2024年12月28日

盗撮考

December 2, 1954. New York
Vivian Maier (1926-2009) New York, December 2, 1954 / Maloof Collection

忌まわしき用語「盗撮」というと撮影禁止の美術品などを許可なしに撮影することなど、様々な意味がある。女性のスカートの中を密かに撮影したといった「犯罪」がニュースになることもある。性的目的またはその他の目的での覗き見した写真を連想勝ちである。ウィキペディアは「被写体または対象人物に気付かれずに密かに撮影を行う犯罪である」と定義している。この「盗撮」を英語では何と表記するだろうか。動画に相対する静止画像を "still photography"(スチル写真)と呼ぶが、これは発音が似た "steal"(盗む)を語源とする説があるのが興味深い。しかし "steal photography" という英語は「写真を盗む」という意味で「盗み撮り」ではない。日本語の「盗撮」を意味する英語は "secret photography"(秘密の写真)である。"secret"という単語には「隠れた」という意味がある。だから「隠し撮り」と解釈できるのだろう。前置きが長くなってしまった、なぜこんなことを書き出したのか。世界最古1854年創刊の "British Journal of Photography"(英国の写真雑誌)に掲載されたジャーナリスト兼映画作家リア・ボッロメオの "Vivian Maier, the secret photographer"(ヴィヴィアン・マイヤー、隠し撮り写真家)という記事が目に止まったからである。

Self Portrait
Self Portrait by Vivian Maier in 1963 / Maloof Collection

ヴィヴィアン・マイヤーの写真は一般的に "Street Photogaphy"(ストリート写真)と冠されている。"Candid photography"(キャンディッド写真)と同義で、カメラに気づかれないように自然な状態で人々を撮影する写真のことである。通りを歩いている人や、公園やビーチなどの公共の場所にいる人、遊んでいる子供、家族の集まりなど、人生の様々な瞬間を撮影するための写真手法である。喜びやお祝いの瞬間などのポジティブなシーンを撮影するためにも使用できるのだが、根本的には隠し撮り写真であってネガティブなイメージを拭い切れないのも事実である。リア・ボッロメオの記事に戻ろう。ヴィヴィアン・マイヤーが撮影した10万枚の写真が発掘されたとき、彼女の作品はストリート写真の巨匠たちの作品と比較された。ボッロメオは「彼女の執拗な撮影の原動力は何だったのか、そしてなぜ彼女はそれを頑なに隠し続けていたのか」「彼女の写真は、人生で貧しく、敗者となった人々を繊細に記録している。アーバスの作品よりも優しく、共感に満ち、部外者のプライベートな瞬間に焦点を当てながらも敬意ある距離感を保っている」「他の写真家たちにもカメラを手に取り、街に繰り出すきっかけを与えることは間違いないだろう」と問いている。

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