2022年10月10日

ロシアによるクリミア併合を象徴するケルチ海峡大橋爆破の謎

Crimean Bridge

ロシアのプーチン大統領はケルチ海峡大橋(クリミア大橋)爆破は「ウクライナ特務機関によるテロだ」と主張したという。ソーシャルメディアに投稿された監視カメラ映像には、ロシア・クラスノダールから来たとされるトラックが、爆発時に西へ向かう様子が映っている。10月10日付け BBC ニュース電子版によると、映像を詳しく点検すると、このトラックは爆発と何の関係もないことがわかるという。映像では、上向きに傾斜する橋の路面をトラックが上り始めた時点で、その後ろの片側で巨大な火の玉が発生するのが見える。元英陸軍の爆発物専門家は「橋の下で大爆発があったとみるほうが、より妥当だ。何らかの海上用ドローンがひそかに使われたのだろう」と述べたという。とはいえ爆薬を積んだトラックが爆発したという説が消えたわけではない。橋の破壊工作は続だろうけど、軍事上の秘密がある可能性があるので、真相が明らかになるのはかなり先の話になるだろう。ゼレンスキー大統領は10月8日夜のビデオ演説で「今日のクリミアは曇りだったが、我々の未来は晴れ晴れとしている。クリミアなどで占領者を追い払った未来だ」と発言したが、ウクライナの関与に関しては明言を避けている。戦争を俯瞰して解析すれば、ケルチ海峡大橋の破壊は、クリミアを実効支配しているロシアにとって致命的であり、クリミア奪還を目指すウクライナに有利になるのは自明の理だろう。

監視カメラが捉えた爆破の瞬間

ロシア本土とクリミア半島の間を結ぶ大橋は、道路部分が2018年5月15日に開通、鉄道部分は2019年12月23日に開通した。ロシアがこれまでに建設した橋の中で最長、ヨーロッパで最も長い橋で、クリミア併合の象徴的建造物になっている。2014年のウクライナにおける政変で親ロシアのヤヌコーヴィチ政権が崩壊し、親欧米の暫定政権が発足したことにクリミア住民の一部が抗議し、親政権派と衝突した。クリミア自治共和国最高会議をロシア兵が制圧し、内部の様子が不明なまま、クリミア自治共和国は「クリミア共和国」に移行するとの宣言が採択された。ウクライナ政権の支持を表明したモギリョフ閣僚会議議長は解任され、クリミア自治共和国最高会議における小政党「ロシアの統一党」の党首であったアクショーノフが首相に指名され、ウクライナ法に反する形でアクショーノフ政権が発足した。クリミア共和国議会とセヴァストポリ市議会はロシアへの併合を問う住民投票を行うことを決定したが、領土変更は国民投票によってのみ議決することができるとウクライナ憲法第73条で定められており、このためキーウの暫定政権や国際連合や日米欧G7をはじめとする国々・組織は住民投票の中止を訴えた。国際社会が早々に同住民投票を認めないと発表する中、ロシアはこの住民投票の結果に従って2014年3月17日にウクライナからの独立と、ロシアに併合を求める決議を採択した。

PDF  稲垣芳朗「なぜロシアは短期間でクリミアを併合できたのか」海幹校戦略研究(PDF File 699KB)

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