音楽雑誌「アメリカンソングライター」の Billy Strings is the Future of Bluegrass(ビリー・ストリングスはブルーグラスの未来)という記事が目に止まった。筆者は1977年から毎週ワシントンポスト紙に寄稿している音楽評論家ジェフリー・ハイムズである。こんな書き出しだ。
10代半ばの頃、ビリー・ストリングスはミシガン州グランドラピッズのプログレッシブロックバンド A Day of Moments のリード・ギタリストを務めていた。高校を中退していた彼は、何年もアコースティックギターに触ったことがなかった。しかし、ある夜のハウスパーティーでアコースティックギターを見た彼は、衝動的にそれを手に取り、ドク・ワトソンの "Black Mountain Rag" を演奏した。演奏が終わったとき、部屋のおしゃべりがいつの間にか静まり返り、皆が自分を見つめていることに気がついた。
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ビリー・ストリングスは1992年生まれ、10月3日に28歳の誕生日を迎える。継父のテリー・バーバーはプロではなかったが、ミシガンのブルーグラス音楽シーンのピッカーで、幼い頃から伝統的なブルーグラス音楽の洗礼を受けていた。しかしその一方でロックとメタルのファンで、ジミ・ヘンドリックス、ジョニー・ウィンターおよびブラックサバスの影響を受け、ハードロックやインディーロックバンドで演奏していたのである。私がビリーに強く興味を持ったのは、ニューヨーク州 ウォルシュ・ファームで昨年7月に開催された Grey Fox Bluegrass Festival 2019 のビデオを観てからだった。特に印象に残っているのは、81歳のデル・マッコリーとの共演だった。ビル・モンローの "Cant You Hear Me Calling" を歌ったのだが、バンドのメンバーがスーツ姿であるのに対し、半袖のTシャツ。長髪と腕のタトゥーに時代を痛感させられる。ブルーグラス音楽のギタリストといえば、ドク・ワトソン、ノーマン・ブレーク、クラレンス・ホワイト、トニー・ライスなどが脳裡に浮かぶ。最大の師はドク・ワトソンと想像されるが、根底にロックの血が流れているせいか、ちょっと違うような気もする。早や弾きは早や弾きなのだが、何というかフレーバーが違うのである。草の香りが希薄なのかもしれない。サム・ブッシュ、ベラ・フレック、デヴィッド・グリスマン、ラリー・キールのステージに招かれるなど、今や引っ張りだこの人気である。昨年9月末にリリースされた LP/CD アルバム "Home"(Rounder Records)には、レギュラーメンバーの他に同世代のモリー・タトル、そしてジェリー・ダグラスも参加している。ビル・モンローがマウンテン音楽ブルーグラス様式を確立したのが1945年。75年の歳月が流れたが、若き麒麟児による新しい風が吹き始めた。
Family Strings: Billy Strings and his father Terry Barber LIVE - 2/28/2020