2022年5月30日

シンディ・シャーマンのインスタグラム写真

Instagram photo by Cindy Sherman

ずいぶん前のことだが、スマートフォンを手放したついでにインスタグラムのアカウントも削除した。インスタグラムは即時性に意味があると思ったからだが、考え直して PC 版を導入、アカウント @fotokiddie を再取得した。直接のきっかけは、新型コロナウィルス感染症パンデミックで会うことがままならない、東京に住んでいる娘のインスタグラム写真を観るためだったが、遅ればせながら自分でも投稿してみようかという魂胆だ。

Cindy Sherman (2019)

上掲の写真はアーティストのシンディ・シャーマン(1954年生まれ)のインスタグラムである。彼女の作品を観たのは1996年夏、滋賀県立近代美術館での回顧展だった。巨大なカラー写真に圧倒されたことを憶えている。70年代後半、良く知られた映画のワンシーンを自ら演じた「アンタイトルド・フィルム・スティル」でデビュー、現代美術を語る上では欠かせない作家となった。92年以降は性の問題を手掛けた「セックス・ピクチャー」シリーズを展開し、常に時代の最前線で活躍している。その彼女がインスタグラムのアカウントを公表、ネット上に作品を展示しているというニュースが入ったのは2017年ごろだったと記憶している。彼女はタペストリーとインスタグラムを融合させたが、昨年5月11日付けヴォーグ誌のインタビューで「タペストリーのアイデアから離れることができず、また、気に入ったインスタグラムの投稿をどう作品に落としこもうか迷っていました。インスタグラム用の写真は、すべてスマートフォンか iPad で撮影したものなので、大判の写真作品には向きません。しかし、タペストリーであればピクセルのように組み立てられるので、インスタグラムの写真を再現するのに最適だと気づいたんです」と語っている。英国のバンクシーは1,122万人という破天荒なフォロワーを誇っているが、シャーマンの36.4万人は、知名度の割に立派な数字だと思う。以下リンク先はインスタグラムを利用している100人のアーティストのリストである。

Instagram  100 art-world Instagram accounts to follow right now — Artists © 2022 Christie's

2022年5月27日

ロシア軍のウクライナ侵略で浮かび上った旧日本軍の亡霊

Two Down- One to Go
Hitler and Mussolini accounted for leaving only Hideki Tōjō of Japan to be defeated

これは1945年4月28日に米陸軍省のために政府印刷局が発行したパンフレットの表紙の挿絵で、日独伊三国同盟のドイツのルドルフ・ヒトラー、イタリアのベニート・ムッソリーニ、日本の東条英機が描かれている。イタリアとドイツが降伏したため、ヒトラーとムッソリーニの顔に×印がついている。消されていないオリジナルは1942年に制作され、他の印刷物にも掲載されていたようだ。作者のアーサー・シック(1894-1951)は陸軍省、特に戦時国債の販売に必要な美術品を惜しげもなく提供したことで知られている。山本五十六元帥(1884-1943)の肖像は、政治風刺戯画の傑作である。真珠湾奇襲攻撃のわずか2週間後の『タイム』誌1941年12月22日号の表紙を飾ったこの作品は、最大の軍事的失敗の余波の中で、優秀で危険な敵に対する恐怖と尊敬を自然に表現したものである。原画の所在は不明だが、カラースライドを所有している米連邦議会図書館は「日本の侵略者」というタイトルを付けている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月16日に行われた米連邦議会のオンライン演説で「真珠湾攻撃を思い出してほしい 1941年12月7日、あのおぞましい朝のことを」「あなた方の国の空が攻撃してくる戦闘機で黒く染まった時のことを」と訴えた。

Isoroku Yamamoto
Admiral Isoroku Yamamoto by Arthur Szyk

これに対し反発した日本人が多かったようだが、残念ながら「本質的には報道規制で国民が洗脳されてるロシアとそんなに変わらない」と思ってしまう。真珠湾奇襲による米側の主な損害は、戦艦5隻が沈没したほか、戦艦4隻、巡洋艦、駆逐艦各3隻が損傷、飛行場への攻撃で航空機188機が破壊された。人的被害も戦死行方不明者が2,300人を超えたが、ニューズウィーク誌によると民間人死者は68名、負傷35名となっている。この点がゼレンスキー大統領の「真珠湾発言」への強い反発となったようだ。山本五十六元帥は日本を遥かに上回るアメリカの工業生産力を熟知しており、戦争が長期化すれば到底勝ち目がないことを知ってい。そのため日米戦に反対していた。しかし開戦が避けられないならアメリカ海軍にできる早く大きな被害を与えて早期に講和に持ち込むという筋書きを山本は考えたのである。しかし宣戦布告のないままの奇襲にアメリカ側は「騙し討ち」だとして即座に日本に宣戦を布告、さらに欧州戦線にも参戦をすることを決めて第二次世界大戦は一気に拡大することになる。日本は自分たちが始めた戦争を一体どこで止めるのかという戦略がなく泥沼化して行ったのである。プーチン大統領は、旧日本軍の陸軍大将で第40代内閣総理大臣だった東條英機とオーバーラップする。

painting Arthur Szyk (1894–1951) | Biography, Soldier in Art, News & Events, Contact | Historicana

2022年5月23日

残虐戦争犯罪者プーチン大統領風刺画集

Anti-tank hedgehogs
Anti-tank hedgehogs ©Oleksiy Kustovsky
Putin after May 9!
Putin after May 9! ©Becs
Russian Victory Day !! ©Hassan Bleibel
Putin's war crimes
Putin's war crimes ©Tjeerd Royaards
The Butcher of Bucha
The Butcher of Bucha ©Maarten Wolterink

ニューズウィーク日本語版の記事「ウクライナで苦戦するロシア軍、その失敗の本質」が目に止まった。筆者のグレン・カールは米国の元 CIA 諜報員だっただけに、ソビエト連邦の元 KGB 諜報員だったウラジーミル・プーチン大統領の分析に鋭さを感ずる。曰く「ウクライナでのロシア軍の戦いぶりは、その歴史と軍事ドクトリンを反映したものだ。第2次大戦時のスターリンの赤軍以来、ロシア軍は同じことを続けている。民間人を標的にし、相手国の戦闘員と民間人の人権を侵害する。大砲やロケット弾、装甲車、兵器と兵力を大量に投入する一方で、兵站を軽んじる」云々。民間人を標的にするのは戦争犯罪だ。ところがロシアの軍事ドクトリンは、民間人を戦争における正当な標的と見なしているという。ロシア軍の残虐性も、将来の紛争に受け継がれる可能性が高いという。ロシア軍にとって戦況は著しく落ちているが、打開策としてプーチン大統領が核ミサイルの発射ボタンを押すのかもしれない、という悪夢が脳裡を掠めてしまうのは私だけではないだろう。

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2022年5月20日

早逝した写真家リンダ・マッカートニーはザ・ビートルズのポールの伴侶だった

Paul, Stella and James, Scotland, 1982
Paul, Stella and James, Scotland, 1982

Paul and Linda McCartney (1973)

リンダ・マッカートニーは、アメリカの動物愛護活動家、音楽家、写真家だった。ビートルズの創設メンバーであるポール・マッカートニーと結婚し、それが世界に知られる由来となった。ふたりはマッカートニーのバンド、ウィングスを結成した。1962年にジョセフ・メルヴィル・シー・ジュニア(1938-2000)と結婚したが、わずか1年足らず1965年6月に離婚、娘のヘザー・ルイーズを親権者になった。リンダはベジタリアンのためのレシピ本を書き、ビジネスウーマンとして、また写真家として活躍した。彼女は「顔のあるものを食べるのは好きではない」と説明している。彼女の本にはシンプルで感動的なレシピが載っていた。その結果マッカートニー夫妻は動物愛護の活動家になった。リンダは1941年9月24日生まれ、ニューヨーク州ウエストチェスターで育った。1959年にスカースデール高校を卒業後、アリゾナ大学に入学し、ファインアートを専攻する。リンダは「タウン&カントリー」誌の受付嬢として働き、レコード推薦パーティの際に、ローリング・ストーンズを記録することを許された唯一の写真家であった。

Beatles at Brian Epstein's home
The Beatles at Brian Epstein's home, London, 1967

その後、コンサートホール「フィルモア・イースト」で、リンダは人気のグルーピーとなる。ビートルズのポール・マッカートニーと1969年3月12日に結婚しリンダ・マッカートニーになる。ジョン・レノン、アレサ・フランクリン、ジャニス・ジョプリン、ニール・ヤング、ジミ・ヘンドリックスなど、さまざまなアーティストを撮影した。1967年に撮影したヤングの写真は「シュガー・マウンテン」に掲載され、2008年に「カンタベリーハウスのライブ」の表紙を飾った。1970年にビートルズが解散した後、マッカートニー夫妻はアルバム『ラム』を録音し、リンダは夫のグループ、ウィングスに参加することになる。このグループはグラミー賞を多数受賞し、当時最も不敗のバンドとなった 世界中の人々がビートルズに親しみを持った。

tallion and the Standing Stone
The Stallion and the Standing Stone, Scotland, 1996

ロック界のアイドル、エリック・クラプトンを撮影したリンダは、女性として初めて『ローリングストーン』誌の表紙を飾った。また、ポールと一緒にこの雑誌の表紙を飾った。自分が撮影した写真と、自分自身の写真が誌面に掲載されたのは彼女だけだったというのは、非常に賞賛に値する。マッカートニー夫妻は1988年の『ブレッド』のエピソードや『ザ・シンプソンズ』の1話「リサ・ザ・ベジタリアン」にも出演している。国際的な50のギャラリーが彼女の作品を展示した。1993年に写真集『リンダ・マッカートニーの60年代』 1993年に写真集『時代の肖像』が出版される。 マイケル・ジャクソンとポール・マッカートニーのシングル「ザ・ガール・イズ・マイン」のジャケットはリンダが撮影したものである。

Jimi Hendrix
Jimi Hendrix Experience, London, 1967

1995年、リンダ・マッカートニーは不幸にも乳がんと診断された。がん細胞が肝臓に転移、病状はより悪化した。彼女は3年間がんと闘い、1998年4月17日にアリゾナ州タスカンで死去、56歳だった。彼女の死後、リンダとオスカー・グリロ監督による6分間のアニメ映画『ワイド・プレイリー』が1998年8月にエジンバラ国際映画祭で初公開された。テレビアニメシリーズ「シンプソンズ」の200回目のエピソード『スプリングフィールドのゴミ戦争』はリンダに捧げられた。そしてミレニアムが始まった2000年、テレビ映画『リンダ・マッカートニー』でゲイリー・ベイクウェルとエリザベス・ミッチェルがカップルを演じた。リンダは職業としての写真ばかりでなく、家庭生活、そしてミュージシャンとしての作品も残している。

aperture_bk Linda McCartney (1941–1998) | Biography, Exhibitions, Portfolios, Books and Contact

2022年5月17日

ウクライナの独立系メディア「キーウ・インディペンデント」の若き設立者たち

Kyiv Independent
"Minus one village" said one of the soldiers

ウクライナの独立系英語メディア「キーウ・インディペンデント」が、ソーシャルメディア Facebook にポストした記事紹介の文章が、心に突き刺さるものがあったので拙訳を試みた。兵士の「村がひとつ消えた」という言葉が余りにも重い。美しい国土が焦土化し、何の罪のない人たちが殺されている。以下に原文。

In a rare moment of silence, one could hear the hum of thousands of flies and mosquitoes hovering among the trees. This was swiftly interrupted by violent detonations in the distance. "Minus one village" said one of the soldiers.

ソ連時代、モスクワの影に隠れていたキーウの国際政治は、ウクライナの独立によって再び世界政治の舞台となった。1991年12月1日、ウクライナの独立は圧倒的な支持を得たが、モスクワの軌道から逃れることはできなかった。キ―ウはウクライナの親ヨーロッパの西側とロシアびいきの東側の間のイデオロギー的な戦いの中心になった。2004年11月の大統領選挙では、ロシアが支援するヴィクトール・ヤヌコヴィッチ候補が親欧米派のヴィクトール・ユシチェンコ候補を破り、数万人が不正や投票用紙の詰め込みに抗議して首都の通りに繰り出した。選挙期間中、毒殺未遂事件から辛うじて生還したユシチェンコは、支持者を集め「オレンジ革命」と呼ばれる運動を展開した。ウクライナ最高裁は選挙結果を覆し、その後の再選挙ではユシチェンコが勝利した。2013年から14年にかけて、ユシチェンコの後任として大統領に就任したヤヌコビッチが、予定していた欧州連合との連合協定を土壇場で撤回すると、キ―ウに再び抗議行動の波が押し寄せた。

Russia's combat losses
The indicative estimates of Russia's combat losses as of May 17

親欧州連合派のデモ隊はマイダン・ネザレジノスチ(独立広場)にキャンプを張り、市庁舎を占拠した。 2014年2月、警察と治安部隊がデモ隊の群衆に発砲し、数人が死亡した。キーウのダウンタウンは戦場となり、マイダンの周囲の建物はガソリン爆弾で焦土と化した。同盟国から見放され、弾劾の危機にさらされたヤヌコビッチはロシアに逃げ、デモ隊はユーロメイダン運動と呼ばれ、親欧米政権を誕生させた。ヤヌコビッチ政権が倒されたことで、ロシアのプーチン大統領はキーウでの主戦場を奪われ、プーチンはすぐにウクライナ暫定政権を不安定にしようと動き出した。ウクライナのクリミア自治共和国への侵攻と併合は、ウクライナに対するロシアの大規模なハイブリッド戦争作戦の始まりとなった。ロシアが支援する分離主義者の蜂起がウクライナ東部で工作され、キーウは度重なるサイバー戦争攻撃にさらされた。2015年と2016年には、ロシア情報機関の手先と見られるハッカーがキーウの電力網を破壊し、街の一部を数時間にわたって暗闇に陥れた。

cofounders

ウクライナの世界的な声であるキーウ・ポストは、途絶えることなく続いてきた26年目を迎えた数日後の2021年11月8日に沈黙を破った。編集の独立性を守ったためにキーウ・ポストを解雇された編集チームは、沈黙を守ることを拒否した。キーウ・ポストというブランドを守ることができなくても、その価値を守ることはできるはずと。 2021年11月11日、30人以上の元キーウ・ポスト社員が、新しい英語メディア「キーウ・インディペンデント」を立ち上げ、キーウ・ポストの遺産を継承することにしたのである。2022年2月、プーチン大統領はウクライナに対する「特別軍事作戦」の開始を発表し、巡航ミサイルによる攻撃がウクライナ領土への全面的な侵攻に先立ち行われた。しかし、ウクライナ軍はロシアの進攻を複数の地点で牽制し、数千人の市民が首都を守るために武器を手にした。そしてキーウ・インディペンデントはウクライナ危機を英語で発信する貴重なメディアになったのである。またロシア軍の戦力損失のインフォグラフィックを Twitter や Facebook などのソーシャルメディアで配信している。また経済雑誌 Forbes が「フォーブスが選ぶ30歳未満の30人」に、オレクシイ・ソローキンなどのキーウ・インディペンデントの共同設立者を選んだ。設立してから半年足らずで、このウクライナ人ジャーナリストたちは、母国での戦争を報道しながら、勇気、粘り強さ、感受性、影響力を示してきた。ウクライナの報道の自由を強化することに貢献している、と同誌は讃えている。

Forbes At The Kyiv Independent, Reporting On Russia's Invasion Of Ukraine Hits Close To Home

2022年5月9日

ロシアの戦勝記念日式典でのプーチン大統領の演説全文

Red Square March
The ceremony marks the 77th anniversary of the victory over Nazi Germany in World War II

ロシアのプウラジーミル・プーチン大統領は、日本時間の5月9日午後4時からモスクワの「赤の広場」で開催された対ナチスドイツ戦勝記念日の式典で演説を行った。演説全文は以下の通り。(Via NHK)

尊敬するロシア国民の皆さん! 退役軍人の皆さん! 兵士と水兵、軍曹と下士官、中尉と准尉の同志たち! そして同志である将校、将軍、提督の皆さん! 偉大な勝利の記念日に、お祝い申し上げる。祖国の命運が決するとき、祖国を守ることは、常に神聖なことだった。このような真の愛国心をもって、ミーニンとポジャルスキーの兵は祖国のために立ち上がった。ロシアの人々は、ボロジノの草原でも戦った。そして、モスクワとレニングラード、キエフとミンスク、スターリングラードとクルスク、セバストポリとハリコフ、各都市の近郊でも戦った。そして今、あなたたちはドンバスで、われわれ国民のために戦ってくれている。祖国ロシアの安全のために。1945年5月9日は、わがソビエト国民の団結と精神力の勝利、そして、前線と銃後での比類なき活躍の勝利として、世界史に永遠に刻まれた。戦勝記念日は、われわれ一人ひとりにとって身近で大切な日だ。ロシアには、大祖国戦争の影響を受けていない家庭はない。その記憶は薄れることがない。この日、大祖国戦争の英雄たちの子ども、孫、そしてひ孫が「不滅の連隊」の果てしない流れの中にいる。親族の写真、永遠に年をとらない亡くなった兵士たちの写真、そして、すでにこの世を去った退役軍人の写真を持っている。われわれは、征服を許さなかった勇敢な戦勝者の世代を誇りに思い、彼らの後継者であることを誇りに思う。われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ。だからこそ、国際関係におけるあらゆる立場の違いにもかかわらず、ロシアは常に、平等かつ不可分の安全保障体制、すなわち国際社会全体にとって必要不可欠な体制を構築するよう呼びかけてきた。去年12月、われわれは安全保障条約の締結を提案した。ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。しかし、すべてはむだだった。NATO加盟国は、われわれの話を聞く耳を持たなかった。つまり実際には、全く別の計画を持っていたということだ。われわれにはそれが見えていた。ドンバスでは、さらなる懲罰的な作戦の準備が公然と進められ、クリミアを含むわれわれの歴史的な土地への侵攻が画策されていた。キエフは核兵器取得の可能性を発表していた。そしてNATO加盟国は、わが国に隣接する地域の積極的な軍事開発を始めた。このようにして、われわれにとって絶対に受け入れがたい脅威が、計画的に、しかも国境の間近に作り出された。アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。危険は日増しに高まっていた。ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった。主権を持った、強くて自立した国の判断だ。アメリカ合衆国は、特にソビエト崩壊後、自分たちは特別だと言い始めた。その結果、全世界のみならず、何も気付かないふりをして従順に従わざるを得なかった衛星国にも、屈辱を与えた。しかし、われわれは違う。ロシアはそのような国ではない。われわれは、祖国への愛、信仰と伝統的価値観、先祖代々の慣習、すべての民族と文化への敬意を決して捨てない。欧米は、この千年来の価値観を捨て去ろうとしているようだ。

 Victory Day
Putin's Victory Day © 2022 Hassan Bleibel

この道徳的な劣化が、第2次世界大戦の歴史を冷笑的に改ざんし、ロシア嫌悪症をあおり、売国奴を美化し、犠牲者の記憶をあざ笑い、勝利を苦労して勝ち取った人々の勇気を消し去るもととなっている。モスクワでのパレードに来たいと言っていたアメリカの退役軍人が事実上、出席を禁止されたことも知っている。しかし、私は彼らに「あなたたちの活躍と共通の勝利への貢献を、誇りに思っている」ということを知ってもらいたい。われわれは、アメリカ、イギリス、フランスといったすべての連合国の軍隊に敬意を表する。そして抵抗運動の参加者、中国の勇敢な兵士やパルチザンなど、ナチズムと軍国主義を打ち負かしたすべての人たちに敬意を表する。尊敬する同志たち! こんにち、ドンバスの義勇兵はロシア軍兵士と共に、自分たちの土地で戦っている。そこは、スビャトスラフやウラジーミル・モノマフの自警団、ルミャンツェフやポチョムキンの兵士、スボロフやブルシロフの兵士、そして大祖国戦争の英雄ニコライ・ワトゥーチン、シドル・コフパク、リュドミラ・パブリチェンコが、敵を撃破した土地だ。いま、わが軍とドンバスの義勇兵に伝えたい。あなた方は祖国のために、その未来のために、そして第2次世界大戦の教訓を誰も忘れることがないように、戦っているのだ。この世界から、迫害する者、懲罰を与える者、それにナチスの居場所をなくすために。われわれは、大祖国戦争によって命を奪われたすべての人々、息子、娘、父親、母親、祖父母、夫、妻、兄弟、姉妹、親族、友人を悼む。2014年5月に労働組合会館で、生きたまま焼かれたオデッサの殉教者たちを悼む。ネオナチによる無慈悲な砲撃や野蛮な攻撃の犠牲となった、ドンバスのお年寄り、女性、子どもたち、民間人を悼む。そしてロシアのために、正義の戦いで英雄的な死を遂げた戦友を悼もうではないか。1分間の黙とうをささげよう。(1分間の黙とう)兵士や将校、一人ひとりの死は、われわれ全員にとって悲しみであり、その親族と友人にとって取り返しのつかない損失だ。国家、地域、企業、そして公的機関は、このような家族を見守り、支援するために全力を尽くす。戦死者や負傷者の子どもたちを特別に支援する。その旨についての大統領令が、本日署名された。負傷した兵士や将校が速やかに回復することを願っている。そして、軍病院の医師、救急隊員、看護師、医療スタッフの献身的な働きに感謝する。しばしば銃撃を受けながら、最前線で、みずからの命も顧みず戦ってきたあなた方には、頭が下がる思いだ。尊敬する同志たち! 今、ここ赤の広場には、広大な祖国の多くの地域からやって来た兵士と将校が肩を並べて立っている。ドンバスやほかの戦闘地域から直接やって来た人々もいる。われわれは、ロシアの敵が、国際テロ組織を利用して、民族や宗教どうしの敵意を植え付け、われわれを内部から弱体化させ、分裂させようとしたことを覚えている。しかし何一つ、うまくは行かなかった。戦場にいるわれわれの兵士たちは、異なる民族にもかかわらず兄弟のように、互いを銃弾や破片から守っている。それこそがロシアの力。団結した多民族の国民の、偉大で不滅の力だ。こんにち、あなた方は、父や祖父、曽祖父が戦って守ってきたものを、守ろうとしている。彼らにとって、人生の最高の意義は、常に祖国の繁栄と安全だった。そして彼らの後継者であるわれわれにとって、祖国への献身は最高の価値であり、ロシアの独立を支える強固な支柱だ。大祖国戦争でナチズムを粉砕した人々は、永遠に続くヒロイズムの模範を示した。この世代こそ、まさに戦勝者であり、われわれは常に見習い続ける。われわれの勇敢な軍に栄光あれ! ロシアのために! 勝利のために! 万歳!

CNN  Russian President Vladimir Putin's speech as Russia commemorates Victory Day | CNN TV

2022年5月8日

テレグラムを使用してロシアでのメディア検閲をかわす

Logo of Telegram
紙飛行機をデザインしたテレグラムのロゴ

ロシアによるウクライナ侵攻から2ヶ月以上が経過した今日、カタールのドーハにある、24時間放送の衛星テレビ局アルジャジーラ英語版によると、オンライン学生雑誌 DOXA の20人のジャーナリストのほぼ全員がロシアを離れるか、報道を停止している。BBC Russian、Dozhd Television、Moscow Times など、他の独立系メディアのモスクワ在住の150人以上の記者や編集者も同様である。ロシア政府は3月上旬「ロシア軍に関するフェイク」を最高15年の禁固刑に処する法律を導入した。その「フェイク」にはウクライナの情報源を引用することや、政府が認めた「特別作戦」ではなく「戦争」という言葉を使うことなどが含まれる。4日間にわたりほぼノンストップで戦争を報道した後、ロシアの侵攻を支持する友人や親戚とどう話をするかという投稿がソーシャルメディアで拡散され、DOXA のウェブサイトはロシア政府の規制機関によってブロックされた。そしてその後、ロシアの独立系メディア20数社がブロックされたり、放送を停止されたりしているという。対話アプリのテレグラムは、ロシアの独立系メディアにとって常に重要な配信チャネルとして機能してきた。

DOXA

ロシア軍によるウクライナ侵略が始まって以来、このテレグラムは極めて重要になった。ロシア出身のパーヴェル・ドゥーロフ氏により立ち上げられた対話アプリで匿名性が高いのが特長である。非営利で広告がない。モスクワの裁判所は3月21日、米メタを「過激派組織」と認定し、メタが運営するフェイスブックや写真共有アプリのインスタグラムなどの国内事業禁止を支持する判断を下した。ロシア人はメタに対するブロッキングにもかかわらず、テレグラムは多くの人が検閲されていないニュースを入手するための最初の選択肢となった。2月24日から3月20日の間に、ウクライナではほぼ100万回、ロシアでは250万回以上、このアプリがダウンロードされた。テレグラムのインターフェースは、ツイッターやインスタグラムよりもはるかに長い文章を公開できるため、外部リンクをクリックすることなくニュースを読むのに便利であるからだ。下記リンク先のテレグラム公式サイトから [Android] [iPhone/iPad] [PC/Linux] [macOS] 版をダウンロードすることができる。

TelegramBK  Get Telegram Messenger: A freeware, cross-platform, cloud-based instant messaging.

2022年5月4日

イーロン・マスクによるツイッター買収への懸念

Elon Musk Cartoon
Elon Musk buys Twitter for $44 billion © 2022 Ahmad Rahma

宇宙開発企業スペースXの創設者および CEO であり、電気自動車企業テスラの共同創設者、CEO およびテクノキング、テスラの子会社であるソーラーシティの会長などを務めるイーロン・マスク(50歳)が Twitter を440億ドル(約5兆7,000億円)で買収合意した。ニューヨーカー誌電子版によると、マスクは「ソーシャルメディア企業の株式を非公開にすることを計画しており Twitter が言論の自由の原則にもっと忠実であることを望むと述べている」という。マスク自身 Twitter を頻繁に利用しており、今後も同プラットフォームを利用し、ドナルド・トランプ前大統領のアカウントを復活させる可能性もあると推測されているそうだ。マスクはかねてから Twitter による投稿内容の制限を声高に批判し、真の言論の自由を可能にするプラットフォームにならなくてはならないと主張してきた。曰く「言論の自由は機能する民主主義の礎石で Twitter は人類の未来に不可欠な事柄が議論されるデジタルの町の広場だ」と表明している。買収合意成立が発表されると「言論の自由絶対主義者」を自称するマスクが手にする権限について、複数の人権団体が懸念を表明した。

Twitter

投稿内容へのモデレーションがなくなれば、ヘイトスピーチやフェイクニュース、陰謀論などが増えるのではないかという恐れがあるからだ。国際人権団体アムネスティー・インターナショナルは「Toxic Twitter(有害なツイッター)」などとツイートを連投し「利用者を守るために設計された利用規約や仕組みの徹底を損なう方向へ Twitter が進むのではないかと懸念している」と主張している。Twitter の政治利用に関しては、アカウントを永久凍結された米国のトランプ前大統領をいやが上にも思い出す。ただアカウントが復活しても「私は Twitter には行かず Truth Social(2021年にトランプが起ち上げた新たな SNS のトゥルース・ソーシャル)に残る」と表明している。しかしニューズウィーク誌は「暴力煽動、フェイクニュース流布、脅迫、ありとあらゆる権利の濫用をやって追放された」トランプ前大統領や、深型コロナウイルスについて誤解を招く情報を繰り返し流布したとして Twitter のアカウントを永久凍結された、ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員のような人物が戻ってくるのではないかとの懸念が生じているとしている。

Newsweek  ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト『イーロン・マスク』に関する記事一覧

2022年5月1日

知っておきたいウクライナ出身の歴史的画家十傑

Kazimir Malevich
"Relaxing" Kazimir Malevich (1879-1935)
Ilya Repin
"Evening Party" Ilya Repin (1844-1930)
Ivan Aivazovsky
"Ninth Wave" Ivan Aivazovsky (1817-1900)
Sonia Delaunay
"Two Girls" Sonia Delaunay (1885-1979)
Marie Bashkirtseff
"In the Studio" Marie Bashkirtseff (1858-1884)
Boats on Beach
"Boats on Beach" Alexander Archipenko (1887-1964)
Zinaida Serebriakova
"Two Moroccan" Zinaida Serebriakova (1884-1967)
Arkhip Kuindzhi
"Night at Dnepr river" Arkhip Kuindzhi (1842-1910)
Leonid Pasternak
"Old-time Songs" Leonid Pasternak (1862-1945)
Isaak Brodsky
"Lenin Speaks Revolution" Isaak Brodsky (1883-1939)

以上の絵画は、知っておきたいウクライナ出身の歴史的画家トップ10の作品である。リストはマサチューセッツ工科大学の研究機関である伝記プロジェクト "Pantheon"(パンテオン)が、歴史的人気に関する情報を集約した "Historical Popularity Index"(歴史的人気度指数)によりランキング付けしたデータに準拠した。ウクライナが独立したのは1991年で、それ以前のソビエト連邦、ロシア帝国時代の作品も含まれている。なおウクライナ生まれの歴史的著名画家50人のリストが、下記リンク先のページに掲載されている。

university  Memorable painters born in Ukraine | Pantheon | Massachusetts Institute of Technology