2024年7月23日

ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』を紐解く

Ilustración
Ilustración la edición 50 aniversario de Cien Años de Soledad por Luisa Rivera
新潮文庫(2024年7月1日発行)

コロンビアのノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケス(1927-2014)の代表作『百年の孤独』の新潮文庫版が、海外文学作品としては異例のペースで売れているという。インターネット書店では売り切れとなる店が続出、大型書店には特設コーナーが設置されているという。発売直後にもかかわらず、既に重版が決まっている。『百年の孤独』は、1967年に発表された作品で、架空の村・マコンドを舞台に、ブエンディア一族の栄華と滅亡の100年を描いた長編小説。これまで46言語に翻訳され、5,000万部を売り上げるなど世界的なベストセラーとなっている。日本語訳は、翻訳家・鼓直さんによるものが新潮社から72年に単行本として刊行され、装丁を替えながら、約30万部売り上げてきた。ただ、世界的な名著にもかかわらず、これまで文庫化には至らず、文芸ファンの中では「絶対に文庫化されない名著」の一つに数えられてきた。72年に邦訳されて単行本となった同作。東京新聞電子版によると、文庫化までに時間がかかった理由を、新潮文庫編集部の菊池亮さんは「海外作品は契約の関係で文庫化されにくく、すぐに売れたわけでもなかった。今でこそ名著とされるが、何とか出し続けてタイミングを計っているうちに50年が過ぎたという感覚」と明かしたという。出版業界の売り上げはピークとなった1996年までは上り坂一辺倒で来た。だが消費税が3%から5%に増税した1997年に初の前年割れとなり、以降、下降の一途をたどることとなった。2016年には書籍と雑誌の売り上げが逆転、雑高書低が終わりを告げた。書籍市場は雑誌に比べればまだ健闘していると言えるが、読者は高齢者にシフトしつつあり、老若男女に幅広く売れる瞬発的な売り上げは期待できない。単発ヒットになりそうな『百年の孤独』だが、どんな作品か紐解いてみた。

小説『百年の孤独』における「孤独」の意味
ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』における「孤独」は単に一人ぼっちである状態を表すだけでなく、様々な意味合いを持っている。人間は生まれてから死ぬまで、様々な人と出会い、関係を築く。しかし最終的には誰もが一人で死を迎える。この誰もが抱える根本的な孤独が『百年の孤独』では描かれている。ブエンディア家の人々は、代々、様々な孤独を経験する。愛する人との死別、家族との確執、人間関係の複雑さなど、様々な問題に直面し、深い孤独に苦しむ。文明と自然、人間と人間、個人と社会の断絶が描かれています。これらの断絶は、孤独を生み出す要因の一つとなっています。絶望のはざまでブエンディア家の人々は、孤独に苦しみながらも、希望を捨てずに生きようとする7。しかし、その希望は、多くの場合、絶望に打ち砕かれてしまう。マルケスは『百年の孤独』を通して、人間存在の孤独を深く掘り下げている。この作品は、私たち一人ひとりに、孤独について考えさせられるきっかけを与えてくれるのではないだろうか。
  • ウルスラ・イグアラン:夫ホセ・アルカディオ・ブエンディアとの死別、子供たちの不幸、家族の崩壊などを経験し、深い孤独に苦しむ。
  • ホセ・アルカディオ・ブエンディア:孤独を求めてマコンド村を築くが、孤独から逃れることはできない。
  • アウレリャノ・バビローニア:先祖たちの孤独を繰り返すように、孤独な人生を送る。
マルケスは、これらの登場人物を通して、孤独の様々な側面を描き出している。「孤独」は、『百年の孤独』の重要なテーマの一つであり、作品全体の理解に不可欠な要素です。「孤独」について理解することで、作品をより深く味わうことができるのである。

コロンビア奥地の架空の村マコンドの百年
小説『百年の孤独』は魔法的リアリズムの代表作として知られる小説である。現実と幻想が織り成す壮大な物語は、世界中の読者を魅了し続けている。
  • ブエンディア家:マコンドの創設者ホセ・アルカディオ・ブエンディアとその妻ウルスラ・イグアランから始まる一族。様々な運命を背負い、愛と苦悩、繁栄と滅亡を経験していく。
  • アウレリャノ一族:戦闘や反乱に明け暮れる男性中心の家系。
  • アマランタ一族:強い意志と情熱を持つ女性中心の家系。
  • マコンドの誕生:ホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラ・イグアランは、文明から隔絶された土地にマコンド村を築く。
  • 繁栄と苦難:村は徐々に発展していくが、ブエンディア家の人々は様々な苦難に見舞われる。恋愛、戦争、政治的陰謀、経済的困窮など、様々な問題に直面していく。
  • 繰り返される運命:ブエンディア家の人々は、先祖たちの運命を繰り返すように、孤独、愛憎、暴力、奇想天外な出来事などに翻弄されていく。
  • マコンドの滅亡:百年後、ブエンディア家最後の末裔であるアウレリャノ・バビローニアは、預言のとおりマコンドの滅亡を目の当たりにする。
  • 孤独:ブエンディア家の人々は、深い孤独に直面し続ける。愛する人との死別、家族との確執、人間関係の複雑さなどが描かれる。
  • 愛と喪失:激しい恋愛、禁断の恋、不倫など、様々な形で愛と喪失が描かれる。
  • 運命と呪い:ブエンディア家の人々は、先祖たちの罪や呪縛に苦しめられる。
  • 戦争と平和:マコンド村は、内戦や革命など、様々な戦争に巻き込まれていく。
  • 文明と自然:文明の発展と自然の破壊、人間と自然の葛藤などが描かれる。
現実と幻想が交錯する魔術的リアリズムの技法が駆使されており、読者を魅了する。例えば、空飛ぶ絨毯、蘇る死者、予知能力を持つ人物など、現実離れした出来事が登場する。『百年の孤独』は人間存在の普遍的なテーマを扱い、壮大なスケールで描かれた不朽の名作である。深い感動と余韻を与えてくれる作品と言えるだろう。

百年の孤独の歴史的背景
ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』は、架空の村マコンドを舞台に、ブエンディア家七世代にわたる100年間の物語を描いています。しかし、この作品は単なるフィクションではなく、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのラテンアメリカの社会や政治、文化を反映した深い歴史的背景を持っている。以下、作品と関連する主な歴史的背景をいくつかご紹介したい。
  • バナナプランテーションの繁栄と衰退:19世紀後半、マコンド村はバナナプランテーションの隆盛によって繁栄を経験します。これは、当時のラテンアメリカで実際に起こった出来事であり、バナナプランテーションの経済的利益と同時に、環境破壊や労働搾取などの問題も引き起こした。
  • 内戦と独裁政権:作品には、マコンド村を巻き込む内戦や独裁政権が登場します。これは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてラテンアメリカで実際に起こった内戦や独裁政権の影響を反映したものと考えられる。
  • カトリック教会の影響力:カトリック教会は、マコンド村の社会や文化において大きな影響力を持っている。これは、当時のラテンアメリカ社会におけるカトリック教会の影響力を反映したものと考えられる。
  • 先住民文化:マコンド村周辺に住む先住民の文化も登場する。これはラテンアメリカにおける先住民文化の存在と、先住民に対する差別や弾圧の問題を反映したものと考えられる。
マルケスはこれらの歴史的背景を巧みに作品に織り込むことで、ラテンアメリカの社会や文化の複雑性と矛盾を描き出している。『百年の孤独』は単なるエンターテイメント作品としてだけでなく、ラテンアメリカの近現代史を理解する上でも重要な作品と言えるだろう。
Ilustración
«Cien años de soledad» La edición especial 50 años (2017)
マルケスの主要作品
ガブリエル・ガルシア=マルケスは作品を通して、ラテンアメリカの社会や文化、歴史を独自の視点で描き出しました。彼の作品は、世界中の読者に深い感動を与え続けている。
  • 落葉 (1955)
  • 大佐に手紙は来ない (1961)
  • 悪い時 (1962)
  • ママ・グランデの葬儀 (1962)
  • 百年の孤独 (1967)
  • 眼を開けた青い犬 (1972)
  • 誰も上手に語れない (1974)
  • 族長の秋 (1975)
  • 予告された殺人の記録 (1981)
  • コレラの時代の愛 (1985)
  • 戒厳令下チリ潜入記 (1986)
  • 迷宮の将軍 (1989)
  • 十二の遍歴の物語 (1992)
  • 聖女 (1992)
  • 愛その他の悪霊について (1994)
  • 生きて、語り伝える (2002)
  • 思い出の娼婦たち (2004)
中でも有名な作品『百年の孤独』は架空の村マコンドを舞台に、ブエンディア家七世代にわたる100年間の物語を描いた大長編小説。魔術的リアリズムの代表作として知られ、ノーベル文学賞受賞作品でもある。マルケスの作品は、日本語に翻訳されているものも多く、日本でも多くのファンがいる。

マルケスの波乱に満ちた生涯
ガブリエル・ガルシア=マルケスは、波乱に満ちた人生の中で、数々の名作を生み出した20世紀を代表する作家の一人である。彼の作品は、世界中の読者に深い感動を与え続けている。
  • 1927年:コロンビア北部のアラカタカ町に生まれる。
  • 1936年:両親が離婚し、母親と祖母に育てられる。
  • 1940年代:地元の寄宿学校に通い、文学への情熱を育む。
  • 1947年:ボゴタ大学に入学するが、2年後にジャーナリストになるために中退。
  • 1948年:ボゴタでボゴタ暴動を経験。この経験は、後の作品に大きな影響を与える。
  • 1950年代:コロンビア各地の新聞社で記者として働く。
  • 1954年:初の短編小説集『落葉』を出版。
  • 1955年:ヨーロッパへ渡り、様々な国を旅しながら執筆活動を行う。
  • 1967年:代表作『百年の孤独』を出版。世界的なベストセラーとなり、魔術的リアリズムの旗手として名声を得る。
  • 1975年:メキシコシティに居を移す。
  • 1982年:ノーベル文学賞を受賞。
  • 1980年代以降も精力的に執筆活動を続け『コレラの時代の愛』『予告された殺人の記録』など多くの名作を生み出す。
  • 1990年代:肺がんを患うが、克服。
  • 2007年:メキシコシティにて87歳で死去。

マルケスの人生と作品についてより詳しく知りたい場合は、ジェラルド・マーティン著『ガブリエル・ガルシア=マルケス ある人生』(岩波書店)がお勧めである。2014年に長く住んでいたメキシコの自宅で亡くなったラテンアメリカ文学の巨星、ガルシア=マルケスの生涯を丁寧に辿った決定版と言ってよい評伝。著者は米国ピッツバーグ大学の名誉教授。人並み優れた記憶力と物語を作り上げる天性の才能によって苦難を乗り越えて世界的に評価される作家になるまでのサクセスストーリーが中心であるが、名声を得てからも様々な困難に遭遇した人生の歩みを徹底的に調べあげて綴っていて、ガリシア=マルケスの人となりとその作品の執筆経緯、背景を詳細に知ることができる。下記リンク先はガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』50周年記念版の挿絵を描いたチリ人のイラストレーター、ルイサ・リヴェラの作品と紹介記事(スペイン語)である。

color Luisa Rivera, la chilena que ilustró la edición 50 aniversario de «Cien Años de Soledad»

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