初めて欧米の音楽に強く惹かれたのは確か高校生のころで、FEN(米軍極東ネットワーク)から流れた軽快な5弦バンジョーの響きだった。それはのちに「ブルーグラス音楽」ということがわかり、大学に進学した翌年、病嵩じてC&W研究会なるサークルを結成した。1963年だったことははっきり覚えているが、そのサークルのために "Bluegrass" と題したガリ版刷りの冊子を作成した。そこに「NLCR(ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ)がボブ・ディランやジョーン・バエズなどと共にニューポート・フォーク・フェスティバル出演した」と紹介した。何をソースに書いたか記憶にないが、今のようにインターネットもなく、いささかマニアックな一冊だったようだ。当時はNLCRのような黎明期の商業レコードの音源を再現していたグループや、伝承音楽を引き継いだブルーグラス音楽アーティストなどに傾倒、所謂フォークは脇に置いていたような気がする。だからニューポートにバーバラ・デイン(1927年5月12日生まれ)が出演していたことは知らなかったのである。
Tradition Everest – TR 2072 (1967) |
彼女に注目をし始めたのはずいぶん前のことで、スミソニアン・フォークウェイズからリリースされたオムニバスCD "Classic Folk From Smithsonian Folkways" に入っていた "Deportees (Plane Wreck at Los Gatos)" を聴いてからだった。これはパレドン・レコードの "I Hate the Capitalist System"(1973年)に収録された1曲である。1948年におきたメキシコの出稼ぎ労働者が犠牲になった飛行機事故を扱ったウディ・ガスリー作詞の曲で、息子のアーロなど多くのフォークシンガーに歌い継がれてきた。何と表現したらいいのだろう、とにかく聴いて欲しい。
Barbara Dane - Deportees (Plane Wreck at Los Gatos)初期のアルバム "Anthology of American Folk Songs" で伝承民謡を披露しているが、独特の歌唱スタイルを持った素晴らしいシンガーである。何故彼女がリアルタイム、つまり60年前に私の視野に入らなかったのだろうかと、今さらながら悔やまれる。1927年5月12日生まれ。2012年6月初めにボストングローブ紙が85歳になった彼女の功績を称える記事を掲載したが、残念ながら現在では有料購読者しか全文を読むことができない。少し前に96歳になった彼女の写真をニューヨーク・タイムズ紙デジタル版で見たが、元気そうだった。しかし半世紀以上も経ってしまったニューポート・フォーク・フェスティバルでの若き姿が焼きついて脳裏から離れない。写真やレコードは時間を止める魔術師なのだろう。なお下記リンク先は90年の生涯を描いたド長編ドキュメンタリー映画「バーバラ・デインの9つの人生」である。ボニー・レイット、ジェーン・フォンダ、ルイ・アームストロング、ザ・チェンバース・ブラザーズなどがなどがフィーチャしたモーリーン・ゴスリング監督作品である。90歳代半ばのいまだ健在なデーンのダイナミックな現代生活は、彼女がいかにして多くの挫折をチャンスに変えたかを語り、何世代ものミュージシャンや活動家に深いインスピレーションを与えている。クラウドファンディング「キックスターター」で資金調達、2023年に制作された。
The 9 Lives of Barbara Dane | A documentary political activist across nine decades life<
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