2015年5月4日

賀茂祭(葵祭)と平安装束と源氏物語

賀茂祭の平安装束  下鴨神社(京都市左京区下鴨泉川町)2014年5月15日

京都に住み始めたころ、毎日のように執り行われる社寺の伝統行事に余り興味を持てなかった。ただ仕事で撮影に付き合わされたので、主な行事は概ね観ている。祇園祭の神輿渡御は例外で、その山鉾巡行は岸和田のだんじり祭のような勇壮さはない。賀茂祭(葵祭)や時代祭は単なる仮装行列じゃないかと思ったくらいだった。ところが歳を重ねるうちに見方が変わってきた。特に平安装束の配色美、所謂「かさねの色目」に次第に惹かれるようになった。特に賀茂祭は遠く平安時代にルーツがあるので、余計に魅力を感ずる。
二条の大通りは物見の車と人とで隙すきもない。あちこちにできた桟敷さじきは、しつらいの趣味のよさを競って、御簾みすの下から出された女の袖口そでぐちにも特色がそれぞれあった。(途中略)とうとう前へ大臣家の車を立て並べられて、御息所の車は葵夫人の女房が乗った幾台かの車の奥へ押し込まれて、何も見えないことになった。それを残念に思うよりも、こんな忍び姿の自身のだれであるかを見現わしてののしられていることが口惜くちおしくてならなかった。車の轅ながえを据すえる台なども脚あしは皆折られてしまって、ほかの車の胴へ先を引き掛けてようやく中心を保たせてあるのであるから、体裁の悪さもはなはだしい。どうしてこんな所へ出かけて来たのかと御息所は思うのであるが今さらしかたもないのである。見物するのをやめて帰ろうとしたが、他の車を避よけて出て行くことは困難でできそうもない。(与謝野晶子訳)
井關家の葵(京都市北区上賀茂北大路町)
これは源氏物語第九帖「葵」の有名な「御禊見物の車争いの物語」のさわりである。禊の儀式に同行する光源氏の姿をひと目見ようと、都中の女性たちが一条大路に集まった。正妻である葵上は妊娠していて気分がすぐれないが、周囲の勧めもあって祭の見物に出かける。ところが牛車で立て込んでいて、止める場所がない。葵上の従者たちは他の車を押しのけて止めようとするが、そこにあったのは源氏の元恋人、六条御息所の乗った牛車だった。血気盛んな双方の若い従者たちの罵声が飛び、しまいには乱闘となって御息所の牛車は破損してしまった。源氏の姿を見るためにお忍びで出かけた葵上は、この騒ぎで市井の人々に醜態を晒してしまった。これが顛末である。ところで昨日、上賀茂神社の社家町界隈を散策、京都市の有形文化財になっている、井關家の庭で双葉葵を撮らせてもらった。写真をクリックすると拡大表示するのでその詳細をご覧できると思う。賀茂祭にちなんで賀茂葵と呼ばれている。今月15日、参列者はこの葵を身に着ける。

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