フランスの作家ジュール・ルナール(1864-1910)は日本では小説『にんじん』でよく知られているが『博物誌』という名作も残している。翻訳者の岸田国士(1890-1954)は後書きで「『博物誌』という題は "Histoires Naturelles"」の訳であるが、これはもうこれで世間に通った訳語だと思うから、そのまま使うことにした」と暗に批判している。そもそも『博物誌』(Naturalis historia)は、古代ローマの大プリニウスが著した書だが、現代でも "Natural History" の訳語になっている。時計の針は戻せないが、やはり『自然誌』のほうがベターだと思うので、以下、これを使うことにする。この短編テキスト集は 1896年に出版された。このコレクションは動植物の肖像を描いた 78 の短いテキストを集めたもので、綿密な描写と詩の間で、現実主義と想像力を融合させている。ルナールは、家畜(ウサギ、ニワトリ、イヌなど)や野生動物(シカ、サル、クジラなど)、昆虫(コオロギ、バッタなど)、あるいは稀に周囲の植物(ケシ、ブドウなど)の行動を、ユーモラスかつ繊細に描写している。文章の長さは一文から数ページまで様々で、散文詩としても、短い格言としても読むことができる。
ジュール・ルナールは、フランスのニヴェルネ地方の田園地帯で過ごした幼少期の思い出からインスピレーションを得たのである。彼はそこで、好奇心と愛情に満ちた眼差しで自然を観察していた。この田園風景は、彼の自然誌の執筆を育み、その描写の豊かさに貢献した。またこの作品は、象徴主義や新たな文学形式の探求に 影響を受けた、19世紀後半特有の美的感覚を反映している。ルナールの作風は、その繊細なユーモアと、動物や植物の本質を簡潔で示唆に富む文章で捉える能力から、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ(1621-1695)のような道徳家の作風と比較されることが多い。彼は正確な描写に皮肉と詩情を織り交ぜ、自然のあらゆる要素が考察の対象となる世界に命を吹き込んでいる。この『自然誌』は出版後、エドモン・ロスタン(1868-1918)やアルフォンス・ドーデ(1840-1897)といった同時代の作家たちから好意的な評価を受けた。フラマリオン社による初版刊行後、本書は様々な出版社から幾度も再版された。この邦訳書には画家ピエール・ボナール(1867-1947)による挿絵が添えられている。下記リンク先のインターネット図書館で全文を無料で閲覧できる。
ピエール・ルナール著・岸田国士訳『博物誌』Histoires naturelles by Jules Renard |青空文庫

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