2025年1月28日

中国の生成人工知能 DeepSeek を試用してみた

AI
Generative Artificial Intelligence ©2024 Bernard Marr & Co.

アップル App Store の人気アプリランキングを集計する appfigures によると、1月27日(日本時間)現在、米国では生成人工知能 DeepSeek がランキング1位となっているという。DeepSeek は1月に正式公開された中国製の生成 AI である。DeepSeek は他の AI モデルとの比較をサイトで公開し、推論速度が大幅に向上し、あらゆる数値で上回っているとされる。DeepSeek を率いるのはCEOの梁文峰氏。中国メディアによると、1985年生まれで、北京大学や清華大学に次ぐ名門、浙江大学を卒業している。コンピューターを使って市場のデータを数理的に分析するクオンツ運用に成功し、巨額の資金を得た。

DeepSeek

OpenAI の「o1」シリーズのような推論型モデルで、各種ベンチマークテストでは o1 と同等かそれ以上の性能を発揮するとされる。MIT ライセンスによるオープンソース仕様で、商用利用も含め、ライセンスの範囲内なら誰でも自由に利用できる点も特徴である。ランキング2位は OpenAI の ChatGPT だが、登場からある程度の期間が経っている ChatGPT と、登場して間もない DeepSeek では、ダウンロード数の伸びしろが異なる点は考慮する必要があるだろう。ウェブ版を試用してみた。

質問:ファクトチェックの必要性を教えてください
回答:ファクトチェック(事実確認)の必要性は以下の点から重要です

1. 誤情報の拡散防止
SNSの普及により、誤った情報が瞬時に広がるリスクが高まっています。ファクトチェックは、こうした誤情報の拡散を防ぎ、正確な情報を提供します。
2. 意思決定の質向上
個人や組織が適切な判断をするためには、正確な情報が不可欠です。ファクトチェックは、信頼性の高い情報に基づいた意思決定を支援します。
3. 社会的信頼の維持
メディアや公的機関への信頼は、正確な情報提供にかかっています。ファクトチェックは、これらの信頼を維持・向上させる役割を果たします。
4. 民主主義の健全性
民主主義では、有権者が正確な情報に基づいて投票することが重要です。ファクトチェックは、政治的な誤情報を正し、民主主義の健全性を保ちます。
5. 個人のリスク軽減
誤情報は、健康や経済に悪影響を及ぼす可能性があります。ファクトチェックは、個人が誤った情報に基づいて行動するリスクを減らします。
6. メディアリテラシーの向上
ファクトチェックは、情報の真偽を検証するプロセスを示すことで、メディアリテラシーの向上に貢献します。
7. 社会的分断の緩和
誤情報は社会的分断を引き起こすことがあります。ファクトチェックは、共通の事実認識を提供し、分断を緩和します。
8. 透明性と説明責任
ファクトチェックは、情報の発信源に透明性と説明責任を求めることで、情報の質を高めます。
結論
ファクトチェックは誤情報の拡散を防ぎ、正確な情報に基づいた意思決定を支援することで、個人や社会全体の利益につながります。情報が氾濫する現代社会においてその重要性はますます高まっています。

以上がいささか拙速気味の試用結果だが、滑らかな日本語で使用には十二分に耐えると思われる。機会を新たにして先発の ChatGPT および Gemini などと比較してみたい。

AI  DeepSeek-R1とは? 性能概要や使い方、料金体系を徹底解説! | AI 総合研究所 | 2025/01/28

2025年1月27日

ソーシャルメディアの弊害(13)偽情報をそのまんま拡散した東国原英夫

東国原英夫

昨日曜日、情報番組「ビートたけしのTVタックル」を見ていたら、常連のコメンテーターであるタレント東国原英夫の姿がないのに気づいた。前エントリー「ソーシャルメディアの弊害(12日曜日)立花孝志『元兵庫県議は逮捕が怖くて命を絶った』」とデマ」で、兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを調査する県議会調査特別委員会(百条委)の委員だった竹内英明元県議の急死に対し、政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志が1月19日に X を更新し、竹内氏の死去について「こんなことなら、逮捕してあげたほうがよかったのに」などと投稿。自身の YouTube チャンネルで「1月20日に(竹内氏を)逮捕すると県警は考えていたそうだが、それを苦に命を絶ったという情報が入っている。もうこれがほぼ間違いないと思います」などと発言したことを伝えた。しかし、産経新聞が兵庫県警に取材し「竹内氏に対して任意の事情聴取もしていないし、逮捕の予定もなかった」と完全否定したと報道、立花孝志の発言がデマだったことを新聞がファクトチェックしたと紹介した。

X logo

そして東国原が19日に自身のXで「死に至る直接の理由はご本人しか分からないが、竹内議員は百条委員会で数々の疑惑が指摘されていた事も事実。警察から事情聴取もされていたと聞く」と投稿した。問題は東国原が投稿の情報源としていたのが、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏の前述の発信だったことである。20日には兵庫県警のトップ村井紀之本部長が「全くの事実無根、明白な虚偽が拡散。極めて遺憾」と異例のコメントを出し、これに対して東国原は「成る程、了解です。こういう風に県警トップが迅速に対応されますと真偽が明確になりますね」と反応するも、竹内元県議の名誉を傷つけるデマ拡散に加担してしまった東国原に対し、批判が殺到し炎上状態に陥ったのである。そのまんま東という芸名のお笑いタレントだったが、政治家に転身、宮崎県知事、日本維新の会の衆議院議員を歴任した。立花孝志などが発信している事柄が眉唾ものだと思わないのだろうか。今回の件で、その経歴がなんとなく胡散臭いものに変質してしまった感が否めない。下記リンク先は日本ファクトチェックセンター(JFC)による1月20日~1月26日のチェック結果報告である。

Fact Check  立花孝志氏の投稿削除と新聞のファクトチェック ・ほか | 日本ファクトチェックセンター(JFC)

2025年1月25日

マッキンリー山の名称復活には暗殺事件がトランプの脳裡を横切ったのだろうか

ハンカチに包んだ銃で狙撃されるウィリアム・マッキンリー大統領(米国議会図書館蔵
マッキンリー大統領

複数のマスメディアによると米内務省は24日、米南部に面するメキシコ湾を「アメリカ湾」に正式に改称したと発表した。大統領令はアメリカ国内の話なので、公文書や政府機関発行の地図上で「アメリカ湾」に変更するのは可能だという。メキシコ湾を共有しているメキシコを含む国々の了承も必要ないん。実際に、同じ場所や海域を違う名前で呼んでいる例があるという。西部アラスカ州にある北米大陸最高峰のデナリ山もドナルド・トランプ大統領の主張通りマッキンリー山に変更した。この山には大統領ウィリアム・マッキンリーにちなんだ名が与えられたが、2015年にバラク・オバマ大統領は山の名称を正式にデナリへ変更することを発表した。この変更は、オハイオ州出身議員に不満をもたらした。2025年1月20日にドナルド・トランプが大統領に再び就任すると、その日のうちに名称をマッキンリー山に戻す大統領令に署名したのである。トランプ米大統領は2024年7月13日、東部ペンシルヴェニア州バトラーで開いた支援者集会で暗殺の標的となった。2カ月で2度目となる暗殺未遂事件は米国社会の病の重さを浮き彫りにした。米国では銃規制強化を求める動きは鈍いままだ。ジョー・バイデン前大統領は事件で使われた半自動小銃 禁止を訴えたが、米屈指の影響力を持つロビー団体「全米ライフル協会」の支援を受けているトランプ陣営は銃所持を擁護する姿勢を崩していない。暗殺された米国の大統領は誰れか?と質問されたら、おそらくエイブラハム・リンカーン(1809-1865)とジョン・F・ケネディ(1917-1963)のふたりを誰もがあげるに違いないだろう。しかしジェームズ・ガーフィールド(1831-1881)とウィリアム・マッキンリー(1843-1901)の名を頭に浮かべる人は少ないと思われる。正直言うと私はガーフィールドについては勉強不足で知らなかったが、マッキンリーの名は前から知っていた。ガーフィールドは1881年7月2日午前9時30分、首都ワシントンのボルティモア・アンド・ポトマック駅で、チャールズ・ギトーに狙撃された。今日の医療技術であれば命を落とすことはなかっただろうという、興味深い医療史上の研究があるようだ。マッキンリーはニューヨーク州バッファローで開かれていた、パン・アメリカン博覧会を訪問中の1901年9月6日午後4時7分、無政府主義者レオン・チョルゴシュに暗殺された。名称マッキンリー山の復活にはこの暗殺事件がトランプの脳裡を横切ったのだろうか。蛇足ながら共和党の全国的指導者であったマッキンリーの選挙戦のテーマは、1890年のマッキンリー関税に代表されるような、繁栄のための公式として高率輸入関税を導入することであった。

Charlie Poole & the North Carolina Ramblers
White House Blues

McKinley hollered, McKinley squalled
Doc said to McKinley, "I can't find that ball"
From Buffalo to Washington

Roosevelt in the White House, he's doing his best
McKinley in the graveyard, he's taking his rest
He is gone, long old time

Hush up, little children, now don't you fret
You'll draw a pension at your papa's death
From Buffalo to Washington

Roosevelt in the White House drinking out of a silver cup
McKinley in the graveyard, he'll never wakes up
He is gone, long old time

Ain't but one thing that grieves my mind
That is to die and leave my poor wife behind
I'm gone, long old time

Lookit here, little children, don't waste your breath
You'll draw a pension at your papa's death
From Buffalo to Washington

Standing at the station just looking at the time
See if I could run it by half past nine
From Buffalo to Washington

Came the train, she's just on time
She run a thousand miles from eight o'clock till nine
From Buffalo to Washington

Yonder come the train, she's coming down the line
Throwin' every station, Mr. McKinley's a-dying
It's hard times, it's hard times

Lookit here, you rascal, you see what you've done
You've shot my husband with that Iver Johnston gun
Carry me back to Washington

Doc's on the horse, he th'ow down his rein
Said to that horse, "You've got to outrun this train"
From Buffalo to Washington

Doc came a-running, takes off his specs
Said, "Mr McKinley, it's, better pass in your checks
You bound to die, bound to die"

この歌はチャーリー・プール(1892–1931)とノースカロライナ・ランブラーズが1926年に録音した『ホワイトハウス・ブルース』である。おそらく事件から余り日が経ってうちに作曲したにも関わらず、政治的配慮からすぐに発表できなかったのではなかろうか。ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ、ビル・モンロー、アール・テーラー、サム・ブッシュなど、主としてブルーグラス音楽系のミュージシャンに歌い継がれ、現在でも頻繁に演奏されている。米国のカントリーソングには『オールド 97 の大破』『タイタニック』など、事件事故をテーマにしたトピカルソングが少なからずある。人々は歌によって歴史の記憶が蘇るのである。私がマッキンリー暗殺事件を知ったのはこの『ホワイトハウス・ブルース』を聴いたからだった。下記リンク先の音楽共有サイト SounndCloud でオリジナルレコーディングを聴くことができる。

SoundCloud White House Blues: Charlie Poole & North Carolina Ramblers 1926 (Columbia 15099-D)

2025年1月24日

第47代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプの風刺漫画五選

Berend Vonk
Ramses
Hassan Bleibel
arian Kamensky<

当ブログに「バイデンは政治風刺漫画の主役になれるだろうか」という一文をポストしたのは2021年1月28日だった。前任のドナルド・トランプが風刺漫画化家の間で抜群の人気があったからだ。トランプ政権は大統領自ら民族・人種・性別による偏見を表明してマイノリティー迫害を助長し、批判を受けるとフェイクニュースだと強弁した。その派手な政治プロパガンダゆえに突っ込みどころも多く、恰好の材料だからだ。ジョー・バイデンの政治姿勢は若干地味で、風刺漫画が減った感があったのは否めない。そして再びトランプの登場である。第一次世界大戦中、ヨーロッパでは政治的プロパガンダを目的に漫画が使用された。ほとんどすべての有名な新聞や雑誌が、国内および最前線での戦争を支援するために、政治的な風刺漫画を作成して掲載した。政治風刺漫画は庶民の目線を神髄とするわけだが、戦時下ゆえに心理戦もしくは宣伝戦の色彩が濃く、いささかユーモアに欠けるきらいがあった。その政治風刺漫画は、民主主義社会において重要な役割を果たしてきた歴史があり、その存在意義は今後も失われることはないだろう。現代のメディア環境の変化に対応するために、絵筆がスタイラスペンに、プラットフォームがソーシャルメディアへと変化したのはご存じの通りである。オランダのアムステルダムを本拠に置く政治風刺漫画の国際ポータルサイト Cartoon Movement に連日トランプ大統領就任を題材にした作品が寄稿されている。その政治風刺漫画5点を抜粋してシェアすることにした。

cartoon movement  A global platform for editorial political cartoons and comics journalism | Cartoon Movement

2025年1月22日

ドナルド・トランプ大統領の現代アメリカ濁流への攻撃

Moving Day at the White House

ドナルド・トランプは、世界で最も裕福で最も権力のある人々の親しい友人であるにもかかわらず、自分自身を破壊者と考えるのが好きで、同盟者が立法府と司法府を支配しているにもかかわらず、今では連邦政府の行政府の権力を自ら握っている。しかし、過去との根本的な決別という意味で、彼が始めた時代がアメリカ上最も混乱した時代のひとつとなることは疑いようがない。彼は現在、おそらく過去最多となるであろう大統領令に署名しているところであり、そのほとんどはバイデン政権の規則や規制を覆すか、他の前例を覆すものだ。大統領令によって課される可能性が高い国家政策の他の大きな変更(1930年以降で最大規模の関税など)も控えている。共和党議員らが準備している法案パッケージには、 1960年代以来最も大幅な連邦国内支出削減、特に貧困層や医療支援を必要とする人々を対象とするプログラムが含まれる可能性が高い。大統領と議会の両方の行動を通じて、新政権は、金ぴか時代以来最も激しい公務員制度への戦争を仕掛けることになるだろう。彼のアメリカ第一主義外交政策は依然としてやや曖昧だが、今後4年間で、第二次世界大戦後何十年にもわたって苦労して築き上げてきた同盟システムと国家安全保障協定からの最終的な転換が行われる可能性は高い。そして、女性、LGBTQの人々、人種的マイノリティの平等な権利に関する多くの時計の針を戻すことさえ考慮されていない。確かに、こうした政策の多くは前兆があり、一部はトランプ政権初期に実行された。しかし、プロジェクト2025からトランプの大胆な閣僚指名、選挙運動での驚くほど抑制のきかないレトリック、そして最近の政権移行まで、これはトランプ1.0よりも20世紀後半から21世紀初頭のアメリカの原則に対するはるかに組織的な攻撃のように見える。そして実際、かつて神聖視されていた石板を覆すという点では、これに匹敵する前例を見つけるのは難しい。建国以来、国家政策に大きな突然の転換があったことは確かだ。1800年のトーマス・ジェファーソンの選出はフランス革命の響きをもたらし、初期の米国を支配していた沿岸部の裕福な利害関係者を断固として拒絶することになった。1828年、アンドリュー・ジャクソンは選挙で選ばれていない高学歴のエリート層の特権に対する攻撃を非常に自覚的に指揮した。エイブラハム・リンカーンの選出は文字通り血なまぐさい内戦を引き起こしたが、彼の実際の政策は漸進主義的で、奴隷制を全国に拡大・拡張しようとする奴隷国家の計画に対する先制クーデターであったとも言える。

Mount Rushmore National Memorial
Mount Rushmore National Memorial in South Dakota

グロバー・クリーブランドとベンジャミン・ハリソンは、ドナルド・トランプとジョー・バイデンがしたように権力を交代した。しかしながら、彼らの時代の民主党と共和党を隔てていた政策の幅は今日では小さなものに思える。確かに、ルーズベルト大統領と彼のニューディール政策は、大恐慌の緊急事態に対処するために、数十年にわたる保守的な共和党の支配を覆した。しかし、狂乱の始まりの後、ルーズベルトは2期目の間に動きが鈍くなり始め、彼の党の南部の権力基盤の人種差別的な政策に挑戦する勇気は決してなかった。ジム・クロウ法は1960年代半ばまでに司法、立法、行政による継続的な攻撃にようやく屈したが、公民権運動が主に超党派であり、非常に長い時間をかけて展開されたため、少なくとも国家レベルでは、革命というよりも進化のように感じられた。同様に、憲法上の権利のまったく新しい領域が、1973年の最高裁判所のロー対ウェイド判決で一夜にして認められた。しかし、これらの権利は数十年にわたってゆっくりと着実に侵食され、2022年にトランプの黙認により、彼が形作った最高裁によって放棄された。ロナルド・レーガン、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマは、それぞれ独自の方法で、就任前の軌道とは異なる方向に国を導いた。しかし、国家安全保障と世界経済における国際主義から環境保護、そして人類の平等の普及におけるゆっくりだが着実な進歩に至るまで、長年の超党派の政策と慣行を覆そうとしているトランプに匹敵する者はいない。特にこの2度目の就任で、トランプは連邦政府の多様性政策の完全撤回を誇り、伝統的な国際同盟の放棄を祝い、1920年代の移民排斥主義の遺産への回帰を喜んで受け入れ、化石燃料の新たな優位性を喜んで推進している。さらに、彼は、少なくとも彼のロールモデルであるアンドリュー・ジャクソンまで遡るどのアメリカ大統領よりも好戦的な個人崇拝を集めており、彼が投影する現実のヴァージョンを何でも受け入れようとし、敵は実際の悪魔ではないにしても裏切り者であると確信している。僅差での選挙勝利によって獲得した実際の権力と、制限のない独自の世界史的使命を公言していることを合わせると、彼は米国を大きく変える態勢が整っている。2026年の中間選挙でトランプと彼のMAGA同盟が失敗したり、誤算したり、権力の一部を失ったりする可能性は常にある。しかし今のところ、第47代大統領は前例のない権力の展望を見据えており、彼の過激な計画に対する実質的な障害はない。そして彼の最も重要な権力の源泉の1つは、トランプが私たちが考えていた以上のことを一歩でも踏み出すたびに、私たち一般人、特に報道関係者が定期的に経験するむち打ちに対処するのが困難になることである。下記リンク先はブリタニカ百科事典制作のジョージ・ワシントン(1789年)からドナルド・トランプ(2024年)までのアメリカ大統領選挙のすべての結果の一覧表です。

britannica  United States Presidential Election written and fact-checked by Encyclopædia Britannica

2025年1月21日

ソーシャルメディアの弊害(12)立花孝志「元兵庫県議は逮捕が怖くて命を絶った」とデマ

立花孝志
Image source ©2025 Kyoto Photo Press

兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを調査する県議会調査特別委員会(百条委)の委員だった竹内英明元県議の急死した。自殺と見られると報じられている。竹内氏は県議会会派「ひょうご県民連合」に所属し、兵庫県の元西播磨県民局長(昨年7月に死亡)が作成した告発文書の内容を調べる百条委の委員を務め、斎藤氏の疑惑を追及していた。竹内氏は兵庫県知事選期間中にソーシャルメディア上で誹謗中傷を受けたとし、昨年11月に議員辞職していた。これに対し政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志が1月19日に X を更新し、竹内氏の死去について「こんなことなら、逮捕してあげたほうがよかったのに」などと投稿。自身の YouTube チャンネルで「1月20日に(竹内氏を)逮捕すると県警は考えていたそうだが、それを苦に命を絶ったという情報が入っている。もうこれがほぼ間違いないと思います」などと発言した。しかし、産経新聞が兵庫県警に取材し「竹内氏に対して任意の事情聴取もしていないし、逮捕の予定もなかった」と完全否定したと報道した。立花孝志は X や YouTube の投稿を削除し、現在は見られなくなっている。実は竹内元県議の自殺に関する記事の中で、朝日新聞は産経新聞よりも早く、県警が取り調べや逮捕に関して否定する記事を出している。

立花孝志

しかし朝日新聞の記事の見出しは「兵庫県議会の百条委員務めた前県議が死亡、知事選翌日に議員辞職」となっている。記事の最後の段落でSNSで取り調べや逮捕などの情報が拡散していることを指摘し「県警幹部は朝日新聞の取材に対し『そんな事実はない』と否定した」と書いている。産経新聞の記事は見出しが「立花孝志氏『逮捕が怖くて命絶った』と投稿も兵庫県警は完全否定」立花自身の発言を対象に検証し、兵庫県警への取材をもとにその情報が誤りだと断定している。立花孝志は X で「オールドメディアは不要!ネットで充分な時代!」という標題を掲げている。しかし皮肉なことに、新聞という伝統的なメディアに誤りを暴かれてしまった。取材源を持たない大部分のネットユーザーは、ファクトチェックする能力がない。出所不明の伝聞に過ぎない情報を鵜呑みにして集団ヒステリーを起こしている。立花孝志の X フォロワー数は40万人、YouTube チャンネル登録者数75.4万人、ソーシャルメディアは愚民製造機の感がある。なぜ立花孝志が兵庫県知事選その他でやらかした悪行が、かくも野放しにされ続けているのか疑問を禁じ得ない。蛇足ながらタレントの東国原英夫も立花孝志のデマ情報を鵜呑みにして X で拡散、誤りを指摘され慌てて削除したそうである。テレビの情報番組のコメンテーターをしているが、ネット情報が頼りで、取材せずに発言していることがバレてしまった。これからはこの人の発言を誰も信じなくなる可能性がある。なお、英語圏ではオールドメディアをトラディショナル(伝統的)メディアあるいはレガシーメディアと記述する。すなわち「オールド」はモールス信号機のようなかつてあったが今はない、そして「伝統的」は新聞のような古くから今も引き続きあるメディアという意味である。

X_Twitter  立花孝志:オールドメディアは不要!ネットで充分な時代!当選を目指すのは6月の参議院全国比例

2025年1月20日

アメリカの画家アンドレア・コウチの魔法のようなリアリズム絵画

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Artworks by ©Andrea Kowch
Andrea Kowch

アメリカン・マジック・リアリズムという絵画芸術ジャンルで活動する画家、アンドレア・コウチは、写実的な物語と自然主義的な技法を組み合わせ、人間の状態を探り、表現するという探求の中で、これらの要素を超現実的で夢のような底流と巧みに融合させている。早い段階で、彼女は「文化に彩られた象徴主義を伝える、非常に繊細な意識を示す、力強い声の持ち主」と評された。ミシガン州デトロイトで1986年に生まれた彼女は、ウォルター・B・フォード2世奨学金を得てクリエイティブ・スタディーズ・カレッジに入学し、2009年に優秀な成績で美術学士号を取得して卒業した。彼女の絵画や紙の作品は、雰囲気、寓話、媒体の精密さに富み、北方ルネッサンスやアメリカ美術から、故郷のミシガン州の田園風景や郷土建築まで、さまざまな影響を反映している。17歳からキャリアをスタートし、早い段階から多くの栄誉を受け、権威あるスコラスティック・アート&ライティング賞で7つの地域ゴールドキー賞と2つの全国ゴールドメダル賞を受賞した。これらの審査員による全国展覧会への参加が認められ、2003年にはワシントンD.C.のコーコラン美術館、2004年にはニューヨークのダイアン フォン・ファステンバーグ・ギャラリーに作品が展示された。2005年には、現全米ヤングアーツ財団から視覚芸術部門の全米芸術賞を受賞した。この栄誉は、受賞者をアメリカの才能の上位2%にランク付けするものである。受賞作品は、マイアミのウェアハウスにあるマーグリーズ・コレクションで展示された。2008年、コウチはノースブルック図書館の毎年恒例の審査員による国際展覧会で最優秀作品賞を獲得した。

painting

コウチの高く評価されている絵画は、その後、国内外のさまざまな審査員による展覧会で複数の最優秀賞を獲得し、ロンドンの RJD ギャラリー、ローマのドロシーサーカスギャラリー、2013年に個展「ドリームフィールズ」が初公開されたマスキーゴン美術館、ジャクソンビル現代美術館(MOCA)、グランドラピッズ美術館、アートプライズ、アートバーゼルマイアミ、ロサンゼルスアートショー、アートハンプトンズ、そして2012年にコウチを世界のトップ100新進アーティストのひとりに選んだニューヨークのスコープ・アートショーなど、美術館やギャラリーで個展やグループ展に常時出展してる。彼女はまた、いくつかの国内外の出版物で定期的に特集され、表紙を飾っている。コウチはミシガン州に住み、そこでフルタイムで絵を描きながら、クリエイティブ・コミュニティに貢献することを楽しんでおり、カレッジ・フォー・クリエイティブ・スタディーズの非常勤教授や、さまざまなアートショーケースの審査員を務めている。コウチはミシガン州の RJD ギャラリーに専属で所属している。下記リンク先はエクレクティックス・アートによるアンドレア・コウチのインタビューです。

Medium  Interview with artist Andrea Kowch (born 1986) by Eclectix Art Gallery | Medium.com

2025年1月18日

ソーシャルメディアの弊害(11)ドイツに続いてパリも X から離脱

X on Paris
La ville de Paris quittera l'X le 20 janvier 2025

フランスのパリがイーロン・マスクが所有するソーシャルメディア・プラットフォーム X での発信を停止すると発表した。誤った情報の増加や暴力的なコメントを助長しているなどと指摘している。ル・パリジャン紙によると2023年11月にアンヌ・イダルゴ市長が旧ツイッターからから去った後、閉鎖されていた市長のアカウントは、ドナルド・トランプが大統領に就任する1月20日月曜日の時点で X プラットフォームに存在しなくなるという。市長はソーシャルネットワークを「広大な地球規模の下水道」と形容し、彼女は「X のアルゴリズムによって推進され、世間の議論を左右している」「論争、噂、粗雑な操作」と非難したのである。2009年、パリはフェイスブックとツイッターに参加し「ウェブ2.0が提供するコミュニケーションの機会を捉える」最初の公的機関のひとつとなった。 しかし、時は流れ、アメリカの億万長者イーロン・マスクに買収された後 X と改名されたツイッターは、最初のユーザーのひとりがこのプラットフォームから去ろうとしている。アンヌ・イダルゴの第一副市長であるパトリック・ブロッシュは、プレスリリースの中で「X が買収されて以来、ますます毒性を増し、政治的な操作を受けていることは、われわれが事実を直視しなければならないことを意味する」と語ったそうである。市は、同プラットフォームにおける「誤った情報の増加と、非道で暴力的なコメントの矮小化」について言及している。イーロン・マスクが旧ツイッターを乗っ取ったのは2022年10月28日だったが、アンヌ・イダルゴ市長自身2023年11月27日に X を退会している。

La ville de Paris annonce qu'elle quitte les médias sociaux X

この新たな決定は「平和的で公共の議論を尊重するデジタル空間を育成するという市のコミットメントとハッシュタグ #HelloQuitteX が推進する市民中心のアプローチに沿ったもの」であるという。X を所有するイーロン・マスクがドイツの極右政党の共同代表と X 上で対談し、投票を呼びかけたことなどを念頭に「ドイツやイギリスなどの民主的な生活に干渉している疑いがある」などと指摘してされていることがこの決定の根底にある。X をめぐっては、前エントリー「ソーシャルメディアの弊害(10)動画共有アプリ TikTok マスクへの売却の危険」で詳述したようにドイツやオーストリアの 60 以上の大学や研究機関も「このプラットフォームには、多様性、自由、科学を促進する価値観はもはや存在しない」として利用を停止すると発表している。「ネットワークは事実と客観的なメッセージの到達範囲を狭めます。あり得ない、このネットワークはヘイトスピーチや偽情報を助長しており、その節度が欠如していることが問題となるからだ」とパリ市は反対している。ここ数週間、イーロン・マスクは X でさらに積極的に活動しており、欧州当局は特にドイツと英国での地方政治への介入の試みを非難している。正しい情報を提供することはもはや不可能と断じている。今や X ユーザーであることが恥ずかしい時代になりつつあるようだ。下記リンク先の PDF ファイル(482KB)はパリ・メディア・センターの「パリは1月20日(月)に X プラットフォーム(旧ツイッター)から離脱する」です。

PDF  La Ville de Paris quittera la plateforme X (anciennement Twitter) ce lundi 20 janvie | CDN

2025年1月17日

ソーシャルメディアの弊害(10)動画共有アプリ TikTok マスクへの売却の危険

TikTok
Will TikTok fall into the hands of Elon Musk ?

中国の企業が運営する動画共有アプリ TikTok について3月13日、アメリカ議会下院は安全保障上の懸念があるとして、アメリカ国内での事業を売却しなければ国内での利用を禁止する法案を超党派で可決した。TikTok を禁止する法律をめぐってドナルド・トランプ次期大統領は、交渉を通じた解決ができるよう法律の発効の延期を求めています。その発効が今月19日に迫る中、アメリカのメディアは中国政府がバイトダンスによる TikTok の保有を強く望んでいるものの、アプリの禁止措置を回避できなかった場合に備えて、イーロン・マスクへの事業の売却の可能性を検討していると報じた。つまりイーロン・マスクへのアメリカ事業売却を検討しているというのである。検討はまだ初期の段階だとしているが、中国政府は、マスクが所有する X と共同で TikTok のアメリカ事業を運営するなどの手法を探っているとしている。ブルームバーグは関係者の話として、中国がトランプとの関係構築を模索する中、トランプに近いマスクとの取り引きは、中国政府にとって魅力的なものだと伝えている。これに対し中国外務省の郭嘉昆報道官は記者会見で仮定の質問には答えないとしたという。中国政府は、差し迫った禁止措置を回避するために売却に反対していたが、ついに自分たちが納得できる所有者を見つけたのかもしれないのである。ブルームバーグとウォールストリート・ジャーナルの報道によると TikTok のアメリカ資産をアメリカの買い手に売却するかどうか、また売却する場合はどのように売却するかについて発言権を持つとみられる中国当局は、アメリカ版 TikTok の少なくとも一部をマスクの X に売却する可能性のある選択肢について協議しているそうである。しかし CNN は協議を独自に確認していないという。この協議は、アメリカで同アプリを禁止する可能性のある法律が施行される 数日前に TikTok の売却に関する中国の姿勢が一変することを意味する。同法律は、禁止を回避するため、中国当局が TikTok の親会社であるバイトダンスがアメリカに拠点を置く所有者、すなわちイーロン・マスクに売却することを認めることになるのである。

TikTok

報道に先立ち、最高裁は TikTok が言論の自由に対する違法な取り締まりに当たると主張しているにもかかわらず、国家安全保障上の懸念から同法を支持する意向を示した。中国商務省は以前、他の買収希望者が手を挙げているものの TikTok の強制売却には「断固反対する」と述べていた。親会社であるバイトダンスも以前、同アプリは売却対象ではないと示唆していた。バイトダンスとマスクは、この報道についてコメントを求めたが、回答しなかった。また TikTok もそれを否定し、広報担当のマイケル・ヒューズは CNN に対し、「全くの作り話についてコメントすることは期待できない」と語ったそうである。それでも マスク、バイトダンス、中国が TikTok の資産を X の所有者に売却することが自らの利益になると考える論理的な理由はある。バイトダンスは価値あるアメリカ市場へのアクセスを失う前に、アメリカ版 TikTok で何らかの収益を得たいだけなのかもしれない。中国にとって、マスクへの売却は TikTok を同盟国の手に渡すことを意味するかもしれない。同盟国のビジネス帝国は中国市場に大きく依存しており、中国が関税交渉で優位に立とうとしている時期に、次期大統領のトランプの耳にも届く存在だ。マスクにとって TikTok が憲法修正第1条を理由に禁止に抵抗した後、土壇場で TikTok を買収し、アメリカ国民の同アプリへのアクセスを維持することは、しばしば偽善的な「言論の自由の擁護者」としてのこの億万長者の自身のイメージに直接影響することになる。これによりマスクはドナルド・トランプの再選を支援するなど、自身の利益を高めるために既にうまく利用していた X よりもさらに大規模で影響力のあるソーシャルメディアプラットフォームの支配権を得ることになる。マスクはすでに、ソーシャルメディアのアルゴリズムと広告販売の管理に精通したチームを X に抱えている。もしTikTok を手に入れれば、それがさらに強力強大になるだろう。人々がそれについてどう感じているかを知るために、マスクは今それについての噂を聞いているのだろうか。下記リンク先は CNN アリソン・モロー記者の分析記事「アメリカでの買い手を必要としている TikTok はイーロン・マスクを探し出すかもしれない」(英文)です。

CNN News  TikTok needs a US buyer so bad it might seek out Elon Musk by Allison Morrow | CNN

2025年1月16日

フランスの人文主義写真運動で活躍したスイス系フランス人ザビーネ・ヴァイス

Monastère des chats sauteurs
Monastère des chats sauteurs, Birmanie, 1996
Sabine Weiss 

サビーヌ・ヴァイスは、ロベール・ドアノー、ウィリー・ロニス、エドゥアール・ブーバ、イジスとともにフランスの人文主義運動で活躍したスイス系フランス人の写真家である。1924年1月23日にスイスのサン・ジンゴルフに生まれた彼女の父親は、魚の鱗から人造真珠を作る化学技術者だった。家族は国境検問所の隣に住んでおり、彼女がまだ子どもだったときにサン・ジンゴルフフを出た。幼い頃から写真に魅了された彼女は、2007年頃に「子ども頃から写真が自分の表現手段になることを悟っていた。私は知的というより視覚的だったけど、勉強は苦手だった。高校を出たのは、夏の日、自転車に乗ってのことだった」と語っている。1932年に小遣いで買ったベークライトカメラで写真を撮り始め、窓辺に置いたプリントアウト紙でコンタクトプリントを作成した。彼女の父親は彼女の選択を支持し、その後、1942年から1946年にかけて、ジュネーブのスタジオ写真家フレデリック・ボワソンナから写真技術を学んだ。この実習の後、彼女は1945年にスイスの写真撮影資格を取得した。1946年にパリに移り、友人の紹介でドイツ人写真家ウィリー・メイワルドのアシスタントになった。今日では想像を絶する状況でそこで働いたが、彼と共に自然光の重要性を理解した。感情の源としての自然光だった。メイワルドは当時、ジェイコブ・ストリート22番地にあった骨董品商が所有する小屋の1階で働いていたが、そこには水道も電話もなかった。それにもかかわらず、この作品により、彼女は当時のパリの "Who's Who"(紳士録)と肩を並べることができた。彼女は1945年、21歳のときに最初のフォトレポートを出版する。

Gare Saint-Lazare
Gare Saint-Lazare, Paris, 1949

このようにして、彼女はモンテーニュ通り37番地で行われたディオール・ハウスのオープニングと最初のコレクションの発表会に出席した。1949年にイタリアを旅行し、アメリカ人画家ヒュー・ヴァイスと出会い、翌年の年9月23日に結婚した。そして彼女は自分のスタジオをオープンする。彼女の写真は、解放後の楽観主義を証明している。「美しい時代でした。私たちはドイツ占領の終わりとアメリカ化の始まりの間にいました。人々はひどい試練を乗り越え、すべてを再建できると考えていました」と述懐している。ストラヴィンスキー、ブリテン、カザルス、ゲッツなどの音楽界の有名人だけでなく、レジェ、プニー、ジャコメッティ、ラウシェンベルク、ヤン・ヴォス、デュビュッフェ、サガンなどの文学や芸術の有名人などとさまざまな分野で活動した。彼女はまた、アメリカとヨーロッパで知られるいくつかの雑誌や新聞の広告やプレスオーダーで働いた 。彼女の関心はドキュメンタリー写真に移り、アメリカだけでなくエジプト、インド、モロッコ、ミャンマーも旅した。1950年からロベール・ドアノーの仕事を管理するフランスの大手報道機関であるラフォ代理店に務めた。

Françoise Sagan
Françoise Sagan de la son domicile, Paris, 1954

シャルル・ラドはヴォーグ社のディレクターのオフィスでの会議の後、彼女に代理店への入社を奨めた。そしてコクトー、ユトリロ、ルオー、ラルティーグなどの芸術家と友人になったのである。同僚にはドアノー、ブーバ、ブリア、デュザイド、ブラント、ケン・ヘイマン、イジス、ケルテス、カーシュ、ラルティーグ、ロニス、サヴィトリー、エルコウリーがいるが、ラフォ代理店の女性はジャニーヌ・ニエプスだけだった。それにもかかわらず、ヴァイスが当時写真界で独立したキャリアを築き上げていた数少ない女性のひとりであったという事実は問題ではなかった。エチオピアのオモ渓谷の諸民族に関する記事で彼女と協力したフォトジャーナリストのハンス・シルベスターは「彼女は非常に男性的な環境にありましたが、すぐに受け入れられ、その後の自分自身を確立することができました。私が尊敬し尊敬する非常に偉大な写真家です」とコメントした。ヴァイスのストリート写真は、近所のサンクルー門の荒地で遊ぶ子供たちと、パリとその日常生活を撮影したもので、雑誌の仕事とは独立して愛のために制作され、ヒューマニスト写真の哲学を取り入れています。28歳のとき、彼女はエドワード・スタイケンによって MoMA(ニューヨーク近代美術館)の「戦後ヨーロッパの写真」に選ばれた。

Lost and Found
Perdu et trouvé, New York, 1955

1954年、シカゴ美術館は彼女の個展を開催し、全米を巡回した。その後、スタイケンは MoMA の展覧会 "The Family of Man"(人間家族)に彼女の写真3枚を展示した。この展覧会は世界中を巡り、900万人の来場者が鑑賞した。1954 年の "Interior of a church in Portugal"(ポルトガルの教会の内部)には、白い服を着た子供が、薄まだらのタイル張りの床にひざまずき、裸足の母親に向かって疑問の表情で顔を上向きにしている様子が描かれている。熱狂的な "Un bal champêtre avec une accordioniste sur la table"(テーブルにアコーディオン奏者を乗せた村のダンス)も1954年。子供が大喜びで線香花火をレンズに突き刺している。彼女は「私が写真を撮るのは、はかない、不変の偶然を保存するためであり、失われていくもの、つまり、私たちが亡くなった証しであるジェスチャー、態度、物体などをイメージに残すためです」とコメントしている。1957年、彼女は夫を通じて知り合った画家キース・ヴァン・ドンゲンの写真シリーズを制作し、衝動的に三人はグリモー城の遺跡を見下ろす小さな小屋をに購入した。彼らは1969年に家を増築し、2007年に夫が亡くなるまで定期的に逗留した。1983年、フランス文化省から奨学金を得て、エジプトのコプト教徒に関する研究を実施した。

Café
Café, Athènes, Grèce, 1958

50代後半、彼女はジャン・デュゼイドとギ・ル・ケレックとともに、社会学者ピエール・ブルデューと協力して、ニース近郊のカロス=イエ=ヌフと呼ばれる小さな新しい町の、一種の「集団観察」である縦断写真研究に数年にわたって参加した。これにはレナード・フリードも短期間参加しました。このプロジェクトは、1984 年のランコントル・ダルル・フェスティバルで "Urbain, Trop Urbain?"(都会、都会すぎる?)として上映された。1992、同省は彼女にレユニオンの記録を目的とした別の奨学金を与えた。彼女の写真はガンマ・ラフォという代理店によって配布されている。2017年ヴァイスは、20万枚のネガ、7,000枚のコンタクトシート、約2,700枚のヴィンテージプリントと2,000枚の後期プリント、3,500枚のプリント、2,000枚のスライドを含むアーカイブ全体をローザンヌのエリゼ美術館に寄贈した。2020年に彼女はケリングのウーマン・イン・モーション写真賞を受賞した。ザビーネ・ヴァイスは2021年12月28日、パリの自宅で97歳の生涯を閉じた。

TIME  Rediscovering the Genius of Sabine Weiss, the Last Humanist Photographer | Time.com

2025年1月14日

ソーシャルメディアの弊害(9)ニューメディアは勝利していない

Old and New
The struggle between traditional and new media

ニューメディアとは、ウェブサイト、ソーシャルメディア、ストリーミング・サービスのようなデジタル形式のコミュニケーションのことであり、オールドメディアとは、新聞、テレビ、ラジオのような伝統的なマスメディア・チャンネルを意味する。ニューメディアは勝利していない」という主張は、非常に興味深い視点である。このフレーズは、現代のメディア環境における複雑な状況を反映している可能性がある。具体的には、インターネットやソーシャルメディア、デジタル技術などの新しいメディア形態が、従来のメディアに取って代わることを予測されたものの、その実現には多くの課題や制約があるという見方を示している。例えば、インターネットの普及により、情報が瞬時に広がる一方で、フェイクニュースや情報過多といった問題が生じ、必ずしも勝利と言える状況にはなっていないという点が考えられる。また、従来の新聞、テレビ、ラジオなどメディアが依然として一定の影響力を持ち続けている現状も影響しているかもしれません。具体的にどのような文脈でこのフレーズが使われているかによって解釈は変わるかと思うが、現代のメディアの進化に対する批判的な視点を含んだ言葉だとも考えられる。この主張がされる背景には、以下のような要因が考えられる。

情報過多と質の低下
インターネットの普及により、情報量は爆発的に増大したが、同時に情報の質の低下やフェイクニュースの蔓延といった問題も深刻化している。
プラットフォームの寡占化
グーグルやメタといった巨大IT企業が情報流通を支配し、アルゴリズムによって情報が恣意的に操作される可能性も指摘されている。
コミュニティの分断
ソーシャルメディアの普及により、人々は自分の意見に賛同する人たちとのみ交流するようになり、社会全体の分断を招いているという指摘もある。
プライバシー侵害
個人情報が大量に収集され、利用されることでプライバシーが侵害されるリスクが高まっている。
伝統メディアの存続
新聞やテレビといった伝統メディアは、デジタル化に対応し、新たなビジネスモデルを模索しているが、いまだに重要な役割を果たしている。
Click on image to enlarge ©2024 TechTarget

昨年はソーシャルメディアが選挙に大きな影響を与えオールドメディアの敗北などと騒がれたが、私たちはそんな言葉に流されていないだろうか。オールドメディアが敗北しニューメディアが勝利すると言えば聞こえは良いが、実態としてはどちらも同根ではないだろうか。ニューメディアでクローズアップされた面々を凝視する必要がある。本当に世の中を刷新するような人たちにに焦点が当たっているか疑問である。都知事選では石丸伸二元安芸高田市長が65万8,363票を集めて二位に食い込み「石丸現象」と呼ばれた。兵庫県知事選では予想を裏切って、終わってみれば、投票率が急伸し斎藤元彦知事が再選を果たした。国民民主党はソーシャルメディアで「手取り増」「負担軽減」と端的に説明、このの戦略が若者に刺さり支持率を伸ばした。オールドメディアに打ち勝つというニューメディアが支援する勢力の正体は新しそうな仮面をかぶった守旧勢力である。従来のマスメディア支配よりもソーシャルメディアを中核とするニューメディアの方が人心コントロールに好都合なのである。ニューメディアを支えているのはデジタル技術だが、それ自体を否定するつもりはない。ニュース消費におけるプラットフォームの重要性が高まっていることから、多くの国で低下しているニュースへの信頼に潜在的な影響があるのではないかとの学者の懸念が高まっている。しかし、ジャーナリスト自身がこの関係をどのように認識しているかについてはあまり知られていない。ジャーナリストがこれらのテクノロジーをどのように使用しているかを理解するために重要である。下記リンク先は TechTarget の記事「伝統的メディアと新しいメディア: その違いおよび長所と短所」です。蛇足ながら英語圏ではオールドメディアを伝統的メディアと記述します。すなわち「オールド」はモールス信号機のようなかつてあったが今はない、そして「伝統的」は新聞のような古くから今も引き続きあるメディアという意味です。

technology  Traditional media vs. new media: Differences, pros and cons by Alexander S. Gillis