2017年12月3日

木島櫻谷の幻の名画「かりくら」に痺れる

「かりくら」1910(明治43)年 櫻谷文庫蔵

昨日の12月2日、左京区鹿ヶ谷の泉屋博古館に出かけた。今日が木島櫻谷『近代動物画の冒険』展の最終日なので、文字通り駆け込み鑑賞だった。閑静な住宅街にある同館は旧財閥住友家が蒐集した美術品、特に中国古代青銅器を保存展示するために1960年に設立された美術館である。木島櫻谷(このしまおうこく1877-1938)は京都生まれの日本画家。徹底した写生を行い、透徹した自然観照と叙情あふれる画風で、明治後半から昭和初期にかけて活躍した。その画風は京都画壇に伝統的な運筆法を駆使しながら、明治末期からは油絵の技法をも研究した鮮麗な色彩と造形で新境地を開いた。大正末期頃からは南画風の表現に傾き、写実と瀟洒で詩情豊かな画風へと展開していった。今回の展示は得意とした動物画を集めたものである。最も有名な作品は「寒月」(京都市美術館蔵)で、一匹の狐が辺りの様子を窺いながら雪の竹林を歩む姿を描いている。かの夏目漱石が「兎に角屏風にするよりも写真屋の背景にした方が適当な絵である」と酷評した、いわくつきの作品だが、案に相違して文展で高い評価を受け、二等に選ばれている。ライオンを描いた「獅子虎図屏風」(個人蔵)も素晴らしい。緻密な描写だが、実際のライオンをモデルにしたのだろうか。一番印象に残ったのは「かりくら」(櫻谷文庫蔵)である。1910(明治43)年の第4回文展で三等となり、翌年イタリアで開催された羅馬万国美術博に出品後、長らく行方不明とされていた作品だった。没後3年の「大回顧展」に出されることもなく、専門家の間では消失してしまったのだろうと、諦められていたという。ところが2008年に衣笠の櫻谷旧邸で見つかり、修復されて蘇生した、いわば幻の名画である。題名は狩猟場、あるいは狩りの競争を指すが、疾走する狩人が描かれている。人馬一体という言葉があるが、三人の狩人と馬が一つになった、躍動感あふれる作品である。特に馬の描写は見事の一言に尽きる。今年は櫻谷生誕140年にあたり、京都文化博物館でも「木島櫻谷の世界」が12月24日まで開催されている。なお来年には港区六本木の泉屋博古館分館でも生誕140年記念特別展が開かれる。

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