2013年8月8日

映画『風立ちぬ』のモデル堀越二郎の『零戦』を読む

堀越二郎著『零戦』(角川書店2012/12/25発売)

宮崎駿監督の長編アニメーション映画『風立ちぬ』は零式艦上戦闘機、いわゆるゼロ戦の設計主任だった堀越二郎をモデルにしている。しかし彼の私生活の部分、美しい女性と恋に落ち、結婚、そして・・・の部分は堀辰雄の自伝的小説『風立ちぬ』が挿入されたフィクションである。いわば堀越二郎の虚像なのだが、その実像の片鱗を知りたくなり、自身が著した『零戦』(角川文庫)を読んでみた。ゼロ戦の企画から設計、旅立ちまで克明に綴った貴重な記録だが、一般向けに書かれたため、航空工学に疎い私でもゼロ戦の技術的な特長を知ることができた。例えばコンピュータの発明がそうなのだが、皮肉なことに科学技術の進化は戦争によって早まる。そういう意味でも、ゼロ戦は戦争の落とし子なのだが、堀越二郎という優れた技術者がいたからこそ生まれた優れた「美しい」戦闘機であった。しかし戦闘機はあくまで戦争の道具であって、戦闘機そのもの、そしてその武勇伝を手放しで礼賛するわけにはゆかない。あとがきで著者は「飛行機とともに歩んだ私の生涯において、最大の傷心事は神風特攻隊のことであった。私は本文でも述べた景迎頌師(けいぎょうしょうし)を書く十人の中に、すでに南太平洋に一粒種の令息を捧げられたことを承知していた小泉信三先生のお名まえを見いだして、心の痛みがいっそう忘れえぬものとなった。このことをひとこと記してこの書を閉じたいと思う」と結んでいる。二度と戦争は繰り返してはいけない。

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