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Benjamin Rush |
このレコードは NLCR(ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ)が1962年にリリースしたLPアルバムで、禁酒法時代の歌を集めている。Moonshine はそのまま訳せば月光となるが、密造酒のことである。アパラチア山系はバーボンウィスキーの産地であり、この地域では18世紀から密造酒が作られていた。英語には bootlegger という単語があるが、密造酒をブーツに忍ばせて酒を運んだことに由来する。月明かりの下でコソコソ作ったという実感は Moonshiner という言葉のほうに籠っている。Prohibition は酒類醸造販売禁止のことだが、1784年、アメリカ合衆国建国の父、ベンジャミン・ラッシュ博士(1746-1813)が1812年、体と精神への酒の影響について『心の病に関する医学的問診と観察』を出版した。これがアメリカにおける禁酒運動の始まりだといわれている。紆余曲折のうえ1919年に法律が成立した。その後の歴史についての詳細は避けるが、暗黒街のアル・カポネ(1899–1947)に代表されるマフィアたちの資金源になったことはご存じの通りである。麻薬もそうであるが、禁ずることによって闇市場が生まれ、良からぬ組織、近頃日本で話題の「反社会的勢力」に利益をもたらしてしまうというのが道理なようだ。余談ながら密造酒は粗悪になりがちで、だから味を誤魔化すために雄鶏の尻尾を意味する様々なカクテルが考案されたという。
Oh, goodbye booze for evermore | グッバイブーズ これからずっとだよ |
My boozing days will soon be o'er | あのバカな俺の日々 もうじきおしまいさ |
Oh, I had a good time, and we couldn't agree | いい時もあったね 俺はへべれけで |
You see what booze has done for me | わかるだろこの俺に 酒がさせたこと |
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She's tore my clothes, she's swelled my head | 俺の服切り裂いた あいつに胸裂かれ |
So goodbye booze, I'm going to bed | グッバイブーズ 俺はひと眠り |
Oh, I had a good time, and we couldn't agree | いい時もあったね 俺はへべれけで |
You see what booze has done for me | わかるだろこの俺に 酒がさせたこと |
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She swelled my head, she broke my heart | あいつに胸裂かれ 頭はゴチャゴチャで |
So goodbye booze, we now shall part | グッバイブーズ 俺たち引き裂かれ |
Oh, I had a good time, but we couldn't agree | いい時もあったね 俺はへべれけで |
You see what booze has done for me | わかるだろこの俺に 酒がさせたこと |
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She whispered low, how sweet it sounds! | あいつのささやき 低く甘く |
Please take another ride on the merry-go-round | どう?乗り換えたら 回転木馬に |
Oh, I had a good time, and we couldn't agree | いい時もあったね 俺はへべれけで |
You see what booze has done for me | わかるだろこの俺に 酒がさせたこと |
この歌はチャーリー・プール(1892-1931)の "Goodbye Booze"(酒よさらば)で、NLCR も上掲のアルバムに収録している名曲だ。"If the River Was Whiskey"(もし川がウィスキーならば)といった歌も作っているのだが、最初に手にしたバンジョーは、密造酒を売って得たお金で購入したと言われている。映画のバックグラウンドミュージックを演奏するため、ハリウッドに招待されて切符代を受け取ったのだが、ロサンジェルスへ行かなかった。お金を6週間にわたる飲酒パーティに費やしてしまったのである。自ら作った歌のように『酒よさらば』できず、酒に溺れ、それが災いして、アルコール中毒で1931年に心臓発作に見舞われ、39歳の若さで他界してしまった。私はアメリカンルーツ音楽が好きだが、日本人がそのまま歌うことに抵抗がある。学生時代、ブルーグラス音楽のバンドを作ったりしていたが、ずいぶん後になって、それを恥ずかしく感ずるようになった。ただブルーグラス音楽のメロディは覚えやすいので、それに自作の歌詞を添えるという試みは何度かしている。一番難しいと思ったのは、訳詞である。単に訳するだけなら簡単だが、歌えるように日本語化するのが結構面倒なのである。もし日本語で歌ってみたいという場合、若干の手直しが必要かもしれない。下記 YouTube のリンクボタンをクリックすると、オリジナル録音を聴くことができる。私は煙草はとっくの昔にやめたけど、老朽化した肝臓をいたわるため、酒はおさらばしようと決意、実行に移して一週間が過ぎた。
Goodbye Booze: Charlie Poole and the North Carolina Ramblers (Recorded Sep 17, 1926)
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