映画の撮影監督でもあったドキュメンタリー写真家ヴォルフガング・スシツキー

Westminster Bridge, River Thames, London, 1935

Wolfgang Suschitzky

ヴォルフガング・サシツキーはオーストリア生まれのイギリス人ドキュメンタリー写真家であり、映画の撮影監督でもあった。1940年代のポール・ローサとのコラボレーションや、1971年のマイク・ホッジス監督の映画 "Get Carter"（狙撃者）での撮影でよく知られている。編集者のアンドリュー・パルヴァーは2007年にスシツキーを「戦前の英国ドキュメンタリー運動の栄光の時代との生きたつながり」と評した。スティーブ・チブナルはスシツキーについて「自然な設定から雰囲気を引き出すドキュメンタリー作家の能力を備えた熟練したロケーション写真家としての評判を築いた」と書いている。彼の写真はナショナル・ギャラリー、ロンドンのオーストリア文化フォーラム、フォトグラファーズ・ギャラリーで展示され、多くの国際的な写真コレクションに収められている。彼は撮影監督のピーター・スシツキー、クラシック音楽家兼作家のミーシャ・ドナット、ジュリア・ドナットの父親である。スシツキーは1912年8月29日、オーストリア＝ハンガリー帝国のウィーンで生まれた。彼の父はユダヤ系ウィーン社会民主党員だったが、1908年に信仰を捨てて無神論者、つまり "konfessionslos"（コンフェッションスロス）になった。彼はウィーンで最初の社会民主党書店（後に出版社となる）を開き、スシツキーはその書店の上の階のアパートで生まれた。彼の姉は写真家のエディス・チューダー＝ハート（1908-1973）だった。スシツキーは父親について彼は「偉大な人だった。 父と毎日会っていたときはそうでもなかったが、後になってそのことに気づいた。でも、面白い人たちに会ったよ。彼の作家の何人かは、私たちと一緒にランチを食べに来たり、彼の店に来る人たちに会ったりした」と語っている。

The Truth, Charing Cross Road, London, 1936

2007年9月、95歳でのインタビューで、1917年のロシア革命を歓迎した興奮の少年時代の思い出を振り返っている。信仰を持たずに育った彼は、宗教の授業を欠席して外で本を読んでいることを友人たちが羨んでいたことを思い出し、自分自身を「とてもいたずらな子供でした。私たちは公園で友達と毎日午後にいろいろないたずらをしました」と表現した。彼は家でも学校でもしばしば問題を起こした。ウィーンの教育顧問の助言により、父親は規律を学ぶために彼を全寮制の学校に送った。しかし彼はいたずらを続け、学校ではしばしば拘束された。スシツキーはもともと動物学が好きだったが、オーストリアではこの分野で生計を立てることはできないと悟り、代わりに姉の影響で高等連邦グラフィック芸術教育研究所で写真学を学んだ。当時、オーストリアの政治情勢は社会主義民主主義からオーストロファシズムへと変わりつつあった。社会主義者でユダヤ人出身のスシツキーはオーストリアには将来がないと判断し、1934年に姉が住むロンドンへ向かった。ロンドン滞在中に父親が自殺した。スシツキーはハムステッドでオランダ人女性ヘレナ・パック・ヴォートと結婚し、同国に移住した。

Victoria Bus Station, London, 1939

妻は1年後に彼のもとを去ったが、彼は「とても幸運だった。 もしそこにいたら、きっともう生きていなかっただろう」と語っている。彼は1935年にイギリスに戻り、1939年にイロナ・ドナートと結婚し、3人の子供をもうけた。スシツキーの最初の仕事はオランダで新聞販売店のポストカードを撮影することだった。この仕事は数ヶ月しか続かなかった。彼は1935年にイギリスに渡り、長い仕事上の関係があったポール・ローサの映画カメラマンになった。戦時中の仕事には "World of Plenty"（豊かな世界／1943年）や政府支援の短編情報番組、雑誌番組などがある。ローサで彼は長編映画に進み "No Resting Place"（安息の地なし／1951年）に参加した。これは完全にロケ撮影された最初のイギリスの長編映画の一つである。この映画は1952年に英国アカデミー賞最優秀作品賞にノミネートされた。その後、コリン・レスリー制作のコメディ映画 "The Oracle"（オラクル／1953年）を撮影し、続いてローサ監督の別の映画 "Cat & Mouse"（猫と鼠）を撮影した。

Easter Fair, Hampstead Heath, London, 1949

彼はまた1956年のアカデミー賞で最優秀短編映画賞を受賞したジャック・クレイトンの短編映画 "The Bespoke Overcoat"（特注の外套）にも携わった。彼はまた、1959年頃に 作家のC・S・ルイスの写真を撮影した。1960年代、スシツキーの仕事には、ジョセフ・ストリックによるジェイムズ・ジョイスの "Ulysses"（ユリシーズ）の映画化（1967年）や、クリフ・オーウェンの "The Vengeance of She"（復讐の女神／1968年）などがある。また、ケン・ヒューズ監督のイギリスの犯罪映画 "The Small World of Sammy Lee"（サミー・リーの小さな世界／1963年）の撮影も担当している。この映画は脚本家のマイク・ホッジスに影響を与え、スシツキーはホッジスとともに "Get Carter"（狙撃／1971年）を制作した。"Get Carter" 撮影前の最後の作品は、ダグラス・ヒコックス監督によるジョー・オートンの "Entertaining Mr Sloane"（スローン氏を楽しませる／1970年）だった。「ドキュメンタリー作家としての社会的良心とドイツ表現主義者の目」を持つと評されたスシツキーにとって、仕事と働く人々の描写は彼の写真作品の中心的な位置を占めている。

Cable Car, San Francisco, Northern California, 1958

ドキュメンタリー写真は社会状況に対する共感的・論評的な描写から成り立っている。スシツキーは「写真記録は当時の情勢を反映したものであり、直接的な社会的プロパガンダではなく、社会状況に対する微妙な写真的論評を最良の形で表すものである」と述べている。キャリアの初期には『ピクチャーポスト』『イラストレイテッド』『アニマル・アンド・ズー』『ジオグラフィック・マガジン』などの雑誌から依頼された古典的な作品を撮影した。その後、彼の写真は主にカメラマンとしての仕事と並行して撮影された。彼の写真作品の特徴は、活動分野を明確に区別できないことが多く、フィルムと写真カメラをほぼ同時に使用していたことです。これにより、異なる文脈で何度も出現するモチーフや、映画制作の周辺で作成されたドキュメンタリー写真など、特別な美的効果が生まれるのである。彼の写真遺産の大部分は FOTOHOF アーカイブに保管されている。ヴォルフガング・スシツキーは2016年10月7日にロンドンで死去、104歳だった。

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