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『生命の多様性(上・下)』岩波書店 (2004/10) |
生物多様性条約第14回締結国会議(COP14)は今年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催される。生物多様性という用語そのものは、生物学的多様性(Biological Diversity)を縮めた造語 Biodiversity を訳したものだ。ところで生物多様性条約の目的とは一体何だろう。上記会議サイトによれば(1)地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること(2)生物資源を持続可能であるように利用すること(3)遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること、この3点に要約できるようだ。環境保護運動の先進国であるアメリカがこの条約を批准していないのは(3)に関わる経済問題なのだろう。ところで肝心の生物多様性はなぜ必要なのだろうか。上記会議に呼応した関連書の出版が盛んなようだが、生物学的多様性について著名な生物学者エドワード・O・ウィルソンの著書『生命の多様性』を読んでみた。専門に過ぎる用語に戸惑いながらだったが、更に同じ著者のエッセイ『バイオフィリア』にも触れてみた。ヒトという厄介な動物が、地球上の生物の多様性を、物凄い勢いで奪ってることを痛切に感ずる書である。生物の多様性というのは文字通り、生き物がたくさん存在することである。ところが生物の絶滅は加速しつつあり、鳥類や哺乳類だけではなく、苔類や昆虫、淡水小魚といった小型生物にまで及んでるという。絶滅率の推定値は、控えめに見積もっても、年間 1000 種に及ぶという。その大部分は熱帯の森林その他の重要な棲息場所の破壊から生じているという。そして今後30年間に100万種に及ぶ生物が姿を消すかもしれないというのだ。進化のプロセスは新しい種を生み出す。しかしその出現力をはるかに絶滅率が上回っている。
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『バイオフィリア』筑摩書房 (2008/9/10) |
過去 1000 万年の間に出現したいくつもの分類群――コンドルやサイ、マナティーやゴリラといったお馴染みの動物が含まれる――全体が姿を消そうとしていると著者は警告する。ヒトはもっとも最近に現れた環境の荷物に過ぎなく、その破壊性は地球の歴史においてこれまでに類を見ないものだという。破壊性は工業化社会が生んだものと私は思うが、その問題はすべて解決可能だと信念にしがみついていても何ら得るものはないと著者は断言する。何よりも必要なのは、我々が抱えている問題の真に生物学的な側面に関する知識であり、共通の難局に直面したときに発揮されるべき公共心であり、行動する穏健派というリーダーシップのあり方だという。生物の世界がもっと探求されれば、経済的利用のためにも、より高い生産性を持つ生物を選ぶことができる。種の多様性は地球のもっとも重要な資源のひとつであるからだ。この差し迫った緊急課題に対して、人類は何をすべきか。森林伐採に象徴される環境破壊を止めることが第一義だが、広く一般にこの問題を周知、啓蒙することが必要である。特に将来を担う子どもたちへの環境教育が望まれる。E・O・ウィルソンの功績にちなんだ施設を紹介しておこう。フロリダ州ウォルトンのパンハンドルに2009年に開設されたE・O・ウィルソン・バイオフィリア・センターである。学生や教師、研究者のための生物および自然保護教育施設で、4万8000 エーカーの自然保護区となっている。最高経営責任者であり創設者のM・C・のデイヴィスは「子供たちが都会の団地で成長し、花や野生動物に触れることがないとか、またはその道を歩くことがないとすれば、彼らはら恋に落ちることができますか?」と語ったそうだ。
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