東京電力福島第1原発にたまり続ける廃水の海洋放出が今月24日に始まった。マスメディアは汚染水という言葉を避け、いつの間にか処理水と報道している。汚染水をALPS(多核種除去設備)で浄化処理すれば、大半の放射性物質は取り除かれ、検査しても検出できない水準まで低い濃度になるという。しかし除去できないトリチウムが残ったままである。東電は今後発生する汚染水も含め「廃炉目標とする2051年に処理水の保管をゼロにできる」と説明している。しかし汚染水の発生を止めない限り処理水の放出も終わらない。デブリに触れた冷却水が建屋に流入した雨水や地下水と混ざって汚染水が増えるが、デブリの取り出しも建屋の止水も実現できる具体策はなく、放出完了は見通せない状態である。福島の漁業にとって、海洋放出は水揚げ増や販路回復のマイナス材料にしかなりえず、復興の途上で次の打撃を食らうことになる。政府は海洋放出の安全性のアピールに注力しているが「なぜ今放出するのか」の説明も足りない。さかのぼれば事故直後、東電は地元漁業者らに事前連絡せず低濃度の汚染水を放出し、国内外からの信頼を失った。2013年、ALPSよる処理を始めた際も、東電の担当者が放出を前提にしたような発言を国の検討会で口走り、再び地元の漁業者らの反感を買った。
政府や東電との「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」という約束は、2015年に前者の海洋放出に同意した際に交わされたものだが、それが反故になってしまった。岸田文雄は「数十年の長期にわたろうとも、処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組む」と発言した。しかしながらこの先、岸田政権が数十年の長期にわたり存在するとは考え難い。なお中国、ロシア両政府が大気への水蒸気放出を検討するように政府に直接求めたが、大気中の放射性物質のモニタリングが海洋よりも難しいなどとして見送られた。両国は質問リストで、大気中の放射性物質のモニタリング手法は技術的に確立されていると指摘、日本政府の見方を否定している。海洋放出の必要経費は約34億円で、水蒸気放出の10分の1にとどまるとする日本側の試算を引用して「日本の選択が経済的コストの考慮に基づくのは明らかだ」と主張した。下記リンク先のナショナルジオグラフィック誌の記事によると、現在、アメリカの科学者たちは、海洋生物や海流が有害な放射性同位体を太平洋全体に運ぶ可能性があると表明しているという。ハワイ大学ケワロ海洋研究所の所長であり、太平洋諸島フォーラムの海洋放出計画に関するアドバイザーを務めるロバート・リッチモンド博士は「福島沖の海に放出されたものは一か所に留まることはない」と断言している。これらの同位体は「 摂取されると、様々な無脊椎動物、魚類、海洋哺乳類、そして人間に蓄積される」可能性があるというのだ。有害な放射性同位元素が太平洋全体に運ばれる可能性があるという懸念である。太平洋に面しているのは日本だけではない。
Japan releases nuclear wastewater into the Pacific. How worried should we be? | NGS