ソーシャルメディア Facebook にときどき写真の名作を紹介している。これは深瀬昌久(1934~2012)のシリーズ『家族』の一枚だが、投稿した瞬間に画面から消えてしまった。どうやら「機械判定」らしかったのだが、後から「規約違反」というメッセージが届いた。コミュニティ既定の一部を引用してみよう。
抗議の表現、意識喚起、教育や医学的な理由など、さまざまな理由でヌード表現が必要となる場合があります。このような意図が明確である場合は、ヌードコンテンツの投稿が認められています。例えば、女性の乳首を含む胸の画像は禁止されていますが、抗議活動、授乳の様子、乳房切除手術後の医用写真などの画像は規制の対象にはなりません。 出産時や出産直後、または医療関連の状況下で性器や肛門が写っている写真には、見た人が不快に感じるおそれがあるとわかる警告ラベルが表示されます。また、ヌードの人物を描いた絵画や彫刻などの芸術作品の写真の投稿も認めています。
ずいぶん矛盾に満ちた規定だが、どうやら女性の乳首は「猥褻」という判断らしい。異議申し立てをしようと思ったがやめた。Facebook 相手の芸術論議は不毛に陥るだろうし、利用規約に従わなければ、退会してくださいと言われかねないからだ。
Family: Fukase Masahisa (2019) |
ところで深瀬昌久の『家族』は実にユニークで、しかも素晴らしい。彼は1934年、祖父が北海道美深町に創設した深瀬写真館の長男として生まれた。しかし写真館は弟の了暉が3代目を引き継いだ。1971年8月、深瀬は妻の洋子を伴って故郷を訪れた。大所帯に成長した一家と再会した深瀬は、彼らを写真館の写場に集めて家族の記念写真を撮影することにした。腰巻きひとつを身につけた半裸姿の妻を家族の中に投入するという特異な写真だった。この形式はその後、妻だけでなく様々な女性モデル達を迎え入れては撮影が継続されたのである。撮影は5年にわたって続けられた後に中断されたが、1985年に深瀬の父・助造の年老いた姿がきっかけとなって再び開始された。その2年後に迎えた父の葬儀の日にも撮影され、1989年に深瀬写真館が廃業を迎えた日、すなわち家族四散を迎えた日を最後に完結した。当初こそ伝統的な家族写真のパロディとして軽快に撮影が開始された本作は20年近く月日をかけて撮影されることによって、結果的には一家の栄枯盛衰を残酷なほど克明に記録するものに仕上がった。2019年9月には深瀬が生前に手がけた最後の1冊である写真集『家族』(アイピーシー1991年3月)がイギリスの出版社「MACK」より新装版として刊行された。
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