2019年4月20日

アインシュタインと女神カーリーの舌

Albert Einstein Signed Photograph by Arthur Sasse 1951

A. Einstein by Andy Warhol
アルバート・アインシュタインが舌を出している写真をプリントしたTシャツやポスターなどを、一度は見たことがある人が多いと思う。72歳の誕生日、1951年3月14日、ニュージャージー州プリンストンで UPI のアーサー・ザッセが撮影した写真が元になっている。プリンストンには大学とは別の、アインシュタインが研究活動した高等学術研究所があるが、そこが祝賀会場だった。群がる写真家に笑顔を振りまくのにウンザリしてイベント会場を逃げ出し、高等学術研究所のフランク・エイデロッテと、その妻マリー・ジャネットと車の後部座席に乗り込んだ。ザッセがすかさずカメラを向けると、アインシュタインは舌を出した。新聞に掲載されたこのスナップをアインシュタインはいたく気に入ったようだった。UPI に手紙を書き、両脇に写っているエイデロッテ夫妻を外してトリミングした、プリント9枚を注文した。上掲のサイン付き写真はそのうちの一枚で、アメリカの放送ジャーナリストで、政治評論家、そして俳優でもあったハワード・K・スミスにプレゼントされたものだ。万年筆で "Diese Geste Dir gefällt, Weil sie gelt der Menschenwelt, Der Civilist kann sich's leisten, Kein Diplomat kann sich's erdreisten. Ihr Freund und dankbarer Zuhörer, A. Einstein, 53."(全人類に向けられたこのジェスチャーを好きになるでしょう。民間人ゆえに、外交官があえてしないことをする余裕を持つことができます。忠実にして感謝、あなたのリスナー、A・アインシュタイン、53年)と書かれている。ハワード・K・スミスは当時 CBS の支局長だったが、晩年のアインシュタインは、毎週日曜に放送されていた彼のニュース番組を聴いていたようだ。

Sticky Fingers (Rolling Stones Records ‎– COC 59100) 1971

Kali: Goddess of Time
アーサー・ザッセが撮影したアインシュタインの写真から、私はローリング・ストーンズのロゴを連想したことがある。真っ赤な舌と唇のイラストは、アインシュタインのそれのパロディじゃないかと長い間誤解していた。ジョン・パスケが 1971年に制作したものだが、いささか悪趣味とも言えそうなデザインである。ところがマイナスイメージにならず、ローリング・ストーンズの象徴に昇華、50年弱に渡ってファンに愛されてきた。彼らが設立したローリング・ストーンズ・レコードから、1971年にリリースされた初のスタジオ・アルバム『スティッキー・フィンガーズ』 (Sticky Fingers) のライナーノーツに使われた。モチーフはミック・ジャガーの舌にインスパイアされたものとも言われてるが、そうではない。彼がパスケに、ヒンドゥー教の女神カーリーを使うように助言したようだ。ビートルズをはじめ、多くのミュージシャンがインド思想に傾倒した時代だった。それにしてもカーリーは血と殺戮を好む戦いの女神。シヴァ神の妻の一柱であり、カーリー・マー(黒い母)とも呼ばれている。シヴァ神を踏みつけ、生首を持ち、舌をベロリと出して踊りまくっている絵を見ると、恐ろしい女神を想像してしまう。残忍で醜悪であるにも関わらず、実はインドでは人気もあり信者数も多いメジャーな女神なのである。敢えて奇をてらったようにも窺えるが、ミック・ジャガーの面目躍如が隠されている。事実、世界で最も浸透したロゴのひとつとなった。ジャケットをデザインしたのがアンディ・ウォーホルだったため、このロゴの制作に関係したと勘違いしている人がいるようだが、当時若干24歳、無名ながらミックと意気投合した大学院生が考案者だった。

0 件のコメント: