2019年3月14日

アメリカンルーツ音楽★おっさん&おばはんの演奏が好き


ニッケル・クリークというブルーグラス音楽グループをご存知だろうか。90年代、南カリフォルニアのサンディエゴのピザパーラ―でデビューした「子どもバンド」で、メンバーはショーンとサラのワトキンス兄妹と、クリス・シーリの3人。クリスとサラは1981年生まれ、ショーンは1977年生まれである。クリス・シーリは天才マンドリニストとして名高いが、生まれたのは1981年2月である。9歳から演奏活動を開始、12歳でソロアルバムを発表した。今年2月、誕生日を迎えたが若干38歳である。ニッケル・クリークは今や押しも押されぬ人気バンドだが、どこか私には馴染めないものがある。アメリカンルーツ音楽は、ブルーグラスやケイジャン音楽にせよ、デルタブルーズにせよ、綿々たる伝統に支えられた、いわば土の香りのようなものが魅力のひとつになっていると思う。とはいえブルーグラスそのものが、アパラチア山系の伝承音楽としては新しいものである。私は1950年代後半にデビュー、当時のモダンジャズの要素を取り入れたしたカントリー・ジェントルメンも好きである。だから必ずしも土の香りにはこだわっていないつもりだ。

Fast as Time Can Take Me (2005)
左はトラブルサム・クリーク・ストリング・バンドのCDアルバムだが、紹介する前にちょっと脱線。どのくだりか失念したが、スタインベックの小説『怒りの葡萄』を読んでいたら「弦楽奏団」という訳語が出てきて奇異に感じたことがある。つまり"String Band"を直訳したものだろうけど、これはクラシック音楽の演奏家を連想してしまう気がするからだ。大衆的なアメリカンルーツ音楽におけるストリング・バンドの説明はちょっと難しい。歴史的にはミンストレル・ショウという旅回りの演芸があった。そこに登場したがストリング・バンドで、後にギターも加わったが、フィドルとバンジョーといった、文字通り弦楽器を使ったバンドであった。このバンドが流れを汲むのがブルーグラスやカントリー音楽だ。前置きが長くなったが、このトラブルサム・クリーク・ストリング・バンドは、ブルーグラス以前の古いスタイル、いわゆるオールドタイム音楽を継承するグループで、日本では余り知られてないかもしれない。トラブルサム・クリークという名の渓流は全米各地にあるようだが、リーダーのフィドラ―、リック・マーチンの出身地がケンタッキー州なので、ケンタッキー河の支流に由来すると想像される。


音楽というのは、このように文字で伝えようとすると、誠に歯痒いものがある。幸いなことに彼らの演奏が YouTube にポストされているのでリンクしてみた。上記アイコンをクリックすると視聴することができる。お聴きすれば分かると思うが、バンジョーも所謂スクラッグス奏法ではなく、古いクローハンマー奏法である。クローハンマーとは金槌のことで、弦を叩くように演奏するからこのように名づけられている。このCDを聴いていると何故か心が休まる。どうしてだろう? 古いスタイルだから、とは違う。確かに土の香りがしないわけではないが、それ以上の何かが働くのである。ジャケットの裏を見て、ふと謎が氷解したような気がした。つまり年代なのである。カントリー・ジェントルメンは私より年上だが、それでも同時代的であったと言える。だから当時としてはモダンでも、すんなり聴けたのである。トラブルサム・クリーク・ストリング・バンドのメンバーは、写真で推測する限り、ニッケル・クリークと比べれば遥かに私の年代に近い。演奏スタイルの新旧ではなく、いわば同時代的なるもの、いや同世代の演奏が重要な選択要素になるのではないだろうか。

0 件のコメント: