2025年8月13日

紙媒体の新聞出版はデジタル革新の犠牲者から意外な勝利者へとなるか

News Papers
福島原発のがれき撤去を報じた2014年7月16日の各紙(©宣伝会議2014年9月号)

習慣からなのか、懐かしさからなのか、あるいは印刷された新聞を本当に好むからなのかはわからないが、紙媒体の新聞を愛する読者は今でもたくさんいる。実際、オンラインへの移行が進んでいるにもかかわらず、紙媒体の新聞は多くの市場で依然として独自の地位を保っている。ある調査によると日本では54%、イギリスでも54%の人が、紙媒体の新聞よりもオンラインでニュースを読むことを好んでおり、アメリカではその傾向はさらに強く、60%に達していると報告されている。しかし雑誌に関してはその逆で、一般的に紙媒体のレイアウトが好まれているようだ。こうした嗜好は、デジタル媒体では必ずしも再現できない印刷媒体の特性に一部起因していることが明らかになっている。この事実と、AIを活用したレイアウト自動化の台頭によるコスト削減は、印刷媒体の新聞に新たな息吹を吹き込む可能性がある。通説では、デジタル形式は紙媒体の新聞よりも優れた、より効率的なユーザーエクスペリエンスを提供すると言われている。しかし、ミズーリ大学のジャーナリズム専門職教授であり、ある研究論文の共著者でもあるデイモン・キーソウは「新聞は人々の日常生活におけるある種のニーズを満たしていると考えています。しかしそのニーズは現在、デジタル体験では効果的に満たされていません。読者にどのニュースが重要なのか、なぜ読んでいるニュースに関心を持つべきなのか、そして最も重要なニュースはどこにあるのかを伝えるのに役立つ文脈上の手がかりは、デジタルニュースに欠けている構造によって弱められています」と述べている。研究チームは基本的に、紙媒体の新聞は様々な表面、レイアウト、色、ラベルを用いてニュース記事の文脈を伝え、読者がコンテンツ内を移動できるように誘導していると考えていた。一方、デジタルは紙媒体の利点の多くを放棄し、エンドレススクロールページ、次のコンテンツを提案するアルゴリズム、その他デジタルならではの利便性を優先している。キーソウは「出版社は、ナビゲーションやラベルといった要素だけでなく、ソーシャルメディアを含むプラットフォーム間で文脈シグナルがどのように伝達されるかにも注目すべきです。ソーシャルメディアでは、ニュースの内容に関する第一印象がクリックされる前に形成されることが多いからです。報道機関がすべきことは、デジタルプラットフォームを単なる使いやすさではなく、理解度を重視してテストし、設計することです」と述べている。 注意力を損なうデジタルツールの最も明白な例は、ポップアップ広告である。アメリカのウェブサイト「サイエンス・デイリー」は、オンラインコンテンツを読んでいる人の脳活動を測定したポーランドの研究について「第一に、オンライン広告の存在は参加者の集中力に影響を与えました」「研究者たちは、前頭葉/前頭前野皮質におけるベータ波の活動低下を観察することで、この結果を導き出しました。研究者たちの発見はそれだけではありません」と報告している。

Nespaper Stand in London
ロンドンの新聞スタンド

そしてさらに「第二に、広告の表示は前頭葉/前頭前野の非対称性指数に変化を引き起こしました」とも。補足コンテンツや情報源へのリンク、さらに読むための提案、そしてウェブ上の無数の気を散らすものなどを加えると、出版そして社は読者の気を散らすレシピを手に入れていることになる。ノースダコタ大学教授による別の研究で、あらゆる年齢の学生が印刷された教科書を使うとよりよく学習できることが判明したのも驚くには当たらない。ヘッヒンガーレポートによると「専門家の中には、画面のまぶしさやちらつきは紙よりも脳に負担をかけると考える人もいます。また、物理的な紙のページ上の文章や図表の位置を空間的に記憶することが、学生が情報を思い出すのに役立つと主張する人もいます。デジタルによる気の散りや、ブラウジングやマルチタスクへの誘惑は、現実世界でも明らかな問題です。しかし、これらの研究室での研究の管理された環境では、インターネットの閲覧やアプリの確認は許可されていませんでした」という。紙媒体の新聞は、読者の関心を重要な点に引き付けるために出版物のレイアウト技術を何世紀にもわたって磨き上げてきた。デジタル出版社が紙媒体から学べることは数多くあり、一部のニュースサイトはすでにそのことに気づいている。例えば、ワシントン・ポスト紙の2015年のデザインリニューアルを例に挙げよう。当時ポインター研究所は編集者とデザイナーが協力してコンテンツの優先順位を決定する場合、タイポグラフィ、要素のサイズ、配置をどのように組み合わせるかによって、読者にとって最も重要な記事と、それに続く記事の順位や重要性が示されます」と報告している。印刷ニュースが数十年かけて開発してきた、デジタル読者の体験を導くためのテクニックを出版社が活用するために簡単に再現できる変更がいくつかある。しかし印刷物の制作コストが高いことは間違いない。そのコストは必ずしも印刷広告のプレミアム価値によって相殺されるわけではない。印刷物の制作コストの上位項目の一つは、印刷ページのレイアウト作業であり、毎回熟練した人材を長時間労働で消耗させている。しかし、それが変わりつつあります。ドイツで発行されているいくつかの日刊紙は編集プラットフォームに統合されたAI駆動型ページレイアウトツールを導入し、印刷セクションのレイアウトにかかる時間を数時間から数分に短縮した。この進展は、紙媒体のニュースのビジネスモデルを大きく変える可能性を秘めている。制作プロセスを合理化し、コストを削減することで、デジタル媒体との競争上の差を埋めることができるだろう。紙媒体のニュース出版は、デジタル革新の犠牲者から、意外な勝利者へとなるかもしれないのである。下記リンク先はカリフォルニア州ロサンジェルスの印刷会社 UPrinting の「新聞発行と印刷の歴史」です。

color  A History of Newspaper Publishing and Printing ©2025 UPrinting, Los Angeles, California

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