2020年3月30日

招福おかめは賢女で美しい

千本釈迦堂(京都市上京区七本松通今出川上る)

比較的近所にある千本釈迦堂(大報恩寺)に出かけた。京洛最古の建造物である寝殿造りの本堂や、本堂来迎板壁仏画が国宝に指定されているのをはじめ、行快作本尊釈迦如来像(秘仏)など、多くの重要文化財を所蔵している。霊宝館に安置されている、快慶作十大弟子像、定慶作六観音菩薩像などの仏像群は、弥勒菩薩半跏像など、多数の仏像を擁する太秦広隆寺の新霊宝殿に勝るとも劣らない迫力がある。師走の風物詩「大根炊き」は有名で、夥しい参詣客で境内は溢れるが、案外この仏像群を見落としてる人が多いかもしれない。

青銅造阿亀多福像
仏像よりむしろ境内東側にある阿亀多福像に親しみを感ずるのではと想像する。この像は1980(昭和55)年の「おかめ招福祭」を記念して寄進されたものだ。その右隣に宝篋印塔が立っているが、これが本来の「おかめ塚」である。石塔の背面に1718(享保3)年に建立、施主は三条通菱屋町の池永勘兵衛とある。寺伝によると、本堂造成の際、棟梁である高次がかけ替えのない柱の寸法を間違って短く切ってしまった。夫の心痛を知った妻のおかめ(阿亀)は「いっそ斗栱を施せば」と助言する。1227(安貞元)年12月、上棟式が行われたが、この日を待たずして、おかめは自刃して果ててしまった。妻の助言で棟梁としての大任を果たした高次は、妻の名おかめに因んだ福面を扇御幣につけて飾り、その冥福と釈迦堂の無事完成、永久を祈ったという。京都を中心に上棟式に上げられるおかめ御幣は、このおかめの徳を偲ぶものだという。鼻が低く頬が丸く張り出したおかめの面は、不美人の象徴のように扱われている。しかしおかめは日本書紀に登場する天鈿女命(アマノウズメノミコト)のことであり、当時の美女に当たるのではないかという説がある。また「源氏物語得絵巻」などを一瞥すると、少なくとも平安時代までは、頬がふくよかな女性のほうが美人であったことが窺える。それに光源氏そのものがメタボ気味で、現代のイケメンとは落差があるような気がする。話は飛ぶが、インド映画を観るとスターが太り気味であることに気づく。かの国では福々しい体躯の女性のほうが美人として扱われると聞いたことがある。痩せているのは貧困のせいだから、という説も伺ったことがあるが、真偽は定かではない。テレビや映画に登場する「美人たち」は、どちらかといえば、細面の女性が多いような気がする。おかめは「お多福」とも呼ばれるが、福を呼び、美人の象徴であったおかめが、なぜ時代と共に醜女(しこめ)のシンボルと化し、蔑視されるようになったのだろうか? おかめは賢い美女だと思う。

2020年3月29日

マスク不要論を再考する


ドラッグストアのマスク売り場は相変わらず空っぽ。通販サイトに注文済みだが、いつ届くか不明だ。除菌スプレーは欠品ということで、出品者からキャンセルのメールが届いたし、マスクは半ば諦めている。私が世話になっている京大付属病院が「職員のマスク使用に一定の制限をかけている」という報道が3月14日にあり、驚いた。報道以降、多数の寄付があったようだ。ところで私は1月末に「N95マスクなら新型コロナウィルスを防げるか」と出した一文をポストした。医療従事者に欠かせないN95マスクについて「N95は0.3μmの粒子を除去できるフィルターがありますが、新型コロナウイルスは0.1μmです。フィルターの穴を通過してしまい、吸引を防ぐことはできません」という「インターナショナルSOS」の葵佳宏医師の解説を紹介した。


医療従事者用のサージカルマスクは5μm、ドラッグストアで売っている一般用は30μmだったりするので、新型コロナウイルスは素通りしてしまう。ここからマスクは、自分がウイルスに感染していれば他人へのウイルスの拡散防止にはなるが、他人から自分へのウイルスの感染を防御する効果はない、という非対称的な論が成立している。しかしを私は何かに記載された内容をにわかに信じないから、これを無条件で受け入れていない。3月23日付け産経新聞電子版によると、フランスでは「予防用マスクは不要」とする政府方針に見直し要求が高まっているという。仏紙パリジャンでは医師らが連名で「東南アジアはマスク着用を一般に広げ、外出禁止令なしに感染拡大を押さえた」として、政府の方針見直しを訴える公開書簡を発表。ルモンド紙は、日中韓などアジア各国でマスク着用が奨励されている現状を紹介し、欧州とアジアの格差を報じたそうである。その心底に目に見えないウィルスに対する恐怖があり、結果的には無症状の感染者も含め、マスクによって拡散を抑制してきた可能性があるのではないだろうか。なお下記リンク先ページに「COVID-19 私たちがマスクをすべき理由 ― 新しい科学的根拠」と題した記事(英文)が掲載されている。

coronavirus COVID-19: Why we should all wear masks - There is new scientific rationale by Sui Huang

2020年3月26日

コロナウィルス COVID-19 風刺イラスト集

Kak (France)

Nikola Listes (Croatia)

Michael Kountouris (Greece)

Marian Kamensky (Austria)

Manny Francisco (Singapore)

Gary Varvel (United States)

R.J. Matson (United States)

Bart van Leeuwen (Netherlands)

2020年3月24日

つらい時代はもう来ないで


Stephen C. Foster
遥かなる昔、まだ子どもだった頃、アメリカ人と結婚して渡米した叔母が一時帰国したとき、お土産にとプレゼントしてくれたのが、ギターの形をした手回しのオルゴールだった。曲はスティーブン・フォスター(1826–1864)の『おおスザンナ』だった。無論、よく知っているメロディだった。今は音楽の教科書から姿を消してしまったようだが、小学校、中学校と、フォスターの曲を教室で何曲歌わされただろうか。『草競馬』『故郷の人々(スワニー河)』『主人は冷たい土の中に』『懐かしきケンタッキーの我が家』『オールド・ブラック・ジョー』『夢路より』などなど、よく憶えている。ところがボブ・ディランをはじめ、ブルース・スプリングスティーン、ジョニ-・キャッシュ、エミルー・ハリス、ナンシー・グリフィス、ジェイムス・テイラー、そして日本の矢野顕子など、多くのシンガーが取り上げてるにも関わらず、かつて学校などで聴いた記憶がない名曲がある。パーラーソング "Hard Times Come Again No More"(つらい時代はもう来ないで)で、黒人教会で聴いた歌が元になったと想像される。貧困生活に疲れ果てた人たちのため息を歌ったものだが、後半のフレーズ「声は陽気だけど、青ざめうなだれる娘」がキーワードとなって歌のイメージを模っている。しみじみとした、心に響く素晴らしい歌である。
Sheet Music (LOC.gov)
Let us pause in life's pleasures and count its many tears,
While we all sup sorrow with the poor;
There's a song that will linger forever in our ears;
Oh! Hard times come again no more.

人生の喜びをちょっと止め たくさんの涙を数えよう
貧しい人たちと共に悲しみを嘆いてる間に
いつまでも私たちの耳に残って離れない歌がある
おお つらい時代はもう来ないで
フォスターが作った曲の多くは、ミンストレル・ショーで演奏するためのものだった。ミンストレル・ショーは白人が顔を黒く塗り、アフリカ系アメリカ人の格好を真似て歌い踊るエンターテイメント形態だった。南北戦争が始まると、ミンストレル・ショーが行われなくなり、フォスターの曲が人々に触れる機会が徐々に減っていったという。この歌は『金髪のジェニー』と同じ年、1854年に作られたもので、後の大恐慌時代にも歌われたという。カーター・ファミリーが1928年に録音した "Keep On the Sunny Side"(陽が当たる方にとどまろう)はまさにその「つらい時代」のトピカルソングであった。レコードとラジオという新しいメディアに乗ってヒットしたが、フォスターの時代にはまだそれがなかった。1864年、37歳の若さで非業の死を遂げたが、エジソンが蝋管式蓄音機を実用化したのはその13年後の1877年である。そしてこの歌が初めて録音されたのは1905年だった。下記リンク先で「エジソン男性四重唱団」の合唱を聴くことができる。フォスターの祖先はアイルランドからの移住して来たが、何故かそのルーツを彷彿させるものが希薄である。教科書に載っていたこともあるだろうけど、結局、彼自身が残したのは楽譜だけだったからかもしれない。

SoundCloud
"Hard Times Come Again No More" Sung by Edison Male Quartet in 1905 (Wax Cylinder Recording)

2020年3月23日

老いた桜に休息を与えるコロナウィルス

平野神社の魁桜(京都市北区平野宮本町)

京都地方気象台の職員が昨日、二条城を訪れ、標本木に5輪以上の花が咲いているのを目視で確かめ、染井吉野の開花宣言をした。昨年より5日早かったが、気象台は「記録的な高温となり、開花が早まった」としているそうだ。桜の名所、平野神社神門前の「魁(さきがけ)桜」(写真)は満開だが、桜苑の染井吉野は蕾がほころんでいるものの、満開になるのは今月29日ごろまで待つ必要がありそうだ。柵に囲まれた境内東側の桜苑は、樹木庭園維持管理のため有料となる。西側は参道になっていて、飲食禁止の看板が立っている。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大防止のため、保健所からの要請により、桜茶屋および露店の出店が中止になったようだ。毎年、参道の両脇の桜苑に桜茶屋および露店が立つが、このシーズン以外は立ち入り禁止になっているエリアである。そこに大勢の客が足を踏み入れるわけだから、樹木保護のために如何なものかと常々危惧していた。神社と出店者の契約がどうなっているかは知る由もないが、習慣として存続してきたのだろう。新型コロナウィルス禍が老木に休息を与えることになった。

2020年3月22日

ベトナム発コロナウィルス撃退の歌


前エントリー「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防のためにできること」でも触れたように、感染を防ぐためには、こまめな手洗いが重要だ。ベトナムでは国立労働環境衛生研究所(N.I.O.E.H.)の指導で、感染拡大を防ぐため、手洗いを奨励した音楽アニメが制作された。これが世界中に広まり、YouTube では266万以上再生されるヒットになっている。歌のタイトル「GhenCôVy」は「Ghen = 嫉妬、Cô=少女、Vy =固有名詞」を意味するが、CôVy=Covid、つまり COVID-19 を暗示している。ベトナム語のほかに英語バージョンも公開されている。以下が歌詞の日本語訳である。
最近出現したヤバいウィルス
その名はコロナ
どこから来たんだ?故郷は武漢さ
平和な日常はたちまち逃げ去った
警戒心をMAXにしろ
拡大させるな
自覚を持て
新型肺炎が猛威をふるわないように
しっかり手を洗え
目鼻口を手でさわるな
人混みに入るな
コロナウィルスを撃退しよう
健康に気を配れ
周りの空気をきれいに保て
さあみんなで意識を高めて
コロナウィルスを撃退しよう

小さいヤツだがめちゃめちゃ残酷
おまえのせいでたくさん死んだ
難しくもみんな頑張ってる
おまえがこれ以上成長しないように
警戒心をMAXにしろ
拡大させるな
自覚を持て
新型肺炎が猛威をふるわないように
しっかり手を洗え
目鼻口を手でさわるな
人混みに入るな
コロナウィルスを撃退しよう
健康に気を配れ
周りの空気をきれいに保て
さあみんなで意識を高めて
コロナウィルスを撃退しよう

どの医師もみんな全力全開
労働者または会社員
俺たちもみんな用意万全
ベトナムは新型肺炎に勝つことを決意した
今日は縦鼻が済めばもうOK!
明日はもう大丈夫だ!
押し寄せる困難も気にしない
ベトナムは新型肺炎に勝つことを決意した
音楽の力、影響力は偉大だ。ところが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのため、コンサートが中止になるなど、ミュージシャン自身が苦しめられている。残念ながら、日本にはベトナムのような動きはない。コロナウイルスの歌を作り、人気ミュージシャンに歌って貰うのもアイデアだ。物流を妨げる CD 販売ではなく、音源をオンライン配布、オンライン寄付を募ったら如何だろうか。

YouTube  "Washing Hand" Corona Song (Ghen Cô Vy) - English Version(英語バージョン)

2020年3月20日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防のためにできること

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を防ぐために、私たちがしなければならないことはシンプルです。
  • よく寝る
  • よく食べる
  • ひんぱんに手を洗う
  • 咳のしぶきを飛ばさない
  • 目鼻口をさわらない
  • 運動をする
  • 利き手で「あちこち」さわらない
  • かぜ気味なら休む
渋谷健司(キングス・カレッジ・ロンドン)毎日多くの情報で不安に駆られている方が多いことでしょう。しかし、科学的に証明されたコロナウイルスの予防法は、とても簡単です。ここに記されたことを心がけるだけです。自分と家族のために。林淑朗(亀田総合病院)科学に裏打ちされたシンプルな日常の心がけは、新型コロナウイルス感染症予防にとっても大切です。政治でも、メディアの不確かな情報でも、医療サービスでもなく、皆さん自身のちょっとした行動の積み重ねが、もっともたくさんの命を救うことでしょう。

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2020年3月19日

フォトエディター Adobe Photoshop Express を試用する

BEFORE ⇒ AFTER

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響で、外出がままならぬ日が続いている。仕方なく部屋に籠って Chromebook 用アプリケーションを試用した。アドビの Photoshop と言えば、写真家やグラッフィックデザイナーにとって、欠かせないツールのひとつだ。高度な写真加工機能が搭載されているため、使いこなすためには専門の知識が必要、かつ高価である。だから Android アプリケーション Photoshop Express にいやが上にも興味がそそられる。グーグルのストア Google Play の紹介文には
  1. 遠近感の補正
  2. ノイズの除去
  3. ぼかしの適用
  4. スタイルをパーソナライズ
  5. フォトフィルター
  6. フォトコラージュ
  7. しみの除去
  8. クイック補正機能
などができるとある。一部を試用してみたが、確かにフィルターは多彩で充実している。おそらくインスタグラムなどのへの投稿を意識したものだろう。やや高度な処理となる遠近感の補正、つまり歪んだ画像の補正はどうだろうか。加工前の写真を右クリックし「アプリケーションで開く」を選択 Photoshop Express を起動。画面下の cut(切り抜きツール)をクリックして「変形」を選び A(自動バランス)をクリックすると新しい画像が生成される。上掲の写真がその結果だが、惜しいことに垂直方向の傾きの補正が完璧とは言えない。ただこれは自動処理なので仕方ないかもしれない。なにしろ無料だし、パソコン用の Photoshop と比較するは酷で、それなりに使えるアプリケーションだ。アップルの iOS デバイス用も用意されている。

Adobe  モバイルアプリケーション Adobe Photoshop Express の使用方法とダウンロードリンク

2020年3月18日

高音質 Android 音楽プレイヤー jetAudio の実力

音楽ジャンルごとに自動設定してくれるイコライザー

最近導入した Chromebook をウォークマン化しようとは思っていないが、外出先で暇を持て余した時のためにと思い、挿入した MicroSD カードに音楽ファイルを約1,000曲コピーした。搭載されている音楽プレイヤーに必ずしも満足するとは限らない。AGC(Automatic Gain Control)と呼ばれる自動利得制御、すなわち信号が強くなると出力が大きくならないようにし、信号が弱くなると出力が小さくならないようにするシステムが欲しい。アルバム単位で聴く場合は最初の曲の音量調節すればよい。しかし複数のアルバムを順番をばらばらにして聴くシャッフル再生の場合は、曲ごとに音量調節が必要なのでイライラするからだ。

ロゴマーク
以前使っていたスマートフォン Xperia Z3 はこの機能が備わっていたが、デフォルトで Chromebook に搭載されている音楽プレイヤーは対応していない。そこで Android 端末用アプリケーションを探してみた。まず目に止まったのが、フリーウェアの PIM player だった。試用したところ1曲ずつ手動でプレイリストに追加する必要があることが分かった。私は 1,000 曲以上ストレージしているので、結局やむなく導入を諦めてパスした。次にダウンロードしたのが Cowon America が開発した jetAudio だった。無料の Basic は機能制限があるので Plus 版を Google Play ストアでオンライン購入した。AGC 機能は無論のこと、正確な再生速度調節(50%~200%)など多機能だが、20バンドグラフィックイコライザーが突出している。自分で設定できない人には、音楽ジャンルごとに自動設定してくれるのも嬉しい。同名のパソコン用ソフト同様、実力十分のアプリケーションである。なおハイレゾ音源を再生することができる Onkyo HF Player もかなり評判が良いようだ。しかし目移りしていろいろ手を出してしまうと、無駄な出費をしそうなので、今回は試用を見送ることにした。

Google Play高音質の音楽プレイヤー Android 版ジェットオーディオプラスのダウンロード(Google Play)

2020年3月15日

新型コロナウイルス感染症とイベントの中止命令


ノースカロライナ州ウィルケスボロのウェルクス・コミュニティ大学で、4月23日から26日まで開催予定だった野外音楽フェスティバル MerleFest 2020 が中止になった。1985年に農場トラクター事故でドク・ワトソンの息子マールが他界、1988年に設立された追悼祈念コンサートだ。ウェルクス・コミュニティ大学の主要な募金イベントで、毎年75,000人を超えるブルーグラス音楽を愛好する聴衆を魅了してきた、米国最大の音楽祭のひとつである。とはいえこのジャンルの音楽愛好家は日本では多いと思えない。しかしここで取り上げることにしたのは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)とイベント中止について考える余地があるからだ。

Doc and Merle Watson at Freedom Park on July 4, 1982.
感染が拡大する新型コロナウイルス対策として、総理大臣による緊急事態宣言が可能になる法案が3月13日、参院本会議で可決成立した。緊急事態が宣言されると、都道府県知事が住民に外出の自粛を要請したり、学校や映画館、劇場など興行場の使用制限、イベント開催の停止などを要請したりできるようになる。法案に反対していた共産党の「市民の自由と人権の幅広い制限をもたらし、その歯止めがあいまいだ」という主張に私は賛同していた。極論かもしれないが「戒厳令」が脳裡をよぎったのである。戒厳令は国の統治権の全部または一時的に軍に移されることで、確かに緊急事態宣言とは違う。しかしこの点を伏線に改憲を目論んでるのではないかと私は疑っている。話を米国に戻そう。ノースカロライナ州の WXII 12 News 電子版によると、コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応して、ロイ・クーパー知事は幼稚園から高校までのすべての学校を閉鎖、100人以上の集まりを禁止した。これに従い MerleFest 2020 が中止になったようだ。100人という線引きに対する科学的根拠はないのだろうか、ミシガン州のグレッチャン・ホイットマー知事が禁止した集会は250人以上である。安倍首相が一斉休校を要請したところ、全国の都道府県が従ってしまった。これが緊急事態宣言となれば、拒否する知事はいないだろうと危惧する。

coronavirus
North Carolina executive order closes all K-12 schools, bans gatherings of more than 100 people.

2020年3月14日

去年の春 逢へりし君に 恋ひにてし 桜の花は 迎へけらしも

平野神社(京都市北区平野宮本町)

全国各地から桜の開花便りが届いている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、花見の際の飲食を伴う宴会等の利用を控えるよう、各地の行政が要請している。しかし密室空間ではない野外なので、宴会ではなく、散策しながら花見を楽しむのは問題ないだろう。暖冬だったので、今年はどこも開花が早いようだ。生憎の小雨模様だったが桜の名所、平野神社に出かけた。京都の一番バッター、一重の真っ白な枝垂れ、その名も魁(さきがけ)桜がご覧の通り満開に近くなっている。例年の開花が三月末だから二週間近く早いようだ。境内のソメイヨシノは流石にまだ蕾のままだが、晴天が続けば今月末には一気に開花しそうだ。表題は万葉集からの引用、若宮年魚麿(わかみやのあゆまろ)が伝誦した長歌で「去年の春にお会いしたあなたのことが恋しくて、桜の花が咲いて迎えているようですね」という意味だそうである。

京都観光NAVI  桜便り:京都市内外の桜の名所の情報(京都市観光MICE推進室京都観光NAVI)

2020年3月12日

世界保健機関(WHO)に失望と怒り


Tedros Adhanom Ghebreyesus
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は3月11日、ジュネーブで開いた記者会見で「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 はパンデミックである」と表明、感染者と死者は増えるとの見通しを示したという。何を今さらという感は拭えないが「コロナウイルスによるパンデミックはこれまで発生したことがなかった」と述べたようだ。テドロス氏はこれまで「たいしたことない、警報を出すほどではない」と楽観的発表を繰り返してきた。WHO は2月2~8日の日程で行理事会を開催したが、タイの代表が「旅行制限を確実に実行するなら、まずテドロス事務局長を隔離したうえ、今回の会議を中止にすべきと述べたという。ウィルス発覚当初から中国よりの発言してきたテドロス氏への批判は多い。伏線は前からあった。2017年8月21日付けの WHO のニュースリリースには「中国との新しいビジョンとパートナシップの強化」という見出しが躍っている。テドロス氏は北京を公式訪問したが「WHO の世界的活動を支援するために、2,000万米ドルの自発的な追加拠出について中国が署名した」という報告をしている。エチオピア政府で2005年から2012年にかけて保健大臣を務めたが、その保健省は中国から巨額投資を受けているようだ。ゆえに WHO は中国に忖度、COVID-19 対策に遅れが生じ、世界的な感染が拡大、今回のパンデミック宣言に至っている。学者として優れていても、政治的手腕に長けているとは限らない。いずれにせよ WHO が発信する情報は今やアテにならない。失望と怒りを禁じえない。

coronavirus  遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)習近平の武漢入りと WHO のパンデミック宣言

2020年3月11日

音楽 CD 不況の元凶はスティーブ・ジョブズか?


新型コロナウィルス(COVID-1) 感染が世界中に広まり、今やパンデミック状態の様相を呈している。こんな時こそ音楽を、というわけでライブハウスに出かける気持ちは理解できる。しかし大阪のライブハウスでのクラスター(感染者集団)が発覚した。おそらく他のライブハウスも営業自粛、あるいはオープンしても客が激減しているのではと心配している。さらに大がかりなコンサートも打撃を受けている。椎名林檎の「東京事変」が3月1日に東京公演を強行したところ批判を浴び、大阪公演を含む全国5公演の中止に追い込まれてしまった。音楽市場は CD が売れないため、ライブで成り立っている。その生産額は1990年代末にピークとなったが、以降減少の道を辿り続けている。特にアルバムの売り上げが、深刻な状態になっているという。その原因は音楽ファイルのオンライン販売、Youtube などの動画サイトの進展だとよく言われている。

講談社(2011年11月)
しかしバスや電車の中でイヤフォンを耳に挿し、スマートフォンで音楽を聴いている人が多い。私は CD をリッピングして MP3 ファイルに変換、タブレットにインストールして外出先で聴いているが、若い人たちはそんな面倒なことはしていないらしい。第一、スマートは持っているけど、パソコンは持っていない人が多いという。10年くらい前だったが、ある女子高校生のこんなエピソードを読んだ記憶がある。お気に入りのミュージシャンの曲を Youtube などで聴き、そのうちから曲を選んでダウンロード購入する。アルバムの中には好きになれない曲もあるからだという。上掲の写真はアイルランドのフィドル奏者マイケル・コールマン(1891–1945)の CD だが、歴史的記録ゆえにアルバム形式であることは自明である。また例えば「南北戦争時代の歌」といったアルバムは、アンソロジーゆえにファイルの切り売りはあり得ない。イーグルスのアルバム『ホテル・カリフォルニア』は、複数の楽曲を配置することによって、映画のの物語を構築している。そのアルバムをばらしてランダムに再生するようにしたのが、2001年にアップルが世に送り出した iPod だった。スティーブ・ジョブズ(1955–2011)はプレスレビューで「こんなに小さいのに1000曲も入るし、ポケットに入れて持ち歩くことができるんだ」と自慢した。ジョブズは音楽愛好家として知られ、彼の伝記を読んで私は『ブランデンブルク協奏曲』の CD を購入した。オーディオマニアでもあり、自宅に超高級装置を揃えていたという。MP3 形式の音質に満足したはずはないのだが、趣味とビジネスは違うということなのだろう。iPod はヒット、iTunes ストアは1曲99セントで販売を始めたが、2002年には米国の CD の正規販売は9パーセントに落ち込んでしまった。

YouTube  Steve Jobs is holding the original iPod at its unveiling in Cupertino, Calif., Oct. 23, 2001.

2020年3月8日

独裁に傾斜する安倍晋三首相に怒り

作者不詳

政府は今月5日、中韓両国などからの入国規制強化を表明した。野党や国民からの「対応が後手に回った」という批判をかわす狙いと思われるが、現場の混乱を招いている。安倍首相は中国、韓国からの航空機到着を成田空港と関西空港に限り、入国者を2週間隔離し、韓国、イランの一部地域を入国禁止対象に追加した。何をいまさらと思うが、人気取りのために某右派作家の助言を受け入れたという噂もある。大規模イベント自粛や全国の小中高校などの休校要請に続いたものだが、時事通信電子版によると、国民生活に直結する重大発表でも事務方の補足説明はない。それどころか担当省庁が詳細を把握していないケースすらあるという。小中高校などの休校要請に関して首相は「この臨時休業の要請については、直接専門家の意見を伺ったものではありません」と明らかにしている。卒業式が中止になったり、共働きやひとり親世帯が途方に暮れたりするような決断を「専門家に聞かずに決断した」というのだ。ではいったい誰から情を得て判断しているのだろうか。首相が頼りの、専門家ではない今井尚哉首相補佐官の台本だろう。入国規制強化も同じようなプロセスだったと思われる。日本は議会民主主義の国であるはずである。国会で何故かと問われても明確に答えていない。どうやら党内でも官邸の迷走と受け止められているようだ。まさにこれは独裁政治そのもので、激しい怒りを禁じえない。

2020年3月7日

俊足軽快 Chromebook 導入雑記

ランチャー画面(クリックで拡大)

ノートパソコンの更新が必要になり、ちょっと迷ったが、Chromebook に落ち着いた。購入したのは台湾の ASUS 社製 Flip C101PA で、液晶が10.1型。このタイプのノートでは最も小さく、愛用の英国製釣り用バッグ Brady Small Ariel Trout にすっぽり収まるのが嬉しい。Chromebook の特長はいろいろあるが、とにかく安いこと。実勢価格4万円弱だが、手にとってみると、仕上げが良く、高級感すら感ずる。本体以外に購入したのは Bluetooth 対応のマウスと MicroSD カード。タッチパネルやタッチパッドより、やはりマウスのほうが操作はラクだ。MicroSD カードは画像や音楽ファイルをローカルでストレージするために揃えた。

360°回転する C101PA のヒンジ
主役はウェブブラウザ Chrome で、他のデバイスで使っている Chrome と共有できる。従ってこのブラウザのユーザーは新たにブックマークや拡張機能などの設定をする必要がない。Google ドライブやフォトなどのクラウドサービスを共有できる。基本的には Windows ユーザーで、さらに Android 端末を使った経験があれば、導入は極めて簡単だろう。Chrome OS ではプロセスがサンドボックス内で行なわれるため、ウイルス対策が不要である。クラウドが主体になるが、オフラインでも使えるのは言うまでもない。例えば Google ドライブ。オフラインでアクセス・編集することが可能で、ネットに繋がった時に自動的に変更内容を同期してくれる。ここまで書いて気づくのは、じゃあ、デメリットはないかという疑問だ。Chromebook は前述の通りブラウザ Chrome のみが動作するノートパソコンであり、それゆえ動画や画像の編集などのヘヴィーな作業に向いていない。それからアドビ製アプリケーション、Microsoft Office などのフルバージョンは使えない。無論、文書作成はできるが、Office の完全版に比べると機能は劣る。ただ小型軽量なので、外出時のネットワーキングに力を発揮する。それが最大の特長で、導入の理由である。良い買物をしたと思っている。

google グーグル Chromebook および Chrome OS の概要と移行の方法・製品案内・使い方・その他

2020年3月5日

中国人政治漫画家巴丢草の武漢日記

Wuhan Diary: 04.03.2020 The 42rd Day of the Wuhan City Closure ©Badiucao

オーストラリア在住の中国人政治漫画家で人権運動家の巴丢草(Badiucao)氏がブログで「武漢日記」を綴っている。3月4日付け、武漢市閉鎖42日目の日記(英文)を引用、文末のリンク先で中国語の記述も読むことができます。オンライン翻訳を試みたのですが、不正確になりそうなので原文のまま掲載します。

180°回転させて見ると
As of today, the Wuhan city closure has already lasted three half-months. Yesterday, the number of new confirmed cases fell to one hundred. Many people got very excited hoping that the city closure will end soon. Some people optimistically estimate that we will be able to go back to work on March 10.

I am not so optimistic however because those figures are not very reliable. This is the current standard for including a case as a suspected case of coronavirus: Suitable epidemiological history (there are four possibilities);Suitable clinical presentation (three types of symptoms with a CT scan image being one of them).

Both conditions must be satisfied at the same time. If the first condition cannot be satisfied then all three clinical presentations must be satisfied. For there to be a confirmed diagnosis, in addition to the conditions for a suspected diagnosis being satisfied, the nucleic acid test must be positive as well.

What are the consequences of setting such standards? If an infected person does not have clinical symptoms, even if the nucleic acid test is positive, then that person is not included as a suspected case. Or if an infected person has all the clinical symptoms, including a CT scan showing lung lesions but the nucleic acid test is negative then that will not be counted as a confirmed case. The worst thing is that the nucleic acid test is only 30% to 50% accurate.

When we get this point, things are like someone whose underpants have been stolen but are still covering their ears not to hear the burglar alarm. What good does that do? My only hope is that they do not give us false hopes.

The hospital hardest hit by this epidemic is probably the Wuhan Central Hospital. According to press reports, over two hundred workers there have been infected by the coronavirus, including three deputy hospital heads, one deputy director of nursing. Many department directors are on Extracorporeal membrane oxygenation (ECMO), many physicians are on respirators. Three physicians there have already died in the line of duty: Li Wenliang, Jiang Xueqing, and Mei Zhongming.

I have always felt that the top management of this hospital are bureaucrats. From the very beginning of this epidemic when decisive corrective action was taken against the rumor-mongering physician of that hospital, the hospital has manifested a strong “Party character”. “All medical personnel are ordered not to discuss among themselves in public the medical situation and not to leave any trace in written or graphic form that could serve as evidence of discussions of the medical situation”.

Another physician who was reprimanded was Ai Fen, director of the Emergency Department, said in an interview that she “had informed the hospital of the admission of patient but did not get any response. After she didn’t get any response, all she did was order the medical personnel in her own department to wear N95 face masks.” Not only was there an insensitivity to medical matters, there were not even any measures taken to increase protection for medical workers.

From all these many details, we can see that the effort has not focused on reducing the effect the contagious disease has on the hospital staff, ordinary people and the people of the city. Instead the focus has been on reducing insofar as possible the effect the outbreak has on political security and on their own official careers. That way of doing things is completely in line with the way bureaucratic factionalism works in the Chinese Communist Party. That is incompatible with being a medical professional. Or even less, not even the way a modern person with any common sense would have acted. Sure enough, I learned from a friend who knows this hospital that the party secretary of Central Hospital came out of the public health sector, was previously a department head of the Wuhan Municipal Health Commission and certainly lacks a specialized medical background and experience as a front-line physician.

巴丢草(Badiucao
Even more astonishing is that the latest propaganda from Central Hospital unexpectedly stated that “during the course of this epidemic, over twenty physicians and nurses from the Oncology Department, 19% of the staff, were infected by the coronavirus. Most were husbands and wives both working on the front-line against the epidemic. Director Wang Chun, despite the infection of many family members including his father-in-law, mother-in-law, and child took the lead is remaining at his post diagnosing fever cases. An Oncology Department nurse returned to the front-line just ten days after her miscarriage. Nurse Guo quarantined herself at home because there were no hospital beds available. Dr. Yang after serving a shift in relief diagnosing fever patients did all kinds of support tasks including working as a porter….” So many medical workers were infected. They don’t see them as shameful. Instead they see it as an honor. Those references of a “couple both medical workers”, “several family members infected”, “ten days after her miscarriage”….. when I came across those words I felt that they were bloody words. All these very terrifying things they list one-b-one, flaunting them.

I am really frightened for those doctors and nurses. On the Weibo microblogs under the category “Coronavirus Patients Asking for Help”, I see very many postings from coronavirus patients looking for someone to help them. Recently I saw a posting about a three-year-old patient who was diagnosed with a malignant tumor in 2019. Before the epidemic began he had already had seven chemotherapy treatments and 25 radiotherapy treatments. He needs five more chemotherapy treatments. After the outbreak of the epidemic, however, the hospital where he was getting his treatments was requisitioned and so he was unable to continue his chemotherapy treatments. He had looked everywhere to get help without any result. Therapy had already been delayed for a month and his condition might take a turn for the worse at any time.

I can never understand why prisoners who have completed their sentences are allowed to leave the city while seriously ill people who are not infected cannot be smoothly transferred to a hospital in another province to get treatment? I don’t know what to say. Should I be just heart-broken? Or sad that the lives of the people are so difficult? Why, after an entire month has gone by, why is there still so many clear gaps and chaos? I don’t know.

coronavirus 巴丢草(Badiucao)武汉日记 Wuhan Diary Day42 2020年3月4日 武汉封城第42天

2020年3月4日

新型ポリティカルウイルスをばら撒く安倍晋三首相

官僚が書いた原稿を読むだけの安倍晋三首相

新型コロナウイルスへの対応に関する安倍晋三首相の記者会見が、2月29日行われた。たまたまテレビを見ていたのだが、プロンプターを使って原稿を読み上げていた。プロンプターとは舞台芸術や講演などで、台詞や講演内容を忘れても混乱しないように手助けする人のことである。転じて原稿表示用機器の名称になった。しかしこの日は、丸ごとプロンプター頼りで、首相自身の言葉ではなかった。所信表明に続いて順番に記者が質問したのだが、これは予め仕組まれたもので、各質問に対する返答も用意されていて、その原稿を読んだに過ぎなかった。これは質疑応答とは言い難く、首相と官邸クラブの記者たちによる猿芝居だったのである。記者会見の時間はわずか35分程度で「まだ質問があります」と江川紹子さんが声を上げたが、長谷川栄一広報官が「以上をもちまして記者会見を終わらせていただきます」と打ち切った。
これに対し今月2日の参院予算委員会で会見を打ち切った理由を問われた首相は「時間の関係で打ち切らせていただいた」と述べたという。単なる言い逃れに過ぎないが、私は根源的な理由に、官邸官僚の存在があると睨んでいる。第2次政権発足当初は、誰もがこれほどの長期内閣を予想していなかった。2年目に入った2014年あたりからだろうか、永田町で「安倍一強」と呼ばれるようになる。その主役は首相自身ではなく、首相の威を借り、政策を操ってきた官邸官僚たちだったのである。その筆頭格は政務秘書官を務めてきた今井尚哉補佐官である。問題は今井らの官邸官僚たちが、首相や当人たちが思っているほどの結果を出せていないことである。例えば外交。対ロシア、対北朝鮮など、いずれも失敗をしている。安倍首相はよく「ウソつき」と揶揄される。しかし彼はそれを「ウソ」とは思っていないようだ。何故なら自分が書いた台本ではなく、他人が書いた台詞を読んでいるだけだからだ。コロナウィルスより怖い、新型ポリティカルウイルスをばら撒いている。

2020年3月3日

粟嶋へ はだしまゐりや 春の雨

粟嶋堂(京都市下京区岩上通塩小路上る)

今日は雛祭り。うちには女の子がいないからと呟いたら、弘徽殿に叱られた。雛祭りはなにも子どものためばかりではないというのだ。和歌山市加太の淡嶋神社では毎年正午、雛人形を乗せた白木の船が春の海を沖へと向かう。雛祭りがこの日になったのは、友ヶ島から対岸の加太へのご遷宮が、仁徳天皇五年三月三日であったことからだという。自分の災厄を、代わりに引き受けさせた人形を、川や海に流すのが流し雛である。新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、人が集まる催事が次々と中止になっている。淡嶋神社も今年は本殿と桟橋での神事のみで、女性らが神社から桟橋まで人形を乗せた舟を担いで歩く「雛舟の渡御」は中止したようだ。

平野神社(京都市北区平野宮本町)
その淡嶋神社の粟嶋明神を分祀したと伝わる市内の粟嶋堂に出かけてみた。人形供養の寺としても知られている。寺と書いた通り粟嶋堂は通り名で、正式には宗徳寺、西山浄土宗に属している。山門をくぐると「粟嶋へはだしまゐりや春の雨」と刻んだ与謝蕪村の句碑があった。娘の病気快復祈願にお参りした際に、雨に濡れ、裸足のまま祈る女性の姿を詠んだものだという。粟嶋明神は、女性を護る神で、病気の治癒や安産、子授け、良縁などの願いに御利益があるという。だから蕪村もきっとここに参詣したのだろう。境内には朱色に塗られた人形舎が三つあり、それぞれに雛人形、御所人形、武者人形、市松人形、フランス人形など、夥しい数の人形たちが飾られている。さまざまな理由で手放され、ここに落ち着いたのだろう。人形たちがガラス越しに、無言のまま、じっとこちらを見ている。その視線にいささかたじろいだ私は、かつて良家にあっただろう雛人形をカメラに収めると、早々に寺を辞した。帰路、立ち寄った自宅近くの平野神社の唐実桜が満開だった。いわゆるモモザクラだが、桜ではなく桃の花である。そうだ、雛祭りは桃の節句なのだ。