2026年2月21日

米最高裁はドナルド・トランプ大統領に「屈辱的な」贈り物を与えた

Trump tariffs
Trump vs Supreme Court ©2026 Saul Loeb / AFP

米最高裁判所は、ドナルド・トランプ大統領が昨年、世界各国に広範囲にわたる関税を課したのは権限を逸脱したとの判決を下した。裁判所は6対3の判決で、トランプ大統領が1977年の法律である IEEPA(国際緊急経済権限法)を利用して世界のほぼすべての国からの輸入品に税金を課すことはできないとの判決を下した。この判決により、関税によって生じた推定 1,300億ドルの損失が消費者と企業に返金される可能性が残された。最高裁はこの可能性については判断しなかったが、最終的に別の法廷闘争となる可能性が高い。判決が発表されてから数時間後、トランプ大統領は1974年の通商法第122条という代替法を用いて、すべての国からの商品に新たな10%の暫定関税を課すことを可能にする宣言に署名した。2月20日に発表された最高裁判決は、緊急事態に対応して貿易を規制する権限を大統領に与える IEEPA に基づいてトランプ大統領が施行した関税にのみ関係する。トランプ大統領は2025年2月、中国、メキシコ、カナダからのフェンタニル密売が緊急事態であるとして、これらの国からの製品に課税するために初めてこの法律を発動した。数ヶ月後、トランプ大統領が「解放記念日」と呼んだ日に、彼はさらに大きな措置を講じ、世界のほぼすべての国からの製品に 10% から 50% の関税を課した。この場合、米国の貿易赤字(輸入が輸出を上回る状態)は「並外れた、異例の脅威」をもたらしたとトランプ大統領は述べた。裁判所は、新たな税金を創設する権限は大統領ではなく米国議会にあるとし IEEPA に基づく規制は歳入増加には関係しないと述べた。それでもトランプ大統領が過去1年間に課した関税の多くは IEEPA に基づいて宣言した緊急事態の一部ではなく、最高裁の判決にかかわらず存続する可能性がある。

Donald Trump's worldwide tariffs
Different "Liberty" being brought by Trump's worldwide tariffs ©Mark Knight

これには鉄鋼、アルミニウム、木材、自動車に対する業界固有の関税が含まれており、トランプ大統領は国家安全保障上の懸念を理由に、1962年の通商拡大法第232条という別の米国法に基づいてこれを導入した。ボストンのアトランティック誌のデイヴィッド・フラム記者は4月に開始されたトランプ大統領の関税措置は、10年間で最大2兆3,000億ドルの増収につながると予測していると記した。ジョージ・W・ブッシュ大統領の元スピーチライターであるフラムは、本当の政治的影響はここから始まると語る。「2026年の皮肉な政治的問題は、米国最高裁判所がトランプ大統領を自らの手から救うために間に合うように行動したかどうかだ」とフラムは語った。「最高裁がトランプ大統領を助けようとして行動したかどうかはさておき、概してトランプ大統領に好意的な最高裁判所は、大統領に最も不人気な国内政策の一つからの出口を与えたのだ」と。アトランティック誌の記者によると、問題はトランプがそれを受け入れるかどうかだ。「大統領は援助を受け入れるだろうか? 受け入れるのは賢明だが、屈辱的だろう」とフラムは付け加えた。大統領は関税を「憲法第1条の制約から解放された歳入源」として宣伝していた。しかし最高裁がこの理論を却下したことで、フラムが「憲法革命」に等しいと警告していたものが頓挫した。下記リンク先はロサンジェルスタイムズ紙の「トランプは最高裁判決の挫折を受けて判事を愚か者と呼び新たな10%の世界関税を発表」です。蛇足ながら6年2月20日、米連邦最高裁がトランプ政権の相互関税を違憲と判断したため、日系企業を含む関連関税の還付(返還)請求の可能性が浮上している。最大2.9兆円規模の負担軽減が期待される一方、トランプ氏は「今後5年は法廷で争う」として当面の還付を拒否する姿勢を見せており、実質的な返還は長期間の法廷闘争になる見込みである。

LA_Times  Trump calls justices ‘fools, announces new 10% global tariff after Supreme Court setback

2026年2月19日

平和憲法第9条維持こそが最大の抑止力であり改竄は軍拡競争を招く

憲法9条
平和憲法第9条の改竄を阻止しよう

朝日新聞2月19日付けデジタル版によると、自民党の高市早苗総裁は18日召集の特別国会で第105代首相に選出され、日本維新の会との連立政権である第2次高市内閣を発足させた。衆院選圧勝を経て自民単独で3分の2の議席を持つ「高市1強」と呼べる情勢のもと、首相は同日夜の会見で、憲法改正について「少しでも早く改正案を発議して国民投票につながっていく環境を作れるよう、自民党として粘り強く取り組みたい」と意欲を示したという。憲法改定発議は、日本国憲法第96条に基づき、衆参両院の各総議員の3分の2以上の賛成を経て、国会が憲法改正案を国民投票へ提案する手続きである。発議には、衆院100人以上、参院50人以上の賛成により原案が提出される。発議後、60〜180日以内に国民投票が実施される。断固阻止したいが、雲行きは悲観的である。拙ブログ「平和憲法改竄を目論む高市早苗首相の危険」で述べた通り、記者会見で高市早苗首相(自民党総裁)は「2月9日、記者会見で「国の理想の姿物語るのは憲法」「改正に向け挑戦」と語り、憲法改定を問う国民投票早期実施の意思表明している。憲法k改定を推進する「改憲派」の主張は、時代の変化や安全保障環境の変容を背景に、多岐にわたっている。主に「今の憲法では現実に対応しきれない」という現実主義的な視点と「自前の憲法を持つべき」という主権意識が根底にある。改憲派が最も重視する項目自衛隊の明記(第9条)である。現行の9条は「戦力不保持」を掲げているが、現実には自衛隊が存在している。この「憲法と現実の乖離」を埋めるため、自衛隊の存在を憲法に明記し、違憲論争に終止符を打つべきだとしている。

憲法""

国防の法的根拠は国際情勢が緊迫する中、国の平和を守る組織の法的根拠を最高法規に記すことで、隊員の誇りや身分を保証すべきという主張である。日本において憲法改正に反対する人々(改憲反対派・護憲派)の主張は、主に「平和主義の維持」「立憲主義の守護」「国民の権利の変質への懸念」の3点に集約される。最も大きな争点となっているのが、憲法第9条の改定である。自衛隊を明記したり、集団的自衛権の行使を認めたりすることで、日本が米国の戦争に追従し、戦場になるリスクが高まると主張されている。戦後、日本が一度も直接的な戦争に関与してこなかったのは、第9条という「歯止め」があったからこそであり、これを変えることは国際的な信頼や独自の外交力を失うことになるとの見方だ。改憲の動機が「政府がやりたいことをやりやすくするため」であるならば、それは本来の憲法の役割(権力制限)に逆行するという主張である。そして災害や有事の際に政府に権限を集中させる「緊急事態条項」の新設に対し「内閣による独裁を許す恐れがある」「人権が過度に制限される」と強く警戒しざるを得ない。自民党の憲法改正草案(2012年)などを引き合いに出し、人権の在り方の変化を危惧する声がある。草案等で見られる「個人」という表現の変更や、家族の助け合いの義務化などが「個人の尊厳」よりも「国家や共同体」を優先する思想への転換ではないかと批判されている。「公共の福祉」を「公の秩序」と言い換えることで、政府にとって都合の悪い表現活動や権利が制限されやすくなるという懸念である。下記リンク先は総務省公式サイトの解説「国民投票の仕組み」です

総務省  国民投票制度の概要 | 国民投票の仕組み| 憲法改正の発議 | 国民投票の期日 | 総務省の公式サイト

2026年2月18日

ケンタッキー州の炭鉱産業の現状と炭鉱跡を巡るツアー

Field Trip
Field Trip to River View Coal Mine in Morganfield, Union County, Kentucky

ケンタッキー州の炭鉱産業はかつての黄金時代から大きく変貌し、現在は構造的な衰退とエネルギー転換の過渡期にある。2000年代初頭には約15,000人いた炭鉱作業員は、現在では4,000人を下回る規模(約3,500〜3,800人前後)まで減少している。これは統計開始以来、最低水準に近い数字である。かつてはアパラチア山脈側の東部ケンタッキーが主力だったが、現在は採掘コストの低い西部ケンタッキーが生産の主導権を握っている。しかし州全体の生産量は、安価な天然ガスや再生可能エネルギーへのシフトにより、2020年代に入っても減少が止まっていない。一般的な発電用の石炭(一般炭)が苦戦する一方で、ケンタッキー州、特に東部地域には製鉄用(コークス用)の高品位な石炭(メタ石炭/原料炭)が残っている。世界的な鉄鋼需要、特にアジア圏への輸出が現在の炭鉱経営の「命綱」となっており、エネルギー市場とは異なる動向で一部の鉱山が維持されている。石炭産業の衰退は、単なる経済の問題だけでなく、地域社会に深い影響を及ぼしている。炭鉱閉鎖に伴う失業者に対し、ITスキルや再生可能エネルギー関連の職業訓練を行うプログラムが進められている。過去の採掘による水質汚染や、炭鉱労働者に特有の「黒肺病(じん肺)」の再流行が深刻な社会問題となっている。これに対する医療支援や環境修復(ランド・リクラメーション)に予算が投じられている。2025年から2026年にかけて連邦政府による環境規制の強化と、それに対する州政府の反発という政治的な対立も続いており、業界の先行きには不透明感が漂っている。現在のケンタッキー州において石炭は「かつての経済の主役」から「特定の輸出需要に応えるニッチな産業」へと変化しているのである。州の経済政策も、石炭への依存を減らし、製造業やテクノロジー産業を誘致する方向へと大きく舵を切っている。

ケンタッキー州は「ブルーグラス・ステート」として知られているが、その歴史を語る上で石炭産業は欠かせない要素だ。かつての炭鉱跡を巡るツアーは、当時の過酷な労働環境やコミュニティの絆を体感できる非常に重厚な体験になる。 東部のリンチにある炭鉱跡はかつて世界最大の石炭埋蔵量を誇った場所の一つである。観光用のレールカー(トロッコ)に乗って、地下深くの坑道へと入って行く。1917年の創業時から閉山までの歴史を、最新の音響・映像演出(アニメトロニクスなど)を使って再現しているのである。当時の炭鉱夫たちの生活がリアルに伝わって来る。ビッグ・サウス・フォーク国立河川公園には、かつての炭鉱町を丸ごと保存した野外博物館がある。ゴースト・ストラクチャーと呼ばれる、かつての建物の骨組みを再現した展示があり、オーディオガイドを通じて住民の生の声(録音)を聞くことができる。炭鉱ツアーに参加する際の注意点気温: 坑内は一年中一定の気温に保たれていることが多い。夏場でも薄手のジャケットや長袖を持っていくことが奨められている。炭鉱といえば前エントリー「ドナルド・トランプ政権が気候変動対策における政府の権限を剥奪」に詳述した通り大統領は気候変動が人間の健康と環境を脅かすという科学的発見を消し去ると発表した。かつて私もカンバーランドの炭鉱を訪れたことがあるが、ラストベルト(赤錆地帯)だった。J・D・ヴァンス副大統領の回顧録『ヒルビリー・エレジー』に活写されている。かつて鉄鋼業などで栄えた地 域の荒廃、自らの家族も含めた貧しい白人労働者階層の独特の文化、悲惨な日常を描 いた本書は、トランプ現象を読み解く一冊 として世界中でセンセーションを巻き起こした。その半面アパラチア山脈は伝承音楽の宝庫であり、私が憧憬してやまない地域でもある。下記リンク先はカントリー歌手ロレッタ・リンの自伝的ヒット作品『炭鉱夫の娘』です。

YouTube  Coal Miner's Daughter by Loretta Lynn born in Butcher Hollow, Kentucky, United States

2026年2月16日

セルフサービス考現学

Self-Order Panel
セルフオーダーパネル(マクドナルド金閣寺店

キャプテン・クック(1728-1779)がハワイ諸島を「発見」した200周年記念行事があったのは1978年だったが、そのころ雑誌の取材でホノルルに比較的長い間滞在した。名前は忘れたがある日、大きなステーキハウスに入った。席についたが誰も注文を取りに来ない。厨房のカウンターで注文を取るシステムだった。肉の種類と焼き方を告げると、確か番号札を渡されたように記憶している。アナウンスがあり、再びカウンターに行って料理を受け取ったが、安かったという印象が残った。ホノルルで「ウェイターを介さず、自分でステーキを焼くスタイル」を楽しめるレストランは、かつて非常に人気があったが、現在は選択肢が限られているという。セルフサービス(料理を自分で運んだり焼いたりするスタイル)の増加は人口減少や深刻な人手不足と密接に関係しているようだ。特にハワイのような観光地や、日本国内の飲食業界においてこの傾向は顕著。少子高齢化や人口減少により、サービスを支える若年労働者が物理的に減少していること。そしてウェイターが各テーブルを回る「フルサービス」は、人件費が非常に高くつくこと。アメリカでは人手不足を背景に最低賃金が上昇し続けている。料理を客が運ぶスタイルにすることで、フロアスタッフの人数を最小限に抑え、料理の価格上昇を緩やかにしたり、利益を確保したりしている。といった点が理由になっているようだ。ウェイターといえばパリのカフェやレストランの(ャルソンは世襲制だと聴いたことがある。ではなぜ世襲制という「都市伝説」が生まれたのか。パリの老舗カフェのウェイターは単なる「アルバイト」ではなくギャルソン・ド・カフェという立派な専門職として認識されている。狭いテーブルの間をすり抜ける身のこなし、注文をすべて暗記する記憶力、独特の計算方法などは、長年の経験が必要な職人技である。終身雇用的な側面: かつては一つの店で何十年も勤め上げるのが一般的でした。そのため客側も「いつ行ってもあの人がいる」という印象を持ち、それが「家系で継いでいるのではないか」という錯覚を生んだ可能性がある。

self-service

昔ながらのフランス料理業界では、親から子へというよりは師匠から弟子へ技術を伝える徒弟制度が強く根付いていた。若い見習いがベテランの背中を見て育つ文化が、外から見ると伝統的な家系制度のように見えたのかもしれない。ギャルソンはもともと「男の子」を意味する言葉。かつて年配の給仕をボウヤ(ギャルソン)と呼んでいた名残があるが、これが家族経営的なニュアンスを与えた可能性も否定できない。 ところでユニクロのセルフレジシステムは、ユーザーから見れば「爆速で終わる魔法のレジ」だが、その裏側にある「人手不足」との関係はなかなか興味深いものがある。なぜセルフレジでも「人手不足」を感じるのか。会計が自動化されてスタッフが不要に見えるが、実際には「人の手」が依然として必要である。私のような現金派で、操作が苦手な客への個別対応に追われている。しかしユニクロはこのシステムで「レジ打ちという単純作業」を極限まで減らすことができた。近所にマクドナルドが改装後、セルフオーダーパネル(セルフオーダーレジ)が導入された。裏表6台、つまり6人が注文を受付けてくれるわけだから、行列に並ばず、自分のペースでカスタマイズを選べるのが最大のメリットだろう。ただ使ってみると、階層が深いのが難点である。マクドナルドがセルフオーダーを積極的に導入している背景には単なる「人件費の削減」だけでなく、顧客体験の向上と売上アップを両立させる緻密な戦略があるようだ。人間よりも「おすすめ(提案)」が得意。注文の最後に「ご一緒にポテトはいかがですか?」や「デザートもおすすめですよ」と画像付きで提案される。 店員を前にすると焦ってしまう人も、画面越しならゆっくり検討でき、結果としてトッピングの追加やセットへのアップグレードが増える傾向にあり、実際、有人レジよりもセルフオーダーの方が平均客単価が高くなるというデータも出ているという。下記リンク先はオランダ・アムステルダムを本拠とする国際的な出版社、エルゼビアの公式サイトに掲載されている研究論文「セルフサービスキオスクの革新的なフレームワーク:顧客価値知識の統合」です。

book Innovative framework for the self-service kiosks: Integrating customer value knowledge