朝日新聞(大阪本社発行)2013年11月13日朝刊1面
小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」発言が波紋を呼んでいる。かつて国民に絶大な人気を誇った小泉氏の発言を否定すれば支持率低下につながりかねず、うかつに反論できないので、安倍首相以下、政府および自民党はかなり苛立っているようだ。朝日新聞社が実施した全国定例世論調査では、小泉純一郎元首相が政府や自民党に対し「原発ゼロ」を主張していることについても質問したところ、この主張を「支持する」は60%にのぼり、「支持しない」の25%を上回ったという。一方、11月12日の同紙電子版は「そこまで言うなら、これまでを反省し、具体的に原発停止までどういう道筋にするかを語って欲しい」という、福島県双葉町から福井県坂井市に避難している学習塾経営の声を伝えている。同時に掲載されている首相時代の小泉氏の原発に関する国会答弁を見てみよう。
- 原子力発電も今は3割を占め、その重要性というのも今は否定できない(2001年5月)
- 二酸化炭素を排出しない原子力を安全確保を大前提に着実に推進する(2002年2月)
- 原子力発電は、燃料供給の安定性に加え、発電の際にCO2を発生しないという環境特性を有し、~今後も重要な役割を担っていく(2002年10月)
- エネルギー資源に乏しい我が国において、高速増殖炉開発を進めることは重要(2003年2月)
- 安定性に優れ、発電過程で二酸化炭素を発生しないという特性有する原子力発電について、~推進に引き続き努めてまいりたい(2003年2月)
- 国内の原子力発電施設について、地震や津波が際に放射能漏れなどの事故を起こすことがないよう施設の耐震性の強化を図っている(2005年1月)
- 安全を大前提とした原子力発電に取り組む(2006年1月)
同じ人物の発言とはおよそ信じがたい驚天動地、いやまさにカメレオン政治家である。一番気になるのは前述の避難者が指摘しているように、過去の言動に対し反省し、国民に向かってまず謝罪すべきである。にも関わらず、私が報道を通じてキャッチした範囲では、その言葉はない。昨今の「転向後」の発言内容は、確かに正論である。これで方針を政府が方向転換、日本が脱原発に進めば評価せざるを得ない。しかしその言動は「民主主義」を幟に書いてはいるが、芝居小屋へ観客を呼び込むためのものなのだ。天才ポピュリストにとって、原発推進も、郵政民営化も、原発ゼロも小泉劇場の小道具に過ぎないのではなかろうか。その小道具に観客、すなわち国民が翻弄されているのである。濃縮ウランの70%はアメリカから輸入している。それに代わるシェールガス輸入の御用商人という疑いが脳裡を掠めるのである。