2019年6月13日

何故か妖しいハイブリッド楽器

Pipe Organ Guitar Accordion built by Sam Moore circa 1920 Courtesy of MMRF

Prosper Moitessier 1838
右の写真はヴァイオリンとヴィオラを背中合わせに合体させたハイブリッド弦楽器で、プロスパー・アントワン・モワテシエ(1807-1867)が製作した。フラン語版ウィキペディアによると、オルガン職人だったが、ヴァイオリン製作にも挑戦したという。1838年と記録されているこのヴァイオリン・ヴィオラは、フランスのアルザス・ロレーヌ地方のミルクールにある、ヴァイオリンと弓作りの博物館(Musée de la Lutherie et de l'Archèterie françaises)が所蔵している。極めて独創的な楽器だが、その後普及した痕跡はないようだ。ヴァイオリンは高い絃から順に EADG、ヴィオラは ADGC なので、ADG の3本は共通している。従ってGより5度低いCの絃を張ればもっと単純な、ヴァイオリンとヴィオラ音域をカバーする楽器、すなわち五弦ヴァイオリンができるからだろう。リュート属の弦楽器の場合だと、生涯にわたって評価が高かった、パリの楽器職人で弦楽器演奏家でもあった、ニコラス・アレクサンドル・ヴォボアムII世(1634/46–1692/1704)が製作した、ダブルネックギター(写真下)がユニークである。復絃5コースのバロックギターだが、小さいほうがおおきいほうより音程が五度高いと思われる。まるで母親が子どもを抱いているようだ。現代に引き継がれたダブルネック電気ギターが「双頭の鷲」なら、さしずめ「母子鷹」といった風情だろうか。

Alexandre Voboam 1690
19世紀半ばにウィーンで発達したコントラギターは、通常の6弦のフレット付きのネックに、サブベース弦を張ったフレットレスネックが付いている。これはハープギターとも呼ばれ、ギブソンも1930年代まで製作した。ザ・バンドの解散コンサートを記録した映画『ラスト・ワルツ』の中で、ロビー・ロバートソンが弾いていたのが鮮やかに脳裡に刻まれている。ところで上掲の写真だが、78回転レコードや蝋管の音源情報ブログ "78 Records, Cylinder Records & Vintage Phonographs" に投稿された「ギター・アコーディオン・パイプオルガン」である。写真を提供した音楽制作救援基金(Music Maker Relief Foundation)のアーロン・グリーンフッド氏によると、フロリダ州モンティチェロ出身のサム・ムーア(1887-1959)が1920年ごろ作ったという。ムーアは風変りな楽器を演奏したが、残念ながらこの楽器による演奏の録音は残っていないらしい。しかし、もっと残念なのは、この楽器の演奏法の解説がないことだ。アコーディオンを弾くには両手が必要だ。ギターを弾くにも両手が必要。合計4本の手が必要になる。ふたりで演奏するなら、それぞれ個別の楽器のほうがベターだ。実に不可解で妖しい楽器である。その妖しさゆえか、多くのハイブリッド楽器が歴史の彼方に消えている。弦楽器でかろうじて残ったのは、ダブルやマルチネックの電気ギターぐらいかも知れない。カテゴリ―を広げれば、ドラムスが思いつく。英語の Drums が明示しているように、複数の楽器が合体した打楽器である。一台で異なった楽音を合成、奏でることができる電子楽器がいろいろある。100年にわたる歴史を経て成熟、現在の形になったシンセサイザーは、やはり究極のハイブリッド鍵盤楽器と呼んでよいかも知れない。

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