2023年3月17日

誰がエレクトリックギターを発明したのか

Paul Tutmarc
Paul Tutmarc (1896–1972) and his Audiovox Electric Guitars circa 1937

20世紀は「電気の世紀」であったといわれる。18世紀までの静電気時代は、電気は単にパチパチと火花のとばす好奇心の対象に過ぎなかった。ところが20世紀に入り、電信電話、電灯、電力と動力、無線、能動素子とエレクトロニクス、IT情報の順で発展してきた。音楽の世界では大音量の出力を可能にしたエレクトリックギターの出現を挙げることができる。しかし誰がエレクトリックギターを考案したのかという点は意外と分かっていない。詠み人知らずの伝承民謡を著作権登録すれば、申請者が作ったということになる。同じようなような意味で、楽器も申請して特許を取得すれば、発明者と呼ばれるようになる。1890年、アメリカ海軍の将校、ジョージ・ブリード(1864–1939)が 電気で音を出す装置の特許を取得した。

George Breed's patent for the fretted string instrument 1890

この装置はギターの上に作られ、弦からの振動を電流に変換するものだった。ブリードの発明は「非常に珍しく、ギターに似ていない」と表現される音を生み出した。音を増幅したわけではなく、弦楽器と電気を組み合わせた最初の発明者の一人だった。次に特許で知られるのがジョージ・ビーチャム(1899–1941)のラップスティールギターである。1934年に出願、1937年に特許を取得した。バンジョーに似た形で「フライパン」と呼ばれた。ピックアップには、磁界を集中させるために各弦の下に6個のポールピースを配置した馬蹄形のマグネットを採用している。ポールピースの周りに巻かれた1つの大きなコイルが、弦を弾いたときにポールピースの端から離れたり離れたりして振動し、磁束の変化を感知する。この特許には、楽器に取り付けられた電気回路と増幅器についても記載されている。

George Beauchamp's patent for the Frying Pan guitar 1937
Lorraine Tutmarc playing the #736 bass with Paul's band

ここで想起すべきはポール・タトマルク(1896–1972)だろう。テノール歌手であり、ラップスティールギターやウクレレの演奏家でもあったタトマルクは、電気増幅されたコントラバス、エレクトリックベース、ラップスティールギターなど、様々なタイプの弦楽器を開発したことで知られている。タトマルクのオーディオボックス社は、エレクトリック・ラップスティールギターを最初に製造した企業のひとつであり、タトマルク自身もしばしばデモンストレーターやプロモーターを務めていた。彼は1935年にソリッドボディのエレクトリック・アップライト「ブル・フィドル」を発明したが、それは主に宣伝ツールとしての役割を果たした。彼は独自の "ブレード" ピックアップを搭載したラップスチールギターとそれに付随するアンプを製造した。彼の真の名声は1936年に発売されたフレット付きのソリッドボディの "Audiovox Model 736 Bass Fiddle" の開発と販売であったが、これは横向きで使用するように設計されていた。この当時の革新的な楽器は歴史上最も早いエレクトリックベースであり、はるかに有名なフェンダー・プレシジョン・ベースよりも10年半も先行した楽器と考えられている。彼は演奏家であり、企業経営者だった。従って電子工学に造詣が深かったとは断言できない。もしかしたらオーディオボックス社の技術者が新しい電子楽器の開発をしたのかもしれない。右上の写真を見ると、妻のロレーヌがこのベースを弾いているが、彼女は最初のエレクトリックベース奏者と言えそうだ。標題に戻そう。誰がエレクトリックギターを発明したのか、その特定は困難である。そもそもエレクトリックギターとは何かという定義が様々で、異なった解釈が非常に多いからだ。

YouTube  Lsten to "Midget Auto Blues" by Paul Tutmarc and his Wranglers (circa 1944) on YouTube

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