2024年10月5日

微妙なテクスチャーの言語を備えた異次元の写真を追及したアーサー・トレス

xterior with girl
Exterior with girl, Capo May, New York, 1971
Arthur Trres in Japan

アーサー・トレスは1940年11月24日、ニューヨークのブルックリンで生まれた。離婚した家庭の4人兄弟の末っ子として、幼少期は再婚して上流階級の地域に住む父親と、離婚後も独身を貫いた母親のもとで過ごした。1952年、小学生の時に初めて写真を撮った。ニューヨーク州レッドフックの町、アナンデール・オン・ハドソンの村落にある私立の教養大学のバード大学に入学し、ハインリッヒ・ブルーチャーのもとで美術と美術史および世界文化と哲学を学んだ。在学中も写真を撮り続け、短編映画を作り始めた。1962年に美術学士号を取得して卒業した。バード大学卒業後、トレスは映画学校に通うためにパリに移住したが、すぐに退学した。ヨーロッパ、エジプト、日本、インド、メキシコを旅した後、スウェーデンのストックホルムに定住し、ストックホルム民族学博物館で写真家として働く。1968年、プロの写真家になる決意を固めてニューヨークに戻った。その年、スミソニアン協会とニューヨークのシエラ・ギャラリーで初の個展「アパラチア - 人々と場所」を開催した。その後、1969年から1970年にかけて ミュニティを貧困から救う能力を高めるために、非営利団体や公的機関に必要なリソースを提供する貧困撲滅プログラム VISTA(Volunteers in Service to America =アメリカに奉仕するボランティア)でドキュメンタリー写真家として働いた。

Bride and Groom
Stephan Brecht, Bride and Groom, New York, 1970

アーサー・トレスは、1970年代にストリート写真から脱却し、受動的な観察者ではなく目の前の現実を操作するなど、より個人的なビジョンを展開した最初のアーティストのひとりだった。カリフォルニア州オークランドにあるサンフランシスコ地域美術品保存センターの創設者兼ディレクターであり、アメリカ美術史作品保存協会のフェローだったリチャード・ ロレンツは「アーサー・トレスは、独自の進化を続ける写真スタイルで、さまざまな視点を抽出している。民族誌学者の文化的、歴史的探究、舞台監督の心理社会的指導と思考の種まき、そしてアーティストの計算高く、時には即興的な想像力と創造性、これらすべてが、写真家のトレスに融合しているのである。彼はアメリカで最も才能があり、多様性に富んだ写真家のひとりである。

Flood Dream
Flood Dream, Ocean City, New Jersey, 1971

彼のドキュメンタリールポルタージュは、ジャンルを覆すほど主観的または捏造されたものであり、視覚的なエロスを作り出すことで、美と暴力の一見矛盾した二重性を提示し、キッチュな世界における個人の神話の創造によって、生、死、そして来世の意味を理解することができる」と書いている。1970年に同じシエラ・ギャラリーでシリーズ "Open Space in the Inner City"(都心のオープンスペース)を展示し、翌年、このシリーズに対してニューヨーク州芸術評議会の助成金を受けた。 1972年、彼は「ドリーム・コレクター」シリーズで全米芸術基金の助成金を獲得した。1976年には "Theater of the Mind"(心の劇場)シリーズでニューヨーク州芸術評議会から2度目の助成金を獲得した。さらに1980年には男性ヌードに関する本 "Arthur Tress: Facing Up, A 12-Year Survey"(アーサー・トレス: 上を向いて、12年間の調査」を出版し、ニューヨークのロバート・サミュエル・ギャラリーでも展示された。

Hooded Figure
Young boy and Hooded Figure, New York, 1971

同年、彼は「ティーポット・オペラ」の写真制作を開始した。トレスはカラー撮影を開始し、ニューヨークのウェルフェア島にある廃病院で見つけた医療機器を使って、部屋サイズの塗装済み彫刻インスタレーションを作成した。これにより、子供向けのおもちゃの劇場や19世紀の移動可能な水族館内で、物語性のある静物画の小規模な探求が行われるようになった。1986年から1988年にかけて開催された大規模な回顧展 "Talisman"(お守り)は、ロンドンの写真ギャラリーを皮切りに、イギリスのオックスフォード近代美術館、ドイツのフランクフルト美術館、ベルギーのシャルルロワにある写真美術館を巡回した。1992年にトレスはカリフォルニア州カンブリアに引っ越した。1995年にアリゾナ州 ツーソンのクリエイティブ写真センターで "Arthur Tress: The Wurlitzer Trilogy"(アーサー・トレス:ウーリッツァー三部作)が展示された。

Girl with Dunce Cap
Girl with Dunce Cap, New York, 1972

この作品は2002年初頭にニューメキシコ州のサンタフェ大学に巡回された。モノグラフ "Arthur Tress: The Dream Collector"(アーサー・トレス:夢の収集家)"Shadow: A Novel in Photographs"(影:写真で綴る小説")"Theatre of the Mind"(心の劇場)"Arthur Tress: Fantastic Voyage: Photographs 1956-2000"(アーサー・トレス:ファンタスティックな旅:写真 1956-2000)を含め数多くの著書が出版されている。彼の作品はニューヨーク近代美術館、ニューヨーク・メトロポリタン美術館、ジョージ・イーストマン・ハウス、国立図書館、ポンピドゥー・センター、ロサンゼルス郡美術館、サンフランシスコ美術館、ヒューストン美術館、ホイットニー美術館、ステデライク美術館、ハイ美術館、シカゴ現代美術センター、シンシナティ美術館、シカゴ美術館、ミルウォーキー美術館など、数多くの美術館や機関に収蔵されている。

Gallery_BK Arthur Tress (born 1940) | Biography | Artworks | Museum | Collections | News and Links

写真術における偉大なる達人たち

New Mothers
Sally Mann (born 1951) The New Mothers, Lexington, Virginia, 1989

2021年の夏以来、思いつくまま世界の写真界20~21世紀の達人たちの紹介記事を拙ブログに綴ってきましたが、2024年10月5日現在のリストです。右端の()内はそれぞれ写真家の生年・没年です。左端の年月日をクリックするとそれぞれの掲載ページが開きます。

21/08/12エイズで他界した写真家ピーター・ヒュージャーの眼差し(1934–1987)
21/08/23ロマン派写真家エドゥアール・ブーバの平和への眼差し(1923–1999)
21/09/18女性初の戦場写真家マーガレット・バーク=ホワイト(1904–1971)
21/09/21自由のために写真を手段にしたエヴァ・ペスニョ(1910–2003)
21/10/04熱帯雨林アマゾン川流域へのセバスチャン・サルガドの視座(born 1944)
21/10/06アフリカ系アメリカ人写真家ゴードン・パークスの足跡(1912–2006)
21/10/08写真家イモージン・カニンガムは化学者だった(1883–1976)
21/10/10現代アメリカの芸術写真を牽引したポール・ストランド(1890–1976)
21/10/11虚ろなアメリカを旅した写真家ロバート・フランク(1924–2019)
21/10/13キャンディッド写真の達人ロベール・ドアノー(1912–1994)
21/10/16大恐慌時代をドキュメントした写真家ラッセル・リー(1903–1986)
21/10/17自死した写真家ダイアン・アーバスの黙示録(1923–1971)
21/10/19報道写真を芸術の域に高めたユージン・スミス(1918–1978)
21/10/24プラハの詩人ヨゼフ・スデックの光と影(1896-1976)
21/10/27西欧美術を米国に紹介した写真家アルフレッド・スティーグリッツの功績(1864–1946)
21/11/01ウジェーヌ・アジェを「発見」したベレニス・アボット(1898–1991)
21/11/08近代ストレート写真を先導したエドワード・ウェストン(1886–1958)
21/11/10社会に影響を与えることを目指した写真家アンセル・アダムス(1902–1984)
21/11/13ウォーカー・エヴァンスの被写体はその土地固有の様式だった(1903–1975)
21/11/16写真少年ジャック=アンリ・ラルティーグ異聞(1894–1986)
21/11/20世界で最も偉大な戦争写真家ロバート・キャパの軌跡(1913–1954)
21/11/25児童労働の惨状を訴えた写真家ルイス・ハインの偉業(1874–1940)
21/12/01写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの決定的瞬間(1908–2004)
21/12/06犬を愛撮したエリオット・アーウィット(1928-2023)
21/12/08リチャード・アヴェドンの洗練されたポートレート写真(1923–2004)
21/12/12バウハウスの写真家ラースロー・モホリ=ナジの世界(1923–1928)
21/12/17前衛芸術の一翼を担ったマン・レイは写真の革新者だった(1890–1976)
21/12/29アラ・ギュレルの失われたイスタンブルの写真素描(1928–2018)
22/01/10自然光に拘ったアーヴィング・ペンの鮮明な写真(1917-2009)
22/02/01華麗なるファッション写真家セシル・ビートン(1904–1980)
22/02/25抽象的な遠近感を生み出した写真家ビル・ブラント(1904–1983)
22/03/09異端の写真家ロバート・メイプルソープへの賛歌(1946–1989)
22/03/18写真展「人間家族」を企画開催したエドワード・スタイケン(1879–1973)
22/03/24キュメンタリー写真家ブルース・デヴッドソンの慧眼(born 1933)
22/04/21社会的弱者に寄り添った写真家メアリー・エレン・マーク(1940-2015)
22/05/20写真家リンダ・マッカートニーはビートルズのポールの伴侶だった(1941–1998)
22/06/01大都市に変貌する香港を活写したファン・ホーの視線(1931–2016)
22/06/12肖像写真で社会の断面を浮き彫りにしたアウグスト・ザンダー(1876–1964)
22/08/01スペイン内戦に散った女性場争写真家ゲルダ・タローの生涯(1910–1937)
22/09/16カラー写真を芸術として追及したジョエル・マイヤーウィッツの手腕(born 1938)
22/09/25死と衰退を意味する作品を手がけた女性写真家サリー・マンの感性(born 1951)
22/10/17北海道の風景に恋したイギリス人写真家マイケル・ケンナのモノクロ写真(born 1951)
22/11/06アメリカ先住民を「失われる前に」記録したエドワード・カーティス(1868–1952)
22/11/16大恐慌の写真 9,000 点以上を制作したマリオン・ポスト・ウォルコット(1910–1990)
22/11/18人間の精神の深さを写真に写しとったペドロ・ルイス・ラオタ(1934-1986)
22/12/10アメリカの生活と社会的問題を描写した写真家ゲイリー・ウィノグランド(1928–1984)
22/12/16没後に脚光を浴びたヴィヴィアン・マイヤーのストリート写真(1926–2009)
22/12/23写真家集団マグナムに参画した初めての女性イヴ・アーノルド(1912-2012)
23/03/25フランク・ラインハートのアメリカ先住民の肖像写真(1861-1928)
23/04/13複雑なタブローを構築するシュールレアリスム写真家サンディ・スコグランド(born 1946)
23/04/21キャラクターから自らを切り離したシンディー・シャーマンの自画像(born 1954)
23/05/01震災前のサンフランシスコを記録した写真家アーノルド・ジェンス(1869–1942)
23/05/03メキシコにおけるフォトジャーナリズムの先駆者マヌエル・ラモス(1874-1945)
23/05/05超現実主義絵画に着想を得た台湾を代表する写真家張照堂(1943-2024)
23/05/07家族の緊密なポートレイトで注目を集めた写真家エメット・ゴウィン(born 1941)
23/05/22欲望やジェンダーの境界を無視したクロード・カアンの感性(1894–1954)
23/05/2520世紀初頭のアメリカの都市改革に大きく貢献したジェイコブ・リース(1849-1914)
23/06/05都市の社会風景という視覚的言語を発展させた写真家リー・フリードランダー(born 1934)
23/06/13写真芸術の境界を広げた暗室の錬金術師ジェリー・ユルズマンの神技(1934–2022)
23/06/15強制的に収容所に入れられた日系アメリカ人を撮影したドロシア・ラング(1895–1965)
23/06/18女性として初の戦場写真家マーガレット・バーク=ホワイト(1904–1971)
23/06/20劇的な国際的シンボルとなった「プラハの春」を撮影したヨゼフ・コウデルカ(born 1958)
23/06/24警察無線を傍受できる唯一のニューヨークの写真家だったウィージー(1899–1968)
23/07/03フォトジャーナリズムの父アルフレッド・アイゼンシュタットの視線(1898–1995)
23/07/06ハンガリーの芸術家たちとの交流が反映されたアンドレ・ケルテスの作品(1894-1985)
23/07/08家族が所有する島で野鳥の写真を撮り始めたエリオット・ポーター(1901–1990)
23/07/08戦争と苦しみを衝撃的な力でとらえた報道写真家ドン・マッカラン(born 1935)
23/07/17夜のパリに漂うムードに魅了されていたハンガリー出身の写真家ブラッサイ(1899–1984)
23/07/2020世紀の著名人を撮影した肖像写真家の巨星ユーサフ・カーシュ(1908–2002)
23/07/22メキシコの革命運動に身を捧げた写真家ティナ・モドッティのマルチな才能(1896–1942)
23/07/24ロングアイランド出身のマルクス主義者を自称する写真家ラリー・フィンク(born 1941)
23/08/01アフリカ系アメリカ人の芸術的な肖像写真を制作したコンスエロ・カナガ(1894–1978)
23/08/04ヒトラーの地下壕の写真を世界に初めて公開したウィリアム・ヴァンディバート(1912-1990)
23/08/06タイプライターとカメラを同じように扱った写真家カール・マイダンス(1907–2004)
23/08/08ファッションモデルから戦場フォトャーナリストに転じたリー・ミラーの生涯(1907-1977)
23/08/14ニコンのレンズを世界に知らしめたデイヴィッド・ダグラス・ダンカンの功績(1907-2007)
23/08/18超現実的なインスタレーションアートを創り上げたサンディ・スコグランド(born 1946)
23/08/20シカゴの街角やアメリカ史における重要な瞬間を再現した写真家アート・シェイ(1922–2018)
23/08/22大恐慌時代の FSA プロジェクト 最初の写真家アーサー・ロススタイン(1915-1986)
23/08/25カメラの焦点を自分たちの生活に向けるべきと主張したハリー・キャラハン(1912-1999)
23/09/08イギリスにおけるフォトジャーナリズムの先駆者クルト・ハットン(1893–1960)
23/10/06ロシアにおけるデザインと構成主義創設者だったアレクサンドル・ロトチェンコ(1891–1956)
23/10/18物事の本質に近づくための絶え間ない努力を続けた写真家ウィン・バロック(1902–1975)
23/10/27先見かつ斬新な作品により写真史に大きな影響を与えたウィリアム・クライン(1926–2022)
23/11/09アパートの窓から四季の移り変わりの美しさなどを撮影したルース・オーキン(1921-1985)
23/11/15死や死体の陰翳が纏わりついた写真家ジョエル=ピーター・ウィトキンの作品(born 1939)
23/12/01近代化により消滅する前のパリの建築物や街並みを記録したウジェーヌ・アジェ(1857-1927)
23/12/15同時代で最も有名で最も知られていないストリート写真家のヘレン・レヴィット(1913–2009)
23/12/20哲学者であることも写真家であることも認めなかったジャン・ボードリヤール(1929-2007)
24/01/08音楽や映画など多岐にわたる分野で能力を発揮した写真家ジャック・デラーノ(1914–1997)
24/02/25シチリア出身のイタリア人マグナム写真家フェルディナンド・スキアンナの視座(born 1943)
24/03/21パリで花開いたロシア人ファッション写真家ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(1900–1968)
24/04/04報道写真家として自活することに成功した最初の女性の一人エスター・バブリー(1921-1998)
24/04/20長時間露光により時間の多層性を浮かび上がらせたアレクセイ・ティタレンコ(born 1962)
24/04/2820世紀後半のイタリアで最も重要な写真家ジャンニ・ベレンゴ・ガルディン(born 1930)
24/04/30トルコの古い伝統の記憶を守り続ける女性写真家 F・ディレク・ウヤル(born 1976)
24/05/01ファッション写真に大きな影響を与えたデヴィッド・ザイドナーの短い生涯(1957-1999)
24/05/08社会の鼓動を捉えたいという思いで写真家になったリチャード・サンドラー(born 1946)
24/05/10直接的で妥協がないストリート写真の巨匠レオン・レヴィンシュタイン(1910–1988)
24/05/12自らの作品を視覚的な物語と定義している写真家スティーヴ・マッカリー(born 1950)
24/05/14多様な芸術の影響を受け写真家の視点を形作ったアンドレアス・ファイニンガー(1906-1999)
24/05/16芸術的表現により繊細な目を持つ女性写真家となったマルティーヌ・フランク(1938-2012)
24/05/18ドキュメンタリー写真をモノクロからカラーに舵を切ったマーティン・パー(born 1952)
24/05/21先駆的なグラフ誌『ピクチャー・ポスト』を主導した写真家バート・ハーディ(1913-1995)
24/05/24グラフ誌『ライフ』に30年間投稿し続けたロシア生まれの写真家リナ・リーン(1914-1995)
24/05/27旅する写真家として20世紀後半の歴史に残る象徴的な作品を制作したルネ・ブリ(1933-2014)
24/05/29高速ストロボスコープ写真を開発したハロルド・ユージン・エジャートン(1903-1990)
24/06/03一般市民とそのささやかな瞬間を撮影したオランダの写真家ヘンク・ヨンカー(1912-2002)
24/06/10ラージフォーマット写真のデジタル処理で成功したアンドレアス・グルスキー(born 1955)
24/06/26レンズを通して親密な講釈と被写体の声を伝えてきた韓国出身のユンギ・キム(born 1962)
24/07/05演出されたものではなく現実的なファッション写真を開発したトニ・フリッセル(1907-1988)
24/07/07スウィンギング60年代のイメージ形成に貢献した写真家デイヴィッド・ベイリー(born 1938)
24/07/13著名人からから小さな町の人々まで撮影してきた写真家マイケル・オブライエン(born 1950)
24/07/14人々のドラマが宿る都市のカラー写真を制作したコンスタンティン・マノス(born 1934)
24/08/04写真家集団「マグナム・フォト」所属するただ一人の日本人メンバー久保田博二(born 1939)
24/08/08ロバート・F・ケネディの死を悼む人々を葬儀列車から捉えたポール・フスコ(1930–2020)
24/08/13クリスティーナ・ガルシア・ロデロが話したいのは時間も終わりもない出来事だ(born 1949)
24/08/30ドキュメンタリーと芸術の境界を歩んだカラー写真の先駆者エルンスト・ハース(1921–1986)
24/09/01国際的写真家集団マグナム・フォトの女性写真家スーザン・メイゼラスの視線(born 1948)
24/09/09アパルトヘイトの悪と日常的な社会への影響を記録したアーネスト・コール(1940–1990)
24/09/14宗教的または民俗的な儀式に写真撮影の情熱を注ぎ込んだラモン・マサッツ(1931-2024)
24/09/23アメリカで最も有名な無名の写真家と呼ばれたエヴリン・ホーファー(1922–2009)
24/09/25自身を「大義を求める反逆者」と表現した写真家マージョリー・コリンズ(1912-1985)
24/09/27営業写真館を継がず写真芸術の道を歩んだ深瀬昌久(1934-2012)
24/10/01現代アメリカの風変わりで平凡なイメージに焦点を当てた写真家アレック・ソス(born 1969)
24/10/05微妙なテクスチャーの言語を備えた異次元の写真を追及したアーサー・トレス(born 1940)

子供のころ「明治は遠くなりにけり」という言葉を耳にした記憶がありますが、今まさに「20世紀は遠くなりにけり」の感があります。掲載した作品の大半がモノクロ写真で、カラー写真がわずかのなのは偶然ではないような気がします。20世紀のアートの世界ではモノクロ写真が主流だったからです。しかしデジタルカメラが主流になった21世紀、カラー写真の台頭に目覚ましいものがあります。ジョエル・マイヤーウィッツとシンディー・シャーマン、サンディ・スコグランド、ジャン・ボードリヤール、 F・ディレク・ウヤル、マーティン・パー、コンスタンティン・マノス、久保田博二、ポール・フスコ、エルンスト・ハース、エヴリン・ホーファー、アレック・ソスなどのカラー作品を取り上げました。

camera   Famous Photographers: Great photographs can elicit thoughts, feelings, and emotions.

2024年10月1日

現代アメリカの風変わりで平凡なイメージに焦点を当てた写真家アレック・ソス

Pamela and Allen
Pamela and Allen, Minnesota, 2007
Alec Soth with 8x10 Camera

アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリスを拠点とする写真家アレック・ソスは、アメリカ中西部を舞台にした「大規模なアメリカプロジェクト」を手掛ける。ニューヨーク・タイムズ紙の美術評論家ヒラリー・M・シーツは、ソスは「見知らぬ人との相性を見つけることで写真家としてのキャリアを築き、孤独な人や夢想家を撮影している」と書いている。ガーディアン紙の美術評論家ハンナ・ブースによると、ソスの作品は「現代アメリカの風変わりで忘れがたいほど平凡なイメージ」に焦点を当てる傾向があるという。1969年、ミネアポリスで生まれ、ニューヨーク州ブロンクスビルのサラ・ローレンス大学で学んだ。若い頃は「ひどく内気」だったと言われている。ダイアン・アーバスの作品が好きだった。ミシシッピ川沿いを旅し、風景写真と肖像写真の両方を含む "Sleeping by the Mississippi"(ミシシッピ川のほとりで眠る)というタイトルの自費出版本を作った。2004年のホイットニー・ビエンナーレのキュレーターが彼を展覧会に招待し、彼の写真のうちの1枚「チャールズ」は、屋根の上で2機の模型飛行機を抱えている飛行服を着た男性を写したもので、ポスターに使用された。

Charles
Charles, Vasa, Goodhue County, Minnesota, 2002

2冊目の写真集 "Niagara"(ナイアガラ)は2006年に出版された。写真のうちの1枚は、モーテルと思われる建物の外に座っているウェディングドレスを着た女性を撮影したものである。ソスはナイアガラの滝にある特定の結婚式場と取り決めをして、結婚式の後にカップルを撮影することを許可されたと述べている。ソスは、人物を撮影するとき、時々緊張する。「自分のぎこちなさが、人々を安心させているのだと思う。それはやり取りの一部なのだ」と彼は言う。ソスは旅に出ているとき、車のハンドルに、どんな写真を撮りたいか書いたメモを貼っていた。リストのひとつは「ひげ、野鳥観察者、キノコ狩りをする人、男性の隠れ家、雨上がり、後ろ姿、スーツケース、背の高い人 (特に痩せている人)、標的、テント、ツリーハウス、並木」だった。人物を撮影するときは、許可をもらって、相手が落ち着くまで待つことが多い。8x10インチの大判カメラを使うことが多い。

Niagara
Niagara Falls, New York State, 2005

ソスは「物語の流れと真の物語」を見つけようとし、1 枚の写真が次の写真につながるような写真を撮ろうとしている。レスター・B・モリソンというペンネームを使い、 2006年から2010年まで4年かけて "Broken Manual"(壊れた手引き)を制作した。これは生活から逃れようとする人々のための地下の指示書である。ソスは人々が文明から逃れるために隠遁する場所を調査し、修道士、サバイバリスト、隠者、家出人を撮影している。同時に、1990年代初頭から現在までのソスの写真作品を概観した写真集 "From Here to There: Alec Soth's America"(ここからそこへ:アレック・ソスのアメリカ)も制作した。2010年、ソスはイギリスに飛んだが、就労ビザを申請していなかったにもかかわらず「写真を撮っているところを見つかったら」2年間刑務所に入れられる可能性があるという条件で入国を許可された。そこで彼はカメラを幼い娘に渡し、イングランド南東部に位置する都市ブライトンで写真を撮影させた。2016年の写真展 "Hypnagogia"(ヒプナゴジア)では、ソスが20年にわたって覚醒と睡眠の間の状態を探求してきた写真30点が展示された。

Monika
Monika, Warsaw, Poland, 2018

プロジェクトのアーティストステートメントでソスは「神経学的現象として説明され、創造性と繰り返し関連付けられるヒプナゴジア状態は、覚醒中に鮮明で時には現実的なイメージを思い起こさせる、夢のような体験です」と説明した。2016年にニューヨーク・タイムズ誌の依頼でインドで笑いヨガのワークショップを開催した後、1年間仕事を休んだ。 2017年にサンフランシスコで芸術研修中に、当時97歳だった振付師アンナ・ハルプリンの自宅で写真を撮るよう誘われ、その後活動を再開した。 2010年、ソスは出版社リトル・ブラウン・マッシュルーム(LBM)を設立した。この出版社を通じて、ソスは自分自身や他の志を同じくする人々の「児童書と同様の機能を持つ物語写真集」を書籍、雑誌、新聞の形式で出版している。彼はミネソタ州ツインシティ出身の作家 ブラッド・ゼラーと数多くの本を共同制作している。ソスは自身のリトル・ブラウン・マッシュルームから自費出版したほか、大手出版社から作品集を多数出版している。

The Flecks
The Flecks, New York City, 2005

主な出版物には "Sleeping by the Mississippi"(ミシシッピ川のほとりで眠る)"Niagara"(ナイヤガラ)"Broken Manual"(壊れたマニュアル)"Songbook"(ソングブック)"I Know How Furiously Your Heart Is Beating"(あなたの心臓が激しく鼓動していることを知っている)"A Pound of Pictures"(1ポンドの写真)などがある。マックナイト財団とジェローム財団からフェローシップを受けており、2003年にはサンタフェ写真賞を受賞し、2021年には王立写真協会の名誉フェローを受賞した。彼の写真は、サンフランシスコ近代美術館、ヒューストン美術館、ミネアポリス美術館、ウォーカーアートセンターに収蔵されている。2004年、ソスはマグナム・フォトの推薦者となり、2008年に正式会員となった。キャリアの初期にはガゴシアン・ギャラリーにも所属し、現在はニューヨークのショーン・ケリー・ギャラリーに所属している。アレック・ソスは妻のレイチェル・カーティーと子供たちとともにミネソタ州ミネアポリスに住んでいる。

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