2022年1月13日

携帯型オープンリール録音機 Nagra への絶えない憧憬

Nagra IV-S
Nagra IV-S
Stefan Kudelski (1931–2013)

ソーシャルメディア Facebook のニュースフィードに携帯型オープンリール録音機の写真が流れた。心理学者のフェリックス・ヘイマン博士の投稿である。「ゴルバチョフ大統領の装甲リムジンが、パリのソビエト連邦大使館前の道路で Nagra(ナグラ)を轢いたのを見たことがある。憤慨したフランスのテレビ局の録音技師がその機械のスイッチを入れると、確かに筐体が曲がってはいたが、まだ動くのだった。Nagra は他のオープンリール式の録音機と違って、テープが常に同じ速度で回転する技術を持っている。つまり、移動中の車内や歩く速度で使っても、ワーッという音はしないし、電池が切れても大丈夫。編集台もありそこで剃刀と1/4インチの粘着テープを使って切りそろえるのだ」云々。Nagra は1951年からスイスで生産されている携帯型オーディオ録音機のブランド。確か1970年代初頭だったと思うが、この Nagra の録音機が欲しくてたまらなかったことがある。アメリカのフォークリバイバル運動の担い手たちは、この録音機を使ってフィールド録音をしていた。その真似事をしてみたかったのだが、すでに新聞社のスタッフだったし、高価で到底手が届かない代物だった。ポーランド人発明家ステファン・クデルスキ(1931–2013)が設計し、その精度と信頼性から数々の技術賞を受賞した。Nagra とはクデルスキの母国であるポーランド語で「記録する」という意味である。

Nagra SN
Nagra SN

1951年に登場した Nagra 1号機は時計仕掛けのモーターとミニチュアチューブを備えた最初のプロトタイプだった。私が欲しかったのは1971年に発売された Nagra IV-S で、10インチの録再も可能な、2トラックのステレオ機だった。その性能もさることながら、いかにも精密機械というデザインに惹かれるものがあった。その極地といも言えるのが SN シリーズで、なんと 14.5x10x2.6 センチ、手のひらに収まりそうな大きさである。ただ、これらのテープレコーダーは現在は生産しておらず、デジタル録音機に移行している。アナログファイルの音質を重視、カセットテープを再評価する動きがあるが、まだ大きく広がっていない。Nagra は精密機械として魅力に満ちている、ライカのフィルムカメラと同様、一部の愛好家の蒐集品と化しているようだ。

gear Nagra IV-S | The first stereo analog recorder in Nagra's range, manufactured in 1971.

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