2017年10月15日

野生動物写真の先駆者カートン兄弟

海鳥の巣を撮るため崖下に降りるチェリー・カートン(シェトランド諸島)

ウタツグミの卵(クリックで拡大)
19世紀末から20世紀にかけて活動した英国のリチャード(1862–1928)とチェリー(1871-1940)のカートン兄弟は、紛れもなく現代の野生動物写真の先駆者であった。営巣中のウタツグミの卵の写真は世界で初めて、1892年に撮影されたもので、1895に出版された『英国の野鳥の巣:どのようにして、どこで、いつ、その種類を特定するか』にその成果が結実した。野鳥は警戒心が強いので現在でもブラインドテントを使うが、牛の毛皮で牛のぬいぐるみを作り、その中に潜んで撮るといった工夫を凝らした。また木の上の巣を撮るため、三脚を繋ぎ合わせて高くし、リチャードの背に乗って撮影するチェリーの写真が残っている。そればかりではない、高木に登り、細い枝に梯子を固定してマヒワの巣を撮ったり、海鳥の巣を撮るため、ロープにぶら下がって断崖絶壁を降りるといった危険な作業もしている。それはあくまで野生動物の自然な姿を撮るためだった。剥製を使ってフェイク写真を作るということをしなかったチェリーの「絶対的な誠実さ」を、アフリカで出会ったセオドア・ルーズベルト大統領が絶賛したという。その最たるショットが、1909年にケニアで夜間、フラッシュを使って撮影されたライオンだった。1910年に撮影されたマサイ族のライオン狩りの写真は、おそらく最初にして唯一のもので、特筆に値する。狩猟という名の忌まわしい「スポーツ」が現在でも行われているが、彼は銃の代わりにカメラを持ったが、それゆえに多くの危険に晒されたことは言うまでもない。野生動物を記録するため世界を旅した彼は「私の仕事は愛の労働」という言葉を残している。昨年ジョン・ベヴィス著『カートン兄弟:ネイチャー写真の事始め』が出版されたが、アマゾンで入手できる。

Amazon  "The Keartons: Inventing Nature Photography" by John Bevis

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