2024年3月12日

疲れた心に避難場所と慰安を与える英国の野鳥文学

birds
鳥たちをめぐる冒険/セルボーンの博物誌(講談社学術文庫)

フライフィッシング用の蚊鉤を巻いた経験がほんの少しあるものの、竿を手に水辺に立ったことはないのに釣り文学が好きである。カラスとヒヨドリとスズメくらいなら区別はつくものの、名前を覚えることが大の苦手なくせに、野鳥ないし博物学の本を読むのが好きだ。どうやら私は典型的なアームチェア・アングラー&バード・ウォッチャーのようだ。英国の政治家、エドワード・グレイ卿(1862-1933)の『フライ・フィッシング』を紐解くと、疲れた心に避難場所と慰安を与える本として、アイザック・ウォルトン(1593-1683)の『釣魚大全』は無論だが、ギルバート・ホワイト(1720-1793)の『セルボーンの博物誌』を挙げている。ちょっと意外に思われるかもしれないが、グレイ卿は釣りを趣味にした政治家として有名だが、鳥類学者でもあったのである。ギルバート・ホワイトは博物学者であるとともに、聖職者でもあった。セルボーンはングランドのハンプシャーにある小さな村で、アルトンの南3.9マイル、サウスダウンズ国立公園の北の境界内にある。

ラ・プラタの博物学者
ラ・プラタの博物学者(講談社学術文庫)

ここに生まれ育ったギルバート・ホワイトは牧師館に住み、村を歩いて野鳥などの生態を観察して二人の著名な博物学者ペナントとバリントンに届けた。だから『セルボーンの博物誌』はいわば書簡集で、それゆえかなり冗長な側面があるが、背後に繰り広げられる自然描写に癒される。その一方、グレイ卿は触れていないが、ウィリアム・H・ハドスン(1841-1922)の『鳥たちをめぐる冒険』に私は惹かれる。そのハドスンはアルゼンチン生まれの英国人で『ラ・プラタの博物学者』などで知られているが、鳥類学に長けていた。1978年に講談社から邦訳出版された『鳥と人間』も素晴らしい。終章のタイトルは「セルボーン」で、ホワイトの影響を強く感ずる書である。現在入手は困難のようだ。ハードカバーより持ち運びに便利な同社の学術文庫にリストアップされることを期待したい。鳥類学を含めた博物学に関しては岩波文庫版を複数所持しているが、青い背表紙の講談社学術文庫に親しみを感ずる。なお、かつては高価なハードカバーを購入していたが、昨今では文庫版のみに食指を伸ばすようになった。下記リンク先はハドスンが会員であった英国の RSPB(王立鳥類保護連盟)の公式サイトで、米国のオーデュボン協会と共にチェックを欠かせないサイトである。

rspb logo  Protection of Birds | Charitable Organisation registered in England, Wales and Scotland

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