2025年1月14日

ソーシャルメディアの弊害(9)ニューメディアは勝利していない

Old and New
The struggle between traditional and new media

ニューメディアとは、ウェブサイト、ソーシャルメディア、ストリーミング・サービスのようなデジタル形式のコミュニケーションのことであり、オールドメディアとは、新聞、テレビ、ラジオのような伝統的なマスメディア・チャンネルを意味する。ニューメディアは勝利していない」という主張は、非常に興味深い視点である。このフレーズは、現代のメディア環境における複雑な状況を反映している可能性がある。具体的には、インターネットやソーシャルメディア、デジタル技術などの新しいメディア形態が、従来のメディアに取って代わることを予測されたものの、その実現には多くの課題や制約があるという見方を示している。例えば、インターネットの普及により、情報が瞬時に広がる一方で、フェイクニュースや情報過多といった問題が生じ、必ずしも勝利と言える状況にはなっていないという点が考えられる。また、従来の新聞、テレビ、ラジオなどメディアが依然として一定の影響力を持ち続けている現状も影響しているかもしれません。具体的にどのような文脈でこのフレーズが使われているかによって解釈は変わるかと思うが、現代のメディアの進化に対する批判的な視点を含んだ言葉だとも考えられる。この主張がされる背景には、以下のような要因が考えられる。

情報過多と質の低下
インターネットの普及により、情報量は爆発的に増大したが、同時に情報の質の低下やフェイクニュースの蔓延といった問題も深刻化している。
プラットフォームの寡占化
グーグルやメタといった巨大IT企業が情報流通を支配し、アルゴリズムによって情報が恣意的に操作される可能性も指摘されている。
コミュニティの分断
ソーシャルメディアの普及により、人々は自分の意見に賛同する人たちとのみ交流するようになり、社会全体の分断を招いているという指摘もある。
プライバシー侵害
個人情報が大量に収集され、利用されることでプライバシーが侵害されるリスクが高まっている。
伝統メディアの存続
新聞やテレビといった伝統メディアは、デジタル化に対応し、新たなビジネスモデルを模索しているが、いまだに重要な役割を果たしている。
Click on image to enlarge ©2024 TechTarget

昨年はソーシャルメディアが選挙に大きな影響を与えオールドメディアの敗北などと騒がれたが、私たちはそんな言葉に流されていないだろうか。オールドメディアが敗北しニューメディアが勝利すると言えば聞こえは良いが、実態としてはどちらも同根ではないだろうか。ニューメディアでクローズアップされた面々を凝視する必要がある。本当に世の中を刷新するような人たちにに焦点が当たっているか疑問である。都知事選では石丸伸二元安芸高田市長が65万8,363票を集めて二位に食い込み「石丸現象」と呼ばれた。兵庫県知事選では予想を裏切って、終わってみれば、投票率が急伸し斎藤元彦知事が再選を果たした。国民民主党はソーシャルメディアで「手取り増」「負担軽減」と端的に説明、このの戦略が若者に刺さり支持率を伸ばした。オールドメディアに打ち勝つというニューメディアが支援する勢力の正体は新しそうな仮面をかぶった守旧勢力である。従来のマスメディア支配よりもソーシャルメディアを中核とするニューメディアの方が人心コントロールに好都合なのである。ニューメディアを支えているのはデジタル技術だが、それ自体を否定するつもりはない。ニュース消費におけるプラットフォームの重要性が高まっていることから、多くの国で低下しているニュースへの信頼に潜在的な影響があるのではないかとの学者の懸念が高まっている。しかし、ジャーナリスト自身がこの関係をどのように認識しているかについてはあまり知られていない。ジャーナリストがこれらのテクノロジーをどのように使用しているかを理解するために重要である。下記リンク先は TechTarget の記事「伝統的メディアと新しいメディア: その違いおよび長所と短所」です。蛇足ながら英語圏ではオールドメディアを伝統的メディアと記述します。すなわち「オールド」はモールス信号機のようなかつてあったが今はない、そして「伝統的」は新聞のような古くから今も引き続きあるメディアという意味です。

technology  Traditional media vs. new media: Differences, pros and cons by Alexander S. Gillis

2025年1月13日

ソーシャルメディアの弊害(8)ロサンゼルスの山火事で浮上する陰謀論

Firefighters watch the flames
Firefighters watch the flames from the Palisades Fire burning a home ©2025 Apu Gomes

非営利の報道機関であるニューヨークのインサイド・クライメイト・ニュースによると、ロサンゼルスの住宅街が燃える中、ネット上では誤情報が山火事のように広がったという。ドナルド・トランプ次期大統領は自らのソーシャルメディア・プラットフォーム Truth Social への投稿で「カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が北からの過剰な雨と雪解け水から、現在事実上終末的な形で燃えている地域を含むカリフォルニア州の多くの地域に毎日何百万ガロンもの水が流れ込むことを許可する協定」に署名しなかったことを非難した。また「州知事がスメルトという小魚の保護に水を使ったために、ロサンジェルスでは消火用の水がないんだ。なんてひどい話だ」と語ったという。これらは前例のない火災の責任を問う誤情報や虚偽がソーシャルメディアに溢れかえっている中のひとつに過ぎない。米公共放送 NPR 電子版は「右派インフルエンサーがカリフォルニアの山火事を多様性の努力のせいにする理由」というタイトルの記事を掲載した。それによるとロサンゼルスで山火事が発生してから1日以内に、右派のメディアやインフルエンサーたちが、構造的な社会的不平等を減らす取り組み、特に多様性、公平性、包摂性に関する政策が、この被害の規模の大きさの原因であると主張し始めたという。

fire

イーロン・マスクは、ロサンゼルス消防署の4年前の「人種平等行動計画」のスクリーンショットの流布に協力したが「彼ら(消防署)は人命や家を守ることよりもDEI(多様性・公正性・包括性)を優先した」と書いた。ロサンジェルスの消防署長クリスティン・クロウリーは22年のベテラン消防士であり、女性としては初めて、また同性愛者であることを公表した人物としても初めての人物である。どうやらこれがマスクのお気に召さないらしい。署長、消防署、市政府はたちまち右派メディアの攻撃対象となったのである。災害非常時には正しい情報が必要で、誤った情報は避けなければならない。だからこそファクトチェックが重要不可欠ではないだろうか。そういう意味でもメタのマーク・ザッカーバーグがドナルド・トランプに忖度してファクトチェックを停止したのは、その影響が大きいだけに腹立たしい。陰謀論の流布は犯罪に値する。ロサンジェルスの山火事でも、ドナルド・トランプとイーロン・マスクの二人組は過ちを犯している。ところで最近はその名がご無沙汰の、もうひとりの陰謀論者、副大統領候補の J・D・ヴァンス上院議員の動静が伝わってこないが、どうしているだろうか。今やマスクのおかげですっかり影が薄くなっている。下記リンク先は「右派インフルエンサーはカリフォルニアの山火事を多様性の努力のせいにする理由」と題した米公共放送 NPR の記事(英文)です。

npr  Why right-wing influencers are blaming the California wildfires on diversity efforts | NPR

2025年1月12日

ソーシャルメディアの弊害(7)ドイツで 60 以上の大学が X の利用停止

withdraw from social media X
©2025 Paul Schwaderer / Heinrich Heine Universität

複数の海外マスメディアによるとドイツの60以上の大学や高等教育機関が、多様性、自由、学問などの価値観をサポートしていないとして、ソーシャルメディアプラットフォーム X の利用停止すると発表した。大学当局は共同声明で、このプラットフォームが極右ポピュリストのコンテンツを増幅していると非難し「受け入れられない」と述べた。「この決定は、事実に基づくコミュニケーションを支持し、反民主主義勢力に反対する明確なメッセージを送るものだ」と声明は述べている。キャンペーンの先頭に立ったデュッセルドルフのハインリヒハイネ大学の広報担当者アヒム・ゾルケは、毎時間ごとに多くの大学がこの運動に参加していると語った。ポツダム大学の広報担当者シルケ・エンゲルは、プラットフォームの運用と機能の最近の変更を強調し、そのアルゴリズムが情報の配信と議論の方向転換を妨害していると批判した。エンゲルはまた、言論の自由を装った監視の欠如を非難し、ヘイトスピーチ、偽情報、操作を助長していると述べた。X を離脱する大学には、デュッセルドルフ・ハインリヒ・ハイネ大学、ベルリン・フライエ大学、フンボルト大学、ハイデルベルク大学、ミュンスター大学、アーヘン工科大学、ドイツスポーツ大学、フランクフルトのヴィアドリナ欧州大学が含まれる。

X logo

この動きは、来月のドイツ総選挙のわずか数週間前にイーロン・マスクが極右ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を声高に支持したことで、ドイツ指導者らから非難を浴び、選挙介入の疑いがかけられている中で行われた。マスクが X を乗っ取り、偽情報やヘイトスピーチに対する規制を大幅に緩和して以来、同プラットフォームでは大量のユーザーが流出しているという。日本の政治家および言論人たちがこの危険な言論プラットフォームを躊躇なく使っていることに信じがたいものがある。あなたは極右思想に染まったイーロン・マスクの、そして独裁者ドナルド・トランプの息がかかった X を利用することに疑問を感じないのですかと問いたい。余談ながらマスクが2022年10月にツイッターを手に入れたことに嫌気が差して私もアカウントを削除、その後は分散型プラットフォームのブルースカイに乗り換えた。広告がないのが気持ち良い。下記リンク先の科学と研究の最新情報を提供するニュースポータルサイト、Informationsdienst Wissenschaft (iwd) に、ソーシャルメディア X から完全撤退したドイツの大学および高等教育機関のリストが掲載されている。

study  Über 60 deutschsprachige Hochschulen und Institute verlassen auf einen Schlag die X

2025年1月11日

ソーシャルメディアの弊害(6)ファクトチェックは検閲ではない

Factcheck

フェイスブック、インスタグラム、スレッズを運営するメタが現状のファクトチェック・プログラムを廃止してコンテンツ規制を緩める方針を発表した。マーク・ザッカバーグは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明した。世界中のファクトチェック団体を認証しているIFCN(国際ファクトチェックネットワーク)は、この決定と発言に対して公開書簡を出した。日本ファクトチェックセンター(JFC)を含む多数のファクトチェック団体も署名している。以下はその日本ファクトチェックセンター (JFC)の古田大輔氏による日本語訳である。

拝啓 ザッカーバーグ殿

9年前、私たちは Facebook 上の虚偽情報によって引き起こされる現実世界での被害についてあなたに公開書簡を書きました。それに応じて、Meta はファクトチェックプログラムを立ち上げ、数百万人のユーザーをデマや陰謀論から保護しました。今週、あなたは「検閲が過剰である」との懸念から、アメリカ国内でこのプログラムを終了すると発表しました。この決定は、正確な情報をオンラインで広めるために築いてきたほぼ10年にわたる進歩を無に帰す恐れがあります。2016年に開始されたこのプログラムは、オンラインでの事実の正確性を促進する大きな一歩でした。このプログラムは、Facebook、Instagram、Threads 上の虚偽やミスリードな情報の拡散を減らすことで、ユーザーにとってポジティブな体験を提供しました。私たちは、ソーシャルメディアを利用する大多数の人々は、生活に関する決断を下すためや、友人や家族と良い交流を持つために信頼できる情報を求めていると信じていますし、データもそう示しています。検閲ではなく、拡散を遅らせるためにユーザーに虚偽情報について知らせることがこのプログラムの目標でした。ファクトチェッカーたちは表現の自由を強く支持しており、これまでにもその立場を繰り返し表明し、昨年のサラエボ宣言でも公にしていることです。何かが真実ではないと理由を述べる自由もまた、表現の自由なのです。しかし、あなたはこのプログラムが「検閲の道具」になり、「ファクトチェック担当者は政治的に偏りすぎており、信頼を生むどころか壊してきた。特にアメリカでは」と述べています。これは事実ではありません。私たちは今日の状況や歴史的な記録のために、この点を正したいと思います。Metaは、すべてのファクトチェックパートナーに対して、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)による認証を通じて、厳格な非党派性を満たすように要求してきました。これには、政党や候補者との関係を持たないこと、政策提言をしないこと、そして客観性と透明性への揺るぎない献身が含まれています。各ニュース組織は、独立した評価とピアレビューを含む厳格な認証を毎年受けています。Metaはこれらの基準を疑問視するどころか、その厳格さと有効性を一貫して称賛してきました。わずか1年前には、Meta はこのプログラムを Threads に拡張しました。あなたの発言は、ファクトチェッカーが検閲に責任を負っているかのように示唆していますが、Metaはファクトチェッカーにコンテンツやアカウントを削除する権限や能力を与えたことはありません。オンラインではしばしば、Metaの行動に関して、ファクトチェッカーが責められたり、嫌がらせを受けたりしてきました。あなたの最近の発言は、そうした誤解を間違いなく助長するでしょう。しかし、実際には、ファクトチェッカーによって虚偽と判定されたコンテンツをどのようにランクダウンまたはラベル付けするかを決定したのはMetaのスタッフでした。これまでの数年間、複数のファクトチェッカーがMetaに対して、このラベル付けをより目立たないものにし、検閲だという印象を避ける改善方法を提案してきましたが、Metaはこれらの提案に対して何の行動も起こしませんでした。さらに、Meta は予防的措置として、政治家や政治候補者をファクトチェック対象から外していました。彼らが既知の虚偽情報を拡散した場合でもです。一方、ファクトチェッカーは、政治家も他の人たちと同様にファクトチェックされるべきだと主張してきました。

IFCN

しかし長年にわたり Meta はこのプログラムの成果について限られた情報しか提供してきませんでした。ファクトチェッカーや独立した研究者たちが繰り返し、より多くのデータを求めたにもかかわらずです。 しかし、わかる限りでは、このプログラムは効果的でした。研究によれば、ファクトチェックラベルは虚偽情報への信念や共有を減少させました。また、あなた方自身が議会への証言で、Meta の「業界をリードするファクトチェックプログラム」を誇っていました。あなた方は X のようなコミュニティノートプログラムを開始する計画を述べました。しかし、X の例が示すように、この種のプログラムがポジティブなユーザー体験を生むとは私達は考えていません。研究によれば、多くのコミュニティノートが表示されないままであり、その理由は、正確性の基準や証拠ではなく、広範な政治的コンセンサスに依存しているためです。それでも、コミュニティノートがサードパーティのファクトチェックプログラムと共存できない理由はありません。これらは相互排他的ではないので。プロフェッショナルなファクトチェックと協力するコミュニティノートモデルは、正確な情報を促進するための新しいモデルとして強力な可能性を持っています。その必要性は非常に大きいのです。人々がソーシャルメディアプラットフォームには詐欺やデマが溢れていると信じれば、そこに時間を費やしたり、ビジネスをしたりすることを望まなくなるでしょう。この問題は、アメリカ国内の政治的文脈に関連しています。今回のあなたの発表は、次期大統領ドナルド・トランプ氏の当選認定後で、新政権へのテック業界からの幅広い対応の一環としてなされたものです。トランプ氏自身も、あなた方の発表が彼の脅迫に対応したものである「可能性が高い」と述べました。私たちのファクトチェックコミュニティの一部のジャーナリストの中には、彼らが働く国々の政府から同様の脅迫を受けた経験を持つ者もおり、このような圧力に抵抗することの難しさを理解しています。2025年にファクトチェックプログラムを終了する計画は、現時点ではアメリカ国内に限定されています。しかし Meta は100以上の国で同様のプログラムを展開しており、それらの国々は民主主義や発展の段階が非常に多様です。一部の国々は、政治的不安定、選挙干渉、群衆による暴力、虐殺すら引き起こす誤情報に非常に脆弱です。もし Meta が世界的にこのプログラムを停止することを決定すれば、多くの場所で現実世界での被害が確実に発生するでしょう。この瞬間は、公的サービスとしてのジャーナリズムへの資金提供の必要性を強調しています。ファクトチェックは、アメリカ国内と世界の両方で、共有された現実と証拠に基づく議論を維持するために不可欠です。慈善分野は、この重要な時期にジャーナリズムへの投資を増やす機会を持っています。最も重要な点として、Meta が第三者ファクトチェックプログラムを終了するという決定は、正確で信頼できる情報を優先するインターネットを目指す人々にとって、後退であると私達は考えます。私たちは、何とかしてこの失地を回復できることを願っています。そして、日常生活に関して情報に基づいた意思決定をするために、人々に必要な情報を提供するツールとしてファクトチェックを活用することに関心を持つMetaや他のテクノロジープラットフォームと再び協力する準備ができています。真実へのアクセスは表現の自由を支え、コミュニティが価値観に沿った選択をする力を与えます。私たちはジャーナリストとして、真実の追求が民主主義の礎として存続することを確実にするために、報道の自由への献身を揺るぎなく保持し続けます。

メタの創設者マーク・ザッカーバーグの今週の発表は、ニュース検証界では、大統領就任1期目で「オルタナティブ・ファクト」という言葉を広めたドナルド・トランプ次期大統領への屈服と広く受け止められた。メタは、ファクトチェックを X を彷彿とさせる「コミュニティノート」システムに置き換え、プラットフォーム上の誤情報の訂正をユーザーに任せている。ある意味、これは「彼はこう言った、彼女はこう言った」というジャーナリズム、あるいは、虚偽を指摘するのはジャーナリストではなく反対派の役割であるべきだという一部の政治討論司会者の見解を思い起こさせる。また、これは別のことを示唆している。つまり、最も大きな声と最もうまく語られた物語が勝利できるという考えだ。下記リンク先はアメリカ以外でのファクトチェックのメタによるしくみの日本語の解説(言い訳?)である。

META  How fact-checking works(ファクトチェックのしくみ)META Transparency Center