2024年4月6日

羽根を奪われた飛べない鳥の悲劇

The Feather'd Fair in a Fright
ニルスの不思議な旅

アニメーションで印象に残っているひとつに『ニルスのふしぎな旅』がある。妖精によって小人にされた少年ニルスが、ガチョウのモルテンの背に乗りやガンの群れと一緒にスウェーデン中を旅する物語である。ガンの群れに「お前、飛べないだろう」とバカにされたモルテンは練習して飛べるようになったのである。NHK総合テレビで1980年から1981年まで放送されたが、幼い娘と一緒に毎週楽しく観たものである。飛べない鳥で思い出すのが、蜂須賀正氏博士(1903-1953)の研究で知られる絶滅鳥ドードーで、その「絵に関する覚え書き」を2012年に当ブログに書いた。飛べることは飛べるが、ノロマゆえ鳥島のアホウドリは、明治半ば以降大量捕獲され絶滅の危機に陥ってしまった。羽毛や帽子の羽飾り用に捕獲されたのである。カイツブリの羽毛の商業取引に対処するためにつくられた英国の RSPB(王立鳥類保護協会)の創設会員で、アルゼンチン生まれの作家ウィリアム・H・ハドスン(1841–1922)は『鳥たちをめぐる冒険』(講談社学術文庫)の中で、美しい野鳥の殺戮に力を貸しているのは「殺された鳥の飾り羽や残骸で自分の頭を飾りたがる、おそろしき女性の一連隊だ」と嘆いている。国際保護鳥だった亜種のアラビアダチョウがアラビア半島に棲息していたが、20世紀初頭に絶滅したために1960年に東京で開催された第12回国際鳥類保護会議でリストから削除されたという。

麦藁帽子に付けた羽根飾り

現在はダチョウは飼育され、その羽根は帽子の飾りに使われている。また宝塚歌劇団のトップスターが着用する衣装に着ける大きな羽根飾りは、ダチョウの羽根である。上図は英国の大英博物館所蔵のエッチングで、ジョン・コレット(1725-1780)が描いた風刺画、18世紀末の風俗に対する洞察を与えてくれる。帽子に羽根飾りを付けた女性を、羽根を抜かれて怒ったダチョウが追いかけているという設定である。ダチョウはかつてアフリカ全域およびアラビア半島に生息していたが、飛べないゆえか乱獲され、現在ではアフリカ中部と南部に生息するのみである。ただ種卵、種鳥の輸出規制が解禁されたため、世界中に飼育が広まり、日本でも飼育数が増加、既に10,000羽以上のダチョウが、南は沖縄から北は北海道まで、すべての都道府県の約400の農場で飼育されているという。なお麦藁帽子に小さな羽根飾りを付けてみた。製造元は書いてなかったが、中国産と思われる。帽子屋で売ってる小さな羽根飾りは、ニワトリやカモ、ホロホロ鳥など、いずれも家禽の羽根が使われてるようだ。ベル・エポック時代のヨーロッパの婦人たちが夢中になった派手な羽根飾りと比べると、実に慎ましい代物であるが、その魔力が分かるような気もする。しかしウィリアム・H・ハドスンの警告に触れ、羽根飾りが野鳥の絶滅に追い込んだ歴史を考えると、いささか動機が不純で小さな躊躇いが全くないわけではない。下記リンク先はフロリダ大学のブログ「野生のサラソータ」に今年1月にポストされた、飾り羽根貿易と渡り鳥保全の物語である。

bird  Wild Sarasota: Florida's Wading Birds and the Plume Trade, A Story of Conservation | UF

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