2014年2月11日

菜食主義神話の是非を論じたネット記事を読む

象狩り  狩猟採集で生きた南アフリカのサン人が描いた岩絵

菜食主義者の神話
最近ネットで目にした「菜食主義は世界を救わない」と題した記事に強い興味を抱いた。最近といっても2011年に掲載されたもので『The Vegetarian Myth』(菜食主義者の神話)の著者エール・キース氏へのインタビューである。氏はこの本を書いた理由として、地球が破壊されてる要因は農業で、ほとんどの環境保護運動家がこの点を見逃しているからだという。そしてさらに若い理想主義者たちが菜食によって健康被害を受けて欲しくないという。特にビーガン(完全菜食主義者)の食事は人体の長期的な健康維持にそぐわないと主張。著者は菜食を信じて損害を受けた世代だけど、若い人が同じことをすることを止めたいという。反農耕文明論は古くからあり、例えば1975年に邦訳が出版された『狩猟人の系譜』でポール・シェパードは、農耕人を基礎とした文化に由来する全ての社会に、諸悪の根源を見ようとしている。

ビーガンに関しては、ピーター・シンガーの主張を代表とする、いわゆる「動物の権利」「動物の福祉」という思想の今日的な高まりがその背景にあるからだと想像される。最近アメリカの駐日大使であるキャロライン・ケネディ氏が「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します」とツイート、和歌山県太地の漁師たちに動揺が広がった。この主張を推し進めれば、アメリカの大規模な牧畜も批判の対象になることを彼女は知っての発言だったのだろうか。イルカ漁が残酷と言うなら、家畜の屠殺もまた残酷であるからだ。アニマルライトの思想を基盤とする菜食主義批判に対し、反捕鯨などの環境保護運動家はどのように考えているのだろうか。いずれにしてもこの論争はいささか欧米の匂いがきつい気がする。明治以降肉食が一般化したものの、精進料理の伝統を持ち、一汁三菜を基本とする和食が昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。農耕文化の否定はわが国ではどう受け止められるだろうか。

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