2024年2月12日

ファーブルの帽子に憧れる

新潮社(2008年)

子どものころからジャン=アンリ・ファーブル(1823-1915)の名前はよく知っていた。これはよくあることで知識という名の奸計である。彼の『昆虫記』は余りにも有名だが、有名の割に読まれているのだろうか。そのことを痛感、20年ほど前、岩波文庫の10冊セットを購入した。しかし一冊目の半ばでストップしたままである。これを全部読了した人には大いなる尊敬の念を送りたいが、翻訳者にも賛辞を贈りたい。その代わりというのも変だが新潮社『ファーブルの写真集:昆虫』はすんなり読み通すことができた。写真は息子のポールが撮影したもので、撮影機材が今日ほど発達していなかった時代にも関わらず、技術的にも素晴らしい。というわけでファーブルと接点はいささか乏しいのだが、私は『昆虫記』もさることながら、別の憧憬がある。彼が愛用していた帽子である。黒いつば広フェルト帽だが、これはフランスの中央高地ルエルグ地方の人であることの証であるという。流行なのだろうか、これに似た黒いフェルトのつば広帽子を数年前あたりから街中で見かけるようになり、遅れ馳せながら最近購入した。私はカウボーイハットを持っているが、逆立ちしてもカウボーイになれないと悟り、かぶるのをやめてしまった。おそらくファーブルの帽子もどきも同じ運命を辿るような予感が今からする。恰好だけで、ファーブル的な隠遁生活を送れない自分を恥じるばかり、いささか慚愧の念に堪えない。せめて急がずにゆっくり『昆虫記』に目を通そうかなと思っている。なおファーブルが、1915年に92歳で亡くなるまでの36年間を過ごした家が、アヴィニヨンから約30キロのセリニャン・デュ・コンタという小さな村にある。あの有名な『昆虫記』が執筆された家と、様々な観察と実験のために作った庭がある。彼はここをプロヴァンス語で荒地を意味する "Harmas"(アルマス)と呼び、生きた昆虫の行動学研究所とした。現在はフランス国立博物館になっているが、下記リンク先がその公式サイトである。

museum  Harmas Jean-Henri Fabre | Sérignan-du-Comtat, Vaucluse, Provence-Alpes-Côte d'Azur

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