2021年7月17日

地下鉄の乗客をキャンディッドしたウォーカー・エヴァンス

Two Women in Conversation
Walker Evans "Two Women in Conversation" NYC 1941

ウォーカー・エヴァンス (1903-1975) は世界大恐慌下のアメリカの農業安定局 (FSA) の写真記録プロジェクトに加わり、南部の農村のドキュメント写真を撮ったことで有名になった。そして1938年から1941年にかけて、エヴァンスはニューヨークの地下鉄で注目すべき一連のポートレートを撮影した。35ミリのコンタックスを胸に装着し、冬用コートの2つのボタンの間からレンズを覗かせて、密かに至近距離から乗客を撮影したのである。公共の場である地下鉄の中にもかかわらず、ポーズをとらず、考えに耽っている被写体は、好奇心、退屈、楽しみ、落胆、夢想、消化不良など、さまざまな雰囲気や表情を絶えず変化させていることに気づいた。公共の場で人々をキャンディッド(candid)できなくなって久しい。

Subway
Subway Passengers, New York City: Woman and Two Men 1941

日本で同じような撮影をして見つかれば、警察沙汰になるかもしれない。エヴァンスがニューヨークの地下鉄で撮影した無名の人々写真には、撮影されていることに気づかない、無防備な瞬間の人間が写っている。しかし別の意味での無自覚、つまり、周囲の環境や向かい合った人、時間を意識せず、過去、現在、未来の夢を意識していない。読書に夢中になっていたり、ぼんやりと天井を見つめていたり、深く沈思黙考していたり、信じられないほどの悲しみを抱えていたりしている。毛皮のついたコートと先の尖った帽子をかぶった女性は、厳格で、気難しく、金持ちで、母性的であるという、正反対の2人の女性が一緒にいたりする。「孤独な寝室以上に、地下鉄の中では人々の顔は裸の休息状態になっていた」とエヴァンスは述懐したという。

museum  Search the Collection "Walker Evans Subway Passengers" Metropolitan Museum of Art

0 件のコメント: