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Robert Mapplethorpe & Patti Smith 1969 |
ロバート・メイプルソープの写真展が東京都庭園美術館で開催されたのは1992年だった。翌年春に、滋賀県立近代美術館に巡回されたが、写真に興味を持っていなかった人たち、特に若い女性が押し寄せたことを憶えている。展示枚数が多く、パティ・スミスのこのヌード写真に関しては、朧げにしか記憶にない。というのはスミスについてはよく知らず、後でその音楽を知ったからではないかと思う。彼女の自叙伝
『ジャスト・キッズ』を読んだのは2012年の暮れだった。当時、湯山玲子が書いた
ブックレビューによると、「パティ。僕らみたいに世界を見る奴なんて、誰もいないんだよ」とメイプルソープは幾度となくスミスに語ったという。写真は二人の関係を彷彿とさせる。それは現実を直視する視線があるからだ。思えば1970年代はエキサイティングで面白かった。奇しくもザ・バンドが解散コンサート「ラストワルツ」を開催したのも1976年だった。以来、私はポップ音楽を聴かなくなり、ルーツ音楽、つまり伝承音楽のみになり、今日に至っている。音楽が現実社会と遊離してしまった感があるからだ。写真も同じだった。1970年代にピークを迎え、その後は勢いを失ったと私は思うのである。いつの頃か、ピンホール写真を撮り始めたが、それはディテイルを見ることの拒否作用でもあった。コンテンポラリー絵画主義写真と名付けてもいいが、写真が持つリアリティの放棄であるのはいうまでもない。つまり「芸術」という心地よい形容詞に酔った、現実逃避であったような気もする。ところが最近になってストレート写真へ回帰した。伏線として、現実を直視する写真を撮りたくなったからである。メイプルソープはパティ・スミスの恋人だったが、LGBT でもあった。エイズに感染、死を覚悟した彼は、うつろう自分自身の表情を撮り始めた。まさに現実を直視したのである。
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