2011年5月6日

富士フイルムX100のフィルムシュミレーション

富士フイルムのデジタルカメラX100の撮影メニューに「フィルムシュミレーション」というのがある。カラー撮影では富士フイルムの3種類のカラースライドフィルム、すなわちPROVIA、VELVIA、ASTIAの発色に模した撮影ができるという。もっともこれはこれらのフィルムを使った経験がない人には不可解な設定に違いない。さらに黒白のモノクロームモードがあり、フィルターなし、Y(黄)、R(赤)、G(緑)フィルターを使った効果を得るように選択するようになっている。これまた黒白フィルムを使った経験がないと無縁のものだが、かつて使っていた人々には歓迎されるかもしれない。何しろ硝子にせよ、ゼラチンにせよ、トリアセテートにせよ、物理的なフィルターを用意する必要がないからだ。いずれにしてもこのカメラはライカを彷彿とさせる外観といい、このフィルムシュミレーションといい、フィルムからデジタルカメラへシフトした、あるいはシフトを視野に入れている写真愛好家を強く意識した設計であることが想像できる。蛇足ながら画質設定をRAW単独にしたままだと、これらのフィルター情報は保存されないので、FINEあるいはRAW+FINEモードで撮影する必要がある。

アイスランドポピー(西比利亜雛罌粟) 京都府立植物園(京都市左京区下鴨半木町) Fujifilm Finepix X100

私はこれまで何度か黒白写真の魅力について書いてきた。かつて私が揶揄したのは、デジタルカメラで撮影、これを画像処理でカラー情報を破棄した写真をモノクロームと呼んでいることだ。これをカメラ内部の画像処理で行うのがX100のフィルムシュミレーションである。しかし字義通りシュミレーションであって、デジタルカメラはフィルムを使う訳ではないことは言うまでもない。ところで同じ銀塩でもカラーフィルムと黒白フィルムの仕組みは似て非なるものである。前者の場合、カラードカプラーの発色現像が終ると、銀粒子は漂白されて捨てられる。画像は色素で組成されるが、後者の場合は銀粒子そのものが画像を形成する。多くの銀塩アナログ写真愛好家が黒白写真を好むのは、この銀粒子の美しさだと思う。しかしその美しさは、こうしたウェブ上では再現ができない。ついでながらX100にはセピアに変換するモードもあるが、化学的なセピア調色処理とは似て非なるものであることはいうまでもない。黒白やセピアなどへのモノクローム変換は、撮る段階にせよ、後処理にせよ、フィルムのそれとは根本的に違う。これは大事なことだと思うけど、肝心の銀塩写真が瀕死状態にある現在、きっと虚しい主張なんだろうなと諦めの境地に陥って私ではある。

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