カメラオブスクラでカイロの市街を映し出すイブン・アル=ハイサム
科学雑誌サイエンティフィック・アメリカンが「ムスリム科学者の忘れられた歴史」と題し、画像スライドショーを含め、イスラーム科学の特集していた。副題には「過去のイスラム教徒の土地で科学の繁栄がなければ、現代世界で、アルゴリズムや代数を持っていない可能性が」とある。8世紀から15世紀にかけて、イスラーム世界がおいて科学、特に数学、光学、化学が発展、世界の先駆的存在であったことは、ともすると忘れがちでないだろうか。アメリカでは無論ムスリムが多数住んでいるのだが、2001年9月11日の同時多発テロ事件以来イスラームへの敵意が増し、現在でも収まっていないのはご存知の通りである。引用したブラッドレイ・シュテフェンス著『イブン・アル=ハイサム:最初の科学者』は9歳から12歳向け児童書だが、アメリカ人に対する啓蒙書といえるかもしれない。上掲画像は同誌のサイトにも掲載されているが、光学の父と呼ばれるイブン・アル=ハイサム(965-1040)がカメラオブスクラを操っている様子である。彼は目から出た光が対象を走査し、そのことによって目の中に像が出来るという、ユークリッドやプトレマイオスの視覚論を批判した。太陽その他の光源から出た光が対象に反射し、それが目に入って像を結ぶという正しい理論を提出し、現在から見てもかなり正確な眼球の構造を記している。彼はカメラオブスクラを作って視覚の研究をした。3本の蝋燭を一列に並べ、壁との中間に孔を開けた衝立を置いた。彼は右側にある蝋燭の光が壁の左側に像を結び左側の蝋燭の像は右に出ることに気が付いた。このことからイブン・アル=ハイサムは光の直進性を導き出したが、像を結ぶのが小さな孔だけであることに注目したのである。ピンホールカメラの原理について聞かれると、私は「光の直進性を利用したもの」と答えることにしている。これまでの経験だと、これで相手は何となく納得してしまうらしく、例えば「どうして光は直進するのか」という突っ込みを受けたことがない。この点を解明した彼はまさに最初の科学者の形容詞に値する、史上最も偉大な科学者のひとりなのである。日本でも近代科学はヨーロッパに起源があると誤解している向きがあるかもしれないが、もしそうならそれはぜひ払拭して欲しい。
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