2023年11月3日

矢が突き刺さったコウノトリが鳥の渡りについて教えてくれたこと

Pfeilstorch
Pfeilstorch was a White Stork that changed our understanding of migration

1822年の春、ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州クリュツ村にコウノトリが飛来し、村の人々を騒然とさせた。この種は夏の間、ヨーロッパ全土を飛び回るのが普通だが、この鳥が地元の地主の敷地に舞い降りたとき、何かが際立っていたのである。具体的には、30インチの矢の穂先が首筋を垂直に突き刺していたのだ。コウノトリの遺体はロストック大学の動物学コレクションに収められ、植物学者のハインリヒ・グスタフ・フレーケが調査を行った。その矢は「太い鉄の先端に筋がついている」もので「非常にきめの細かい熱帯産の木」であったことから、この鳥は「上ナイル地方」(現代のスーダン)で越冬中に刺された可能性が高いと結論づけられた。現在この鳥の剥製は Pfeilstorch(ファイルシュトルヒ「矢のコウノトリ」の意味)として知られ、クルッツ村のボートマー城に展示されている。これは最も有名な例ではあるが、矢の破片を身につけたコウノトリはこの鳥だけではないようで、おそらく20数羽が観察されている。鳥の移動は何世紀にもわたって人々を困惑させてきた。先住民のコミュニティは鳥の移動にまつわる豊かな伝承を育んできたが、鳥がどこに行き、なぜ移動するのかを正確に知ることは、古代においてはほとんど当てずっぽうであった。紀元前4世紀には、アリストテレスが「鳥はスキタイの草原からエジプトの南の湿地帯に移動する」という仮説を立て、イランからのツルの移動に言及している。しかし、具体的な証拠がないため、鳥が湖底で冬眠し、月のかなたまで旅をするという神話は、ファイルストルヒが登場するまで続いた。ロストックのファイルシュトルヒは、鳥類による長距離移動の最初の具体的な証拠と考えられているが、鳥類の専門家であるスコット・ワイデンソールは、一夜にしてこの現象の理解が変わったわけではないと言う。「必ずしも "ハッ" とする瞬間があったわけではなく、多くの発見が少しずつ積み重ねられてきたのです」と彼は言う。渡りに関する直接的な知識は、多くの鳥が冬を過ごす南半球をヨーロッパ人が探検するにつれて増えていった。また、イギリスの博物学者ヘンリー・ベイカー・トリストラムのように、鳥類に詳しい地元の人々から学んだ旅行者もいた。

Bothmer Castle
Children explore arrow stork in the Bothmer Castle, Klütz, Germany

19世紀半ばにサハラ砂漠を探検したトリストラムは「原住民はツバメの渡りの事実をよく知っている」と記録している。現地での観察に加え、鳥が遠く離れた別の場所で過ごしていることを研究者たちが知る強力な手がかりとなったのは、ファイルシュトルヒのおかげである。ヨーロッパで普及した独自のコード化されたアルミニウムのリングを使用することで、科学者たちは個々の鳥を追跡し、毎年何羽が戻ってくるかを理解することができるようになった。アメリカでは Bureau of Biological Survey(生物学的調査局)は、アメリカ全土に鳥類標識の装着を拡大し、渡り鳥の飛翔経路の考え方を確立するのに役立った。19世紀末には、夜間飛行時の鳴き声の録音から、鳥類は主に夜間に移動し、群れを維持するためにさまざまな鳴き声を発することが証明された。さらに最近では、衛星と無線追跡技術によって、鳥がどこに行き、どのように移動するのか、より詳細に理解できるようになった。「鳥類が一般的に冬を暖かい気候の地域で過ごすというのはひとつのことですが、特定の鳥類がどこに行くかを知ることはまったく別のことです」とワイデンソールは言う。ファイルシュトルヒは、鳥が旅の手がかりを持ち運ぶことができる初期の非常にわかりやすい例であったが、科学の進歩に伴い、より微妙なヒントが他にも見つかっている。1979年の研究では、研究者たちはヨーロッパのマーシュ・ウグイスの鳴き声から、アフリカ南東部で越冬中に出会ったと思われる45種のアフリカの鳥の鳴き声を特定した。安定同位体分析のような技術は、鳥が旅の途中で拾う化学的なサインを解読することで、私たちの知識をさらに発展させた。現在では、鳥の腸内細菌叢が旅の途中でどのように変化するかを追跡することもできる。ファイルシュトルヒはヨーロッパの鳥の渡りを理解する上で極めて重要であった。渡りが理解される以前、人々はコウノトリやツバメのような鳥が毎年突然姿を消すことを説明するのに苦労していた。渡りの他にも、他の種類の鳥やネズミに変身したり、冬の間水中で冬眠したりするという説もあり、そのような説は当時の動物学者にまで広まっていた。 特に「矢のコウノトリ」は鳥が越冬地まで長距離を移動することを証明したのである。まお下記リンク先のオーデュボン協会の記事では、コウノトリに刺さっていたのは槍と説明している。しかし長さを含めた形状から弓矢と判断した。頭上、例えば枝に止まっていたコウノトリを、下から狙ったのではないだろうか。

Audubon Society  What This Gruesome Stork Taught Us About Bird Migration | National Audubon Society

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