2020年6月15日

カントリー音楽に潜む人種差別の影

Stephen Tarter (left) and his cousin Carson Anderson

Race Records c.1926-1930
エントリー「ロレッタ・リン:カントリー音楽は死んだ」で記述したように、OKeh Records の辣腕ディレクター、ラルフ・ピアによるオーディション開催地、テネシー州ブリストルが「カントリー音楽の発祥の地」と呼ばれるようになった。1927年7月28日、エル・ワトソンの歌2曲が録音されたが、唯一のアフリカ系米国人だった。翌1928年、同地でステファン・タ―タ―とハリー・ゲイも録音を残したが、上掲の写真がそのふたりだと言われてきた。しかしタ―タ―とその従弟、カーソン・アンダーソンである。撮影年月は不明だが、タ―タ―がマンドリンを手にしているのが興味深い。カントリー音楽がブルースなどに根ざしたポピュラー音楽のジャンルと定義されてるにも関わらず、ブリストル・セッションに招聘されたアフリカ系米国人のグループは2つに過ぎなかった。セッションのターゲットは「ヒルビリー音楽」だったが、彼らの録音は "Race records" からリリースされた。このセッションに先立つ1920年、OKeh Records がプロデュースしたマミー・スミスの "Crazy Blues" が約 75,000 枚のヒットを飛ばした。レコードの目的は蓄音機を売ることだったが、20世紀になってアフリカ系米国人にも普及、そのために生まれたのがブルース、ジャズ、ゴスペルなどを主体にしたレーベル "Race records" だった。商業レコード産業以前には音楽カテゴリーは実際には存在していなかった。しかしレコードのレーベルが分断、人種差別の起源となったのである。

ハンク・ウィリアムズ・ジュニア
カントリーのミュージシャンにも人種差別者いる、ということが話題になることがある。サンフランシスコの公共放送 KQED のゲイブ・メリネは、ケン・バーンズのドキュメンタリー映画 "COUTRY MUSIC" について「何かが欠けている」と主張している。フィドリン・ジョン・カーソンは KKK の集会で歌っているいるし、ラルフ・ピアは奴隷生活を美化したカーソンの "Little Old Log Cabin in the Lane" を録音している。そして一握りの黒人アーティストであるチャーリー・プライド、リアノン・ギデンズ、ダリアス・ラッカー、ウィントン・マルサリスを登場させているが、米国における人種差別の分断に関するものではない、と。ところでハンク・ウィリアムズ・ジュニアは超保守主義者で、人種差別者であることで知られている。2012年9月5日付け NBC News 電子版によると、テキサス州フォートワースのストックヤード音楽祭で「おれたちの大統領は、カウボーイを嫌い、カウガールを嫌い、釣りを嫌い、農業を嫌い、ゲイを愛しているムスリムだ。そんな奴、おれたちは嫌いだ」とバラク・オバマを罵倒、喝采を浴びたという。彼はまた「カントリーは白人がブルースを演奏する音楽だ」という名言、いや迷言を残している。アフリカ系米国人のミュージシャンを排斥しようという主張で、著名な歌手だけに、ドナルド・トランプ大統領と同様に賛同者も多く、その影響力は見逃せない。

リアノン・ギデンズ
ところで Black Lives Matter 抗議運動によって、人種差別が批判されている。テネシー州議会議事堂のネイサン・ベッドフォード・フォレスト胸像撤去問題に関し、賛成と反対の議論が長引いているようだ。フォレストは南北戦争のピロー砦の戦いで、北軍の武装していない黒人捕虜を虐殺した部隊を率いていた、として戦争犯罪で告発された武将だった。また白人至上主義の人種差別秘密結社として悪名高い、KKK の結成者といわれている。州議会議事堂はナッシュビルにある。共和党のジェレミー・ファイソン議員がフォレストの代わりに、ドリー・パートンの胸像を設置したらと提案していたが、どうなっているのだろうか。いずれにしてもナッシュビルは保守的な風土の強い都市だが、カントリー音楽のメッカでもある。毎週土曜夜にラジオ局 WSM のグランド・オール・オプリが公開放送されている。ジョージ・D・ヘイが1925年に創設したが、この舞台に立ったアフリカ系米国人は極めて少なく、メンバーになったのはデフォード・ベイリー、チャーリー・プライド、ダリアス・ラッカーの3人だ。レギュラーではないが、リアノン・ギデンズ&カロライナ・チョコレート・ドロップスも出演している。ギデンズはノースカロライナ州グリーンズボロで白人の父親と黒人の母親の間に生まれた。やや古い記事だが、2018年、英国の The Guardian 紙のインタビューに対し「私たちはみな、ある程度の人種差別主義者です」「私は肌の色が薄いので、私の体には特権があります」と語っている。そして「人々は人種について考えるのはうんざりしている、それはドラッグだ」と言うが「私はあなたが誰であるかを気にしません。このための時間とヘッドスペースがあります」と。

museum
African American History in a Country Music Museum? Exhibits and Programs Explore the Connections

0 件のコメント: