2025年8月10日

スペインのバルセロナが観光客の群れに牙をむく

Mural
エリアス・テーニョの壁画「観光客が1人増えれば隣人は1人減る」ヴァレンシア ©2024 ニコラス・ヴィジェ
岩波文庫(2019年8月

ルイス・デ・カモンイス(ca.1924-1580)の叙事詩「ここに地終わり海始まる」に惹かれてポルトガルを旅したのはいつだったろうか。ユーラシア大陸最西端のロカ岬は無論のこと、修道院を改装したホテル、そして真夏にも関わらず食した生牡蠣、西欧人は避けると聞いていた蛸飯、哀愁を帯びたメロディーと、人生の喜怒哀楽を歌う歌詞が特徴の民族歌謡ファドなど思い出は尽きない。今考えると何故スペインに目を向けなかった不思議である。スペインといえば闘牛に象徴される、いわばマッチョとも言えそうなイメージを、否、誤解を抱いていたからかもしれない。しかしその後、スペイン内戦に関した書籍を読み漁り、考え方が変わった。バルセロナ生まれの小説家、マルセー・ルドゥレダ(1908–1983)が1960年に亡命先のジュネーブ書いた、カタルーニャ文学の代表作である『ダイヤモンド広場』に衝撃を受けたのである。

私の意見では内戦後にスペインで出版された最も美しい小説である。初めてこの小説をスペイン語訳で読んだとき、私は目がくらむような衝撃を受けた。そしてそれから何度読み直したことか。そのうち何回かはカタルーニャ語で読んだのである」「たぶん、ルドゥレダは、私が知り合でもないのに訪ねて行った唯一の作家だと思う。

これは訳者あとがきに引用されている、ノーベル賞作家のガブリエル・ガルシア=マルケス(1927–2014)の言葉である。そのバルセロナのサグラダ・ファミリア付近で2024年4月27日、観光バスが封鎖され、水鉄砲を浴びせられ「観光の火を消そう」というスローガンが書かれた横断幕がバスの前面に貼られた。これは観光産業が街を締め付けている現状に対する、注目を集める抗議活動であり、観光化のプロセスと、声高に叫ばれる地元住民の反発との間の緊張の高まりを浮き彫りにした。

Protesters
バルセロナのオーバーツーリズムに抗議してデモ更新する住民たち ©2025 英国放送協会

大規模な抗議活動により、バルセロナは略奪的かつ搾取的な観光の悪影響に対する社会的抵抗の代名詞となったが、バルセロナだけではない。カナリア諸島、マラガ、バレアレス諸島などの人気の観光地では、過去1年間に観光の行き過ぎに反対する大規模な抗議活動が行われた。人々はうんざりしており、事態は文字通り悪化の一途を辿っている。「観光客は帰れ」というスローガンが落書きされた観光客向けアパートが、スペインの多くの都市でほぼ至る所で見られるようになりました。しかし、責任があるのは個々の観光客ではなく、数十年にわたり、無数の住民を徐々に自宅や地域から追い出してきた観光への過度な依存である。しかし、なぜこのような事態に至ったのだろうか? 新型コロナウイルス感染症によるロックダウンの後、国際旅行が回復し、バルセロナをはじめとする地中海沿岸の都市では驚くほど多くの観光客が戻ってきた。しかし、観光客が自分たちの犠牲の上に都市空間を変貌させていることに、地域社会の不満が高まり、社会不安が高まったのである。わが京都も観光公害が問題になっている。住民の怒りが露わになりつつあるが、観光客に直接罵声を浴びせるには至ってない。下記リンク先は英国放送協会サラ・レインズフォードの「バルセロナの観光に反対する抗議者と住民たち」です。

BBC News  The protesters and residents pushing back on tourism in Barcelona by Sarah Rainsford

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