Kingfishers and Rollers: A Field Guide to the Birds of South East Asia
ずいぶん昔の話になるが、山階鳥類研究所を訪れて驚いたのは、膨大な量の剥製や骨格標本ではなく、19世紀から20世紀の初めにかけてヨーロッパで発行されたジョン・グールドなどの、豪華な石版および銅版手彩色の鳥類図譜群であった。一辺が1メートルを超えていたものもあったと記憶している。同研究所に関係した鳥類学者は、山科芳麿、松平頼孝、鷹司信輔、蜂須賀正氏、黒田長禮など、旧大名や公家の流れを汲む、華族階級出身者が多数含まれていた。現在の総裁は秋篠宮文仁親王で、理事長が島津久永氏である。紀宮清子内親王も嫁ぐ前はここに席を置き『ジョン・グールド鳥類図譜総覧』を編纂出版している。これらの伝統はおそらく英王室に倣ったものだと想像するが、鳥類学には貴族的な博物趣味が横溢していると言えるだろう。石版銅版手彩色の豪華本には縁遠い私が最初に手にした鳥類図鑑は日本鳥類保護連盟の『野外観察用鳥類図鑑』だった。ポケットサイズで、野鳥を見つけてはその記録を書きこんだ憶えがある。海外の野鳥に関しては J.G.Williams(著)Norman Arlott(絵)"A Field Guide to the Birds of East Africa" (右)が最初の一冊だったと思う。記憶がいささか曖昧だが、1981年、ケニアに旅行した際に確かナイロビのホテルで購入したものだ。1995年に改訂版が出版されたが、現在は絶版になっているようだ。その後コリンズ社の同系列の図鑑を何冊か購入した。Ben King(著)Edward C. Dickinson(著)Martin Woodcock(絵)の東南アジア版(上)は、実現しなかったが、香港にバードウォッチングに行こうと思い買ったものである。野鳥は文字通り野生の鳥、フィールド観察にその真髄があるのはいうまでもない。
私が所持している高野伸二(著)『フィールドガイド日本の野鳥』(日本野鳥の会)は1982年に出版されたものである。現在入手できるのは2015年に発刊された増補改訂版である。フィールドガイドという言葉はコリンズ社の影響と想像されるが、本の体裁が良く似ている。山階鳥類研究所で見た豪華本と比べるとコンパクトで文字通りフィールドガイドそのもので、日本の野鳥観察に欠かせない定番の一冊と言えるだろう。ところで私の場合、実際にはこの図鑑を携行することは稀である。もっとコンパクトなガイドブックがあるからだ。日本野鳥の会発行の谷口高司(著)新・野鳥観察ハンディ図鑑『新・山野の鳥』『新・水辺の鳥』改訂版である。二分冊の本書は新書サイズでいずれも64ページ、厚さは何と6ミリである。私のバッグの主役はあくまでカメラであり、バードウォッチング用の双眼鏡や図鑑はわき役に過ぎない。そういう意味でこのコンパクトさはたいへん有難い。それに例えば山野の鳥編では「身近な鳥」「森・林とその周辺の鳥」「草地の鳥」「渓流の鳥」「高山の鳥」「飛んでいる鳥」という具合に棲息環境別に分類しているのが親切である。蛇足ながら私は写真を使った鳥類図鑑を持っていない。いろいろ議論の余地があるだろうが、イラストのほうが鳥の特徴を掴み易いような気がするからだ。ところでアームチェアアングラー、すなわち肘掛椅子釣り師という言葉がある。書斎で書籍を片手に釣りを夢想する釣り師のことだが、野鳥観察の場合はアームチェアバードウォッチャーでも言うのだろうか、鳥類図鑑は部屋に籠って眺めているだけでも楽しめる。