2026年3月13日

江戸時代に百科事典があった:東洋の博物学「本草学」とは

本草通串証図
前田利保編「本草通串証図」嘉永6年(1853年)

ヨーロッパ式の自然科学が本格的に日本に導入されたのは明治維新以降のことだった。それから100年も経たないうちに、医学の北里柴三郎、物理学の湯川秀樹など、世界レベルの研究者が次々に現れた。そんな科学発展の背景には、明治以前に普及していた東洋の博物学とでも言える学問「本草学」の存在があるのかもしれない。本草学は中国から伝来し、さらに日本で独自に発展した。古代ギリシア・ローマを起源とするヨーロッパの博物学が自然界に存在するものを収集・分類し、世界のありようを探求することを主目的としたのに対し、本草学は人の役に立つ情報、特に医学に役立つ情報を集めることを主な目的にしていた。下掲の古書は江戸時代中期に出版された百科事典『和漢(倭漢)三才図会』の1ページである。105巻81冊にもわたるボリュームで、天文・宇宙から人体、動植物、地理、人間社会に関する事柄まで、ありとあらゆるトピックが訓点付きの漢文とイラストを用いて解説されている。西洋から伝来した洋菓子のページの左側にはカルメラ、右側にはカステラが描かれているのが確認できる(江戸時代まで、フォーマルな文書は漢文で書くのが一般的だった)。西暦1609年、中国の明代に発行された『三才圖會』をベースに、大坂の医師、寺島良安(1654-?)が30年余りをかけて編纂、江戸時代中期の正徳2年(1712年)に成立した。

倭漢󠄁三才圖會
寺島良安『和漢(倭漢)󠄁三才図絵』江戸時代中期(1712年)

東洋医学で用いられる薬の多くは植物などの自然に存在するものを原料としている。しかし一方で、生き物の名前は地方や資料によってバラツキがある。例えば春の七草のひとつとして知られ、薬草としても利用されるナズナには、ペンペングサ・シャミセングサ・ビンボウグサといった異名があります。もしも名前のバラツキが原因で薬の原料を間違えると患者の命に関わる。なぜなら、植物の多くは大なり小なり毒を持っているからです(毒を薬効成分として使っているとも言えます)。そこで必要とされたのが、薬草の名前と特徴を整理したリファレンスをつくることでした。このことが「本草学」という名称の由来にもなっているのである。やがて本草学の守備範囲は医学の外側にまで広がってゆき、東洋の博物学と呼ばれるまでに発展した。ところで英語の Natural history が「自然史」ではなく「博物学」と訳されたのは幕末から明治初期だった。「博物」という熟語自体は、約2,000年前の中国の文献にすでに登場している。最古の例の一つとして、前漢時代(紀元前1世紀ごろ)の歴史書『漢書』(昭帝紀)に見られる。当時は「物事に精通していること」「博学であること」を指していた。「辨博(べんはく)にして物に達する」といった文脈で、珍しい動植物や鉱物、歴史的な遺物など、世の中のあらゆる事象に詳しい知識人の素養を指す言葉だった。その後、3世紀ごろ(西晋時代)に張華という人物が『博物志』という本を著した。これは各地の珍しい動植物や神話、地理などを記した「百科事典」のような本で、これによって「博物=世界の諸々を記述する学問(博物学)」というイメージがより具体的になったのである。Museum の訳語「博物館」が定着したのは幕末から明治にかけてであった。

archive  本草学研究と植物図譜(本草綱目・本草通串証図・花彙)東京都千代田区独立行政法人国立公文書館

2026年3月12日

イタリアのジョルジア・メローニ首相がイランの女子校を壊滅させた空爆を虐殺と断じた

爆撃で亡くなった生徒の写真を掲げる葬儀の参列者(2026年3月3日イラン南部ミナブ)
ジョルジア・メローニ

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は「イラン南部ミナブのシャジャレ・タイバ女子小学校で起きた生徒の虐殺を断固として非難する」と上院で述べ「非常に幼い犠牲者」の家族との連帯を表明した。イランのメディアによると、この攻撃で少なくとも165人が死亡したと報じられている。この攻撃は、現在進行中の西アジア戦争の初日に発生した。イランは、この攻撃を実行したのは米国とイスラエルであると非難している。ドナルド・トランプ米大統領は、ワシントンが引き続き捜査中であると述べた上で、テヘランを非難した。イスラエルは関与を否定している。極右政党「イタリアの同胞」の党首であり NATO と EU 加盟国の首脳でもあるメローニは、イタリアがこの紛争に介入する意図はないと断言した。「イタリアは戦争状態になく、戦争に介入するつもりもありません」と彼女は上院議員たちに語った。しかし首相は紛争の背後にあるより広範な根拠に異議を唱えることはしなかった。トランプ大統領は、イランの核兵器取得を阻止する「最後の、そして最良の機会」として今回の戦争を開始したと述べているが、メローニはこの主張を全面的に否定したわけではない。イタリアは核交渉に直接関与しておらず、したがって「イランが最終合意に達する意欲がないとの米国の評価を決定的に裏付けたり反駁したりすることはできない」と認めつつも、行動を起こさないことのリスクについて警告した。「アヤトラ政権が核兵器を保有し、しかも、間もなくイタリアとヨーロッパを直接攻撃できるミサイル能力を持つようになることを、私たちは許容できない」と彼女は語った。彼女はさらに「戦争は悲劇的だったが、これらの結果は、私たちが見て見ぬふりをした場合に被るであろうリスクとは比べものにならないことを私たちは知っている」と付け加えた。メローニ首相はこの紛争をめぐって他の欧州諸国の首脳らと緊密に連携してきたものの、イランが地域全体で報復攻撃を続ける限り外交関係の回復は「不可能」だと述べた。

瓦礫の中を捜索する救助隊員と住民
女子小学校へのイスラエルとアメリカの爆撃後による瓦礫の中を捜索する救助隊員と住民

彼女が議会で発言したのは、野党から彼女の右派政権が同盟国に対して甘すぎると繰り返し非難された後のことだ。スペインを除く他のほとんどの欧州諸国は、米国とイスラエルによる攻撃を直接批判することを控え、主に自制を求めている。ドナルド・トランプ米大統領と緊密な関係にあるメローニはまた、イランが核兵器を開発することを許してはならないと述べ、そうなれば国際的な核不拡散の枠組みが「世界の安全保障に劇的な影響」を及ぼして終焉し、イタリアと欧州がテヘランからの潜在的な核の脅威にさらされることになると語った。下記リンク先はロイター通信が配信した「イタリアのジョルジア・メローニ首相は米国とイスラエルによるイランへの戦争についてこれまでで最も強い批判を表明した」である。彼女はトランプ大統領と親密な関係にあるが、日米首脳会談で「極右仲間」の高市早苗首相はアメリカの対イラン軍事作戦を批判できるだろうか、無理だろうな。

Reuters  Italy's PM Giorgia Meloni delivered strongest criticism yet of the U.S.-Israeli war on Iran

2026年3月11日

ソーシャルメディアの弊害(28)イランへの軍事攻撃を巡る偽情報

Fake News
拡散中のフェイク画像にストップ・マークを貼り付けた

米国とイスラエルによるイランへの攻撃を巡りソーシャルメディア上で偽情報や真偽不明の情報が拡散している。画像はアメリカの友人が Facebook でシェアしたもので「日本はイスラエルによるイランに対する軍事行動は国際法違反に当たると正式に宣言した」とある。さらに以下のような解説が添付されている。

日本はイスラエルによるイランに対する軍事行動は国際法違反に当たると正式に宣言した。この東京の非難は、デンマーク、フランス、イタリアなど、現在行われている攻撃の合法性に公然と疑問を呈したり、紛争において中立を表明したりしている国々のリストに新たに加わるものである。日本の発表は、米国財務省がロシアへの石油制裁を緩和し、インドの製油所による数百万バレルの原油購入を許可することでエネルギー市場の安定化を図ろうと必死になっている中で行われた。この経済的な転換は、米国の石油タンカー沈没事件と、ホルムズ海峡通過における軍の護衛を拒否する商船の行動に続くものである。戦争は地理的にも外交的にも拡大し続けています。サウジアラビアは、イランに罪をなすりつける陰謀を企てたとして、インド国籍を含むモサド工作員とされる2人を逮捕したと報じられている。トルコは、最近の地域不安定化を受けてパキスタンの主権を全面的に支持することを約束した。イラン政府は自国の軍隊が計算された管理のもとで活動しており、長期戦の準備ができていると主張しているが、中国は仲裁のため特使を派遣する準備を進めている。トランプ大統領はイランの防空体制は「消滅した」と主張しているものの、クウェートの米軍基地はミサイル攻撃を受けており「トゥルー・プロミス4」作戦の第20波が最近開始された。戦闘の規模の大きさは、わずか3日間で800発のパトリオットミサイルが消費されたことからも明らかであり資源の浪費として国際的な懸念を引き起こしている。
An oil refinery in Tehran in flame
テヘランの石油精製所が夜間の爆撃で炎上した

それにしてもこれがホントならビッグニュース、日本はおろか、世界のメディアは何故報じないのかと疑問を抱いた。日本共産党のしんぶん赤旗がイラン攻撃は国連憲章違反は明白と報じていたのは当然に思えたし、時事通信も「米国とイスラエルによるイラン攻撃を巡り、国際法上の正当性を疑問視する声が相次いで上がっている」と書いた。東京新聞は、イラン攻撃は「国際法違反」フランスやイギリスも苦言、与党・共和党内からも議会手続きが問題視されている、と畳み混んでいる。そうか、ついに高市早苗政権も認めたかと一瞬、喝采を送りたくなったのは私だけではなかっただろう。しかし衆院予算委員会で戦争を止めるために日本はどうするのか―。日本共産党の田村智子委員長は高市早苗首相に、先制攻撃は明白な国連憲章違反だと指摘し、両国に攻撃の即時中止を求めるよう強く迫ったが、首相は答弁をしぶる。代わりに答弁に立った茂木敏充外相は「米国とイスラエルは国連憲章にのっとり軍事行動をしている」と、米国・イスラエルの代弁者のような答弁に終始したのである。読み返してみると、事実と異なる記述が目につく。蛇足ながら画像には岩屋毅の写真が使われている。彼は外務大臣、防衛大臣の履歴があるが、高市政権の閣僚ではない。これだけでも誤情報であることは明らかであるのだが、騙されて拡散をする人も多いのではと懸念する。下記リンク先は中東カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの記事「米国とイスラエルによるイランへの攻撃は国際法上合法か?」です。

aljazeera  US-Israel war on Iran | Are US-Israeli attacks against Iran legal under international law?

2026年3月10日

米国の攻撃がイランの小学校への致命的な空爆の原因であった

イラン南部のシャジャレ・タイイバ小学校への空爆で犠牲となった人々のために墓穴を掘る遺族たち

ニュース専門チャンネル CNN と専門家による証拠分析によるとイラン南部の女子小学校への攻撃で多数の児童が死亡した事件は、米国史上最悪の民間人犠牲者事件であり、またイスラエルとイランのほぼ1週間に及ぶ戦争でも最悪の事件であり、米軍の関与が疑われる。衛星画像、位置情報付きビデオ、米国当局者の公式声明、兵器専門家の評価から、イラン南部ミナブのシャジャレ・タイバ女子小学校は2月28日、米国軍が近隣のイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍基地に対して行った攻撃とほぼ同時刻に攻撃を受けたことが示唆されている。イラン国営メディアによると、少なくとも168人の子供と14人の教師が死亡した攻撃について、ホワイトハウスは、米軍が実行した可能性を否定していないという。イスラエル国防軍(IDF)の報道官は金曜日の記者会見で「この地域での IDF の活動は承知していない」と述べた。両国は民間人を標的にしていないことを強調した。いかなる紛争においても、特定の攻撃の責任がどの軍隊にあるかを評価する際 CNN は通常、攻撃に使用された兵器の残骸の画像を入手し、その出所を評価できるように軍需専門家に提供する。イランではインターネットが遮断されているため、地上からの画像や映像は限られている。CNNは今回の事件に関してそのような証拠を検証することができていないため、いかなる評価も決定的なものとは言えない。しかし、他の証拠は、イランの平日と学校の初日である土曜日の朝に発生したこの攻撃が米国の責任であることを示唆している。CNNが位置情報を確認した動画は、学校への攻撃が海軍基地とほぼ同時刻に行われたことを示し、そのうちの1つには革命防衛隊(IRGC)の施設と学校の建物の両方から煙が噴き出している様子が映っている。2013年の衛星画像では、学校とIRGC基地がかつて同じ敷地内にあったことが示されていた。しかし、2016年の画像では、学校と基地の他の部分を隔てるフェンスが設置され、学校への別の入口も建設されていたことが明らかになった。2025年12月の画像には、学校の中庭で数十人が球技用のコートと思われる場所で遊んでいる様子が写っていた。

School and adjacent Iranian military base
小学校と隣接するイラン軍基地が複数の攻撃を受けた

軍需品専門家で、イラン兵器研究サービス(ARES)のディレクターである N・R・ジェンゼン・ジョーンズは、衛星画像と動画は IRGC の施設と学校の両方を「同時またはほぼ同時に襲った複数の攻撃の様子をとらえている」と CNN に語った。当初、学校での爆発は、IRGC が空爆を撃退しようとした際にイランの防空システムの 誤射が原因だった可能性があるとの憶測がネット上で飛び交った。しかしジェンゼン・ジョーンズは、海軍基地の最近の画像では建物が大きな被害を受けており「不発になった防空ミサイル」ではなく、空中から投下される精密誘導兵器による攻撃を受けたことを示唆しているため、その説明はありそうにないと述べた。「これらの建物を無力化することを意図したと思われる標的攻撃が行われている。これが最も可能性の高い結果だ」と彼は付け加えた。ジェンゼン・ジョーンズはまた、ミナブのような軍事基地は紛争勃発当初に攻撃される「事前に計画された標的」の一つとなることが多いと述べた。米当局は、米国がイラン南部の軍事目標を攻撃したことを確認した。水曜日の記者会見で、統合参謀本部議長のダン・ケイン将軍は、開戦後100時間にわたる米国とイスラエルによるイランへの攻撃の軌跡を示した地図を提示した。ケイン将軍は、イスラエルは主にイラン北部を攻撃し、米国は南部を攻撃したと述べた。ケインは、米国はイランの「南軸」に沿って「海から、海岸の南東側に沿って圧力をかけ続け、必要とされる目標に対処するのに十分な規模とスケールで、海峡沿いからアラビア湾に至るまで海軍力を消耗させてきた」と述べた。ジェンゼン・ジョーンズは、学校攻撃の最も可能性の高い説明は、米国が海軍基地への攻撃中に、学校がもはや IRGC の施設の一部ではないことを認識していなかったか、攻撃目標の担当者に最新情報を伝えていなかったために、誤って施設を攻撃したということだと述べた。「おそらく標的設定の失敗でしょう」「標的サイクルのどこかで情報収集に失敗したために標的設定が更新されなかったか、サイクルの後半で誤った判断が下され、誤った標的が攻撃されたのでしょう」と彼は語った。下記リンク先は本稿の原文である CNN の記事です。

CNN News  Analysis suggests US was responsible for deadly strike on Iranian elementary school