2013年8月28日

清涼寺の名もなき四方仏手水鉢に惹かれる

四方仏弥勒如来像  清涼寺(京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町)

嵯峨天皇・檀林皇后の宝塔
嵯峨釈迦堂の石造物では、一切経蔵の横にある弥勒宝塔石仏が有名である。裏面は多宝塔で、多宝如来と釈迦の二尊が併座している。表面の像は釈迦如来という説があるが、弥勒菩薩というのが定説のようだ。風雪に晒され陰影が曖昧になっているが、美しい石仏である。鎌倉時代に建立されたものだろう。この石仏の西に八宋論池があるが、対岸に四角い石造物が安置されている。夏はしだれ桜の葉が覆い、気がつかない人が多いかもしれない。石の四面に仏像が浮き彫りされ、上面には直径60センチの穴が彫られている。四方仏である。仏教では東西南北にそれぞれ如来がいると考えられている。すなわち阿弥陀(西)釈迦(南)弥勒(北)薬師(東)の四如来である。ところが本来西方浄土を願う阿弥陀如来像が東側に配置されている。これは明らかに間違いなのだが、無造作に置いたものなのだろう。というのはこれは層塔や宝篋印塔の塔身を転用した手水鉢であるからだ。茶道の世界では、蹲踞(つくばい)と呼ばれるが、層塔の基礎部分を手水鉢にしたことに驚きを感ずる。大きさを計ってみたところ横幅と奥ゆきは88センチの正方形、高さは98センチで、ほぼ正立方体である。境内には多くの石塔があるが、例えば嵯峨天皇・檀林皇后の宝篋印塔の塔身の大きさは横幅と奥行きは56センチ、高さは50センチに過ぎない。とすればこの四方仏手水鉢はかなり大きな層塔の塔身であったと想像される。誰の供養塔だったのだろうか、どうして手水鉢に化けてしまったのか。今や知るよしもないが、何故か気になる魅力的な四方仏だ。

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