2026年3月5日

戦争や貧困など社会の底辺を記録して世界的な評価を得た写真家ドン・マッカラン

Cuban Missile Crisis
Protester, Cuban Missile Crisis, Whitehall, London, 1962
Don McCullin

ドン・マッカリンは1935年10月9日、ロンドンのセント・パンクラスに生まれ、フィンズベリー・パークで育った。ナチス・ドイツによるブリッツ(大空襲)の際にサマセットの農場に疎開した。彼は軽度のディスレクシア(識字障害)を患ったが、通っていた中等現代学校で絵画才能を示していた。ハマースミス美術工芸学校の奨学金を獲得し、父の死後、15歳で学校を辞め、鉄道のケータリングの仕事に就いた。1953年に王立空軍に徴兵される。兵役中、マッカリンは1956年のスエズ危機時にスエズ運河に配属され、写真家の助手として勤務する。彼は王立空軍の写真家になるための筆記理論試験に落ち、暗室で勤務した。この期間中、マッカリンはナイロビに駐屯していた際に最初のカメラである二眼レフのローライコードを30ポンドで購入した。イギリスに戻ると資金不足によりカメラを質に入れ、母親はその資金を使って誓約を償還した。1958年には、爆撃で破壊された建物でポーズをとる地元のロンドンのギャングの写真を撮影した。同僚たちに説得されて、ギャング「ガヴナーズ」として知られる彼の写真をオブザーバー紙に持って行くことになり、同紙が掲載したことで写真家としての道を歩み始めた。

Sheep going to slaughter
Sheep going to slaughter, London, 1965

1966年から1984年の間、彼はサンデー・タイムズ・マガジンの海外特派員として働き、1968年のビアフラ戦争やアフリカのエイズ流行の被害者などの生態系や人為的災害を記録した。べトナム戦争と北アイルランド紛争に関する彼の鋭い報道は特に高く評価されている。またミケランジェロ・アントニオーニの1966年の映画『ブローアップ』に使われたロンドンのメアリオンパークの写真も撮影した。1968年には、彼のニコンFカメラが彼に向けられた弾丸を止めた。同じく1968年7月28日には、ビートルズの絶頂期で『ホワイト・アルバム』の録音中だったが彼らの写真撮影に招かれた。これらのセッションはロンドンの複数の場所で行われ "The Mad Day Out"(狂気の休日) として知られるようになる。これらの写真にはレッド&ブルーのコンピレーションに収録されたゲートフォールドのジャケット写真も含まれており、ビートルズが墓地の手すり越しに観客と混ざり合っている様子が写っている。

soldiers' confessions
Priest hears soldiers' confessions, Vietnam, 1969

この日の写真は2010年に上梓された書籍 "A Day in the Life of the Beatles"(ビートルズの一日)に掲載された。1982年、イギリス政府は船が満員だと理由にフォークランド紛争を取材するための記者証をマッカリンに与えなかった。当時、彼はサッチャー政権が彼の映像が政治的にあまりにも不穏すぎると感じたからだと考えていた。彼は『パレスチナ人』(ジョナサン・ディンブルビーと共著、1980年)、『ベイルート:危機の都市』(1983年)、『ドン・マッカリン・イン・アフリカ』(2005年)など、多数の著書の著者である。彼の著書『戦争によって形作られる』(2010年)は、2010年にイングランド・ソールフォードのインペリアル・ウォー・ミュージアム・ノースでの回顧展に伴うものとして出版された。 その後バースのヴィクトリア美術館やロンドンのインペリアル・ウォー・ミュージアムでも展覧会が開催された。

Londonderry
Catholic youths escaping from CS gas, Londonderry, Northern Ireland, 1971

彼の最新の出版物は "Southern Frontiers: A Journey Across the Roman Empire"(南方の辺境:ローマ帝国を横断する旅)で、北アフリカと中東の選ばれたローマおよび先ローマ時代の遺跡を詩的かつ瞑想的に研究したものである。2012年には、彼の人生を描いたドキュメンタリー映画『マッカリン』が公開され、デイヴィッド・モリスとジャッキー・モリスが監督した。この作品は BAFTA(英国アカデミー賞)の2部門にノミネートされた。晩年には風景画や静物画、依頼された肖像画にも取り組んだ。2015年11月にはフォト・ロンドンの2016年マスター・オブ・フォトグラフィーに選ばれた。英国放送協会 のテレビチャンネル BBC Four のドキュメンタリー『パルミラへの道』は、2018年2月に撮影され5月に放送された。マッカリンは歴史家ダン・クルイックシャンクと共にシリアを訪れ、ユネスコに登録されているパルミラの紛争による破壊を目の当たりにした。

Bali
Taking Gifts to the Sea Gods, Bali,1982

ラジオ・タイムズとの訪問について、マッカリンは戦場に入る際の自身のアプローチについて「私は何度も命をかけてきましたが、あらゆる火傷や砲弾の傷で病院に運ばれました。私は前や後ろまで見る爬虫類のような目を持っています。常に生き延びようとしています。戦争や隠された地雷のことは知っている」と語った。戦争写真家としての評判にもかかわらず、マッカリンはアルフレッド・スティーグリッツが自身の作品に大きな影響を与えたと語っている。 2002年にマッカランは旅行作家のマーク・シャンドの紹介でジャーナりストのキャサリン・フェアウェザーと結婚した。サマセット在住の夫妻には5人の子供がいる。

photographer  Don McCullin (born in 1935) | Irreconcilable Truths | Biography | Purchase | Contact

写真術における偉大なる達人たち

Edward Curtis (1868-1952) An Oasis in the Badlands, South Dakota, 1905

2021年の秋以来、思いつくまま世界の写真界20~21世紀の達人たちの紹介記事を拙ブログに綴ってきましたが、2026年3月5日現在のリストです。右端の()内はそれぞれ写真家の生年・没年です。左端の年月日をクリックするとそれぞれの掲載ページが開きます。

21/10/06多くの人々に感動を与えたアフリカ系アメリカ人写真家ゴードン・パークスの足跡(1912–2006)
21/10/08グループ f/64 のメンバーだった写真家イモージン・カニンガムは化学を専攻した(1883–1976)
21/10/10圧倒的な才能を持ち現代アメリカの芸術写真を牽引したポール・ストランド(1890–1976)
21/10/11何気ない虚ろなアメリカを旅したスイス生まれの写真家ロバート・フランク(1924–2019)
21/10/13作為を排した新客観主義に触発されたストリート写真の達人ロベール・ドアノー(1912–1994)
21/10/16大恐慌時に農村や小さな町の生活窮状をドキュメントした写真家ラッセル・リー(1903–1986)
21/10/17日記に最後の晩餐という言葉を残して自死した写真家ダイアン・アーバスの黙示録(1923–1971)
21/10/19フォトジャーナリズムの手法を芸術の域に高めた写真家ユージン・スミスの視線(1918–1978)
21/10/24時代の風潮に左右されず独自の芸術観を持ち続けたプラハの詩人ヨゼフ・スデック(1896-1976)
21/10/27西欧美術を米国に紹介した写真家アルフレッド・スティーグリッツの功績(1864–1946)
21/11/01美しいパリを撮影していたウジェーヌ・アジェを「発見」したベレニス・アボット(1898–1991)
21/11/08近代ストレート写真を先導した 20 世紀の写真界の巨匠エドワード・ウェストン(1886–1958)
21/11/10芸術を通じて社会や政治に影響を与えることを目指した写真家アンセル・アダムス(1902–1984)
21/11/13大恐慌を記録したウォーカー・エヴァンスの被写体はその土地固有の様式だった(1903–1975)
21/11/16写真少年ジャック=アンリ・ラルティーグは個展を開いた 69 歳まで無名だった(1894–1986)
21/11/20ハンガリー出身の世界で最も偉大な戦争写真家ロバート・キャパの短い人生(1913–1954)
21/11/25児童労働の惨状を訴えるため現実を正確に捉えた写真家ルイス・ハインの偉業(1874–1940)
21/12/01マグナム・フォトを設立した写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの決定的瞬間(1908–2004)
21/12/06犬を人間のいくつかの性質を持っているとして愛撮したエリオット・アーウィット(1928-2023)
21/12/08リチャード・アヴェドンの洗練され権威ある感覚をもたらしたポートレート写真(1923–2004)
21/12/12デザインと産業の統合に集中したバウハウスの写真家ラースロー・モホリ=ナジ(1923–1928)
21/12/17ダダイズムとシュルレアリスムに跨る写真を制作したマン・レイは革新者だった(1890–1976)
21/12/29フォトジャーナリズムに傾倒したアラ・ギュレルの失われたイスタンブル写真素描(1928–2018)
22/01/10ペルーのスタジオをヒントに自然光に拘ったアーヴィング・ペンの鮮明な写真(1917-2009)
22/02/25非現実的なほど歪曲し抽象的な遠近感を生み出した写真家ビル・ブラントのカメラ(1904–1983)
22/03/09男性ヌードや花を白黒で撮影した異端の写真家ロバート・メイプルソープへの賛歌(1946–1989)
22/03/18ニューヨーク近代美術館で写真展「人間家族」を企画したエドワード・スタイケン(1879–1973)
22/03/24公民権運動の影響を記録したキュメンタリー写真家ブルース・デヴッドソンの慧眼(born 1933)
22/04/21社会的弱者に寄り添いエモーショナルに撮影した写真家メアリー・エレン・マーク(1940-2015)
22/05/20早逝した写真家リンダ・マッカートニーはザ・ビートルズのポールの伴侶だった(1941–1998)
22/06/01大都市に変貌する香港を活写して重要な作品群を作り上げたファン・ホーの視線(1931–2016)
22/06/12肖像写真で社会の断面を浮き彫りにしたドキュメント写真家アウグスト・ザンダー(1876–1964)
22/08/01スペイン内戦取材で26歳という若さに散った女性戦争写真家ゲルダ・タローの生涯 (1910–1937)
22/09/16カラー写真を芸術として追及したジョエル・マイヤーウィッツの手腕(born 1938)
22/09/25死と衰退を意味する作品を手がけた女性写真家サリー・マンの感性(born 1951)
22/10/17北海道の風景に恋したイギリス人写真家マイケル・ケンナのモノクロ写真(born 1951)
22/11/06アメリカ先住民を「失われる前に」記録したエドワード・カーティス(1868–1952)
22/11/16大恐慌の写真 9,000 点以上を制作したマリオン・ポスト・ウォルコット(1910–1990)
22/11/18人間の精神の深さを写真に写しとったアルゼンチン出身のペドロ・ルイス・ラオタ (1934-1986)
22/12/10アメリカの生活と社会的問題を描写した写真家ゲイリー・ウィノグランド(1928–1984)
22/12/16没後に脚光を浴びたヴィヴィアン・マイヤーのストリート写真(1926–2009)
22/12/23写真家集団マグナムに参画した初めての女性報道写真家イヴ・アーノルド(1912-2012)
23/03/25写真家フランク・ラインハートのアメリカ先住民のドラマチックで美しい肖像写真(1861-1928)
23/04/13複雑なタブローを構築するシュールレアリスム写真家サンディ・スコグランド(born 1946)
23/04/21キャラクターから自らを切り離したシンディー・シャーマンの自画像(born 1954)
23/05/01震災前のサンフランシスコを記録した写真家アーノルド・ジェンス(1869–1942)
23/05/03メキシコにおけるフォトジャーナリズムの先駆者マヌエル・ラモス(1874-1945)
23/05/05文学と芸術に没頭し超現実主義絵画に着想を得た台湾を代表する写真家張照堂(1943-2024)
23/05/07家族の緊密なポートレイトで注目を集めた写真家エメット・ゴウィン(born 1941)
23/05/22欲望やジェンダーの境界を無視したクロード・カアンのセルフポートレイト(1894–1954)
23/05/2520世紀初頭のアメリカの都市改革に大きく貢献したジェイコブ・リース(1849-1914)
23/06/05都市の社会風景という視覚的言語を発展させた写真家リー・フリードランダー(born 1934)
23/06/13写真芸術の境界を広げた暗室の錬金術師ジェリー・ユルズマンの神技(1934–2022)
23/06/15強制的に収容所に入れられた日系アメリカ人を撮影したドロシア・ラング(1895–1965)
23/06/20劇的な国際的シンボルとなった「プラハの春」を撮影したヨゼフ・コウデルカ(born 1958)
23/06/24警察無線を傍受できる唯一のニューヨークの写真家だったウィージー(1899–1968)
23/07/03フォトジャーナリズムの父アルフレッド・アイゼンシュタットの視線(1898–1995)
23/07/06ハンガリーの芸術家たちとの交流が反映されたアンドレ・ケルテスの作品(1894-1985)
23/07/08家族が所有する島で野鳥の写真を撮り始めたエリオット・ポーター(1901–1990)
23/07/08戦争と苦しみを衝撃的な力でとらえた報道写真家ドン・マッカラン(born 1935)
23/07/17夜のパリに漂うムードに魅了されていたハンガリー出身の写真家ブラッサイ(1899–1984)
23/07/2020世紀の著名人を撮影した肖像写真家の巨星ユーサフ・カーシュ(1908–2002)
23/07/22メキシコの革命運動に身を捧げた写真家ティナ・モドッティのマルチな才能(1896–1942)
23/07/24ロングアイランド出身のマルクス主義者を自称する写真家ラリー・フィンク(born 1941)
23/08/01アフリカ系アメリカ人の芸術的な肖像写真を制作したコンスエロ・カナガ(1894–1978)
23/08/04ヒトラーの地下壕の写真を世界に初めて公開したウィリアム・ヴァンディバート(1912-1990)
23/08/06タイプライターとカメラを同じように扱った写真家カール・マイダンス(1907–2004)
23/08/08ファッションモデルから戦場フォトャーナリストに転じたリー・ミラーの生涯(1907-1977)
23/08/14ニコンのレンズを世界に知らしめたデイヴィッド・ダグラス・ダンカンの功績(1907-2007)
23/08/18超現実的なインスタレーションアートを創り上げたサンディ・スコグランド(born 1946)
23/08/20シカゴの街角やアメリカ史における重要な瞬間を再現した写真家アート・シェイ(1922–2018)
23/08/22大恐慌時代の FSA プロジェクト 最初の写真家アーサー・ロススタイン(1915-1986)
23/08/25カメラの焦点を自分たちの生活に向けるべきと主張したハリー・キャラハン(1912-1999)
23/09/08イギリスにおけるフォトジャーナリズムの先駆者クルト・ハットン(1893–1960)
23/10/06ロシアにおけるデザインと構成主義創設者だったアレクサンドル・ロトチェンコ(1891–1956)
23/10/18物事の本質に近づくための絶え間ない努力を続けた写真家ウィン・バロック(1902–1975)
23/10/27先見かつ斬新な作品により写真史に大きな影響を与えたウィリアム・クライン(1926–2022)
23/11/09アパートの窓から四季の移り変わりの美しさなどを撮影したルース・オーキン(1921-1985)
23/11/15死や死体の陰翳が纏わりついた写真家ジョエル=ピーター・ウィトキンの作品(born 1939)
23/12/01近代化により消滅する前のパリの建築物や街並みを記録したウジェーヌ・アジェ(1857-1927)
23/12/15同時代で最も有名で最も知られていないストリート写真家のヘレン・レヴィット(1913–2009)
23/12/20哲学者であることも写真家であることも認めなかったジャン・ボードリヤール(1929-2007)
24/01/08音楽や映画など多岐にわたる分野で能力を発揮した写真家ジャック・デラーノ(1914–1997)
24/02/25シチリア出身のイタリア人マグナム写真家フェルディナンド・スキアンナの視座(born 1943)
24/03/21パリで花開いたロシア人ファッション写真家ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(1900–1968)
24/04/04報道写真家として自活することに成功した最初の女性の一人エスター・バブリー(1921-1998)
24/04/20長時間露光により時間の多層性を浮かび上がらせたアレクセイ・ティタレンコ(born 1962)
24/04/2820世紀後半のイタリアで最も重要な写真家ジャンニ・ベレンゴ・ガルディン(born 1930)
24/04/30トルコの古い伝統の記憶を守り続ける女性写真家 F・ディレク・ウヤル(born 1976)
24/05/01ファッション写真に大きな影響を与えたデヴィッド・ザイドナーの短い生涯(1957-1999)
24/05/08社会の鼓動を捉えたいという思いで写真家になったリチャード・サンドラー(born 1946)
24/05/10直接的で妥協がないストリート写真の巨匠レオン・レヴィンシュタイン(1910–1988)
24/05/12自らの作品を視覚的な物語と定義している写真家スティーヴ・マッカリー(born 1950)
24/05/14多様な芸術の影響を受け写真家の視点を形作ったアンドレアス・ファイニンガー(1906-1999)
24/05/16芸術的表現により繊細な目を持つ女性写真家となったマルティーヌ・フランク(1938-2012)
24/05/18ドキュメンタリー写真をモノクロからカラーに舵を切ったマーティン・パー(born 1952)
24/05/21先駆的なグラフ誌『ピクチャー・ポスト』を主導した写真家バート・ハーディ(1913-1995)
24/05/24グラフ誌『ライフ』に30年間投稿し続けたロシア生まれの写真家リナ・リーン(1914-1995)
24/05/27旅する写真家として20世紀後半の歴史に残る象徴的な作品を制作したルネ・ブリ(1933-2014)
24/05/29高速ストロボスコープ写真を開発したハロルド・ユージン・エジャートン(1903-1990)
24/06/03一般市民とそのささやかな瞬間を撮影したオランダの写真家ヘンク・ヨンケル(1912-2002)
24/06/10ラージフォーマット写真のデジタル処理で成功したアンドレアス・グルスキー(born 1955)
24/06/26レンズを通して親密な講釈と被写体の声を伝えてきた韓国出身のユンギ・キム(born 1962)
24/07/05演出されたものではなく現実的なファッション写真を開発したトニ・フリッセル(1907-1988)
24/07/07スウィンギング60年代のイメージ形成に貢献した写真家デイヴィッド・ベイリー(born 1938)
24/07/13著名人からから小さな町の人々まで撮影してきた写真家マイケル・オブライエン(born 1950)
24/07/14人々のドラマが宿る都市のカラー写真を制作したコンスタンティン・マノス(born 1934)
24/08/04写真家集団「マグナム・フォト」所属するただ一人の日本人メンバー久保田博二(born 1939)
24/08/08ロバート・F・ケネディの死を悼む人々を葬儀列車から捉えたポール・フスコ(1930–2020)
24/08/13クリスティーナ・ガルシア・ロデロが話したいのは時間も終わりもない出来事だ(born 1949)
24/08/30ドキュメンタリーと芸術の境界を歩んだカラー写真の先駆者エルンスト・ハース(1921–1986)
24/09/01国際的写真家集団マグナム・フォトの女性写真家スーザン・メイゼラスの視線(born 1948)
24/09/09アパルトヘイトの悪と日常的な社会への影響を記録したアーネスト・コール(1940–1990)
24/09/14宗教的または民俗的な儀式に写真撮影の情熱を注ぎ込んだラモン・マサッツ(1931-2024)
24/09/23アメリカで最も有名な無名の写真家と呼ばれたエヴリン・ホーファー(1922–2009)
24/09/25自身を「大義を求める反逆者」と表現した写真家マージョリー・コリンズ(1912-1985)
24/09/27北海道の小さな町にあった営業写真館を継がず写真芸術の道を歩んだ深瀬昌久(1934-2012)
24/10/01現代アメリカの風変わりで平凡なイメージに焦点を当てた写真家アレック・ソス(born 1969)
24/10/04微妙なテクスチャーの言語を備えた異次元の写真を追及したアーサー・トレス(born 1940)
24/10/06オーストリア系イギリス人のエディス・チューダー=ハートはソ連のスパイだった(1908-1973)
24/10/08映画の撮影監督でもあったドキュメンタリー写真家ヴォルフガング・スシツキー(1912–2016)
24/10/15芸術のレズビアン・サブカルチャーに深く関わった写真家ルース・ベルンハルト(1905–2006)
24/10/19ランド・アートを通じて作品を地球と共同制作するアンディ・ゴールドワージー (born 1956)
24/10/29公民権運動の活動に感銘し刑務所制度の悲惨を描写した写真家ダニー・ライアン (born 1942)
24/11/01人間の状態と現在の出来事を記録するストリート写真家ピータ―・ターンリー (born 1955)
24/11/04写真を通じて現代の社会的状況を改善することに専念したアーロン・シスキンド(1903-1991)
24/11/07自然と植物の成長にインスピレーションを受けた写真家カール・ブロスフェルト(1865-1932)
24/11/09ストリート写真で知られているリゼット・モデルは教える才能を持っていた(1901-1983)
24/11/11カラー写真が芸術として認知されるようになった功労者ウィリアム・エグルストン(born 1939)
24/11/13革命後のメキシコ復興の重要人物だった写真家ローラ・アルバレス・ブラボー(1903-1993)
24/11/15チリの歴史上最も重要な写真家であると考えられているセルヒオ・ララインの視座(1931-2012)
24/11/19イギリスのアンリ・カルティエ=ブレッソンと評されたジェーン・ボウン(1925-2014)
24/11/25カラー写真の先駆者ソール・ライターは戦後写真界の傑出した人物のひとりだった(1923–2013)
24/11/25サム・フォークがニューヨーク・タイムズに寄せた写真は鮮烈な感覚をもたらした(1901-1991)
24/11/29ゲイ解放運動の活動家だったトランスジェンダーの写真家ピーター・ヒュージャー(1934–1987)
24/12/01複数の芸術的才能に恵まれていた華麗なるファッション写真家セシル・ビートン(1904–1980)
24/12/05ライフ誌と空軍で活躍した女性初の戦場写真家マーガレット・バーク=ホワイト(1904–1971)
24/12/07愛と美を鮮明に捉えたロマン派写真家エドゥアール・ブーバの平和への眼差し(1923–1999)
24/12/10保守的な政治体制と対立しながら自由のために写真を手段にしたエヴァ・ペスニョ(1910–2003)
24/12/15自然環境における人間の姿を研究することに関心を寄せた写真家マイケル・ぺト(1908-1970)
24/12/20ベトナム戦争中にナパーム弾攻撃から逃げる子供たちを撮影したニック・ウット(born 1951)
25/01/06記録映画の先駆者であり前衛映画製作者でもあった写真家ラルフ・スタイナー(1899–1986)
25/01/10アメリカ西部を占める文化の多様性を反映した写真家ローラ・ウィルソンの足跡(born 1939)
25/01/15フランスの人文主義写真運動で活躍したスイス系フランス人ザビーネ・ヴァイス(1924–2021)
25/02/03サルバドール・ダリとの共作でシュールな写真を創出したフィリップ・ハルスマン(1906–1979)
25/02/06ベトナム戦争に対する懸念を形にした写真家フィリップ・ジョーンズ・グリフィス(1936-2008)
25/02/18芸術に複数の糸を持っていたシュルレアリスムの写真家エミール・サヴィトリー(1903-1967)
25/03/19シュルレアリスムの先駆的な写真家でピカソのモデルで恋人だったドラ・マール(1907-1997)
25/03/25ホロコースト前の東欧のユダヤ人社会を記録した写真家ローマン・ヴィスニアック(1897-1990)
25/04/01ソーシャルワーカーからライフ誌の専属写真家に転じたウォレス・カークランド(1891–1979)
25/04/04写真家ビル・エプリッジは20世紀で最も優れたフォトジャーナリストの一人だった(1938-2013)
25/04/25ロバート・キャパの弟で総合施設国際写真センターを設立したコーネル・キャパ(1918-2008)
25/05/01激動1960年代の音楽家たちをキャプチャーした写真家エリオット・ランディの慧眼(born 1942)
25/05/23生まれ故郷ブラジルの熱帯雨林アマゾン川流域へのセバスチャン・サルガドの視座(1944-2025)
25/06/22風景への畏敬の念と激動の気象現象への驚異が伝わるミッチ・ドブラウナーの写真(born 1956)
25/07/26ティンタイプ写真でアパラチアの伝承音楽家に焦点を当てたリサ・エルマーレ(born 1984)
25/08/03色彩の卓越した表現を通して写真というジャンルを超越したデビッド・ラシャペル(born 1963)
25/08/20ヨーロッパ解放やコンゴ紛争などでの勇敢な取材で知られるドミトリ・ケッセル(1902–1995)
25/08/25長大吊り橋を撮影したピーター・スタックポールはライフ誌創刊の写真家になった(1913-1997)
25/09/08アパラチアや南東部の農村地帯の人々の肖像写真で知られているドリス・ウルマン(1882-1934)
25/08/25長大吊り橋を撮影したピーター・スタックポールはライフ誌創刊の写真家になった(1913-1997)
25/09/15指導者であり預言者であり歴史家であり学者だった写真家ジョン・ローエンガード(1934-2020)
25/09/17女性を客体ではなく主体として描写した写真家エレン・フォン・アンワースの視線(born 1954)
25/09/22精巧に演出された赤ちゃんたちの愛らしい写真で世界的に評価されるアン・ゲデス(born 1956)
25/09/26エロティックで都会的なスタイルの頂点を極めた写真家ヘルムート・ニュートン(1920-2004)
25/10/06モデルからファッション写真家に転じたスリランカ系英国人ナイジェル・バーカー(born 1972)
25/10/15ヴィクトリア朝イギリスで最も有名な写真家ジュリア・マーガレット・キャメロン(1815-1879)
25/10/17革新的手法を用いたドイツ系ユダヤ人写真家エーリッヒ・ザロモンの悲劇的な運命(1886-1944)
25/10/20地球の環境破壊と気候変動の壊滅的な影響を明瞭に伝える写真家ニック・ブラント(born 1964)
25/10/23政治家や作家など世界の重要人物の精緻な肖像写真を撮影したユーサフ・カーシュ(1908-2002)
25/10/26直面する不正義と対峙するパレスチナ系オランダ人写真家サキル・カデルの眼差し(born 1990)
25/11/12目に見えない鳥の飛行経路を可視化した作品で知られる写真家シャビ・ボウの秘技(born 1979)
25/11/18自身の文化的環境を探求したメキシコを代表する写真家グラシエラ・イトゥルビデ(born 1942)
25/11/25フォトルポルタージュの新たな時代を築いたスペインの写真家ラモン・マサッツ(1931-2024)
25/12/10畏敬の対象となる自然風景および聖なる場所を崇拝した風景写真家リンダ・コナー(born 1944)
25/12/23インド初の女性報道写真家で独立国家への変遷を記録したホマイ・ヴィヤラワラ(1913-2012)
26/01/04モデルから転身した写真家サラ・ムーンの雰囲気により際立った印象派的な作品(born 1941)
26/01/07音楽に合わせた写真「ドリーム・ピクチャーズ」で知られるブランソン・デク―(1892-1941)
26/01/22技術者の客観性と技術的志向を写真撮影に反映させたエミール・ハイルボルン(1900-2003)
26/01/26芸術的側面と社会的な側面の二つの特質を最適に供えた女性写真家アタ・カンドー(1913-2017)
26/03/05戦争や貧困など社会の底辺を記録して世界的な評価を得た写真家ドン・マッカラン(born 1935)

子供の頃「明治は遠くなりにけり」という言葉を耳にした記憶がありますが、今まさに「20世紀は遠くなりにけり」の感があります。掲載した作品の大半がモノクロ写真で、カラー写真がわずかのなのは偶然ではないような気がします。20世紀のアートの世界ではモノクロ写真が主流だったからです。しかしデジタルカメラが主流になった21世紀、カラー写真の台頭に目覚ましいものがあります。ジョエル・マイヤーウィッツとサンディ・スコグランド、ジャン・ボードリヤール、 F・ディレク・ウヤル、マーティン・パー、コンスタンティン・マノス、久保田博二、ポール・フスコ、エルンスト・ハース、エヴリン・ホーファー、アレック・ソス、アンディ・ゴールドワージー、ウィリアム・エグルストン、ソール・ライタ、などのカラー作品を取り上げました。

photographer  Famous Photographers: Great photographs can elicit thoughts, feelings, and emotions.

2026年3月3日

博物学が育んだ英国の古典文学

birds
鳥たちをめぐる冒険/セルボーンの博物誌(講談社学術文庫)

英国の自然観察派文学作家リチャード・ジェフリーズ(1848-1887)著『わが心の記』寿岳しづ訳(岩波文庫復刻版)を入手した。英国は『セルボーンの博物誌』を著したギルバート・ホワイト(1720-1793)や『鳥たちをめぐる冒険』のウィリアム・ヘンリー・ハドソン(1841-1922)など、博物学に造詣が深い作家を輩出している。チャールズ・ダーウィン(1809-1882)など、彼に匹敵するような観察家たちに連なる博物学に強い作家が数多く生まれたのは、単なる偶然ではない深い歴史的・文化的背景がある。それは「科学」と「文学」が分断される前の、幸福な知の融合があったからである。主な要因を次の視点で紐解いてみよう。英国には伝統的に、専門家ではない一般市民が学問を楽しむアマチュアリズムの土壌があった。そして18〜19世紀、地方の牧師たちは生活に余裕があり、教区の動植物を観察して記録することを「神の創造物の素晴らしさを讃える行為」として推奨していました。ホワイトの『セルボーンの博物誌』はその象徴である。「歩くこと」と「観察すること」が教養の一部とされ、作家たちは日常的に自然に触れ、それを描写する解像度を磨いていた。ヴィクトリア朝時代、英国が世界中に植民地を広げたことで、未知の動植物が大量に本国へ持ち込まれた。 世界中から集まる標本を分類・整理する必要性が生じ、これが国民的な「収集・分類ブーム」を巻き起こした。 珍しい植物を育てるボタニカル・ガーデンや、驚異の部屋(ヴンダーカマー)の流れを汲む博物館が整備され、作家たちにとっても「自然界を記述すること」が最もエキサイティングな創作活動の一つとなった。ダーウィンの『種の起源』以前、博物学は「自然神学」の一部だった。「自然を理解することは、神の設計図を理解すること」という価値観があったため、文学作品の中に緻密な自然描写を取り入れることは、道徳的・宗教的な深みを与える行為でもあった。当時は現代のように「理系・文系」が明確に分かれておらず、詩人が最新の地質学に詳しかったり、小説家が昆虫採集に明け暮れたりするのはごく自然なことだった。急速な工業化が進む中で、失われゆく自然へのノスタルジーがより詳細な観察記録へと作家を駆り立てた。

わが心の記

ところで現代では博物館があるもの「博物学」という名前が消えている。例えば大学には「博物学」という学部・学科はない。かつては一人の学者が「鳥も石も星も」調べていたが、知識量が増えすぎて、一人がすべてを網羅することが不可能になったからである。「鳥の研究」は動物学へ「石の研究」は地質学へ「薬草の研究」は薬学へと分かれた。現代では「ただ記載する」だけでなく「なぜそうなるのか(遺伝子や物理法則)」を突き止めることが主流になったため、名称もより具体的なものへと変わったのである。ただ「博物学」に近い学びができるユニークな場所名称こそ違えど、博物学の精神(フィールドワークや総合的な観察)を大切にしている大学やコースもある。「人間科学部」や「総合学術学部」といった名称の学部では、文系・理系の枠を超えて自然と人間を考える、博物学に近いアプローチを取ることがある。東京大学、京都大学、東北大学、北海道大学などの旧帝国大学は、膨大な標本を収蔵する大学総合博物館を持っており、そこを拠点に活動する研究室は「博物学的」な雰囲気を持っている。アドバイス博物学に興味があるなら、大学選びの際に「大学博物館が充実しているか」や「フィールドワーク(野外調査)を重視しているか」をチェックしてみるのが一番の近道である。英語の Natural History は幕末から明治時代初期に「ぶ」という意味の「博物学」と訳され、自然界の事物に関する広範な知識を集積する学問となった。蛇足ながら博物館は英語では美術館とも訳される Museum である。下記リンク先はロンドンの British Museum(大英博物館)の公式サイトです。

museum  British Museum | Exhibitions and events | Collection | Learn | Membership | Support Us

2026年3月1日

三月の風が私の憂鬱を吹き飛ばす

春三月。このイラストは英国の風刺画家ジョージ・クルックシャンク(1792-1878)がロンドンの "Comic Almanack" に寄せた暦の一枚「三月の風」だ。英国の天気俚諺 "March winds and April showers bring forth May flowers"(三月の風と四月のにわか雨が五月の花を咲かす)に由来する。ロンドンは気候が不安定で、時折冷たい風が吹くようだ。しかし今は厳しい季節だけど、待てば海路の日和あり、五月になれば花が咲くというわけである。思うところがあって YouTube にアクセスし "March Winds Gonna Blow My Blues All Away"(三月の風が私の憂鬱を吹き飛ばす)という曲のいくつかのヴァリエーションを聴いた。

Sun's gonna shine in my back door some day
Sun's gonna shine in my back door some day
Sun's gonna shine in my back door some day
March wind's goin' to blow my blues all away
A. P., Maybelle, and Sara Carter in 1927

Low down foreman, dirty engineer
Low down foreman, dirty engineer
Low down foreman, dirty engineer
Stole my gal, left me standin' here

Sun's gonna shine in my back door some day
Sun's gonna shine in my back door some day
Sun's gonna shine in my back door some day
March wind's goin' to blow my blues all away

My mama told me long years ago
Never to marry no girl that I know
Spend all your money, wear out your clothes
What will become of you, God only knows

Sun's gonna shine in my back door some day
Sun's gonna shine in my back door some day
Sun's gonna shine in my back door some day
March wind's goin' to blow my blues all away

オリジナル・カーター・ファミリーの演奏を下記リンク先の YouTube で視聴できる。演奏はサラ(オートハープとヴォーカル)メイベル(ギターとヴォーカル)A・ P・ カーター(ヴォーカル)で、1934年、ニュージャージー州カムデンで録音された。この曲を最初に聴いたのはビル・クリフトンの「カーター・ファミリー・メモリアル・アルバム」(スターディ1961年)だったと記憶している。最も好きな曲のひとつで、学生時代によく聴いた。いつの日にか裏口からも陽が射して三月の風が私の憂いを吹き飛ばしてくれる、といった意味だろう。日本にも「春一番」があるが、吹いた日は気温が上がるが、翌日などは寒さが戻ることが多い。三寒四温という言葉があるが、これに相通ずるものがあるかもしれない。寒い日が三日ほど続くと、そのあと四日ほど暖かい日が続き、また寒くなるということだが、要するに春を待つ気持ちの代名詞だろう。

YouTube  Carter Family: March Winds Gonna Blow My Blues All Away (Camden, NJ. Dec 11, 1934)