メディケアとメディケイドを強く擁護すれば、常に支持率は上がる。連邦政府への DOGE 削減を激しく非難することもできる。実際にはごく少数の有権者しか望んでいなかったからだ。共和党は少なくともあと1年間は議会を完全に掌握するだろう。それは、大きな混乱を引き起こし、ごく少数の人々に利益をもたらすだろう。またしても和解パッケージを意味するかもしれない。左派にとって唯一の慰めは MAGA がこの国で永続的かつ長期的な多数派を占めることはないことだ。ここからは下り坂しかない。下記リンク先は AP通信のメグ・キナードおよびトーマス・ボーモント記者の「トランプ大統領がイランに対する次の行動を検討し一部のトップスターが彼を非難する中 MAGA 界に分裂が生じている」です。

AP Split forms in MAGA as Trump weighs next steps on Iran, with some stars rebuking him

2025年7月8日

かき氷とヘンリー・D・ソロー『ウォールデン;森の生活』の繋がり

氷旗
氷旗(京都市中京区寺町通四条上る)

京都は連日35℃を超える猛暑。炎天下の歩行、たまらず氷旗がかかっている飲食店に飛び込んでかき氷を食べた。ニッポンの夏はやはりかき氷なのだ。子どものころ、縁日で食べたかき氷を忘れることができない。赤や黄色いシロップ、今思えば合成着色料を使ったいささか怪しげなものだったかもしれないが、イチゴやレモンの天然シロップと信じて食べたものだ。かき氷を売ってる店では、青い波千鳥をバックに赤い文字で氷と書かれた小型の幟を掲げていることが多い。全国津々浦々で見られる光景だが「氷旗」と呼ぶそうだ。そのデザインの起源を探ってみたところに突き当たった。氷の産地表示あるいはに使われた「官許氷函館」という旗が原型らしいのだが、画像を見つけることができなかった。その代わりに函館市の市史デジタル版には函館氷の広告が載っているが、現在の氷旗は書体とデザインが少し違う。函館氷は当時のブランド名「函館五稜郭龍紋氷」のことで、大正三年(1914)六月開放紀念五稜郭とスタンプされた採氷風景の絵ハガキが残っている。

「函館五稜郭龍紋氷採取の景」(北島エハガキ店発行)

五稜郭は江戸時代末期に函館に作られ、その内部が明治四年(1871)以降建壊された城郭のことである。ここの天然氷を切り出して「函館氷」として京浜市場に送りはじめたのが愛知出身の中川嘉兵衛だった。ところが開港後、アメリカのボストンから天然氷が輸入されるようになった。上記函館市史によると「当初氷は横浜に居留する外国人の飲料品や食肉保存用として利用され、また後には来日した外国人医師が治療用に利用する場合もあった」という。さらに「ボストンから横浜までの長時間の航海輸送のために目減りが激しく氷の価格は非常に高価であった。それを横浜の居留地で氷販売に当たっていた外国居留商人が市場を独占して多額の利益を得ていたという。こうした状況下にあって、国内での採氷業に注目したのが中川嘉兵衛であった」というのだ。ボストン氷が多大な利益を得てることを知り、日本各地で採氷して横浜へ運送したが、いずれも品質の面ボストンとは比べ物にならず失敗に帰した。紆余曲折を経て亀田川を水源とする好水質を持つ函館五稜郭に出会い、ボストン氷を上回る品質の氷を世に出すことができたという。出荷された商品には、龍が舞う図柄がデザインされていたといわれ、今に伝わる氷字の下に水流模様の原型になったとみられている。

Walden; or, Life in the Wood
ヘンリー・D・ソロー『ウォールデン;森の生活』(初版1854年)

舞台をそのボストンに移すことにしよう。今日の環境保全運動の礎を築いた書ヘンリー・D・ソローの『ウォールデン;森の生活』は安政元年(1854)に刊行された。アメリカのペリーが浦賀に再び来航、横浜村で日米和親条約が調印され、日本が開国した年である。マサチューセッツ州コンコード近くのウォールデン湖畔に自ら建てた小屋に、2年余り暮らした経験を元に書かれたものである。この書の中に次のような記述がある。曰く「ヤンキーの監督者たちに連れられた百人のアイルランド人たちが、ケンブリッジから毎日氷を切り出しにやって来たのだった」云々。つまりソローは凍結した湖面の氷の切り出し作業を目撃した。天然氷を冬場に採取し保冷しておき、夏場に南方の都市部で販売するという事業だったが、これを仕切る豪農の名をソローは知る。フレデリック・テューダー(1783-1864)だった。

大阪の氷室会社の函館五稜郭氷ちらし(早稲田大学図書館蔵

テューダーの名からターシャ・テューダーを連想する人は少なからずいると思う。日本でも人気が高い、絵本作家、園芸家である。なんとフレデリックはターシャの曽祖父にあたる人物であり、彼こそ明治初期に日本に天然氷を輸出したボストンの事業家だったのである。ターシャが俗界から逃れたのは、ソローの強い影響によるものと想像できる。中川嘉兵衛が函館で切り出した氷は、当然のことながら飲用にも使われたが、その典型がかき氷だった。文献歴史学は面白い。そして昨今は図書館に行かずとも、ウェブ上で様々歴史資料に出会える。かき氷のルーツである函館氷が、ソローやターシャ・テューダーと一本の糸に繋がってることは興味深い。下記リンク先はボストン大学の特別編集委員のエイミー・ラスコウスキー解説による、今はといえば地球温暖化により復興し得ない産業「ニューイングランドの氷貿易の歴史を辿る」です。

university  Tracing the History of New England's Ice Trade | By Amy Laskowsk of Boston University