ネットが音楽ソースの時代になった
ウォルター・アイザック著『スティーブ・ジョブス』(講談社2012年)にこんなくだりがある。「そう気づいたとき、僕らは顔を見合わせたよ。『すっごくクールなものができるぞ』ってね。クールなものになるのはよくわかっていた。みんな、自分も絶対にひとつ欲しいって思っていたからだ。コンセプトもすごくシンプルでよかった。『1000曲をポケットに』だよ」云々。iPodの誕生だった。Podはエンドウなどの鞘、蚕の繭などを意味する。この魔法の袋は、その後の再生音楽産業、そしてその聴き方を大きく変えてしまった。シャッフル、つまり収録されている曲を、収録順に関係なくランダムに再生できりようにして「アルバム」の概念を壊した。そして1000曲も持ち歩くのだから、サイズの小さい圧縮音源、すなわちMP3形式のファイルを一般化させたのである。旧聞に属してしまったが、朝日新聞が「CDの音質を上回るハイレゾ」を昨年12月に特集したが、「CD以下の音質のMP3」の普及に関し、小室哲哉氏がインタビューに答えてこんな発言をしている。
MP3形式(5.1MB) WAV形式(37.6MB)
インターネットで音源をダウンロードして、(音楽の再生プレーヤーやパソコンなどの)ハードディスクに曲をたくさん詰め込むには、確かに容量は抑えたいですからね。また、ユーチューブの普及で、多くの人が『この音源でも普通に聴けるし、いいんじゃないか』と慣れてしまった。70年代のアナログレコード時代から音楽を作っている側からすれば、「みんな、何でこのぐらいの音で満足なの」と思ってしまう。あり得ない事態ですよ。技術革新したけど音が置いてきぼりになっちゃった。つまり「どんどん音の情報が間引かれていく。『ここだけ聴ければいいでしょ?』と必要最低限の音の情報だけしか提供されなくなった。そんな状態が長く続き、低音質が当たり前だと思うようになってしまった」というのだ。私はスマートフォンで音楽を持ち歩くため、お気入りのCDから時々エンコードしているが、せめてCD並みの音質で聴きたいと無圧縮のWAVでセーブしている。ところがある日、試しにMP3に変換してみた。MP3は人間の聴感上差し支えない音を間引いて、データ量を減らすというものだが、確かにサイズは小さい。画像ファイルでいえば、TIFFとJPEG形式の違いといってよいだろう。そして試聴したのだが、違いが良く分からない。要因としては年齢による聴覚の老化、そして音の差が分からないオーディオ装置だから、ということが考えられるが、その両方かもしれない。ならば自分に合わせてMP3でもいいじゃないかという考えが脳裡を走る。というわけで、さて、どうしよう? 参考のため同じCDからエンコードして二つの形式のファイルを用意した。曲はイ・ムジチ合奏団演奏ヴィヴァルディの「四季」第1番第1楽章、3分31秒。ご試聴を。
MP3形式(5.1MB) WAV形式(37.6MB)
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