ケンタッキー州の炭鉱産業は、かつての黄金時代から大きく変貌し、現在は構造的な衰退とエネルギー転換の過渡期にある。2000年代初頭には約15,000人いた炭鉱作業員は、現在では4,000人を下回る規模(約3,500〜3,800人前後)まで減少している。これは統計開始以来、最低水準に近い数字である。かつてはアパラチア山脈側の東部ケンタッキーが主力だったが、現在は採掘コストの低い西部ケンタッキーが生産の主導権を握っている。しかし州全体の生産量は、安価な天然ガスや再生可能エネルギーへのシフトにより、2020年代に入っても減少が止まっていない。一般的な発電用の石炭(一般炭)が苦戦する一方で、ケンタッキー州、特に東部地域には製鉄用(コークス用)の高品位な石炭(メタ石炭/原料炭)が残っている。世界的な鉄鋼需要、特にアジア圏への輸出が現在の炭鉱経営の「命綱」となっており、エネルギー市場とは異なる動向で一部の鉱山が維持されている。石炭産業の衰退は、単なる経済の問題だけでなく、地域社会に深い影響を及ぼしている。炭鉱閉鎖に伴う失業者に対し、ITスキルや再生可能エネルギー関連の職業訓練を行うプログラムが進められている。過去の採掘による水質汚染や、炭鉱労働者に特有の「黒肺病(じん肺)」の再流行が深刻な社会問題となっている。これに対する医療支援や環境修復(ランド・リクラメーション)に予算が投じられている。2025年から2026年にかけて、連邦政府による環境規制の強化と、それに対する州政府の反発という政治的な対立も続いており、業界の先行きには不透明感が漂っている。現在のケンタッキー州において石炭は「かつての経済の主役」から「特定の輸出需要に応えるニッチな産業」へと変化しているのである。州の経済政策も、石炭への依存を減らし、製造業やテクノロジー産業を誘致する方向へと大きく舵を切っている。
ケンタッキー州は「ブルーグラス・ステート」として知られているが、その歴史を語る上で石炭産業は欠かせない要素だ。かつての炭鉱跡を巡るツアーは、当時の過酷な労働環境やコミュニティの絆を体感できる非常に重厚な体験になる。 東部のリンチにある炭鉱跡はかつて世界最大の石炭埋蔵量を誇った場所の一つである。観光用のレールカー(トロッコ)に乗って、地下深くの坑道へと入って行く。1917年の創業時から閉山までの歴史を、最新の音響・映像演出(アニメトロニクスなど)を使って再現しているのである。当時の炭鉱夫たちの生活がリアルに伝わって来る。ビッグ・サウス・フォーク国立河川公園には、かつての炭鉱町を丸ごと保存した野外博物館がある。ゴースト・ストラクチャーと呼ばれる、かつての建物の骨組みを再現した展示があり、オーディオガイドを通じて住民の生の声(録音)を聞くことができる。炭鉱ツアーに参加する際の注意点気温: 坑内は一年中一定の気温に保たれていることが多い。夏場でも薄手のジャケットや長袖を持っていくことが奨められている。炭鉱といえば前エントリー「ドナルド・トランプ政権が気候変動対策における政府の権限を剥奪」に詳述した通り大統領は気候変動が人間の健康と環境を脅かすという科学的発見を消し去ると発表した。かつて私もカンバーランドの炭鉱を訪れたことがあるが、ラストベルト(赤錆地帯)だった。J・D・ヴァンス副大統領の回顧録『ヒルビリー・エレジー』に活写されている。かつて鉄鋼業などで栄えた地 域の荒廃、自らの家族も含めた貧しい白人 労働者階層の独特の文化、悲惨な日常を描 いた本書は、トランプ現象を読み解く一冊 として世界中でセンセーションを巻き起こした。その半面、アパラチア山系は伝承音楽の宝庫であり、私が憧憬してやまない地域でもある。下記リンク先はロレッタ・リンんのヒット曲『炭鉱夫の娘』です。
 Coal Miner's Daughter by Loretta Lynn born in Butcher Hollow, Kentucky, United States 

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