2021年8月12日

トランスジェンダー写真家ピーター・ヒュージャーの眼差し

Ethyl Eichelberger as Minnie the Maid
メイドに扮したエチル・アイケルバーガー(1981年)

ピーター・ヒュージャー(1934–1987)はトランスジェンダーで、エイズで他界したという点でロバート・メイプルソープと共通している。死後「20世紀後半の主要なアメリカ人写真家のひとり」そして「最も偉大なアメリカ人写真家のひとり」として認められてきた写真家で、日本でもその名がやっと浸透しつつある。広告写真家のアシスタントとしてキャリアをスタートし、その後5年間「ハーパーズ・バザー」や「GQ」といった雑誌のための写真を手がけたところで、ファッション写真は自分に不向きと確信した。自由のない商業写真を放棄し、39歳の時からアーティスト活動に専念する。1970〜80年代のニューヨーク、イーストヴィレッジのアンダーグラウンドを舞台に、作家のスーザン・ソンタグやウィリアム・バロウズ、アーティストのルイーズ・ネヴェルソン、トランスジェンダーのパフォーマーなどを撮影した。勃起したペニス、手淫で射精する瞬間など過激な写真を残しているが、私は彼の動物写真に注目している。

Doves — The Circus 1973
サーカスの鳩(ニューヨーク 1973年)

ヒュージャーはボヘミアンなニューヨークを代表する写真家となる前は、農家の少年だった。ニュージャージー州トレントンでアルコール依存症の母親のもとに生まれた彼は、11歳になるまで半農半漁のユーイング・タウンシップの祖父母のもとで育てられた。祖父母の農場で、彼は動物への深い愛情を育み、それが彼の最初の、そして最も永続的な写真の被写体となった。彼の動物の写真は豊かで多様な作品の中でもあまり知られていないが、ニューヨークモルガン美術館が企画した巡回回顧展のおかげでようやくその価値が認められるようになった。ダイアン・アーバスとロバート・メイプルソープは、社会の片隅にいる人物に魅了されるという点で、ヒュージャーと共通している。しかしアーバスが自分の疎外感を表現するために被写体を代用したり、メイプルソープが被写体をプラトニックな美しさの領域に押し込めようとしたりしたのに対し、ヒュージャーはカメラを使って被写体とのつながりを作り、被写体を真に見てもらうことで被写体を高めたのである。泥だらけの野原をよちよちと歩くガチョウや、車のタイヤの下に隠れているウサギなど、様々な動物にカメラを向けているが、サーカスの鳩が好きである。広いテントの片隅だろうか、カメラの後ろの彼の存在を感じるのである。なお下記リンク先のサイトで、きわどい被写体の作品を含め、その概要を観賞できる。

museum  Peter Hujar Archive | 12 East 86th Street #1424 | New York, NY 10028 | 212-249-7199

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