揚翅蝶(アゲハチョウ)と秋桜(コスモス)京都府立植物園
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朝日新聞社(2019年) |
夏のような日差しが続いているが、用事があって外出した。現像ラボにフィルムを預けっぱなしであることを思い出して寄ってみる。帰り際、民家の軒先の鉢に白い花が咲いているのが目にとまる。植物名を覚えるのが苦手な私でも、これはすぐにわかった。ネコノヒゲだ。漢字混じりに記述すれば、猫の髭、英名は全く同じ意味の cat's whiskers である。和名は英名を模したものかも知れない。というのは素人ながら、多くの植物名が、最近ではラテン語の学名、あるいは英名をそのままカタカナ表記したものが多いような気がするからである。植物名ばかりではなく、現代日本語を席巻しているのが、外来語の表記、しかもこれは前に指摘したように日本特有の短縮表記である。例えば「メタボ」なんて言葉は正直言って最初は分からなかった。メタボリック・シンドロームの尻尾を症候群と書くだけましかもしれない。もっと酷いのはアコースティック・ギターに対する「アコギ」という呼び方。まさに阿漕(あこぎ)の極まりである。同じ漢字圏の中国や台湾は、外来語を今でも漢字表記している。ところが日本はカタカナがあるので、それを安易に使ってしまうきらいがある。無論、適切な翻訳造語が間に合わないという事情もあるだろうが、こと動植物名に関しては新聞社などのメディアにも責任もあるような気がする。新聞社はそれぞれ「用語規定」を持っている。というのは記事の整合性を保つには、バラバラの表記があっては不味いからである。そこで例えば市販されてる『朝日新聞の用語の手引き』の旧版では「動植物名はカタカナ」という規定があった。最近はだいぶ緩和されたようだが、かつては紫陽花(アジサイ)や向日葵(ヒマワリ)、馬酔木(アセビ)などはおろか、桜や梅もカタカナ表記していたのである。
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青條揚翅蝶(アオスジアゲハチョウ) |
ついでに言えば、画数の多い人名もかつては、長嶋元巨人軍監督を「長島」と表記する乱暴があったし、当用漢字にないものは使えないことが多かった。永井荷風の『濹東奇譚』は「墨東」だと寂しい。それでもちょっとした漢字、例えば「釈迦」や「菩薩」もルビを振らないと使えないことを、新聞にコラムを連載したことで知った。画数の多い人名などが使えるようになったのは、パソコンのワードプロセッサ普及の影響だったと思うし、ルビを振れば制限外の字でも新聞で使えるようになったのは、漢字文化を守る上で評価したいと思う。もっとも画面が狭く、従って極端に短いセンテンスの「ケータイ小説」という名の「ケーハク小説」が一時流行ったことがある。動植物名に話を戻そう。「褄黒豹紋蝶」「黒揚翅蝶」「浅黄斑蝶」「青條揚翅蝶」…これらはいずれもチョウの和名であるが、読めますか? ツマグロヒョウモン、クロアゲハ、アサギマダラ、アオスジアゲハと読む。難解といえば確かに難解だが、先人の英知を感ずる。さらに台湾に残る繁体字を見ると、日本の漢字もさることながら、中国の簡体字に文化の喪失を感じざるを得ない。学習に有利で、識字率アップに貢献していると言われているが、実際の識字率は簡体字の中国本土よりも、繁体字を使う台湾や香港の方が高く、一概には言えないようだ。今さら元に戻すことはできないが。
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