2012年11月21日

フォークソングの魁(さきがけ)ジョー・ヒルの命日が過ぎて

ジョー・ヒルの棺  群衆で埋まったシカゴの道を運ばれた(1915年感謝祭の日)

ジョー・ヒル(1879年10月7日~1915年11月19日)について命日に書こうと思っていたがすっかり忘れていた。彼の生涯に関しては、1971年にアメリカとスウェーデン合作の伝記映画が公開されている。1879年スウェーデン生まれだが、1902年に移民としてアメリカにやってきた。無賃乗車で列車の旅をした人々を「ホーボー」(Hobo)と呼ぶが、彼もその集団に加わった一人であった。1904年にシカゴで誕生したIWW(Industrial Workers of the World=世界産業労働者組合)の運動に加わったが、最後はフレームアップで処刑されてしまう。集会条例によって街頭の演説が禁じられたいたため、賛美歌のメロディを使った替え歌で運動を展開したことで彼は知られている。奇しくもこれは、演説がだめなら歌で、ということで生まれた明治大正時代の添田唖蝉坊らの演歌と酷似している。演歌はやがて風化して艶歌に化けてしまったが、アメリカではフォークソングとして育ち、ウディ・ガスリーやピート・シーガー、ボブ・ディランへと歌い継がれていったのである。
Pie in the Sky (Joe Hill)
長髪の説教師どもが毎晩やってくる
何が悪いか何が良いかやつらは語る
でも何か食べるものはと訊いてごらん
やつらは甘い声でこう答えるだろう

そのうちに食べられるようになるさ
天の上の栄光ある国で
働き祈りなさい干し草で暮らしなさい
死んだら天国でパイが手に入るだろう
これはジョー・ヒルの『天国のパイ』という歌の抄訳だが、左図をクリックすると拡大されるので、オリジナルの全歌詞を読むことができる。1967年にニューヨークのオークパブリケーションズから出版された"Hard Hitting Songs For Hard-Hit People"と題されたソングブックに収録されている。編纂は米議会図書館民謡資料室のアラン・ロマックス、そしてシンガーのウディ・ガスリーとピート・シーガーで、小説『怒りの葡萄』の作者ジョン・スタインベックが序文を寄せている。私が所有しているのはハードカバーだが、1999年にネブラスカ大学出版局からペーパーバックスが出版された。日本アマゾンのサイトで調べたら、これも絶版になり、中古市場のマーケットプレイスで2万円強の値がついたが、今年の秋になってその復刻版が出たようだ。このソングブックには大恐慌が産み落とした歌の数々が収録されていて、庶民の視点による貴重な記録になっている。大恐慌は人々の生活を苦しめたばかりではなく、結果的にドイツやイタリア、日本などのファシズムを生み、第2次世界大戦への引き金となったことはご存知の通り。各国の経済が破綻し、再び世界が辛い時代になっている今、私たちが歴史から学ぶものは多い

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