安倍晋三元首相は東京都内で先ごろ開かれたシンポジウムで、ウクライナを侵略したロシアのウラジーミル・プーチン大統領について「非常に合理主義者で基本的には力の信奉者だ」と指摘。「言ってみれば戦国時代の武将みたいなもの。たとえば織田信長に人権を守れと言っても全然通用しないのと同じ」と語り、ウクライナについて「プーチン大統領が長い間、独裁政権を確立するなかで情報分析が的確に行われず、大きな間違った判断をした結果だと思う」と分析したという。2019年9日5日、安倍晋三はロシア極東のウラジオストクでプーチン大統領と会談し「ゴールまでウラジーミル、ふたりの力で駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」と述べた。まるで三文役者の台詞のようで、ここに書くのも恥ずかしい。共に夢を持った仲であったはずが、わずか数年後の変身、変わり身の早さに唖然とする。二枚舌を使うのは日常茶飯事、息を吐くように嘘をつく、稀代のペテン師である。しかもどうやら本人は嘘を嘘と思っていないらしいから尚のことタチが悪い。プーチン大統領と27回も会談したにも関わらず、北方領土問題を放り投げ、知らん顔をしているのである。
千島列島を巡る紛争の歴史 拡大表示 |
フランクリン・ルーズベルト米大統領は、1945年2月のヤルタ会談で、ソ連のヨシフ・スターリン首相に対日参戦を求め、千島列島をソ連領とすると提言した。そしてソ連は同年8月18日、千島列島に進攻を開始する。イラストはジョルジュ・ビゴーが描いた、日露戦争をけしかけた英米の風刺漫画だが、米国は「第二次日露戦争」をそそのかしたのである。この史実はどうやら広く一般に浸透していないようだ。日本政府はポツダム宣言を受諾し、連合国に無条件降伏し同年9月2日降伏文書に調印した。これによって千島列島はソ連の占領下になった。そして1951年、サンフランシスコ平和条約を批准、日本は千島列島の放棄を約束してしまった。米国代表は「千島列島には歯舞群島は含まないというのが合衆国の見解」と発言したが、ソ連代表のアンドレイ・グロムイコ第一外務次官は「千島列島に対するソ連の領有権は議論の余地がない」と主張した。吉田茂主席全権は条約受諾演説で「千島列島及び樺太南部は、日本降伏直後の1945年9月20日、一方的にソ連領に収容されたのであります」「日本の本土たる北海道の一部を構成する色丹島及び歯舞諸島も終戦当時たまたま日本兵営が存在したためにソ連軍に占領されたままであります」と述べている。これが日本政府が不法占拠だと主張してきた所以だろう。ところが2019年の北方領土の日の2月7日、北方領土返還要求全国大会が採択したアピール文から、これまで使ってきた「日本固有の領土」との文言が消えてしまった。交渉に行き詰まった安倍政権が、ロシアを刺激しないようにする狙いがあったのである。ところが、ところがである、外務省は2022年の外交青書をまとめ、北方領土について「ロシアに不法占拠されている」と明記し、今月22日の閣議で報告された。これに対しロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「四つの島は全てロシアの不可分の領土だ」と反発した。プーチン大統領はクリミア自治共和国併合もそうだが、北方領土問題の法的な解釈を熟知しているはずである。名門レニングラード大学法学部を卒業しているので、法律を遵守する政治家と信じたい。しかしKGB(ソ連国家保安委員会)の諜報員であったという経歴が、不安材料として払拭できずに残っているが、そこにプーチン大統領の二面性を嗅ぎ取ることができる。一方、安倍晋三はかつて「平和条約の問題をじっくり話し合った」と語ったが、領土交渉は1ミリたりとも動かすことができなかった。ウクライナ侵略に伴う経済制裁に対しプーチン大統領は強く反発している。北方領土返還の可能性は限りなくゼロに近づいてしまったようだ。
サンフランシスコ平和会議における首席全権吉田茂総理大臣の受諾演説 | 東京大学東洋文化研究所