2021年1月26日

藤田嗣治とユキの恋物語

Foujita et Youki
Léonard Foujita et Youki par Albert Harlingue vers 1924

パリの写真家アルバート・ハーリング(1879-1963)の作品を調べていたら、この写真に出くわした。藤田嗣治(1886–1968)とモデルのリュシー・バドゥ(1903-1966)で、ふたりはちょうど100年前の1921年に出会った。雪のように白い肌と官能的な曲線を持つルリュシーの美しさに一目惚れ、裸体画のモデルになるよう懇願した。ただファーストネームのリュシーが気に入らなかったらしく、彼女をユキ(Youki)と呼ぶようになった。雪を意味していたことは言うまでもない。藤田の最初の裸体画のモデルはマン・レイ(1890–1976)の愛人であったキキことアリス・プラン(1901–1953)だったが、乳白色の滑らかな画面によりフォンブラン(乳白色の下地)と称えられ多くの人々を魅了した。さらに彼は色彩をあまり用いず「ぼかし」の効果により、他の画家がまねのできない微妙な陰影の効果をあげ、これらによって西洋の伝統的なモデリング(肉付け)に劣らない優れた芸術的効果をあげた。従って雪のような肌を持ったユキに魅了されたことは頷ける。

Youki au Chat par Léonard Foujita en 1923

1924年にふたりはモンパルナスに新居を構えだが、そのころハーリングが上掲の写真を撮ったのである。その前年この「ユキと猫」が制作されたが、前妻フェルナンデ・バレエ(1893–1960)は、嫉妬心に駆られて、彼の作品が展示されている公募展の会場で藤田に襲いかかったという。情熱と優しさを感じさせる官能性を初めて発揮したのが、この作品だったからである。磁器のような肌がキャンバスの上で輝き、ベッドの色調と調和している。この作品にはもうひとつの重要なモチーフが登場している。マイクと名付けられたこの猫はパリに到着して間もなくのある日、後を追って家にやってきた。玄関先から離れようとしなかったために飼うことにしたようだ。猫の存在は藤田の作品の主役であり、ある時は人物の伴侶として、またある時は中心的な主題として描かれたのである。猫の個性を愛し、その中にある種の不確定性と予測不可能性を認めていたが、それは女性にも当てはまるものであった。1929年に結婚、ユキは藤田の三番目の妻となった。しかしユキは教養のある美しい女性だったが酒癖が悪かったらしいのだが、その具体的なエピソードを見つけることができなかった。シュールレアリスムの詩人のロベール・デスノス(1900–1945)と愛人関係になり、1931年に生活を共にするようになった。そして藤田嗣治とユキことリュシー・バドゥの10年間の恋物語は幕を閉じた。

museum Foujita Painting in the Roaring Twenties | Musée Maillol Exhibition 2018(PDF 2.88MB)

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